前編

「陽子、愛してるぞ陽子、よく戻ってきてくれたな」 「もう、あたしは陽子じゃなく周子なのに、おとーちゃんいつまで寝ぼけてんの?」 「ずっと寂しかったんだぞ陽子! もう離さないからな」 「だから~~」 アイドルを引退してから二年。二十三歳になった塩見周子は元プロデューサーと結婚した。全国のファンから愛...
こんなはずじゃなかったのにと結婚してから何度こぼしたか分からない。数えるのも馬鹿らしい。大好きな人といつでも一緒にいるためふたりの関係を世間に公表して結婚したはずなのに、アイドルでなくなった周子はプロデューサーとの接点が大幅に減ってしまった。
アイドルとプロデューサーとして付き合ってるときの方が、夫婦になった後より顔を合わせる時間が多かった。
――こんなはずじゃなかったのに。
分かっている。彼が仕事で大成功を収め辣腕プロデューサーと評価されているからこそ、なかなか家にも帰れないほど多忙を極めていることは。人気の絶頂期にあるアイドルとそれを管理するプロデューサーの忙しさは周子だって骨身に染みていた。
だからって寂しさを感じないはずはない。
愛する人と共に過ごす時間が減ったら誰だって心に穴が空くはずだ。新婚ホヤホヤの時期で一番ラブラブしたい時期に相手が仕事に忙殺されていたら、もっと自分の方を向いて欲しいな程度の不満は持つはずだ。
周子だって本気で文句を言っているわけではない。彼女は自由奔放でマイペースな現代っ子に見えても情に篤い京女。夫の仕事を陰ながら支えたいと思っていた。だから寂しいと思うことはあってもそれを表に出すことはなかったのだが……。
「おとーちゃん、おとーちゃん」
ある日のこと周子は、夕食を終え一緒にテレビを見ていた義父に話しかけた。
「ん? なんだい?」
義父はソファに並んで座る周子に問い返した。自分の身体に頭をこてんと寄りかからせてくる彼女の肩を抱きながら。その姿は知らない人間が見れば義理の親子というより同棲中のカップル。
元トップアイドル塩見周子、義理の父と疑似近親相姦関係なんて笑えない見出しが下世話な週刊誌に踊るところを想像させてしまう。
そんなことを気にした素振りもなく義父に甘える周子は、上目遣いに彼の顔を見上げながら言った。
「おとーちゃんは好きな女の子の髪型とか色とかあるん?」
ふたりが見ているテレビでは、男性芸能人たちが好きな異性の髪型について熱く語り合っていた。
「そうだなぁ……」
義父は顎に手を当てて考える仕草をした。それからしばらくして口を開いた。
「やっぱりワシは黒髪が好きかな。ワシのような年寄は何のかんの言っても日本人らしい艶のある黒髪が落ち着く」
「へーそうなんだー」
期待していた答えと違って周子は露骨にガッカリした声を出す。だが義父は周子の不機嫌に気づかず続けた。
「ああ、清楚な感じの子には黒髪が一番似合うと思うよ。あと髪の長さはやっぱりロングヘアがいいね。ロング。黒髪の女の子が何気ない仕草でこう……髪をファサってやった時のサラサラ感と色気がたまんな……い……よね……」
熱弁を振るっていた義父の勢いが見る見る萎んでいく。彼に抱かれている肩が強張り、目には静かな怒りを溜めている周子の様子にやっと気がついたのだ。
塩見周子と言えば銀髪のショートヘアーでキツネ顔。義父の好みを聞いていると自分とは真逆のTHE京美人を体現した女の子がタイプのようだ。羽衣小町でユニットを組んでいた小早川紗枝がドンピシャじゃないか。
「うんうん、いいよね~サラサラロングヘアーで黒髪の女の子。奥ゆかしい大和撫子って感じで憧れちゃうよね~。……あれ? どーしたん? 元気なくなっちゃったね? シューコちゃん、おとーちゃんの好みもっと聞きたいんだけどな~」
意地悪く脇腹を突きながら言うと義父は失言を取り返そうと周子を褒めてくる。
「ワシが言ったのはあくまでも一般論というか、もちろん周子ちゃんには周子ちゃんに似合う髪型があるわけだから、他の人と比べるまでもなくそれが一番だよ」
だけど怒ってるときそんな褒められ方をしても、如何にも取って付けました感がある。周子はお仕置きとばかり義父に抱きつくと彼の脇腹や脇の下をくすぐった。
「あははっ、ちょっ、やめっ、周子ちゃんっ! あひゃひゃっ!」
義父は身体を捩って逃れようとするが周子は逃さない。しばらくのあいだソファの上でふたりはじゃれ合った。まるで猫が飼い主にじゃれるみたいに。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
やがて疲れて動きが止まったところでようやくくすぐり攻撃が終わった。乱れた呼吸を整える間、ふたりとも無言だった。しかしそれも束の間のことですぐに笑いが込み上げてきた。
「あっはっはっはっは!」
「うふふふ」
ふたりで顔を見合わせると我慢しきれず大声で笑った。まるで新婚カップルがするようなじゃれつきを義父と演じてしまった。目尻に浮かんだ涙を拭いながら周子は思った。
(まったくもう、あたしってば何やってんの。おとーちゃんがいてくれてよかった)
プロデューサーが帰らない家でひとり寂しく彼を待っていた日々は遠い昔のよう。今はこうして義父と一緒に笑っている自分がいる。
思わぬ展開から身体を重ねたことで心の距離もグッと縮まった気がする。以前は単なる同居人だったものが、それこそお互いの欠かせないパートナーになった。
