XaiJu
栞

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渇き

深夜2時の自室。

布団に入りながら枕元にある電灯の下で眠ることもできず、かといって何かをする気力も無い。


無為に時間だけが溶けて無くなり消え去っていく。


冷蔵庫を開けて、ペットボトルの水を飲む。


ゴクッ、ゴクッ、ゴク…。


喉の渇きは満たすことができても、

空っぽになった心までは充たせそうにない。


目の前にある水切りカゴには、数時間前に洗った食器やマグカップと…包丁がある。


コレで自分を切り裂いてしまえば、空虚な身体から何が出てくるのだろう。割れた風船のように空気が溢れて、最後は縮んで消えてしまう。


無意識にソレへと手を伸ばそうとした時、横から誰かの視線を感じた。


「死ぬの?」


「…っ!?ぇ…何で…」


幼馴染みが立っていた。

久しぶりに会ったような懐かしい感じなのに、いつも見ていたような素振り。


優しいけれど、少し怒っている色が交ざった声。

観念したかのように、だらりとソレに伸ばそうとしていた腕の力を抜いた。


「ほら、おいで?ちょっとベッドの上で話そうか。」


「…………」


子供みたいに手を引かれて、抵抗する気力も何かを反論する気力も無く、力強い手に容易く引っ張られていくようにしてまたベッドの上へと戻ってきた。


壁に背中を付けて座り、幼馴染みと向き合うような形になる。


「で、何してたの?まぁ聞かなくても予想は付くけどさ」


「…………」


「どうしたの?何も言えないの?それとも言いたくないの?私が怖い?ほら、私は怒ってないから何か答えて欲しいな」


うつ向いて黙っていると、顔を両手で掴まれて無理やり視線を合わせられる。


温かい手。


それでも、何も答えられずに視線を反らせていると…


「はぁ…仕方ないなあ~。ほら、こちょこちょこちょー!!元気出して白状してくれるまでこちょこちょの刑だ~♪」


「…っっひゃぁっ!?ぁぁっあはははははははは!!ひゃぁぁぁぁっぁぁぁっいひゃぁぁっひゃめてぇぇっぁぁぁっあはははははは!!ひぃぃっひゃめろってばぁぁぁっぁぁっ!」


「こちょこちょ~♪やめないよ~だっ♪」


足首を掴まれて引っ張られ、無理やり仰向けにされて腰の上に馬乗りされる。


そして、抵抗する間も無く服の中に手を入れられて容赦なく器用な指先がこちょこちょと上半身を這い回っていく。


脇腹のくすぐったいツボをもみもみと的確に揉みほぐしたかと思えば、すぐさまこちょこちょと横腹を登るように駆け上がり腋の下の窪みをカリカリとくすぐられる。


腕を閉じてガードしようにも一歩遅い。


その隙に今度は服の中から右手を出して首筋をこしょこしょと撫でながら左手で腋の下をくすぐり続ける。


幼い頃から散々くすぐられ続けてきたお陰で、どこをどう触られるのが弱いのかを知り尽くしたこちょこちょ尋問に敵う筈も無かった。


「ぁぁぁっあははははっ!!ひぃぃっくしゅぐっだぃぃっぁぁぁぁっいやぁぁぁっぁぁぁっぁぁっあははははははははははははははははは!!ま、待ってぇぇっひゃめでぇぇっぁぁぁぁっあははははははははは!!」


