最近は Quest2、PICO4、VIVE XR Elite と新しく出てくる VR はみんなスタンドアロン式で、当然のように無線 VR にも対応しています。無線での VR は、ケーブルを気にすることがなく快適ですが、ゲームのプレイ途中に映像にひっかかりが生じたり、遅延が大きかったりすると、プレイフィールを大きく損なってしまいますよね。今回は、無線 VR を極力安定させる方法について書いてみようと思います。
無線 VR には Air Link、Virtual Desktop などありますが、どれも無線 LAN を使用する方式です。つまり、無線 VR の品質は、母艦である PC から VR HMD までの経路となる無線 LAN の品質が非常に重要となります。なお、PC から無線 LAN ルーターまでは有線 LAN 接続が前提です。
まず、物理的な話ですが、無線 LAN ルーターは VR HMD の近く、見通しのきく場所に設置することが理想です。間に壁や障害物があると、当然、電波は弱くなってしまい、安定性は下がってしまいます。
とはいえ、家庭の無線 LAN ルーターは光回線の壁端子付近に設置することが多いでしょうから、必ずしも VR のプレイスペースの近くにあるとは限りません。間に壁や天井を挟むこともあるでしょう。
設置場所を変更することができれば良いのですが、それが無理であれば、後述する「3. 無線LANルーターをブリッジ化してPCと直結する」の方法を検討してみてください。
無線 LAN で現在メジャーなものは、2.4GHz 帯を使用するものと 5GHz 帯を使用するものがありますが、無線 VR では 5GHz (または 6GHz) 帯を使用することが必須になります。(今現在はまだ 6GHz 帯に接続できる VR HMD はありません。Quest Pro もアップデート待ちですが、技適がややこしい日本で対応されるかはわかりません)
2.4GHz 帯は、ほぼあらゆる無線デバイス (Bluetooth から始まり、キーボード、マウス、ゲームコントローラー、ヘッドセットなど) が使用しており、超過密状態です。仮にこれらを一切使用していなくても、集合住宅であれば、近所の家から飛んでくる大量の無線 LAN の電波からは逃れられません。このようなカオスの中で、安定した通信が必要な無線 VR を使用するのは無理な話です。
5GHz 帯でも、同じチャンネルを使用している機器が他に存在する状況は極力避けていきます。近隣の家が使用していない、あるいは使用していてもレベルの低いチャンネルを探して、無線 LAN ルーターでチャンネルの手動設定を行います。
近隣住宅の無線 LAN チャンネル状況は、スマホアプリなどで調べることが可能です。わたしは下記を使用しました。機能として必要十分ではありますが、UI に直観的でない部分もあり、もっと良いものがあるかもしれません。
ここで設定するチャンネルですが、(5GHz の場合) 可能な限り 36・40・44・48ch のどれかを使用します。それより大きい数字も設定できますが、それらのチャンネルはレーダーとの干渉で変更される場合もあるので、無線 VR にはあまりおすすめできません。(運良く長期にわたってまったく干渉しない場合は使えますが…)
HT160 (オクタチャネル機能) はオフのほうが安定すると思います (あるいはそもそも HMD が対応してない場合も)。HT80 (クワッドチャネル機能) をオフにすると速度が厳しいので、こちらはオンにします。
上記では近隣住宅の無線 LAN からの干渉を避けるため、チャンネルを設定しましたが、自宅内での干渉も避けるため、この 5GHz のアクセスポイントは無線 VR 専用にするのがベストです。そうすると、他のモバイル機器の無線接続はどうするのか…、方法としては 3 つ挙げられます。
一番簡単なのはこちらです。5GHz がマルチバンド (5GHz 帯を物理的に 2 つ持っていて、それぞれ別チャンネルを設定できる) のルーターを使用すると、無線 VR 専用のアクセスポイントと、他のモバイル機器用のアクセスポイントを分けることが可能です。
仮想的にアクセスポイントを増やすだけ (プライマリ、セカンダリなど分かれても、それぞれ別チャンネルに設定できない) のものもありますが、これはアクセスポイントを分けても同じチャンネルを使っているので意味がありません。ご注意ください。
なお、他機器用のアクセスポイントは 36・40・44・48ch 以外のチャンネル、つまり 52ch 以上を使用するよう設定してください。上記で無線 VR 用に設定したチャンネルだけ避ければ良い、と思いがちですが、HT80 (クワッドチャネル機能) では 36・40・44・48ch の全部を使用することになります。
高機能 ( = 高価) なルーターなんて買えない、という場合は、他機器をすべて 2.4GHz のアクセスポイントに接続するのも一つの手ですが…、2.4GHz 帯は Bluetooth と干渉するので、VR のコントローラーやトラッカーのトラッキングに悪影響が出る可能性はあります。
Windows 10/11 には「モバイル ホットスポット」という、PC 自体を無線アクセスポイントにする機能があります。VR に使用しているデスクトップ PC に無線モジュールがついていれば、この機能を使用することにより、VR HMD とデスクトップ PC で直結の無線 LAN 経路を作ることができます。使用方法は簡単で、Windows 設定の「ネットワークとインターネット」の中にある「モバイルホットスポット」で有効にできます。