そこまで仲の深まった男女が同じ家で暮らしていて何も起きないはずはなく。今も周子は自分に抱きつかれながら義父の暴れん棒さんが硬くなっているのを感じた。
(おとーちゃんったら可愛いんだから)
周子はズボン越しに勃起を撫でさすりながら思った。若いうちに妻が他の男を作って蒸発し、男手ひとつでプロデューサーを育てた義父は女遊びなどする暇もなかった。人一倍強い性欲を持て余していた義父には、周子の肉体は刺激が強すぎるだろう。
(ま、シューコちゃんもなんだけどねー)
周子も彼に抱きつき、加齢臭混じりの臭いを嗅いでいるだけで、どんどんお腹の奥が熱くなっていくのを感じた。ドロっとした蜜が垂れてくるし、乳首もビンビンに勃起してしまう。
「……する?」
先程までの楽しげな雰囲気から一転。周子が夜のお誘いをすると義父の顔に一瞬だけ何かを我慢する表情が浮かんだものの、すぐに荒い鼻息とともに吐き出される。
「お願いしようかな」
義父の言葉を聞いて周子は彼のズボンに手をかけた。
あの夜から周子はたびたび義父のオナサポをしている。はじめは週に何度か手でするだけだった。彼の中では、完全に一線を越えてしまったのは酒の弾みによるもので、やはり息子の嫁を素面で抱く気にはなれないらしい。さりとて溜まるものは溜まる。まだまだ男として枯れてない義父が三十も年下の元アイドルと同居して、エッチなこともオーケーと言われ全部拒否する意思は持てなかった。
周子が「セックスはダメでも手だけなら介護みたいなものでしょ。男の人は溜めすぎても身体に良くないって言うしー」と妥協案を示すと、義父は垂らされた釣り糸に食いついてしまった。
かつてファンの前でマイクを握り、綺羅びやかなステージから歌を届けていたその手が、自分のちんぽを握って扱いてくれる。そんな誘惑に勝てる男の方が稀有だろう。
一度その味を知ってしまうと男は弱い。まして相手は息子より年下の極上美少女なのだ。その容姿だけで金が取れるレベルの美人が、自分のような冴えない中年男の前に跪き、ちんぽ越し上目遣いでこちらの顔を見ながらシコシコしてくれる。
はじめは週に何度かだった行為が毎日の日課となり、手だけという話だったプレイ内容にお口も加わった。オナバレからフェラしてもらった日に感じた快感を忘れられないでいた義父が、手コキしてもらいながらついつい周子の唇に熱い視線を送ってしまい、悪戯好きの義娘に気づかれてしまった。
最初は「ダメだよ、そこまでしてもらうわけにいかないって」と言ってた義父も、ぱっくんちょされると気持ちいいことがしたい本能には逆らえなかった。
以来、夜になるとふたりの行為は続いている。最初はリビングで、次は寝室で、そして最近ではお風呂場でまで及ぶようになった。
「おとーちゃんもすっかりシューコちゃんの虜だね~」
「周子ちゃんみたいな綺麗な女の子に誘われて落ちない男がいたら見てみたいよ」
「えへへ~おだてたって何にも出ないよ~♡」
周子は上機嫌に鼻歌を歌いながら義父のズボンをパンツごと下ろした。
窮屈な下着から解放された雄茎は、むわっと雄の臭いを漂わせる。まだ半勃ち状態なのに太さも長さもプロデューサーの全開時ほどある立派な肉竿だ。血管が浮き出てグロテスクな見た目をしたソレがピクンと跳ねるように動いたのを見て、周子の子宮がキュンと疼いた。
(こんな凶悪なもの見せられたら身体が疼いちゃっても仕方ないよねー)
だからといってふたりはセックスしない。義父はオナサポまでの建前を頑なに守る。周子も周子でプロデューサーを完全に捨て去り、義父と懇ろになるまでの覚悟は持てなかった。まだどこかでプロデューサーさんと人並みに愛し合いたい希望は消えてない。
おかげで周子は義父のバキバキちんぽを相手した後、悶々と火照る身体を自分で鎮めることになるのだが。
周子はまだ芯の通ってない肉棒の先端にチュッとキスをした。それだけで敏感になっている亀頭がビクビク震えるのが分かる。
「うふ♡ 可愛い反応でちゅねー」
そのまま舌を出してペロッと舐めると、塩辛い味が口の中に広がった。鈴口に滲む先走りを舐め取り、カリ首に舌を這わせた。裏筋に沿って舌を動かすとムクムクっと膨らんでいくのがわかる。それが面白くて周子は何度も舐めたり吸ったりした。
唾液まみれにした肉棒をしごきながら先端を口に含む。唇で食むようにしながら舌で尿道を刺激するとしょっぱいカウパー液が溢れてきた。それをジュルルルと音を立てて吸い込む。喉奥に粘っこい液体が流れ込んでくる。苦くて塩辛くて美味しいとはお世辞にも言えないはずなのに、これがおとーちゃんの味だと思うと興奮する。
「おとーひゃん……ひもちいい?」
咥えたまま喋ると義父は気持ちよさそうに顔を歪めてくれた。嬉しくなった周子は更に激しく責め立てる。口をすぼめて前後に動かしながら、同時に右手で玉袋を揉みほぐした。
じゅぽじゅぽ音を立てながら顔を動かすたびに、口の中のモノが大きくなっていく。顎が疲れてきたけどもっと続けたい。だけどそろそろ限界みたい。
口の中で膨らんだ義父の剛直がドクンドクン脈打ち始めたのだ。射精の前兆を感じとった周子は顔を前後させる速度を上げた。それを合図に義父の腰がカクカク震え出す。
「しゅこ……ちゃ……ん……もう……っ……」
射精が近いのだろう。義父が追い詰められた声を出す。
その声に気を良くした周子はトドメとばかりに思いっきり吸い上げた。
次の瞬間、爆発するように精液が迸った。
ドピュッ! ビュクッ! ビュクン!
