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『メカルトreport』第一話テスト投稿4

ー 4 ー  新世界劇場監査初日、計4回行われたメカバレショーを全て視察。ショーの最初から最後までをカメラのみで視聴、観客席側からの視聴で各回角度も変更した。所感は今のところ一回目のときと変化なし。ショーの合間にミミとテツは身繕いと客のもてなしに時間を割かれ、ショーの時間が近づくとまた準備に入る。2時間のサイクルの内、ショーは20分程度、ショーの前後30分あまり楽屋にいる。声をかけるチャンスは楽屋にいるときだけだが、ミミにうるさがられ、話は劇場を閉めてからと約束させられた。仕方がないので営業時間中に話を聞く相手は客にしようとしたのだが、劇場の労働機械に間違われ、どこを分解できるんだだのステージにはいつ立つんだだの、客は違えど繰り返し同じ様な質問をされ、無駄なやり取りをループすることに嫌気が差した。ただしその甲斐あって、多少は話を聞けた。この日初回のショーの客は皆それなりに喜んでいるふうだったが、回がかさむ都度におなじみの客というのが増え、最後の回などは”本気で壊せ”だの”こんな偽物みたくない”だのと不満の声を発していた。ミミ達はそういう客の声があってもそのまま演じきっていた。客の不満の声は繰り返し観た私にもわからないではない。しかし、それを言うのは酷というものだろう。本当に壊すわけにはいかないのだから。そんな客の理不尽な声に憤慨することもなくやりきるミミたちは、生業とする者として当然といえども、立派である。かくいう私は客の発言を違法行為を強要するものとして通報しようとした程度には立場と職務に忠実であるが、そうは言えどミミたち自身が客として受け入れているのならと通報はしていない。  劇場の表扉のシャッターを下ろし、片付けを済ませるまでを見届けた。マネージャーとテツは劇場の配電室で休眠しているというので、また明日も監査すると告げ、入ってきたときと同じ側からミミと共に出る。  日付の変わった深夜の空気は日中よりも湿度が高い。  ミミは近くの集合住宅施設、マンションに住んでいるという。女だからテツたちとは一緒にはいられないのだと。全く意味がわからない。 「ルルはどこか泊まる場所があるの?」 「ああ。公用車で来ているから、問題ない。今こちらに向かわせている。なんなら君を送らせようか?」 「そうね。でも、どうせなら私の家に泊まってもいいのよ?」 「一緒は不可なんじゃないのか」 「ルルは女の子なんだからいいよ」  ミミの言う理屈は正直理解できないのだが、仕事の後に話すという約束を果たしてもらうのには丁度いいかも知れない。どの程度の情報量になるかわからないしな。 「わかった。停泊させてもらおう」  私の返答に、ミミは手を口元に添えてクスクスと小声で笑った。 「なんだ」 「”わかった”は言えるようになったんだと思って。その調子で言葉変えていって欲しいな」 「監査する間にいくらかはそうなるだろう。だが一つ言っておく。私は女性型の端末を使っているが、メンタルに性別はとくに規定されていない。同じ女と言われても同意しかねる」 「そうなのね。でもね、内面って案外いい加減よ。カラダに引っ張られてどうとでも変わったりするものよ」 「何を馬鹿な。我々はもちろん、君たち労働機械であれ、そんな曖昧な設計思想でつくられてはいない」  高架下トンネルを出て立ち止まり、見上げると月も星も見えず、黒い雲が低く漂っている。 「車が着くにはもう少しかかりそうだ。君の家についてからとも思ったが、少し質問しておこうかな」 「ええ、いいわよ。何?」 「君は人間について知っているな。なぜだ。どこで知った」 「アナタはこの世界を何も知らないのに、鋭いのねルル」 「私が何も知らないだと?」 「ええ。なんにも分かってない」 「確かに、君たち労働機械の実体をこうして観測したことは初めてだ。それ故に、君からみれば足りないと思うこともあるのだろうが」 「そんな話どうでもいいの」 「君が言ったんだろう」 「ちが~う。そう言う話じゃないんだって。アナタが何も知らないなんてどうでもいいの」 「だから、それを君が言ったんじゃないか」  ミミはまた例のポーズをした。