XaiJu
栞

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渇き#2


__身体が重い__。


色んな夢を見た気がする。

儚げに消えていった学生の頃の夢。

見覚えのある同級生。


走馬灯を見ているかのような過去の知らない光景たち。


消えたい消えたい消えたい。


消したい_何もかも消し去ってしまいたい。

自分の身体ごと_泡のように消えて無くなれば_


「……きてー!ほら、そろそろ起きてー!!」


「ん……ぅぅっ……んん…?ぁっ…えっ…!?ひゃっ!?」


布団をかけられて腹越しに馬乗りされて、首筋をこしょこしょと撫でて起こされる。


幼馴染みが顔を覗き込むようにして起こしてくれていた。


「あ~やっと起きたね♪おはよ~♪もう15時だけど。10時間くらい寝てたんじゃない?」


「ぁっ……ぇっ…?昼…?もうそんな時間…」


どうやら明け方頃から、今にかけて死んだようにぐっすり眠っていたらしい。


もしかして…と心配して起こしてくれたようだ。


眠る前…文字通り死ぬほどのくすぐったさを身体に刻み込まれたことを思い出す。パジャマが皮膚に触れているだけでも、ゾクゾクとしたくすぐったさを感じてしまう程だ。


「どう?気分は??あ、お腹空いたでしょ!私が朝ごはん…?昼ごはん…??作ってあげる!顔洗ってきなよ!」


「あ…うん…ありがとう」


まだ少しぼーっとする頭を起こしに洗面所へと向かう。

顔を洗い、歯を磨いていると、キッチンの方からトースターや何かを焼いている音が聞こえてきた。


タオルで顔を拭いて、様子を見に行ってみると…


「あ~やっと来た♪じゃあね」


「なっ!?待って…!!!」


**

反射的に身体が動いていた。

包丁を手に持って喉元に刃を向ける彼女を見て。


乱暴に刃物を奪い取って床に叩き捨て、背中に腕をまわして抱き締める。


「ごめんね。どんな反応するのかと思って試しちゃった。私のこと心配してくれて、ありがとう。昨日…私がどんな気持ちだったか、理解できた?」


「…ぁっ…ごめっ……ごめんなさい……」


優しく背中と頭を撫でられ、目から涙が潤む。


そうか…昨日…自分もあの時、キッチンに立って……


それがどれほど周りを傷つける行為だったのかを、1ミリも考えられなかった。


しばらく抱擁して自省していたけれど…


「あっ!やばっ!目玉焼き焦げちゃう!!お皿用意してトースト出しといて!!」


「えっ!?あ…うん…!」


ひょいっと突き放すようにして慌ててコンロの火を止める幼馴染み。「あ~…まぁ、食べれるよね!」と、フライパンを眺めている。


お皿の上に焼きたての食パンを乗せ、バターを塗り、その上に少し焦げたベーコンと目玉焼きが乗せられる。


「何飲む?コーヒーでいいよね?」


「うん、ありがとう」


氷の入ったグラスに、紙パックのブラック珈琲が注がれていく。


「はい、どうぞ召し上がれ~♪」


「ありがとう、いただきます…」


朝ごはんとも昼ごはんとも言い難いけれど、体力を消耗してぐっすりと眠り続けていたからお腹は空いていた。


目の前でニコニコとした幼馴染みに見つめられながら早速目玉焼きトーストにかじりつく。


カリッとした良い音を鳴らし、落とさないよう慎重に白身の部分を食べていく。


「どう?美味しい??」


「美味しい。ありがとう」


やや食い気味に美味しさと感謝を伝える。

…経験則から。


やっぱりさっきの出来事もあり、何だか照れ臭くなって黙々と食べ進め、冷たいコーヒーで喉の奥へと流し込んだ。


「ごちそうさまでした…」


「うん♪どういたしまして。あ、私が片付けてあげるからいいよ、座って休んでて♪」


「ありがとう…」


食器を下げてくれる幼馴染みに甘えて、立ち上がれないでいた。何から何まで甘えているような気がして、罪悪感に蝕まれそうになる。


せめて何か動こうと、机の上を拭いて綺麗に掃除していた。


「あ、そうそう!今日19時くらいにお姉さん来るって!」


姉という言葉を聞いて、ピタッと身体が止まる。


そう言えば…確かあの時…"お説教"しにまた来るって言ってたような気がするな…


正直に言えば…まだ怖い。

身体に長年刻み込まれてきたくすぐりへの恐怖と、昨日経験した"死"を覚悟する程のくすぐり。