ここまで読むと理想的な話に思えますが、残念ながらほとんどの環境では実現できません。グレード高めのデスクトップ PC のマザーボードによく採用されている Intel の無線 LAN モジュールは、2.4GHz 帯のモバイルホットスポットしか作成することができず、5GHz 帯を設定しても失敗するようになっています。
ただ一部の無線 LAN モジュールでは、5GHz 帯のモバイルホットスポットを作成できるものが存在します。一例として MediaTek MT7921 がそれにあたります。こちらを購入して PC に接続 (M2 E Key の対応マザーボードか拡張カードが必要) することにより、スマートに無線 VR 専用のアクセスポイントを作成することが可能です。
しかし残念ながら、わたしが MediaTek MT7921 で試した限りは、ネットワーク品質はあまり良くありませんでした。原因は不明ですが、5GHz 帯で他に干渉するものがないにも関わらず、Virtual Desktop 上で見られるネットワークのレイテンシが安定せず、断続的に遅延が大きくなってしまうような状態です。MT7921 のドライバーか、Windows のモバイルホットスポットの実装が良くないのかもしれません。
わたしが現在使用しているのはこちらです。追加の機器と、細かい設定が必要なので、上級者向けとなります。必要なものは…
- 2 つ目の有線 LAN カード (or 一部のマザーボードは LAN 端子が2つあってえらい)
- 2 つ目の無線 LAN ルーター (ブリッジ化対応しているもの)
- ある程度の Windows、ネットワークの知識
「1. 高性能なルーターを使用する」ではルーター内のひとつの 5GHz 帯を占有させる形でしたが、こちらはルーター 1 台をまるごと無線 VR 専用にするため、処理やルーティングがシンプルになり、安定性としてはこちらが上になると思います。また無線の設置場所も、VR プレイスペースの近くに置きやすいでしょう。
以下に、手順を説明します。ちなみに、わたしは 2 つ目の LAN カード、無線 LAN ルーターに以下を使用しているので、こちらでの操作を紹介します。
- Intel Gigabit CT Desktop Adapter
- Aterm WX7800T8
1. PC に 2 つ目の有線 LAN カードを接続します。USB ではなく PCI Express のものが奨励です。
2. 無線 LAN ルーターをブリッジモードにして、1. の有線 LAN カードと繋ぎます。ブリッジモードにする方法は、無線 LAN ルーターの説明書を参照してください。WX7800T8 の場合は、背面のスイッチを BR にして電源を入れなおします。
通常、ルーターのブリッジモードで使用する端子は、WAN 用 (ONU をつなぐ用) の端子ではなく、PC などの LAN 側機器を接続する用の端子を使用しますが、もしうまくいかなければ、端子をもう片方に変えてみてください。
3. PC のブラウザから、ブリッジモードにした無線 LAN ルーターの Web 設定画面を開けるようにしましょう。1. の有線 LAN カードの IP を、ブリッジモードにしたルーターの IP (たいていメーカーが決めた固定 IP、ルーターの説明書に記載があるはず) と同じサブネットのアドレスにします。
具体的な操作例としては、1. の有線 LAN カードのネットワークアダプタのプロパティを開いて
(Windows 10 の場合: [スタート] → [設定] → [ネットワークとインターネット] → [アダプターのオプションを変更する] → 1. のネットワークアダプタを右クリックして [プロパティ])
(Windows 11 の場合: [スタート] → [設定] → [ネットワークとインターネット] → [ネットワークの詳細設定] → [ネットワーク アダプター オプションの詳細] → 1. のネットワークアダプタを右クリックして [プロパティ])
「インターネット プロトコル バージョン 4」のプロパティを開き、IP とサブネットマスクを入力します。IP はルーターの IP から末尾だけ適当に変更したもの、サブネットマスクはルーターと同じものを入れます。
WX7800T8 の場合、ブリッジモードにしたときの初期アドレスは 192.168.1.210 になるので、 ここでは 192.168.1.1 に設定しました。
これでブラウザに、ブリッジ化したルーターの IP (WX7800T8 の場合は 192.168.1.210) を入力することで、ルーターの設定画面を開くことができるようになります。
ちなみに、もしメインの有線 LAN の IP も 192.168.1.x だった場合、ブリッジ化したルーターに到達できないかもしれません。その場合、1 つ目の有線 LAN のケーブルを一時的に抜いておいてください。
4. 3. で開いた設定画面で、無線設定を行います。アクセスポイント名、チャンネル設定など、前述の説明を参考に設定しましょう。WX7800T8 の場合は、[Wi-Fi詳細設定(5GHz)] の中に設定項目があります。