大量の白濁汁が口内にぶちまけられる。勢いよく飛び出した精液が喉の奥に当たる。苦いのになぜか美味しく感じるそれはあっという間に口内を満たしていった。
「んんっ!」
勢いが強すぎて口から溢れてしまいそうになるくらい大量だった。あまりの量の多さに思わず噎せそうになるが何とか堪えた。それでも口の端から白い粘液がいくらか漏れてしまう。
(あーあ、もったいないなー)
そう思いながら周子は自分の顎から床に伝い落ちる精液や、口の周りについた白濁液を指で掬って舐め取った。
(んっ、濃い……♡)
鼻に抜ける青臭さに頭がクラクラする。何度味わっても飽きない男の味だ。
周子の奉仕を受けた義父は、気持ちよさそうな呻き声を上げている。その目は快楽で潤んでおり、普段の彼と違ってどこか野性的で男っぽい。
(ふふ、おとーちゃんったらまるでケダモノみたいだよー)
周子は彼の目を見ながら心の中でほくそ笑んだ。普段は紳士的で優しいおとーちゃんだが、今は獣のように盛っている。そのギャップに興奮を覚えずにはいられない。
一滴残らず口の中の精液を胃に収めた周子は、んべ~と義父の前で口を開いた。精液臭い息を吐き出しながら、ごっくんできたよの報告だ。
「全部飲んでくれたんだね……嬉しいよ周子ちゃん」
そう言って義父は幼い娘にするように周子の頭を撫でてくれる。それがこそばゆくて周子は身を捩るが、嫌ではないので撫でられるままにした。
こうやって褒めてもらえる時間が周子にとっても堪らなく嬉しい。
別な日にはふたりで一緒にお風呂にも入った。
周子は義父がズリネタにしていた彼女の写真と似た水着を着ている。
「ほらほら、おとーちゃんどう? シューコちゃんも案外あるでしょ」
ビキニ姿の周子が腕で胸を左右から寄せてくると、意外に深い谷間から義父は目を離せなくなった。同じグループに|速水奏《おじさん殺しおっぱい》や|城ヶ崎美嘉《逆サバおっぱい》がいたせいで目立たないが、スレンダー担当と思われた周子も男のちんぽを元気にするだけのボリュームがある。
その胸で周子は義父のおちんぽを洗ってあげた。ボディーソープまみれの谷間に挟まれ、ぐにゅぐにゅ左右から柔らかい脂肪の塊を押しつけられた義父の陰茎は0すぐに硬くなる。乳白色の粘液の中で勃起していく自分のちんぽを見て、義父は羞恥に顔を赤らめていた。
しかしそれも一瞬のことですぐに気持ちよさそうな顔になる。聞けば奥さんがいたときもパイズリなどしてもらったことないらしい。初めての経験に夢中になっているようだ。
義父の反応に気をよくした周子はさらにサービスしてあげたくなった。
「シューコちゃんのおっぱいもなかなかのもんでしょ~?」
情けない顔で自分の谷間まんこを味わう義父に周子は得意げに言った。左右から寄せた胸を前後に捻り、コークスクリューパイズリで大きなちんぽの根本から先端へ押し出すように乳肉を絡めた。
ぬりゅん♡ ずちゅ♡ ずちゅ♡
ローション代わりに塗布されたボディソープと我慢汁とが混ざり合って卑猥な音を立てる。滑りがよくなったおかげで乳房を上下運動させる速度が上がり、よりスムーズに扱くことができるようになった。時折、亀頭の先っぽを指先でグリグリしたり、胸の谷間から出たり入ったりするおちんぽの裏筋を撫でたりすると面白いように反応するので楽しくなってしまう。
(えへへ、おとーちゃん可愛いなぁ)
義父は真っ赤な顔を天井に向けている。足の間に跪いた体勢では表情が見えない。必死に歯を食いしばって耐えてる姿を想像すると周子は胸がキュンとした。
「ほ~らっ♡ 晩御飯作んなきゃなんだから♡ さっさとビュッビュッしてや~♡ うりうり~♡」
調子に乗った周子は両手を使い、ふたつの肉塊を同時に上下に動かす。その動きは徐々に激しさを増し、ラストスパートをかけた。義父の腰がガクガク震えてるのが分かる。もうすぐイきそう。
トドメとばかりに周子は左右の乳首をカリ首に引っ掛けるようにして擦り合わせた。それが呼び水となって、熱い飛沫が弾ける。
どぴゅるるるるる! びゅるる! ぶゅるる! びるる! ぶぴるる! ぶっぴるるぅうう!
噴水のような勢いで吐き出されるザーメンシャワー。谷間のブロックを掻い潜って周子の顔にまで達する。生臭い臭いが鼻をつくも不快感はない。むしろ余計に興奮してくるくらいだ。顔にかかった白濁液を指ですくい取って口に運ぶ。舌の上で転がすと独特な苦みが広がった。
(こんなん美味しいと感じるなんて、あたしもすっかり変わっちゃったな)
そんなことを考えているうちにようやく射精が終わったようだ。肩で息をしている義父の顔を見上げると、満足げな笑みを浮かべていた。
ズリネタにしていた美女にズリネタとほぼ同じ格好でパイズリ搾精してもらう。夢のようなシチュエーションがもたらした強烈過ぎる射精に義父は息も絶え絶え。風呂場の壁に手をついて倒れないよう身体を支えていた。
「お疲れさん。頑張ったおとーちゃんには、ご褒美やらんとな」
イッたばかりで敏感になってるペニスを頬張ると、義父は悲鳴にも似た歓喜の声を上げた。
「あっ、ちょっ……シューコちゃん、今はおちんちん気持ちよすぎて……あぁあぁぁあ」
「ええやん別にー。お風呂に入っておちんぽ汚したままのほうが不潔だよ」
「そんな……ダメだってばぁ……ああっ!」
周子にしゃぶられ硬度を取り戻していく義父の分身。ニヤリと笑った周子は一気に喉奥まで咥えこんだ。義父のものを咥えて鍛えられたディープスロート。喉奥にゴンゴン当たる異物感すら心地良い刺激となる。
口を窄めて頭を前後に動かした。じゅぽじゅぽという水音に合わせて唾液にまみれた肉棒が口腔内で暴れ回る。
「うぅ……すごい……気持ちいい……」