ほんの少し思い出すだけで、身体がガクガクと震えてしまう…


「大丈夫だよ。私が付いてるから、ね?ちゃんと素直に心を開いて打ち明けてみたら優しく受け止めてくれる人だから。」


「ぅっ…うん…本当かな……」


また顔を覗き込まれながら、安心させるように優しく抱き締められる。まるで子供をあやすように、優しく。


その声や温もりや、手の感触だけで、心が満たされていく。


すっ…と唇を耳元に近づけられ、感じてゾクっとしてしまう。


「ここだけの話なんだけどさ、あの後すっごい心配してる様子の連絡来たんだよ?」


スマホの画面を目の前で見せられる。

お姉ちゃんと栞とのメッセージのやり取りだ。


『ねぇ、まだ生きてるよね?』

『私やり過ぎちゃったかな…大丈夫かな…』

『怖がらせすぎたかな…』

『怖がられても、生きていてくれるなら私が嫌われてもいい。だからお願い、傍にいてあげて。』


…意外と言えば意外だった。

ここまで自分のことを心配してくれていたなんて。


「香織さんらしいよね~。何て言うの?厳しい愛の鞭って感じ?だからさ、ちゃんと受け止めて胸に刻みなよ?」


「そうだね…お姉ちゃん来たら、ちゃんと話してみるよ」


口ではそう言ったものの、本音を言えばまだ少し身体が震えていた。お姉ちゃんの優しさは充分感じているけれど、くすぐったい恐怖が勝って萎縮してしまいそうだ…


「大丈夫だよ、ほら、こちょこちょこちょ~♪」


「ひゃひっ!?ぅぁぁっあはははは!!や、やめっぅぁぁぁっひゃらぁぁっくひゅぐったぃぃっ!!」


いきなり目の前から指先が視界に入り、首筋にまとわりつくようにこちょこちょとくすぐられる。


くすぐったくて身体の力が抜け落ちて、自然と仰向けに押し倒されてしまう。手で振り払おうと首元に手を持っていくも、簡単に押さえつけられてしまい身体の側面にピシッと付けた状態で胸の辺りに馬乗りされる。


「ふふっ♪もう逃げられないね~?」


幼い頃から何度この体勢でくすぐられ続けてきたか…

子供の頃を思い出して少し懐かしい気持ちになる。


顔を上から覗き込みながら、くすぐったい指先を見せつけるようにワキワキと動かしている。


それを見ているだけで全身ゾクゾクとして、ひぃひぃ悲鳴を上げてしまう。


顔を背けてぎゅっと目を瞑っていると…


「ふ~っ♪こちょこちょこちょこちょ~♪」


「っひゃぁっ!?っぁぅぁぁっあはははははははは!!ひっ!?ひゃめてぇぇっぁぁっあははははははは!!」


耳の中に温かい吐息を吹きかけられ、力が抜けた瞬間10本の指先が首筋を容赦なくこちょこちょと這い回る。


いくら我慢していても、脱力させられて一度笑わされてしまえば後はされるがままだ。


"調教師"のくすぐりは心を溶かすとよく言われる。


心の隙間に入り込んで、くすぐったくて気持ちよくて、段々身体もぽかぽかとして、もっともっとくすぐられたくなる。


最初に幸福感をたっぷりと与えられ、満たされた状態にしてからゆっくりと調教を施していく__。


一方、母やお姉ちゃんのような"拷問師"のスタイルはそれと真逆だ。最初に絶望感のあるくすぐったい恐怖を心の隙間に植え付けて、蝕むように拡げていく。


厳しい"愛の鞭"と言えば、そうなのかもしれない。

職業による接し方の違いなんだと言うのは、大人になってから理解したことだ。


生きている限り、辛くて苦しいことからも、幸せで楽しいことから逃れることはできない。


「っぁっあははっ!!あっははっひゃめっ…ぁぁっ…」


「こちょこちょこちょ~♪何かぼーっとして、考え事してたんでしょ~?ほら、私にくすぐられて幸せ?楽しい?」


「ひゃぁった、たのしぃぃ!!楽しいからぁぁっい、一旦ひゃめてぇぇっぁぁっほんとに限界だってばぁぁっ!!」


「本当に限界な人はまともに喋れないから、まだまだ余裕そうだね♪香織さん来るまでこちょこちょしたげよっか♪」


「ひぃぃっ!!?も、もうむりだってぇぇっぁぁっ!!」


くすぐられてどのくらい時間が経ったのか分からないけれど、すっかり抵抗する力も体力も奪われて両手を万歳させられ、腕の上に馬乗りされてしまう。


今度は脇腹やお腹に手を伸ばしたり、服の中に手を入れて腋の下を優しくこしょこしょとくすぐられる。


このままだとまた気絶しちゃう…!