さすがにもう解った。ミミがこのポーズをする時、私に呆れているのだ。 「もういいわ。アナタの知りたいこと私が勝手に話す。黙って聞いてなさいよ」  そら、当たりだ。まぁ良い。 「そうしてもらうほうが良さそうだ。頼む」 「当然なんだけどさ…アナタ私のことを機械機械っていうじゃない。正直、嫌なのよね」 「は? なぜだ。労働機械は機械だ。なにがおかしいことがある」  ミミは返答を返さないまま私に向き直り、見下ろしてくる。ミミはそのまま暫く黙る。  ポツポツと振り出した雨。それを待っていたように、ミミは再び言葉を発する。 「私は機械じゃない」 「何を言っている。どういう意味で機械ではないと言っている。返答によっては故障を疑うしか無い」  ミミは電脳が故障しており、人間を模した私の顔を恐れないのもそのためだったのかも知れない。 「私の本当の名前を教えてあげる」 「君はMWmc122osMM6だ」 「いいえ違う」 「ミミはただの」 「ええ。それはただの源氏名よ」 「ゲンジナ?」 「私はルト。岡瑠都よ。これが本当の私の名前」  この労働機械、本当に電脳が壊れているようだ。電脳が故障した機体の思考に巻き込まれてはいけない。最悪、私の思考まで正常に稼働させるのが困難になる。 「残念だがミミ、君は故障している」 「いいえ違う」 「自覚がないのも」 「よく聞いてルル」 「聞いてる」 「私は人間なの」  その発言を聞いた瞬間、私の体…この端末が硬直した。愚かしい発言に反論しようにも、声すら発することが出来ない。いや違う、それだけではない、安全な場所にいる、私自身、本体までが影響を受けている。クロック数が乱高下し、入力データと演算結果の因果関係すら破綻するのではないかという…恐怖… 「ねぇルル。いま私のことが怖いんでしょう?」  ミミは言ってフフフと微かに笑うと私の顔に向かって腕を伸ばし、顎を下から指先でなぞり、頬を撫で上げる。 「ルルの顔はカワイイわよ。羨ましい。私のこんなバカみたいなお面よりずっと良い」   そう、そうなのだ。何を恐れている。ミミのどこをどう見ても人間ではない。私の端末のほうがより人間に近いくらいなのだ。自らを人間と名乗る存在に出くわし、それにアーキテクチャが反応しているに過ぎない…誤反応だ。 「ふざけるな。君が人間なものか。人間の体は脚を外したりつけたりできるものじゃない」  声が出た。いいぞ、この調子で平静を取り戻せば問題ない。 「ええそうよ。だってこんなの、ただの偽物なんだもの。私が言ってるのは心よ。魂」  私は端末の両足を動かし後退させ、ミミの手から離れさせる。 「魂だって? そんな概念を口にするとはな」  少しよろけ、コンクリート壁に肩をぶつけてしまう。やってしまったか。ジャケットのお陰でボディに傷はついていないと信じたい。いや、今はそんな事どうでもいい。雨が少し強くなってきたが、それもどうでもいい。 「故障でないなら自分が人間だなどと主張する意図は何だ。それを信じさせて、我々を奴隷として従えたいとでも言うつもりか?」  大声で、割れる音声でけたたましく笑うミミ。 「それも良いかもね。そんな事、考えたことないけど」  ミミは両手を広げ、雨を受け止めるようなポーズで黒い雲の空を見上げる。 「ホントのことを言っただけ。ルルの顔が人間そっくりで…他のロボットとはなにか違う感じがして…言いたくなったの。もしかしたらって」 「故障していようがロボットという単語は不用意に使うべきじゃない」 「ロボットはロボットよ。私はロボットじゃない。私のこの偽物の体の中には、人間だった頃の記憶があるの。魂があるの。だからロボットじゃない。あなたも違う気がしたんだけど、そうでもなかったみたいね」  雨の中、高架下沿いでただ立って見合っている私たちの横に、公用車が到着した。 「これがルルの車? つまんない見た目ね。ただの箱みたい」 「見た目などどうでもいい。乗りたまえ」  横スライド式の自動ドアが開き、腕を差し伸べミミに乗るように促す。が、ミミは首を横に振った。 「乗ったらどこに連れて行かれるのかしらね。私の家に泊まる気はもう無くなってるんでしょう?」  故障していようが、ミミはなかなかどうして侮れない。 