「くしゅぐったいね~♪ほら、楽しい?もっと笑いたくなってきた?」


「あはははっひゃめっぁぁっひゃめぇぇおねがいだからぁぁぁっぁぁっあははははははは!!わ、わかったからぁぁぁぁっい、一旦ひゃめてよぉぉっぁぁぁっあははははは!!」


上から顔を覗き込みながら10本の指で首筋を包み込むようにこしょこしょ。


抵抗して力を入れて逃げたくても、くすぐったくてちょっと指先が身体に触れる度に脱力させられてしまう。


もう既に"くすぐり調教師"として3年以上実務をこなしてきた彼女に逆らえる筈も無く、されるがままに責められ続ける。


段々笑い疲れて、酸欠でひぃひぃとぐったり息が荒れてきた頃、ようやくくすぐっていた指が離れる。


「っはぁっ…はぁっ…くひゅぐったい……やめっ……」


「ふふっ♪どう?思いっきり笑ってちょっとは元気出た?それとも…まだまだ笑わされたい?」

「ひぃぃっ!?ご、ごめんなさい…もう勘弁してぇ…」


目の前で見せつけるように指をワキワキと動かされながら顔を覗き込まれる。


もうすっかりと抵抗する気力も反抗する気力も無く、あっさりと白旗を上げてしまう。


「汗かいたでしょ?服脱がせたげる♪ほら、万歳して?」


半ば無理やり着ていたシャツをめくられ、両腕を真っ直ぐ万歳させられて肘の辺りまで脱がされる。


簡易的に衣服で拘束されたような形で、さらにその上から幼馴染みに馬乗りされて顔を見下ろされながら、両手は腋の下の窪みへとセットする。


「ひっ!?な、なにを…」


「私さあ、昔言わなかったっけ?次、死にたいなんて言ったらくすぐり殺す、って。」


いつも優しくて温厚な幼馴染みから、物騒な言葉が出てきて驚くと共に、背筋がすーっと冷たくなる。


目を見ると、どうやら本気で怒っているようだ…


「ごめっ…ごめんなさい…ひゃっぅぅっ…やめっ…」


「君はさぁ、どうしてそうやってすぐ私のことまで忘れちゃうの?私ってその程度の存在?いつも近くにいるのに。いつでも悩みくらい聞いてあげるのに。何で?そうやって誰も居ない世界に逃げちゃうのかな?」


カリ…カリ…こちょこちょ…と、じわじわと腋の下をいたぶりながら痛い質問を投げ掛ける。


今回ばかりは、そう簡単に許してもらえなさそう…


「あ、別に私は怒ってるとかじゃないからね。お姉さんに比べたら、だけどね。」


「な、何を言って……ひっ!?」



「久しぶりね。」


…もしかすると、今一番会いたく無かった人。

何で…お姉ちゃんが……


さーっと、全身から血の気が引いていく気がした。

迷うこと無くベッドに上がり、どかっと腰の上に馬乗りされて身動きを完全に封じられる。


ガタガタと歯を震わせながら何とか逃げようともがくも、幼馴染みとお姉ちゃんの2人がかりでしっかり体重をかけて押さえつけられてしまえば無駄な抵抗だった。


観念したように、だらりと身体から力を抜く…。


「ねぇ、私も"あの時"言わなかったっけ?次、自分から命を投げ出すような真似をしたら赦さない、って。」


「ひっ……ぁっ……ぁぁっ…」


幼い頃から身体にたっぷりと刻み込まれてきた恐怖が甦ってくる。大人になっても、姉には逆らえないという呪縛。


半泣きでガタガタ震え、喉から言葉が出てこない…


「ねぇ、無視?いい度胸してるね。そんなに死にたいならさ、」


「ひっぎゃぁぁっひぃぃっ!?」


優しく、ゆっくりとした手つき。

姉の両手は、脇腹にある死ぬほどくすぐったい"ツボ"を的確に捕らえてスタンバイしている。


ぁっ…駄目だって…それは…本当に洒落にならない…


ちょっと触れられただけで白眼を剥きそうになるほどくすぐったい、プロの"拷問師"の指先。


凶器と言っても過言ではない指先に、心の底から死を覚悟してしまう…


先ほどから腋の下に指を這わせている幼馴染みも、じわじわ焦らすかのように爪先を微かに動かし始める。


「最後に何か、言い残したことある?」


_聞き覚えのあるセリフ……


分かっていても、必死で命乞いをしてしまう。


「ごめっ…許してくださぃ…お、お姉ちゃんまっ…ぁぎゃぁぁぁっ!?ぁぁっぁぁぁぁっ___ぁぁっ…___________っっぁぁぁぁっぎゃぁぁぁぁっぁぁぁっあははははははははははははははははははははは!!!!ひぎゃぁぁぁぁっぁぁぁぁっひゃめっぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」


