※シリーズで無く今回は単発の、年上彼氏×新社会人年下カノジョという感じです。※ 「独りだと自己管理もできないんだな。」 不機嫌というよりも、冷静に。モニター越しの表情を変えず、冷たく言い放たれる言葉が、イヤホン越しに心臓を冷たい手で柔く撫でられる様な。居心地の悪さと後悔を覚えさせる。 別に子供じゃない、コレくらい普通じゃないか。 もう少し気遣うとか、心配してくれてもいいんじゃないか? 不摂生がたたって三日ほど連絡が取れないような体調不良から回復後初めてのビデオ通話。 そう言うだけの権利はある。 そう考える思考とは別に舌先が酷く乾き。 鈍い呻き声の様な言い訳にもならないモノが漏れるばかりだ。 本当は自分が悪いことは分かっている。 再三、体調を崩しやすい自分を気遣った彼を無視した結果の有様なのだから。 「じゃあ、今度帰ってきたときオシオキ?」 正直、最初はドン引きした彼の癖?いや性癖というべきか。 小柄な自分に対し子供や妹に接するように扱うということに加え。 約束を怠慢から破ったり、待ち合わせなどでの遅刻に至っては厳しく叱られる。 ソレも『ある方法』で。 年の離れた弟のいる彼だからお兄さん気分が抜けないからか。 ソレで失態の清算をすると暗黙のルールができてしまっている。 勿論、最初はSM趣味かと思った。 注意されても、 「やだぁ」などと、甘い声でじゃれてごまかそうとしていたのだが。 彼の部屋の置物を破損したのをごまかそうとしたとか。 度重なる寝坊と遅刻だったか。 とにかく些細なことだったような気はするが。 本気で怒ったらしい彼は。 一時間ほどじっくり私のお尻を痛めつけた。 結果として、三日ほど痛みが残る思いをして。 その時は暴力男、最低なんて悪態をつきながらも。 やはり、自分の落ち度を理解しているから。叩かれ、最終的には子供のようにボロボロ涙を流して化粧がくずれるのもかまわず鼻水までたらして、泣いて謝ったように思う。 そんな、事故のようなオシオキから恋人生活のスパイスとして顕在しているわけでなのだが。 今回しばらくの長期出張で彼がいないとさびしい反面、気がぬけていたのは確かだ。 取り繕えばつくろうほど、ボロが出るため、あーとか、うーとかしかいえないのが口惜しい。 唇を噛み恨めしげにモニターを見つめていると。 「帰るまで1ヶ月もあるしな。今回は"自分で"オシオキだ。」 「は?」 「ここで見てるから、オシリペンペン百回自分でしたら。次会うとき怒らない。」 ラッキー、神様は私の味方だ。 そう思ったのもつかの間。 「勿論、実況中継で、だけどな?お前すきだろ?そういうの。」 彼が嫌いな配信サービスで小銭を稼いでるコトも未だ許してはくれていないらしい。 エッチなことをしてるわけでもなし、すこしかわいい格好でだらだらとリスナーと話すだけの番組の何がいけないのかと思うが。 堅物の彼は譲歩しつつも快くは思っていないコトは、言われなくても分かる。 「性格わるっ………。」 「帰ったその日に部屋に直行して次の朝まで説教されたいなら。かまわないけど?」 半日以上叱るとかどんな耐久力だ。と内心つっこみながらも。 それで別れると感情的にいうほど子供ではなく、オシオキや、すこし堅物という点を除けば完璧な彼氏である彼に逆らえるわけも無く。 「わかった!!わかりました!!」 となげやりにノートパソコンを置くとワイヤレスのイヤホンだけを耳に着け。モニターから自分が映る距離へと移動する。 見えないアングルであっかんべーをして、おしりぺんぺんと挑発するようにソフトにしてやろうかとも考えたが。 流石、学生時代からの彼氏様。 そんな私の小ざかしさはお見通しらしい。 「自分で叩くには、手だと力加減が難しいから。靴べらか、ボディブラシ。持ってきて。」 自分でオシオキなんて指示を出しながら、彼も膝の上に乗せて以外は初めてなのだろう。 自分でオシオキする方法?戸やらを検索しているらしくスマホをいじりながらサクサクと業務的に指示をする。 そんなところで本気ださなくてもいいじゃない。 悪態をつきたい気持ちをどうにかこらえ。 ごつごつと柄がすこし太くて痛そうなボディブラシでなく、薄くて軽い百円ショップで買った薄くて可愛いピンクのスケルトンの靴べらを選択する。 われながら賢いなんて思ったことを数分後に後悔するとは知らずに。 