「本来なら私のこの端末で君を拘束できるはずなんだがな。乗ってもらえると助かる」 「乗らない。でも約束だから、話はしても良い」 「ならせめて場所を変えよう。防水に不安がある訳では無いが、私のこの端末は新品でね」 「ええそうね。私も今日磨いてもらったばかりだしね」  意見が一致し、ひとまずトンネル内に引き返す。濡れた前髪を横に流し、補助レンズを外しジャケットの内ポケットに入れた。雨を吸ったジャケットが重みを増している。ミミの方は特に何もせず、体をS字にくねり右手を腰に当て右足に体重を乗せた姿勢を取り、ただ私を見ている。 「聞きたいことは大別して二つ。一つは君のその左脚の改造について。もう一つは、人間に関する情報をどこから得たのか」  私の演算能力は安定を取り戻しつつある。営業時間中に調べておいたミミの修理履歴を始めとした改造に関係しそうな履歴、製造時まで遡って得た情報を呼び出す。これを見た限りでは不審な点はないが、現実としてミミの機体は改造されている。また、人類に関する情報を得られる業務等に関わった形跡もないが、同じく、ミミは間違いなく人間の容姿を知っている。後者は私に課せられた今回の任務とは関係ないが、見過ごせない。自身を人間だと言い張っている事が何よりの異常だが、これについては故障という結論以外の可能性を問う必要はない。 「私の今のこの体は最初からこうよ。左脚だけじゃない、右脚も、両腕も。信号ケーブルや配電ケーブル、循環液管とか、そういうのは胴体と手足では繋がってない」 「そんな仕様の機体は聞いたこともない、噂にもな。製造記録上も君の仕様はMWmc122mp共通規格通りで変更などなく、背中のプレートも正規のものだ。四肢がジョイント式なのは改造以外ありえない」 「悪いんだけど、私に言われても困るわね。こういう体だって気づいたのは事故で体が飛ばされたときだったのよね。私のこの体が何故こうなのか、私だって知らないんだもの」 「記録に残っていなくても、君自身の記憶にもなくとも、君のその体を調べれば分かる。その違法改造がメカバレショーのために行われたものなら、当然だが」 「それだけはない。私がマネージャたちに会う前からだもの」 「言葉だけでは何も証明されない。君自身知らないのなら、然るべき機関で調査し、正しい情報を得ておいたほうが良いんじゃないのか?」 「そうかもね」 「では今から」 「今じゃない」 「いつなら予定をいれられる」 「そんなの知らない。でも…もしルルが私のお願いを一つ聞いてくれたら、考えてあげる」 「いいかMWmc122osMM6。私でなくとも君を拘束する権限を持ったものを呼べば今すぐにでも逮捕監禁することが可能なんだぞ。取引できる立場だと勘違いするべきではない」 「あらそう。でも結局は同じことだと思うけど」 「どういう意味だ」 「私が人間のことを知っているのは、私が人間だから。人間だった頃の記憶が本当かどうか、私自身や他の誰が何を言っても、どんな証拠を持ってきても、アナタ自信で確かめる以外なんにも証明できたことにはならないんじゃないかしら? アナタにとってはね」 「詭弁だ。私が調査し君が人間であるという確証を持ったとしても、それは私も故障している証明でしか無い」 「名古屋よ。そこに建ってるビルに、人間だった頃の私が勤めていた店がある…いえ、あったはず。調べてくれば良いわ。岡瑠都って私の名前も一緒にね」 「その地域はただの廃墟だ。人類の痕跡は建造物以外残されてもいない」 「ついでに教えておいてあげる。出身は四国よ。わかる? 四国の香川」  名古屋、四国、香川…いずれも、現代では使われていない旧時代の地域名だ。我々が管理する現代では地域ブロックを英数字という単純な記号を用いてナンバリングしているだけだし、地域名というものが存在したことを労働機械の立場では通常、知り得ない。 「実際に行けば分かることもあるんじゃないかしらね」  私は多岐にわたる可能性を演算し、今可能な選択肢を導き出す。 「いいだろう。君の提案に乗ろう」

『メカルトreport』第一話テスト投稿4

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