お掃除フェラされて前屈みの義父を上目遣いに見ながら、周子は心の中で一擦りごと目の前のおちんぽさんを褒めてあげる。
(いっぱい射精できて偉いやん。本当に逞しいおちんぽさんだね。よく頑張ったね♡ 偉い♡ 偉い♡)
愛情たっぷり献身的な口奉仕に義父も頭を撫でて応えてくれる。お互いを無言で褒め合った。
そうやって日々の孤独感をやり過ごしていても、嫌でも現実を思い出させられる瞬間がくる。
その日は周子とプロデューサーの結婚記念日だった。結婚三周年。ふたりにとって特別な日であるはずなのに、彼は仕事で帰宅できないと連絡があった。
今日こそは早く帰ってきてくれるはずと期待し、朝から部屋の片付けに手の込んだ料理の支度にと忙しく動き回っていた周子は、スマホを握りしめながら絶句してしまう。
毎年この日ばかりは仕事を早めに切り上げて帰ってきてくれたのに。一緒に祝う習わしだったのに、とうとう今年はそれさえもなくなってしまうのか。
目の前で冷めていく料理を前に周子は、スマホから聞こえてくるプロデューサーの声に耳を傾けた。
「悪い! 大雨で電車が動かなくなっちゃってさ。ロケ現場から今日中に戻れそうにないんだ」
電話越しに彼は申し訳なさそうに謝り倒した。その声を聴いてると怒る気にもなれない。だって彼のせいではないのだから。
窓外に目をやると暗闇に無数の線が走っている。地上の穢も悪徳も洗い流すように降り注ぐ雨。これだけ降ってれば交通機関が停まっても不思議ではない。
「……いいよ、お仕事だもん。仕方ないよね」
努めて明るい声で返す。本当は寂しいくせに。本当は悲しいくせに。本音とは裏腹の自分を取り繕ってしまう。もっと早く連絡してくれたら無駄に期待しなくて済んだのに。こんなに作っちゃった料理どうするのさ。上げて落とすのが一番残酷だよね。
だけど言わない。言えない。プロデューサーさんの前では明るくて飄々としてて動じないシューコちゃん。それが彼の好きになってくれた塩見周子だから。
「埋め合わせは必ずするからさ」
「ほんとに~? 期待しないで待っておこうかな。シューコちゃんも大人だしねー」
そう言って周子は電話を切ろうとした。これ以上は無理だ。思いのほか自分は凹んでるみたい。
「プロデューサーさんお風呂空いたよ~」
通話を切る直前でスピーカーから女の声が聞こえてくる。咄嗟に問い詰めなかったのは、予想外のことに喉が張り付いて声も出なかっただけだった。
「え? あ? 奥さんと電話中? ごめんなさ~い」
わざとらしい女の台詞に周子は胃が氷漬けになったように腹の奥が冷えた。すべての体温がそこに奪われてしまう。動揺しすぎて周囲からは冷静に見えてしまう状態だ。
「違うんだ周子。言い訳させてくれ」
自分で言い訳と前もって言っちゃうプロデューサー。彼の慌てた様子を鼻で笑い「ほな聞きましょか~」と周子は発言を許可する。
「ロケ終わりで帰ろうと駅まで行ったが電車は停まって動かない。それじゃあ元のホテルに戻って部屋を取り直そうと思ったら、既に次の予約客のために稼働してるから無理だと言われた」
「ほほう」
「そこで仕方なく近くのホテルを虱潰しに探したんだが、人気の観光地だけに急な飛び込みでは難しい。やっと一部屋だけ空いているホテルを見つけたんだ。もちろん俺は一緒に泊まるなんてまずい、ネカフェかカラオケでも探すよと言ったんだが生憎ここいらにそういったものはないらしくてな」
「へー、そうなんや。ふーん、そっかー」
心ここにあらずといった様子の周子は棒読み口調で相槌を打つ。それに不穏な夫婦の危機を感じてかプロデューサーは謝罪しっぱなしだった。
(ん~……まあ、こんだけ長い間会わないとそーもなるよねー。嫌いになったわけじゃないけど結婚した当初の熱は維持できないっていうかぁ? 周りには若くて綺麗な女の子ばかりいるわけだし)
三年前まで自分も彼を囲む若くて綺麗な女の子のひとりだった周子は、当時から彼がモテていたことを思い出す。
角ばってて男っぽい義父と血の繋がりがあるとは思えない繊細でスラッとした見た目。面影や身のこなしは洗練されていて、こちらの気持ちを読んだように先回りして何くれとなくケアしてくれる。
社会経験の少ない十代や二十歳そこそこの女の子がくらっときてのぼせてしまいそうな、大人の男の人だった。実際、何人もの女が彼に夢中になっていたことを周子は知っている。あの手この手で彼を落とそうと躍起になっていた。
付き合ってみると実は子供っぽくて優柔不断なところもあるのだが、その頃には好きになってしまってるので惚れた相手の欠点も美点に見えてしまう。
この三年間で彼はプロデューサーとしての名声を高め、出世して社会的ステータスも上昇した。より魅力的な優良物件になった。薬指に指輪があるかどうかなど気にしない女も多いだろう。
「もしもし? 周子聞いてる」
「うん、聞いてますよー」
「……怒ってる?」
「怒ってへんよー」
「そうか良かった……いや良くないんだけど」
触れられない塩見周子より触れる若手アイドルですか、そうですか。皮肉っぽく心の内で唱えながらも周子が取り乱したり、喚き出したりしないのは、自分もまた心細さを義父とのいかがわしい行為で埋め合わせしていたからだ。
(あたしだって、おとーちゃんとエッチぃことしてたわけだし、彼のことばかり一方的に責めるのは嘘やん)
だから彼が他の女と寝てようがそのこと自体に腹を立てるつもりはなかった。ただ、よりにもよって今日というタイミングで、他の女の存在を匂わせてくることはないじゃないか、一年は三百六十五日あるんだから他の日でもよかったろとは思ってしまう。
浮かれていた分だけ周子は己が惨めで滑稽に感じた。