一瞬、目の前が真っ白になった。

何が起きたのか理解する前に、声が出せなくなる程の強烈なくすぐったさを強制される。


呼吸と笑い苦しむことすら許されない脇腹のくすぐりは、"処刑"レベルのテクニックだ。


一瞬にして死を覚悟させられ、絶叫に近い笑い声を上げること"を"許される。


「死ぬほどくすぐったいでしょう?だけどそう簡単には死なせてあげないよ?たっぷり笑い苦しんで、反省しなさい。」


「ごめんね?私も今回は手加減してあげない。子供のお遊びじゃなくて、本気のくすぐりでお仕置きしてあげる。」


もはやあまりのくすぐったさと自分の叫び声で、お姉ちゃんと幼馴染みの言葉はよく聞き取れなかった。


顔を太ももで挟まれて固定され、上から顔を覗き込まれながらねちねちと首筋や腋の下をくすぐられる。


腰の上に馬乗りしたお姉ちゃんは、脇腹のツボを執拗に、痛み0の絶妙な力加減で揉み揉みと指先に力を入れて揺らすように刺激する。


時々指の腹でお腹やおへその上を素早くこちょこちょとくすぐり、永遠に刺激に慣れることはない。


(くすぐったいくすぐったいくすぐったい…!!!!)

(死ぬ…嫌だ…!!!やめてやめて…許して…!!!)


死に…死にたくない…!!!


「ぎゃひゃぁぁぁぬぁぁぁぃぃぁぁぁっふぁぁぁぅぁぁぁっぎゃぁぁぁっぁぁっひゃぁぁぁだぁぁぁっぁぁゆぁぁぁるびぇぇぁぁぁぁっぉぁぁぁぁっぁぁっ!!__ぁぁっぎゃぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁっぁぁっぁぁぁっ___ぁぁぁぁっ!!!!」


顔は涙や涎ですっかりとぐしゃぐしゃになり、声にならない声で必死に口をパクパクさせて酸素を身体が追い求める。


だけど、呼吸する間も与えてもらえず、あっという間に酸欠へと近付いていき意識がぼんやりとしてくる……


「__っぁぁっ…__ぁぁ______……」


だらりと白眼を剥き、全身の力が抜けて軽くなってくる感覚…ぁぁ…死ぬんだ……


一瞬、意識が完全に堕ちた。


だけど、身の毛もよだつ程のくすぐったさによって強制的に叩き起こされる。


「__っぁぁっ!?あひゃぁぁぁぁっぎゃぁぁっぁっあははははははははは!!!…っはぁっ…げほっ、ごほっ、はぁっはぁっ…」


「お仕置きしてる途中なのに、気絶して逃げようとするなんて悪い子ね。まだ反省が足りないの?」


「ぁぁっ…やめっ…ごめん…ごめんなさぃぃ…お、お願いだから…も、もうやめてください…やだ…助けて…!!」


指で涙を拭われ、姉に顔を覗き込まれる。

怖くて怖くて怖くて。


地獄のようなくすぐったさを思い出して身体がガタガタと震えて止まらない。


「だめ。まだ許してあげない。死にたいんでしょ?だったら私が二度とそんなこと思えなくなるくらい死ぬほどくすぐってあげる。もし本当に死んだとしても、あの世でずーっとくすぐったい思いをするくらい、たっぷり身体に刻み込んであげるから。覚悟はいい?」


「ひっ!?い…いやっ…やめて…!!ほ、本当に…ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさい…!!」


目の前で指を蠢かせ、見せつけられる。


見ているだけでも身体がゾクゾクと恐怖で震えてしまう。


「私も、今回ばかりは庇いきれないかな。反省しなよ?」


唯一の希望であった幼馴染みにまで冷たく見下ろされ、首筋に10本の指を添えられる。


お姉ちゃんの指先は、腋の下へと段々近付いていき…


「そろそろ本気でくすぐってあげる。気が狂わないように精々気を付けな?」


「ぃやっ…も、もうゆるしてぇぇ!!やだっ…いやっ…や、やめっ…_っぎゃぁぁっぅぁぁぁっあはははははは!!!ひぎゃぁぁぁっぁぁぁっぎゃぁっぁぁっあひゃめでぇえっぁぁぁっぁぁぁっあははははははははは!!!!ぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