「持ってきたよ。」 もう、楽しい通話というより、彼氏の特殊性癖オナニーのために健気にコスプレや、新しいプレイを考える時の全国の、扱いが面倒くさい草食、いやプチ断食でもしてるのかという彼氏をもつお嬢さん方のような気分になりながら。 モニター前に靴べらをゆらゆらとして見せ。 先ほどのモニターに映る位置へと移動する。 「じゃあ、百回叩いたら、もう怒らないの約束だからね?」 「下着も脱いだらな。」 「えっち。」 「じゃあ……。」 「わかった、わかったってば。もぉ。」 うだうだいいながら、お尻をむけるだけでも相当間抜けだというのに。 ゆっくりとパジャマを下ろし、下着も膝の辺りまで下ろす。 ビデオエッチすらしたことないのに、どうしてビデオオシオキといえばいいのか。 こんなことをしなきゃいけないのかと思いながら。 「見えてる?」 「ん。」 そっけない返事だが。 小言が無いときは文句が無い証拠だ。 「はぁ………。」 大きなため息を吐きながら。 モニターごしに見えるように靴べらを後ろでに振り下ろす。 ぺち、ぺち、ぺち さきっちょがあたる程度で間抜けな音が部屋に響く。 「ユウリ、手加減したらオシオキにならないだろ?」 「えー?ちゃんと力いれてるよーほら、音聞こえるでしょ?」 嘘で切り抜けようとするが。 使ったことでもあるのか。 「お尻が全然赤くならないのが不思議だな。」 と冷静に返してくる。 「映像が乱れて……ってごまかされてくれないよね?」 「ん。」 やり直せというように。 「わかった、一人でオシオキって気がしてないなら俺がカウントするから。手加減したり。途中でやめたらカウントを止める。」 「途中でやめたら?」 「まぁ、残りの回数分は、後日ボーナス決済か、リボ払いだな。」 過去にリボ払いで失敗した私への皮肉だ。 「わかったぁ。」 イヤイヤという風に大きくアピールしながら。 先ほどより大きく振り上げたたいてみる。 どうせ軽く薄っぺらなものだしそんなに痛くないはず。そう思った自分を呪う。 ヒュッという風を切った音とバチッと鈍い音が響くのとほぼ同時。 彼からのオシオキでも体験したことの無いような痛みがお尻に響く。 「いったぁぁ」 思わず靴べらを投げ出しお尻が裂けてないか確認するように涙をためながら片手で探るが。 すこし蚯蚓腫れになってるのではないか?ジワリと熱を持った痛みが走る場所だけが。 一枚別の皮膚を貼り付けたように痛む。 想像していなかった痛みにフーフーと呼吸を乱し涙をにじませもだえる姿がモニターでも分かるのだろう。 「大丈夫か?」 「大丈夫じゃない!!ムリ!もう一回がんばったからいいでしょ!!すっごく痛いよコレ!!ミツ君のオシオキより痛い!!」 キャンキャンと喚くように言う此方に少し苦笑しながら。 「まぁ、あんな容赦なくフルスイングすると痛いだろうな。定規とかもそうだけど、薄いやつってしなるだろう?だから叩いたとき痛いんだ。」 冷静な解説に。 「分かってるならなんで勧めるのよぉばかぁ。」 ぐすぐすと情けなさと悔しさと、痛さがこみ上げたった一発で涙目で悪態がとまらない。 ただ、怒られたときに悪態をついても彼は、此方が感情任せの言葉を言い終わるまで待ってくれる。 怒られて、逆ギレしたことを叱るということはしない。 今回もそのスタンスは崩す積もり無いらしく。 「ごめんごめん。じゃあ、回数はすこし減らすから帰ったらにするか?」 「少しだけ?」 「そうだな七十くらい?」 一発に三十発くらいのダメージがあると考えてくれたのは譲歩だが、勿論七十なんてごめんだ。 先ほどの靴べらよりはマシといったが。それでも彼のお尻叩きを二十も受けたら、もう何が何でもその腕から、平手から膝の上から逃げたくなるし。 五十を過ぎる頃には羞恥と痛みでじっとはしていられない程度には辛い。 そんなに苦しむ彼女の姿が好きなサディストなのか。まじめで融通が利かないからかは分からないが、彼は百をワンセットにしてそれ以上叩くことは無いが。 ソレ以下にしてくれることはほとんど無い。 「三十くらい。」 「なら、交渉決裂だ、帰ったらずーっとオシオキコースだな。」 ふふっと、通話を始めた頃よりは幾分やさしい声音で意地悪を言う彼に、恨めしげな視線を送りながら。 「もぉ、いいよ。でも、さっきみたいなのはムリ。」 とボソボソと本気でいたいのだというアピールをすると。 