そのときだ。そっと背後から誰かの腕が周子の身体に回された。振り返ると義父の顔が肩越しに見えた。そのまま周子は唇を奪われる。義父の舌がぬるりと口腔内に入ってくるなり、貪るように舌を絡めてきた。歯茎の裏を舐められると背筋がゾクゾクした。舌の裏側をくすぐられて力が抜けていく。口腔内全体が性感帯になってしまったように敏感だ。唾液を飲まされると身体が火照ってくるのが分かった。キスだけでイッてしまう。それくらい気持ちがいい。
唇を離す。周子と義父は無言で見つめ合った。
周子の異変を察して慰めようとしてくれる義父の包容と口づけが、彼女の凍りついた身体を溶かしてくれる。直前まで感じていた寂しさも落ち込んだ気持ちもスッと消えて楽になる。
(ああ……あたし……もう、おとーちゃんのことのほうが……男の人としても好きになってしまってるんやな)
あたしは大丈夫だから、と周子は彼の手を握り返し無言で伝えた。
「そういうことなら仕方ないよ。事情は分かったから。うん、あたしは大丈夫。おとーちゃんが傍にいてくれるから寂しくないよ。お仕事頑張ってね」
それだけ言うと周子は彼の返事も聞かずに通話を切った。テーブルの上にスマホを投げ出すと、彼女の方からも義父に抱きつきふたりは一層激しいキスをした。
「あっあっあっ」
寝室には淫らな喘ぎ声が響いている。ベッドは軋み、シーツには汗やら愛液やら体液が飛び散っていた。それでもふたりの行為は止まらない。むしろ激しさを増す一方だった。
ベッドの上で四つん這いになって尻を高く上げた体勢で周子は喘いでいた。バックからの挿入に快楽の音が止まらない。逞しすぎる剛直を捩じ込まれ、背後からパンパンパンッと突かれる愉悦に何度も頭を振り、感極まる声で身悶えた。
「あっ♡ んっ♡ あぁっ♡」
子宮口を抉られるたびに甲高い声が上がる。突かれると身体の芯が熱くなって脳天にまで快感が突き抜けた。
全裸に剥かれた肌はシミひとつない。体型は今すぐでもアイドルに復帰できそうなスタイルを維持している。むしろ年齢なりに成熟したことで胸やお尻は程よく肉がつき、アイドル時代よりも性的な意味で男ウケする肉体になっていた。
「あぁ♡ おちんぽぉ♡ おちんぽすごい♡ おちんぽしゅごいのぉぉっ♡♡♡」
現役のトップアイドルと比較しても遜色ない美女が、五十を過ぎたおじさんちんぽで激しく乱れ、おちんぽおちんぽと連呼する。しかも場所は義父の寝室ではなく、周子と息子が愛を交わすはずだった夫婦の寝室。ここでするセックスは、まさに彼が周子と息子の夫婦関係を乗っ取ったことの証であった。
そのことを申し訳ないと考えているのか最初は躊躇いがちだった義父も、いざお互いの身体を弄る前戯から始まり徐々にセックスが熱を帯びてくるともはや後戻りは不可能。あの夜以来、頑なに越えないようにしてきた一線をあっさりと越え、今では周子の腟内を息子に遺伝しなかったカリ高デカチンで蹂躙している。
ぐちゅりと音を立てて膣襞を擦り上げる肉棒の逞しさに周子は酔い痴れる。硬く反り返った逞しい逸物は、彼女の蜜壺の中で暴れまわる。そのたびに甘い声を上げながら淫らに乱れた。
「あはぁ♡ これしゅきぃぃ♡♡ んぉっ♡♡♡ おぉっ♡♡♡♡ このおちんぽっ♡♡ 太くてっ♡♡♡ 素敵ぃっ♡♡♡♡」
蕩けきった顔で涎を垂らし、舌を突き出して喘ぐ様は普段の飄々とした態度からは想像もできないほど卑猥である。これが塩見周子だと誰が思うだろうか。アイドル時代のファンが見たら卒倒してしまうかもしれないほどの淫乱ぶりだ。
「おちんぽ、いいよぉっ♡ ごりごりって、おとーちゃんのおちんぽに、おまんこ抉られてぇっ♡ きもち良すぎてっ……あっ♡ んあっ♡ あぁっ♡ らめらめらめっ♡ 腰止まらなひっ♡」
周子は獣のような嬌声を上げながら腰を振り乱す。ぱっくり開いた割れ目から本気汁が噴き出していた。それはピストン運動に合わせて飛沫となり周囲に飛び散っていく。
「イクッ♡ イグゥッ♡ イックぅぅぅぅっ♡♡♡♡」
絶叫しながら達する周子に呼応するように膣内で肉棒が大きく脈打った。直後、濃厚な精液が大量に発射される。どぴゅっ、びゅるるるっと音が聞こえてきそうなほど大量の白濁液が注ぎ込まれた。
射精は一度では終わらない。二度三度と脈動し、その度に粘っこいザーメンをぶちまけられた。熱い奔流を受け止めて周子は絶頂を繰り返す。背中を大きく仰け反らせて痙攣し、声にならない声を上げた。
長い吐精が終わると今度はゆっくりした動きで前後に動かれた。射精した精液を肉襞の一枚、一枚に塗り込み、隅々まで自分の臭いに染めるための動きだ。
やがて満足したのか、ようやく義父の陰茎が引き抜かれる。栓を失った秘裂からはドロリと白い液体が流れ出てきた。並の男であればこれだけ射精すればしばらくは勃たないだろう。しかし義父は並の男ではないし、彼の前にいるのは塩見周子なのだ。
ドッグスタイルでの激しい抽送でぐったりしてる周子の汗に濡れた身体や、イッた直後のアンニュイな表情を見ていると義父のちんぽは休む間もなく勃起した。
一度や二度の射精など彼にとってはウォーミングアップにすぎない。まだまだこれからだと言わんばかり。再び臨戦態勢を整えた義父を見て、周子も嬉しそうに微笑んだ。
(えへへ、まだ元気みたいやね)
周子が期待を込めた眼差しを向ける中、義父は次の体位へと移る。仰向けになった彼の上に跨るようにして周子が乗った。いわゆる騎乗位。
義父の腹に手をついて、ゆっくりと腰を下ろしていく。固く張り詰めた亀頭が入口に触れたかと思うとそのまま一気に奥まで貫いた。ずぷぷっと卑猥な音を立てて根元まで埋まり込む。
「ふあぁぁぁぁっ♡♡♡♡♡」
歓喜の声が上がる。お腹の中を隙間なく満たされる充足感があった。そしてすぐに彼女は自分から動き出す。自ら尻を振りたくって上下に揺さぶった。