腋の下にある窪みに、指が触れた瞬間。

気が付いた時にはワケの分からないままあまりのくすぐったさで笑い狂わされていた。


敏感な神経を直接指先で刺激してくすぐり尽くしているかのような感覚に、頭がおかしくなりそう…


幼馴染みは首筋や耳を容赦なくこしょこしょとくすぐる。

抵抗する力が抜け落ちて脱力させるようなくすぐりによって、身体がくすぐったさに慣れることは無く永久に笑い苦しんでしまう。


脇腹のツボ入れの時のような「息が止まる」くすぐりではなく、今度は苦痛を長引かせるような純粋で暴力的なくすぐったさを姉に与えられ続ける。


「ぁぁぁぁぁぁぁっぎゃぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁっぁははははは!!!っぁぁぁぁっぁぁぁっ___っぁぁっ___がっ___ぁぁっ___じ___ぬ__……」


半狂乱になって本当に気が狂いそうになった時、またツボを刺激され一瞬で頭が真っ白になっていく…


視界が真っ暗になり、1,2秒程意識が完全に堕ちたところで、


「…__っぎゃぁぁっ!?ぁぁぁぁっぎゃぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぅっぁぁぅぁぁっあはははははははは!!!!ぁぁぁぁっぎゃぁぁっひゃめでぇぇぇぇっぁぁぁ!!!」


「これ相当しんどいでしょ?プロの現場では1日中ずーっと気絶してくすぐり起こしてを繰り返すの。だけど、絶対気を狂わせない。心の底から反省するまであんたにもずーっとやってあげようか?」


「ぁぁぁぁっごめっぁぁぁぁんなざぃぃぃっぁぁぁっゆるじでぇぇっぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁっあははははははははははははは!!も、もう二度とじないからぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁっいやだぁぁぁぁっじにたくなぃぃぃぅぁあまぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」


幼馴染みに顔を覗き込まれながら、時々耳に息を「ふ~っ♪」と吹きかけられて感度をリセットされる。


姉の指先は腋の下や脇腹、お腹を中心にこちょこちょと這いまわり、拷問師として培ってきたテクニックを遺憾なくぶつけられ徹底的にくすぐられる。


また何度か意識を失い、強制的に起こされを繰り返し、体力的にも限界になり声が枯れて笑い声もか細くなってきた頃、ようやくくすぐっていた指が離れ、人力拘束からも解放された。


「っ……ひっ……ひっ…ぅぁっ…げほっ…ごほっ……」


「今日のところはこの辺で勘弁してあげる。仕事終わったらお説教しに来るから。その時反省の色が見えなかったらまたお仕置きするからね。」


もはや返事もできず、姉の言葉に必死に顔をガタガタと縦に揺らして肯定の意を示す。


「じゃあ、後はよろしくね。」


「はーい♪今日は私がずーっと一緒にいてあげる。だからさ、まずはお休みなさい。安心して寝ていいよ?」


お姉ちゃんはどこかに消え、幼馴染みと二人きり。


頭を優しく撫でられながら、キスをされ唇を奪われる。


今度こそ本当に…目を閉じて眠りに堕ちていく感覚_


____________________

[渇き#2]