すこし考えたように。 「俺に叩かれてると思って。靴べらをできるだけ手が届きやすくするためだけの長さに持って。そうそう。真ん中くらいでいい。」 「ど、どうするの?」 「言っただろ?カウントする、力加減はモニター越しでもキレイに分かるくらいいいパソコンみたいだからな。様子を見ながら強すぎたり、ムリそうならとめてやる。」 オシオキはやめてくれないのかと思いつつ。 幾分冷えた頭と、まだジンジン痺れてはいるが。切れたかと思うような痛みは引いた肌の部分を避けるように靴べらを当てなおし先ほどより弱く打ち下ろす パチンッ 音は軽いが確かにしなるせいか、平手とは違う痛みが走る。 「っ」 「一回」 パチンッ パチッ ペチッ パチンッ 「二回、三回………。」 時折力加減がすこし強すぎたり、その次力が入らず弱くなっても、ソレを気づかないフリをしながら。 いつもの叱るときのように。 痛みと共にイヤホンごしの彼の声が鼓膜を揺らす。 「っぅ、たぁ……」 十五回あたりでいつものお尻全体ジンジンする痛みとは違い、ビリビリ、擦り傷でも負ったような痛みが。尻の表面を何箇所も襲う。 土下座をする様に態勢を崩しお尻をさすっていると。 「……やっぱり、ひとりじゃ難しいな。尻も痛そうだ。」 「当たり前でしょぉ。」 情けない声で答える此方に対し。 自業自得だと、いつもならいう彼が。 「うん……、心配だったとはいえ、意地悪しすぎた。ごめん。」 素直に謝罪をする。 やめてよ、そんなことを言われたら。 声は近いのにぬくもりの無い無機質なオシオキが急に空しく、ただただ痛い罰へと変わる。 「っ、ぅ、ぅぅぅ」 「ユウリ?」 「もぉやだぁ。」 「うん。」 「おしまいがいい。」 「いいよ。」 「おわりにするぅ、自分でオシオキなんてやだぁ。」 ぐすぐすと泣き始める此方の言葉とかぶせるような。 急な放免に一瞬あっけにとられる。 「え?」 「だから、今日は、もういい。俺もちょっとやりすぎた。」 「怒ってないの?」 「いつも言うけど、お前が反省してるかだからな。大事なのは。でも、今日は俺が感情的になってて、俺に怒られたくないからってお前はオシオキに付き合うって。なんかこう不健康だった。」 オシオキに健康不健康なんてあるんだろうか。 そんなこと考えながら。 その声に灯された熱で熱くなった肌だけでなく耳の奥底と頭で。彼に問う。 「……今回のオシオキはおわりでいいの?」 「なんだ?帰ったら膝の上に乗りたいのか?」 クスクスと笑う意地悪な声に。 すこしむくれながらも。 「ミツ君がしたいならいいよ?」 「オシオキじゃなくて、本当にシュミでやるならもっと優しくやってる。」 「え-?」 怪訝そうな此方の声に。 「あれでも手加減してるぞ。」 といやな答え。 「やっぱりサドじゃん。」 「まぁ、ちょっとはな。」 ドSだという言葉を飲み込みつつ。 彼の平手を思い出す。 恋人としてイチャついて密着しているとき以外の、膝は居心地の悪い場所と思っていたが、今日はじめて彼のオシオキのやさしさを知る。 耳に直接とどく声の主の体温を感じながら。 痛い、イヤイヤといいながらも、胎の奥底を響かされ。 感じる部分だってあって。 彼は言葉のとおりのオシオキでやっているのかもしれないが。 エッチとおなじくらい、彼と一緒にすごしてる愛しい時間になっているのだと気づく。 「早く帰ってきてね?オシオキは忘れて。」 先ほどまでわんわん泣いていたせいですこしくぐもった声、鼻をすすりながら言うと。 「お前の好きなバナナ本店のエクレア買って帰るよ。」 そう優しい声が返ってくる。 痛い思いはしたし、しなくていい体験をした気はするが。 優しい彼がおいしいお土産を持って、少しばかり、今日のことをやりすぎたと、私を甘やかすために帰ってくると思えば痛いが安い代償だったのかもしれない。 「約束。」 「ああ、まぁ、その前に下着はちゃんと戻して寝ろよ。腹壊すぞ。」 「脱げっていったのミツ君でしょ!」 急な指摘を耳元でささやかれたような気がして。 頬が熱くなるのを感じながら。下着とパジャマを戻し。 いーっだと子供のように威嚇をして通話を切る。 ただ、シンっと静まり返った部屋のなか、布団にもぐりこんでなお、ピリピリと痛みの残るすこし傷が、彼の優しいカウントの声を反芻させるのだった。 fin