「んっ♡ あはっ♡ おとーちゃんのおちんぽ♡ おっきくて♡ 気持ちいいっ♡ あっ♡ はぁっ♡」
ぱんっぱんっと乾いた音と湿った音が混じり合う。肉と肉のぶつかり合いだ。結合部からは先ほど出されたばかりの精子が溢れ出して泡立っていた。白く濁った粘液が陰毛に絡みつく。それが潤滑油となってさらに動きが滑らかになっていく。
「おっ、ああっ、くはっ、すっ、すごっ、腰、うごいてるっ あんっ これぇ 気持ちいいっ きもちいいよぉっ」
喘ぎながらも周子は貪欲に快楽を求めた。腰をくねらせて更なる快楽を得ようとする。その動きに合わせるように義父もまた下から突き上げた。子宮口を突き破るような勢いのある一撃を受けて、周子のしなやかな背筋が仰け反る。女性らしい曲線美が強調された。
周子の体内は電流が走ったように痺れる。目の前がチカチカとして意識が飛びそうになった。それでも身体は本能に従って動く。もっともっと気持ち良くなりたいと腰が勝手に動いてしまう。
義父の動きは力強いが決して力任せではない。あの夜以来のセックスでも、しっかり周子好い部分を覚えていた。急激に上昇する快楽に、周子は全身の毛穴が開くのが分かった。
そうして二人は互いの身体を貪りあう。いつしかふたりとも理性をなくし、動物のように交わった。
「あっ、うっ、あ、あああっ! うっ、ふあっ! んんっ……す、凄いよぉ! おとーちゃんの……おっ、壮汰さんのおちんぽ……いいよぉ♡」
狂乱の宴の中で周子は義父を名前で呼ぶようになっていた。それは彼女が三十も離れた義理の父親をひとりの男の人として受け入れ、愛する変化と覚悟の表れだった。
「周子っ! 周子ぉっ!」
対する義父――壮汰も彼女の名前を呼び、夢中で腰を振った。泥酔した状態で襲ったときは最後まで元妻の名前を読んでいたが、今宵は素面で自分が誰を抱いているのか理解したまま犯す。
息子の嫁に手を出すなど本来あってはならないこと。仁義に反する。だがしかし、たとえ畜生道に堕ち果てることになろうとも、今夜ここで周子を抱かない選択はなかった。
息子に裏切られ細い肩を震わせている彼女を独りはしておけなかった。思わず背後から抱きついてしまった。この女を幸せにしてやれるのはワシだけなんだという思い……あるいは思い上がりか……が壮汰を突き動かした。
だから彼は遠慮しない。むしろ今まで我慢していた分を取り戻すかのように全力で抱く。
もちろん息子に対して罪悪感はある。父親失格だという自責の念もある。元妻を寝取って一緒に消えた男と同じことをしてるじゃないかと言われれば何も言い返せない。まんまと若い女の心の隙間に入り込んで、お愉しみに持ち込んだなと口さがない人間は言うだろう。
そんなことに一々取り合うつもりも釈明するつもりもない。知らない連中の勝手な品評より壮汰には、今このとき周子を慰めてやることのほうが遥かに大切だった。
だから止まらない。止められない。止まるつもりもない。今夜はこのまま朝まで彼女を抱き続けるつもりだ。それを止める権利があるとすれば、今晩ここに帰って来ない夫だけだ。
「あぁっ♡ そーたさんっ♡ そーたさん好きぃ♡ しゅきぃぃ♡ このおちんぽしゅきぃぃぃぃぃっ♡♡♡」
何度も絶頂を迎えて、もう呂律も回らないほどイキ狂った末に、周子は好き以外の言葉が言えなくなる。自分への好意を百パーセント全開にして向けてくる若妻に壮汰も愛おしさが止まらない。
「ワシも好きだぞ周子。いっぱい愛してやるからな。あいつが放っておいた分ワシが大事にしてやる」
「しゅきしゅきしゅきぃぃぃっ♡♡♡ しゅきしゅきしゅきしゅきぃぃぃっ♡♡♡」
もはや完全にタガが外れてしまった周子は乱れながら壮汰を求める。それに応えるべく壮汰はさらに激しく動いた。
「ひあぁッ! あぁッ! あぁぁぁぁぁ……ッ! 壮汰さぁん、激しッ! あぁァ! んああぁァッ! ふいぃぃぃ♡♡♡ いひぃぃ♡♡♡ らめ、らめぇ♡ 壊れるッこわれるぅ♡ 壊れるからぁ♡ 壊れちゃうのぉぉぉ♡♡♡ こんなすごいのされたことないぃぃぃ♡♡♡」
ロデオのように暴れる壮汰の腰。振り落とされまいと周子は義父の胸に爪を立て、ガリガリ引っ掻きながら肉棒を膣奥に咥え込んだままヘコヘコと尻を揺らす。彼女の痴態を前にして壮汰はますます興奮を高めていく。男根から伝わる刺激と相まってどんどん射精感が高まった。
「はぁっ、はぁっ! はっ、はっ、はっ、はっ、はひっ? イ、イキそうっ? イク? イクなら、イクならっ、一緒が、いいっ! 一緒がぁ!」
「くっ……ふぅ……いいぞ、そろそろ出すぞ……一緒だ……一緒にイクぞ周子! これからもワシと一緒だ。ワシが一緒にいてやるからな」
限界が近いことを知った周子が潤んだ瞳で訴えかける。それに答える壮汰。ふたりは同時に絶頂へ至ろうとしていた。
「出してぇっ♡ 中に出してぇ♡♡ 壮汰さんの精子、ちょうだい♡」
「ああ、全部受け止めろ……!」
壮汰はラストスパートをかけた。最後の力を振り絞って下から上へと突き動かす。
そのたびに肉襞を擦り上げられ周子も快感の頂点に達しようとしていた。卑猥な腰のグラインドはますます激しくなる。
膣奥にある敏感な部分へ狙い澄ました一撃を打ち込むと、反射的に周子の蜜壺がうねり狂いながら締めつけてきた。肉棒全体が圧迫される。その刺激が壮汰を絶頂に追い込んだ。
「アッアッ――イくっ――あっあっあっあっああっイクッ」
壮汰の男根が大きく脈打ち大量の精液を吐き出すと同時に、周子も背中を大きく仰け反らせて達した。
「イックぅぅぅぅっ♡♡♡♡♡」