__身体が重い__。


色んな夢を見た気がする。

儚げに消えていった学生の頃の夢。

見覚えのある同級生。


走馬灯を見ているかのような過去の知らない光景たち。


消えたい消えたい消えたい。


消したい_何もかも消し去ってしまいたい。

自分の身体ごと_泡のように消えて無くなれば_


「……きてー!ほら、そろそろ起きてー!!」


「ん……ぅぅっ……んん…?ぁっ…えっ…!?ひゃっ!?」


布団をかけられて腹越しに馬乗りされて、首筋をこしょこしょと撫でて起こされる。


幼馴染みが顔を覗き込むようにして起こしてくれていた。


「あ~やっと起きたね♪おはよ~♪もう15時だけど。10時間くらい寝てたんじゃない?」


「ぁっ……ぇっ…?昼…?もうそんな時間…」


どうやら明け方頃から、今にかけて死んだようにぐっすり眠っていたらしい。


もしかして…と心配して起こしてくれたようだ。


眠る前…文字通り死ぬほどのくすぐったさを身体に刻み込まれたことを思い出す。パジャマが皮膚に触れているだけでも、ゾクゾクとしたくすぐったさを感じてしまう程だ。


「どう?気分は??あ、お腹空いたでしょ!私が朝ごはん…?昼ごはん…??作ってあげる!顔洗ってきなよ!」


「あ…うん…ありがとう」


まだ少しぼーっとする頭を起こしに洗面所へと向かう。

顔を洗い、歯を磨いていると、キッチンの方からトースターや何かを焼いている音が聞こえてきた。


タオルで顔を拭いて、様子を見に行ってみると…


「あ~やっと来た♪じゃあね」


「なっ!?待って…!!!」


**

反射的に身体が動いていた。

包丁を手に持って喉元に刃を向ける彼女を見て。


乱暴に刃物を奪い取って床に叩き捨て、背中に腕をまわして抱き締める。


「ごめんね。どんな反応するのかと思って試しちゃった。私のこと心配してくれて、ありがとう。昨日…私がどんな気持ちだったか、理解できた?」


「…ぁっ…ごめっ……ごめんなさい……」


優しく背中と頭を撫でられ、目から涙が潤む。


そうか…昨日…自分もあの時、キッチンに立って……


それがどれほど周りを傷つける行為だったのかを、1ミリも考えられなかった。


しばらく抱擁して自省していたけれど…


「あっ!やばっ!目玉焼き焦げちゃう!!お皿用意してトースト出しといて!!」


「えっ!?あ…うん…!」


ひょいっと突き放すようにして慌ててコンロの火を止める幼馴染み。「あ~…まぁ、食べれるよね!」と、フライパンを眺めている。


お皿の上に焼きたての食パンを乗せ、バターを塗り、その上に少し焦げたベーコンと目玉焼きが乗せられる。


「何飲む?コーヒーでいいよね?」


「うん、ありがとう」


氷の入ったグラスに、紙パックのブラック珈琲が注がれていく。


「はい、どうぞ召し上がれ~♪」


「ありがとう、いただきます…」


朝ごはんとも昼ごはんとも言い難いけれど、体力を消耗してぐっすりと眠り続けていたからお腹は空いていた。


目の前でニコニコとした幼馴染みに見つめられながら早速目玉焼きトーストにかじりつく。


カリッとした良い音を鳴らし、落とさないよう慎重に白身の部分を食べていく。


「どう?美味しい??」


「美味しい。ありがとう」


やや食い気味に美味しさと感謝を伝える。

…経験則から。


やっぱりさっきの出来事もあり、何だか照れ臭くなって黙々と食べ進め、冷たいコーヒーで喉の奥へと流し込んだ。


「ごちそうさまでした…」


「うん♪どういたしまして。あ、私が片付けてあげるからいいよ、座って休んでて♪」


「ありがとう…」


食器を下げてくれる幼馴染みに甘えて、立ち上がれないでいた。何から何まで甘えているような気がして、罪悪感に蝕まれそうになる。


せめて何か動こうと、机の上を拭いて綺麗に掃除していた。


「あ、そうそう!今日19時くらいにお姉さん来るって!」


姉という言葉を聞いて、ピタッと身体が止まる。


そう言えば…確かあの時…"お説教"しにまた来るって言ってたような気がするな…


正直に言えば…まだ怖い。

身体に長年刻み込まれてきたくすぐりへの恐怖と、昨日経験した"死"を覚悟する程のくすぐり。


ほんの少し思い出すだけで、身体がガクガクと震えてしまう…


