0.
『――ええ、そうです。私の住むこの湖が、魔族に穢されてしまっているのです』
半透明の身を遣る瀬無さげに縮こまらせて水の精霊が答えた。特徴的な長い耳も心なしか垂れ下がっているように見える。
『浄化しようにも、私の手には余るほどでして……。外へ広まらぬよう、結界で抑え込んではいるのですが』
水の精霊――ウンディーネが手を伸ばし、薄い膜のようなへ触れた。半球状に広がるそれは一定の領域を閉じ込めるよう展開されており、内部では瘴気が煙となって立ち昇っている。
可視化されるほどの瘴気。霧のように視界を奪う濃度のそれは、湖がどれほど穢されてしまっているかを端的に表していた。
ウンディーネがルミアを見る。弱り果てた表情、縋るような目。
『穢れは今も膨らみ続けています。手遅れになる前に……』
「わかりました。結界へはこのまま入ればいいですね?」
『ええ、お願いいたします』
結界へ触れ、そのまま片手を突き入れる。指の先から感じる瘴気の濃さ。天使の身を冒そうと染み込む毒々しい痺れに、ルミアは思わず顔をしかめた。
「すべてが済むまで外で待っていてください。私の気配が消えたらためらわず逃げてください」
『……わかりました。お待ちしております、ルミア様』
とぷん、と水面へ溶け込み精霊の姿が失せる。先ほどまでそこにあった清純な魔力も周囲と同化し、瞬く間にそこにいた痕跡すら消えてなくなった。
1.
「……想像以上ですね」
ウンディーネの張った結界の中。透き通るほどだった水面はうっすらと紫色に輝き、僅かに粘度を纏ってルミアの脚を奪っていた。
立ち昇る霧状の瘴気。視界の先にはスライムじみた下級魔族。ウンディーネの『私を模した魔のもので満たされています』という言葉通り、その姿はいずれも不出来な水の精霊といったものだった。
水面からずるりと生えてくるそれらは瞬く間に天使を取り囲み、薄ら笑いを浮かべて視界を埋め尽くした。一体一体はルミアの、それこそウンディーネの足元にも及ばない小物であるとはいえ、精霊が結界を維持しながら浄化して回るには荷が勝ちすぎるだろう。手に余る汚染状況だというのも納得できた。
それでもルミアにとっては取るに足らないが。
天使が腕を振るう。翼がはためき、光がすべてを焼き払った。
2.
ルミアが下級魔族を駆逐するまではさほど時間を要さなかった。湖面を晴らしてなお瘴気は一帯に満ちていて、穢れた魔力の蠢く気配がいつまでも感じられる。
大量の下級魔族が穢れの原因たりえることもあるが、この濃度は恐らくそう簡単なものではない。あの下級魔族たちはもっと強大な穢れの源泉から湧き出たもの。
「産み落とされた”穢れ”は――!?」
――湖面から飛び立とうとしたルミアの思考を断ち切るように、ずるりと足元から”それ”は現れた。
3.
『――つかまえた♥』
”それ”は瞬く間にルミアへと絡みつき、耳元へ唇を寄せてねちっこく声を浴びせる。アモラスに開発されきった弱点への刺激に一瞬身がすくんだ、その僅かな時間が致命傷だった。
ばぢ、と渇いた音が弾け、次の瞬間。
「く、ああああ――っ!?」
電撃を伴いながら注ぎ込まれる穢れた魔力はルミアの体を駆け巡り、魔力の循環を乱して自由を奪った。ダメージこそないものの、全身が痺れたように動けなくなり、淫紋を抑え込むための魔力のコントロールを失っていく。
『ごきげんよう、天使様ぁ? さすがは”神の先兵”、お仕事が早くて素晴らしいこと……♥』
「あ゛、っく、ぅ、っ……!!」
聞き覚えのある声。しかしながらその喋りはねっとりと絡みつくようないやらしさに満ちていて、ルミアの鼓膜を悩ましく刺激してくる。
胸元、そして股間へと這わされた手から、絶えず魔力が放たれ続ける。ばぢん、と胸元の衣装が弾け飛び、豊かな乳房、桃色の乳首が顔を覗かせた。怪しげに往復する指の刺激に、魔力によるものとは異なる甘い痺れを覚えさせられてしまう。
『この結界の中で起きたことはすべてわたくしの手の平の上。獅子奮迅の活躍を見せてくださったルミア様が、どのような魔力で構成されているかもこの通り。……くふふ、美しい”からだ”ですのね――”ここ”以外は♥』
ひときわ湿った囁き声。ぐにり、と指が陰埠を押し込み、割れ目の奥に隠れた小豆を探り当てる。神経の塊であるそこに電撃を浴びせられた瞬間、ルミアの腰が跳ね上がる。
天使の下腹部へ、桃色の紋様が浮かび上がった。