お姉ちゃんが帰ってくるより先に体力が力尽きそうに思えてきた。


「ぁぁっひゃらぁぁお、お姉ちゃん助けてぇぇっぁぁっおかひくなっちゃうからぁぁぁっ!!」


「ほらほら、もっと頑張って助け呼んでみなよ~♪そしたら来てくれるかもしれないよ?」


か弱い女の子に容易く押さえつけられながら、弱いところをねちねちくすぐられ続けてしまい、すっかり顔は涙や涎でぐしゃぐしゃになる。


頭の中から余計な暗い思考はとっくに消え失せ、"くすぐったい"と"助けて"しか考えられなくなる。


「ぁぁぁっあははははは!!お、お姉ちゃんひゃすけてぇぇぇっぁぁぁっくひゅぐっだぃのやだぁぁぁぁっ!!」


「ふふっ♪子供みたいに駄々こねて泣いちゃって可愛いね~♪もっと恥ずかしい顔私に見せてよ~♪」


腋の下を突然激しくこちょこちょされ、一気に呼吸が苦しくなってくる…また気絶してしまうと思ったその時…


『よく言えました。ご褒美に助けてあげるね?』


「えっ?きゃっぁぁっあははっ!!こちょばいってぇぇっぁぁっははは!!だ、だれ!?ぁっ……香織さん…」


一瞬何が起きたのか分からなかった。

栞の笑い声がして、身体が自由になった…


はぁはぁと座り直してみると、お姉ちゃんが帰ってきていた。


「あっ…お、お姉ちゃん…うわっ!?」


いきなり押し倒すように抱き付かれ、頭をよしよしと撫でられる。何だか照れて恥ずかしくて、少しドキドキとしてしまう。


「昨日はごめんね?少し本気で怒りすぎたかしら。」


「い、いやっ…こちらこそ…ごめんなさい…もう二度と自分から死のうとなんてしないって約束します…」


「辛かったらもっと打ち明けてもいいんだよ?私やママでも、栞ちゃんでもいい。みんな味方だから…。私は家柄とか仕事柄厳しく怒る時もあるけれど、別に嫌いだからとかじゃなくて、本気で見守っているからこそ厳しく接してしまうってこと理解してくれると嬉しいな。怖い思いさせてごめんなさい。」


…いつも怖かったお姉ちゃんがたまに見せる優しい顔。この顔が好きだったってこと、ようやく思い出せた。


さっきまで幼馴染みにたくさん笑わされて、7,8割まで満たされていた心が、お姉ちゃんの言葉と微笑みで満タンになる。


気がつけば自然と涙と嗚咽が溢れ、しばらくの間ひとしきり泣いてしまっていた。


「そう、辛い時はそうやって無理せず泣いていいんだよ。」


「私もよしよししてあげよっか♪ほら、いい子いい子」

空っぽだったモノから感情が溢れ出て、涙と一緒に浄化されていく。


悲しい時には悲しんでいい。

辛い時には声に出してもいい。


「ぐすっ…ぐすっ…ぅぅっ…」


涙が枯れてようやく落ち着いてきた…

背中に手を回して上体を起こされ、お姉ちゃんと向き合う形で座らされる。


「どう?思いっきり泣いて少しはスッキリした?」


「ぅん…ぅぅっ…お姉ちゃん…」


「なあに?今日だけは甘えても許してあげる。」


まるで子供みたいに泣きじゃくって、恥も捨てて甘えるように抱き着いてしまう。


昨日から散々くすぐられて自分を強制的にさらけ出すような感覚に慣れてマヒしているのかもしれない。


もしくは、お姉ちゃんや栞の"調教"にすっかりと気付かぬ内に堕ちてしまったのかも。


その後また、少しだけ2人がかりでくすぐられてしまった。


今度は地獄のようなくすぐりではなく、甘く身も蕩ける責めを全身に受け、幸せな笑みを浮かべたまま眠りに堕ちた_



渇き#2

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