「大丈夫だよ。私が付いてるから、ね?ちゃんと素直に心を開いて打ち明けてみたら優しく受け止めてくれる人だから。」


「ぅっ…うん…本当かな……」


また顔を覗き込まれながら、安心させるように優しく抱き締められる。まるで子供をあやすように、優しく。


その声や温もりや、手の感触だけで、心が満たされていく。


すっ…と唇を耳元に近づけられ、感じてゾクっとしてしまう。


「ここだけの話なんだけどさ、あの後すっごい心配してる様子の連絡来たんだよ?」


スマホの画面を目の前で見せられる。

お姉ちゃんと栞とのメッセージのやり取りだ。


『ねぇ、まだ生きてるよね?』

『私やり過ぎちゃったかな…大丈夫かな…』

『怖がらせすぎたかな…』

『怖がられても、生きていてくれるなら私が嫌われてもいい。だからお願い、傍にいてあげて。』


…意外と言えば意外だった。

ここまで自分のことを心配してくれていたなんて。


「香織さんらしいよね~。何て言うの?厳しい愛の鞭って感じ?だからさ、ちゃんと受け止めて胸に刻みなよ?」


「そうだね…お姉ちゃん来たら、ちゃんと話してみるよ」


口ではそう言ったものの、本音を言えばまだ少し身体が震えていた。お姉ちゃんの優しさは充分感じているけれど、くすぐったい恐怖が勝って萎縮してしまいそうだ…


「大丈夫だよ、ほら、こちょこちょこちょ~♪」


「ひゃひっ!?ぅぁぁっあはははは!!や、やめっぅぁぁぁっひゃらぁぁっくひゅぐったぃぃっ!!」


いきなり目の前から指先が視界に入り、首筋にまとわりつくようにこちょこちょとくすぐられる。


くすぐったくて身体の力が抜け落ちて、自然と仰向けに押し倒されてしまう。手で振り払おうと首元に手を持っていくも、簡単に押さえつけられてしまい身体の側面にピシッと付けた状態で胸の辺りに馬乗りされる。


「ふふっ♪もう逃げられないね~?」


幼い頃から何度この体勢でくすぐられ続けてきたか…

子供の頃を思い出して少し懐かしい気持ちになる。


顔を上から覗き込みながら、くすぐったい指先を見せつけるようにワキワキと動かしている。


それを見ているだけで全身ゾクゾクとして、ひぃひぃ悲鳴を上げてしまう。


顔を背けてぎゅっと目を瞑っていると…


「ふ~っ♪こちょこちょこちょこちょ~♪」


「っひゃぁっ!?っぁぅぁぁっあはははははははは!!ひっ!?ひゃめてぇぇっぁぁっあははははははは!!」


耳の中に温かい吐息を吹きかけられ、力が抜けた瞬間10本の指先が首筋を容赦なくこちょこちょと這い回る。


いくら我慢していても、脱力させられて一度笑わされてしまえば後はされるがままだ。


"調教師"のくすぐりは心を溶かすとよく言われる。


心の隙間に入り込んで、くすぐったくて気持ちよくて、段々身体もぽかぽかとして、もっともっとくすぐられたくなる。


最初に幸福感をたっぷりと与えられ、満たされた状態にしてからゆっくりと調教を施していく_


一方、母やお姉ちゃんのような"拷問師"のスタイルはそれと真逆だ。最初に絶望感のあるくすぐったい恐怖を心の隙間に植え付けて、蝕むように拡げていく。


厳しい"愛の鞭"と言えば、そうなのかもしれない。

職業による接し方の違いなんだと言うのは、大人になってから理解したことだ。


生きている限り、辛くて苦しいことからも、幸せで楽しいことから逃れることはできない。


「っぁっあははっ!!あっははっひゃめっ…ぁぁっ…」


「こちょこちょこちょ~♪何かぼーっとして、考え事してたんでしょ~?ほら、私にくすぐられて幸せ?楽しい?」


「ひゃぁった、たのしぃぃ!!楽しいからぁぁっい、一旦ひゃめてぇぇっぁぁっほんとに限界だってばぁぁっ!!」


「本当に限界な人はまともに喋れないから、まだまだ余裕そうだね♪香織さん来るまでこちょこちょしたげよっか♪」


「ひぃぃっ!!?も、もうむりだってぇぇっぁぁっ!!」


くすぐられてどのくらい時間が経ったのか分からないけれど、すっかり抵抗する力も体力も奪われて両手を万歳させられ、腕の上に馬乗りされてしまう。


今度は脇腹やお腹に手を伸ばしたり、服の中に手を入れて腋の下を優しくこしょこしょとくすぐられる。


このままだとまた気絶しちゃう…!