大きく目を見開き舌を突き出しながら、まるで獣の咆哮のような嬌声を上げる。ガクガク痙攣する身体に合わせて秘裂からも愛液が吹き出した。結合部から溢れた精液が滝のようにこぼれ落ちる。
ぐったりと脱力するふたり。汗まみれの身体を寄せ合いながら荒い息を吐く。壮汰の男根はまだ衰えることなく硬度を保っていたが、息も絶え絶えな周子に無理をさせるわけにはいかない。名残惜しく思いながら休憩を挟むことにした。
自分で身体を支えられず倒れ込んできた周子を壮汰が受け止める。
まだ余韻に浸っているのかぼうっとしたままの周子の頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。そのまま甘えるように胸に頬ずりしてくる。
そんな仕草に年甲斐もなく胸が高鳴るのを感じた。改めて実感するがやはり美人だ。全国から容姿に自信ある人間が集まってくる芸能界という名の魔窟。そこで成功するためには単に見目形がよいだけではなく、大衆を惹きつけ自分に夢中にさせる華がなくてはならない。
かつての周子もそんな世界で生き抜き、数多の屍の上に築かれたステージで華々しく活躍するアイドルだった。だから当然なのだ。こうして至近距離で見ると目が離せないほどの美人で、凝視してると緊張して背筋が引き攣ってくるのは。
それからしばらくしてようやく落ち着いたらしい周子が顔を上げた。その瞳にはまだ欲情の色が浮かんでおり、壮汰の下半身は否応なく反応してしまう。それを見た彼女は妖艶な笑みを浮かべるのだった。
あの気まずい電話から月日は飛ぶように過ぎて数ヶ月。季節も二回変わった。プロデューサーは久しぶりに我が家へと帰って来た。もっと早くに帰ろうと思えば機会はあったが、帰って例の件を問い詰められたら何て返せばいいんだろうと考えて足が遠のいてしまった。
仕事を理由に担当アイドルの様々な現場について行った。上司からは「君ももう人を使う立場なんだからなんでも自分でやろうとするのはやめて、部下に任せることを覚えなさい」と言われた。まさか家に帰りたくないから泊まりがけの仕事の方がありがたいんですとは言えなかった。
過ちは一回だけだった、あの夜は周子との電話で我に返りなにもなかった、それ以後もない。そんな言葉がなにかの申し開きになるだろうか。ならないだろうな。この手の話が回数の問題でないことくらい分かる。
ドアの前で三回、四回と深呼吸してから玄関の鍵を開けた。玄関には周子の靴一足だけ。父親は出かけている最中だろうか。
「おっ! お帰り~、こうやって顔合わせるの久しぶりだね~」
キッチンの方からエプロンを身に着けた周子がのんびり出迎えにくる。どんな罵声や非難めいた冷たい視線が投げ掛けられるかとヒヤヒヤしていたプロデューサーは、のほほんとした周子の態度で逆に面食らった。
「あっ、ああ……ただいま……周子どうしたんだ、その髪の毛」
プロデューサーは久しぶりに顔を合わせた妻の変化に気づいた。いや、さすがにこれに気づかなければ離婚ものだろう。周子はトレードマークだった銀髪を黒く染め、長さも首筋が隠れる程度のミディアムヘアまで伸ばしていた。
「思い切って染めなおしてみたんだ~。どう? 似合う? 大和撫子ってかんじ~?」
「あっ、ああ……すごく似合っていると思うぞ……本当に、綺麗だよ……」
妙にドギマギしてしまったのは周子が綺麗に見えたからだ。何をか言わんや元から周子は超が付く美人だろうと言われればプロデューサーにも異論はないのだが、アイドル時代まで思い返してみても今が周子の全盛期ではないかと感じるほど彼女は輝いて見えた。
仕事柄様々な女性と顔を合わせ、時には誘惑されたりもするプロデューサーは、いやらしい意味でなく女を見る目が肥えていると自負していた。その彼をして今日の周子は芸能界でもなかなか見ない美女だぞと感じた。
周子の変化でプロデューサーの目についたのは表情が明るくなったことだ。思えば自分と結婚してからの周子は、夫婦感のすれ違いもあって以前に比べ影のある顔をするようになった。そうした翳りが見られない。
(こんな風に屈託なく笑う周子を見たのはいつ以来だろう)
「あれ? そんなピアス持ってたっけ」
プロデューサーは周子の耳元で光る見覚えがないピアスに目を留めた。
(まあ、おしゃれ好きな周子のことだし、何ヶ月も離れてればピアスのひとつやふたつ増えてるか)
沈黙が怖くて何の気なしに振った話題だったが、思いのほか周子はテンション高く返してきた。
「あっ! これ~? いいでしょ~! おとーちゃんが買ってくれたんだ!」
そう言って周子は愛おしそうに右手でピアスを撫でる。左手の薬指に嵌められた指輪よりも大切にしているように見えた。
「そうなんだ……あの親父が、女の子にプレゼントをね……へぇ~」
プロデューサーから見ても父親の壮汰は良く言えば豪放磊落、悪く言えば大雑把で異性にチマチマした装身具をプレゼントする人間ではない。子供時代を思い返してみても、母親が結婚指輪以外で父親からその手の品物を贈られていた記憶がなかった。
だから父親からのプレゼントと聞き、プロデューサーは少し訝しんだ。
(あの大雑把な親父がプレゼント? それも義娘に? 意味わかってんのかな? 親しい女性に贈るようなもんだぞ)
逆に細かいことを気にしない性分だからこそ普段の感謝を込めて贈ったのかもしれない、そうに違いないとプロデューサーは己の違和感を納得させた。
「気に入ってるんだな」
「うん。これはあたしの宝物なんだ♪」
周子とプロデューサーはリビングのテーブルを挟んで差し向かいになって座った。お互い話したいことは山積みで、この数ヶ月に起きた出来事を交互に語っていった。プロデューサーが長らく家を開けたと謝ると、周子は仕事で忙しかったんだから仕方ないと逆に労ってくれた。