5. 無線設定が終わったら、ブリッジ化したルーターの IP を変更します。ここでは192.168.137.2 に設定してください。ネットマスクは (入力欄に合わせて) /24 または 255.255.255.0 とします。ネーム (DNS) サーバーは必要であれば 1.1.1.1、1.0.0.1 を使用してください (プロバイダーから指定されたものでも可)。WX7800T8 の場合は、
[基本設定] の中に設定項目があります。
6. メインの有線 LAN カード (ブリッジ化したルーターではなく、インターネットにつながっているほう) のネットワークアダプタのプロパティを開いて、「共有」タブを開き、インターネット接続の共有にチェックします。ホームネットワーク接続のところには 1. の有線 LAN カード (ブリッジ化したルーターとつないだほう) が選択されていることを確認してください。
この操作により、1. の有線 LAN カードの IP は自動的に 192.168.137.1 に変更されます。これを見越して、5. でルーターの IP を 192.168.137.2 としていました。
7. Windows キー + R キー (ファイル名を指定して実行) から regedit → [OK] でレジストリエディタを開き
HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Windows\CurrentVersion\SharedAccess
上記キーに dword 値 EnableRebootPersistConnection を作成し 1 とします。
また、Windows キー + R キー (ファイル名を指定して実行) から services.msc → [OK] でサービス一覧を開き
Internet Connection Sharing (ICS) が自動になっているか確認してください。手動になっている場合は、ダブルクリックで開き
スタートアップの種類を [自動] に変更して、[OK] を押します。
これらの設定をしないと、再起動後にインターネット接続の共有が動かなくなってしまいます。
8. VR HMD の無線設定で、2. のルーターに接続します。無線設定を手動で編集し、IP を 192.168.137.3、ネットマスクを /24 または 255.255.255.0、DNS を 8.8.8.8 (自動で入力されるまま) とします。
PICO4 の場合の具体的な操作としては、下記のようになります。
- 設定の WLAN で、2. のルーターのアクセスポイントに接続
- そのアクセスポイント一覧の一番下「ネットワークを追加」を押す
- 新たに出てくるウィンドウで、アクセスポイントの右にある歯車のような設定ボタンを押す
- 右上のペンのようなボタンを押す
- IP設定を「静的」とし、IPアドレス 192.168.137.3、ゲートウェイ 192.168.137.1、ネットワークプレフィックス長 24、DNS 8.8.8.8 (IPを入れると他は自動入力されるのでそのまま)
- 右下の保存ボタンを押す
Quest の場合は (現在持っていないのでうろ覚えですが)、接続中のアクセスポイントを押すと、アクセスポイントの情報画面になり、その下のほうの詳細設定の中で、手動のIP設定ができたと思います。入力する値は上記と同じです。
9. 完成。これでPCとVR HMDが実質、直結状態になります。注意点として、VR HMD は PC を通してインターネット接続することになるので、PC の電源が切れているときは通信できません。
ここまで遅延については触れていませんでしたが、他の機器と共有の無線 LAN ルーターに接続する場合と比べて、「3. 無線LANルーターをブリッジ化してPCと直結する」による遅延短縮は、平均で 1-2ms 程度だと思います。
この数字だけ見ると、あまり意味がないと思われるかもしれませんが、電波干渉があったり、他機器と帯域を共有しているような環境では、状況によって遅延が増えたり減ったりとばらけることになりますが、専用経路の場合はワーストケースでもあまり遅延低下はなく、安定性の面では数字以上の差となります。
最後に、無線 VR に使用するソフトについても軽く触れておこうと思います。
Quest (2, Pro) であれば Air Link、Virtual Desktop、好みでどちらを使用しても良いでしょう。若干、Air Link のほうがトラッキングがなめらかだと思います。ただ、Air Link にはたまに振動が消えるバグがあり、Beat Saber でノーツを切ったときに振動がなく、空振りしたと勘違いすることが稀にあります。Virtual Desktop にはこの問題はないようです。
PICO4 の場合、PICO が提供する無線 VR ソフトの出来があまりよくないため、Virtual Desktop を使用するのがおすすめです。
Virtual Desktop の場合、画質、ビットレート、フレームレートを設定できますが、これらを高くするほど、画面のエンコード、デコードに時間がかかることなり、遅延も変化します。遅延をなるべく下げたい場合は、我慢できる範囲でこれらを下げると良いでしょう。
無線 LAN ルーターをブリッジ化して PC と直結するときの設定では、いくつかはまりポイントがあったので、まとめてみました。この記事がみなさんのお役にたてば幸いです。