お姉ちゃんが帰ってくるより先に体力が力尽きそうに思えてきた。


「ぁぁっひゃらぁぁお、お姉ちゃん助けてぇぇっぁぁっおかひくなっちゃうからぁぁぁっ!!」


「ほらほら、もっと頑張って助け呼んでみなよ~♪そしたら来てくれるかもしれないよ?」


か弱い女の子に容易く押さえつけられながら、弱いところをねちねちくすぐられ続けてしまい、すっかり顔は涙や涎でぐしゃぐしゃになる。


頭の中から余計な暗い思考はとっくに消え失せ、"くすぐったい"と"助けて"しか考えられなくなる。


「ぁぁぁっあははははは!!お、お姉ちゃんひゃすけてぇぇぇっぁぁぁっくひゅぐっだぃのやだぁぁぁぁっ!!」


「ふふっ♪子供みたいに駄々こねて泣いちゃって可愛いね~♪もっと恥ずかしい顔私に見せてよ~♪」


腋の下を突然激しくこちょこちょされ、一気に呼吸が苦しくなってくる…また気絶してしまうと思ったその時…


『よく言えました。ご褒美に助けてあげるね?』


「えっ?きゃっぁぁっあははっ!!こちょばいってぇぇっぁぁっははは!!だ、だれ!?ぁっ……香織さん…」


一瞬何が起きたのか分からなかった。

栞の笑い声がして、身体が自由になった…


はぁはぁと座り直してみると、お姉ちゃんが帰ってきていた。


「あっ…お、お姉ちゃん…うわっ!?」


いきなり押し倒すように抱き付かれ、頭をよしよしと撫でられる。何だか照れて恥ずかしくて、少しドキドキとしてしまう。


「昨日はごめんね?少し本気で怒りすぎたかしら。」


「い、いやっ…こちらこそ…ごめんなさい…もう二度と自分から死のうとなんてしないって約束します…」


「辛かったらもっと打ち明けてもいいんだよ?私やママでも、栞ちゃんでもいい。みんな味方だから…。私は家柄とか仕事柄厳しく怒る時もあるけれど、別に嫌いだからとかじゃなくて、本気で見守っているからこそ厳しく接してしまうってこと理解してくれると嬉しいな。怖い思いさせてごめんなさい。」


…いつも怖かったお姉ちゃんがたまに見せる優しい顔。

この顔が好きだったってこと、ようやく思い出せた。


さっきまで幼馴染みにたくさん笑わされて、7,8割まで満たされていた心が、お姉ちゃんの言葉と微笑みで満タンになる。


気がつけば自然と涙と嗚咽が溢れ、しばらくの間ひとしきり泣いてしまっていた。


「そう、辛い時はそうやって無理せず泣いていいんだよ。」


「私もよしよししてあげよっか♪ほら、いい子いい子」

空っぽだったモノから感情が溢れ出て、涙と一緒に浄化されていく。


悲しい時には悲しんでいい。

辛い時には声に出してもいい。


「ぐすっ…ぐすっ…ぅぅっ…」


涙が枯れてようやく落ち着いてきた…

背中に手を回して上体を起こされ、お姉ちゃんと向き合う形で座らされる。


「どう?思いっきり泣いて少しはスッキリした?」


「ぅん…ぅぅっ…お姉ちゃん…」


「なあに?今日だけは甘えても許してあげる。」


まるで子供みたいに泣きじゃくって、恥も捨てて甘えるように抱き着いてしまう。


昨日から散々くすぐられて自分を強制的にさらけ出すような感覚に慣れてマヒしているのかもしれない。


もしくは、お姉ちゃんや栞の"調教"にすっかりと気付かぬ内に堕ちてしまったのかも。


その後また、少しだけ2人がかりでくすぐられてしまった。


今度は地獄のようなくすぐりではなく、甘く身も蕩ける責めを全身に受け、幸せな笑みを浮かべたまま眠りに堕ちた。


渇き

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