あまりにも自分の不在を気にしてなさすぎる周子の態度に、プロデューサーは「この家にもうお前は必要ない」と言われてる気がした。
(考えすぎだよな。被害妄想ってやつだ。きっと罪悪感が良からぬ考えを呼ぶんだ)
積もる話に花を咲かせていると玄関から「ただいま」という声がした。
「あっ! 帰ってきたっ!」
そう言うと周子は嬉しそうに立ち上がって玄関の方へ小走り。その姿は主人の足音を聞きつけて玄関ダッシュする飼い犬のようだった。
「おかえり~ん。ありがとね~買い物任せちゃって」
「ははっ! これくらいお安い御用だよ。いつでも頼ってくれ」
「ありがと~~♪」
「おっ? この靴はあいつか。今日は予定どおり帰ってきたんだな」
楽しげな会話がスリッパの足音ともに近づいて来る。間もなくリビングに姿を現した父親は、プロデューサーの記憶にあるものからかけ離れていた。
以前の父親は見た目に頓着せず、何年前に買ったか分からないヨレヨレのTシャツを着古していた。それなのに数カ月ぶりに対面した彼は何かのファッション誌から飛び出してきたようなイケオジになっていた。パリッとしたシャツにネクタイ、カーディガンを自然に着こなしたスタイルは、厚い胸板を持つ彼の体型にも似合っていた。
メンズファッションにおいて背が高くて筋肉もあるというのは、それだけで素材勝ちなんだなと思わされてしまう。
いわゆるマネキン買いのような感じがしないのは、父親の代わりにセンスある人物が彼個人に合わせてコーディネートしてあげたからだろう。その人物が誰かは考えるまでもなかった。
「おおっ! 久しぶりだな! 元気だったか?」
久しぶりに会う父親は相変わらず声がデカかった。数カ月ぶりに息子と会うので喜んでくれてるのかもしれない。
「ああ、久しぶり……なんていうか……親父、しばらく見ないうちに垢抜けたな」
「ふふ~ん、いいでしょ~このコーデ」
プロデューサーが困惑気味に問いかけると、壮汰の後からついて来た周子が彼に腕を絡ませながら得意満面で言った。
「シューコちゃんが直々にプロデュースしたんだ~。前々から、おとーちゃんは素材がいいのにもったいないなー、もっとファッションに興味を持てば変わるのにと思ってたんだよねー」
服だけではない。周子は自分も行きつけの美容院に壮汰を連れて行き髪や髭も綺麗に整えさせていた。人間の第一印象は髪型でだいぶ変わると言われるが、確かに千円カットで「邪魔だからとにかく短く」と切ってもらい、以後は数ヶ月伸ばしっぱなしでボサボサになったころ千円札だけ握りしめて出かけて行ったころとは大違い。
「このネクタイは周子ちゃんが買ってくれた物でな、特にお気に入りなんだ」
そう言って少年のようにはにかみながら壮汰はネクタイを撫で回す。
「そんなこと言って~。なにも出ないぞ~? このこの~」
周子に脇腹を突かれた壮汰がくすぐったそうに身を捩る。
(なんだこれは……?)
妻と父親のイチャつきを見せられてるプロデューサーの胸に言い知れぬ不安が去来した。
ふたりはまるで幸せな夫婦だった。恋人時代や新婚時代の自分たちよりも仲睦まじく見える。お互いを尊重し合い慈しみ合っている男女の姿だ。
(俺の留守中になにがあったっていうんだよ……これじゃ俺がいない方がよかったみたいじゃないか……)
ふたりの醸す幸せオーラに当てられてしまい、居心地の悪さを感じたプロデューサーは席を外したくなった。ここに自分の居場所はない。己の家なのに直感的にそう感じてしまった。これまでの人生で感じたことがないほどの疎外感に胸が締め付けられた。
するとそれを察したのか、周子と壮汰が心配そうにこちらを見てくる。
「どーしたん? どっか具合悪いの?」
「疲れてるんじゃないか。ずっと働き詰めだったんだろ」
「なんでもないよ」
プロデューサーは強がりの笑顔を浮かべた。
夫婦は似てくると言うが、今の周子と壮汰の身振りも鏡写しのようだ。これがもし周子と自分だったら、ここまでシンクロしただろうか。
(なにを馬鹿なことを! なにもあるはずないだろ。相手は俺の親父なんだぞ。歳だって三十は離れてる。いくら見た目を着飾ったからって周子からしたら自分の父親とセックスするようなもんじゃないか)
芸能界に身を置く人間でありながらプロデューサーは、芸能ニュースで時たま流れる年の差婚の話題をすっかり頭から締め出してしまった。芸能人ならいざ知らず自分の父親のような平凡な親父が周子のような、不倫するにしたっていくらでも相手選び放題の美女と、と現実的な判断をしてしまった。
まだしもアイドル時代に知り合った芸能人とと言われたほうが飲み込める。
しかしながら、男女の仲は時として現実的な思考などという逃げ口上で考えることを放棄した人間にはたどり着けない結末に至る。
「よ~し、ご飯もできてるし、おとーちゃんもお酒を買ってきてくれたし、そろそろ夕食にしましょ~。シューコちゃんおなかすいた~」
「ああ、ワシも腹が減ってきたよ。夕餉でも囲みながら話を聞かせてくれ。久しぶりにお前と飲めるのを楽しみにしていたんだ」
プロデューサーはふたりの笑顔の裏に秘密を抱えた人間の後ろめたさを見つけようとした。しかし、いくら目を凝らしてもその兆候は見られなかった。
(そうだよ、考えすぎなんだよ、自分に秘密があるから相手も同じはずだと疑心暗鬼に陥ってしまうんだよな)
大丈夫だ、なにも問題ない、俺さえしっかりしてればいいんだとプロデューサーは自分に言い聞かす。
久しぶりに全員揃った食卓で三人は幸せな一時を過ごした。
タイラオサム
2022-09-15 22:53:52 +0000 UTC31日
2022-09-15 15:25:30 +0000 UTC