華麗なる悪徳の躾~バーでの秘密の夜~
Added 2019-08-02 03:06:29 +0000 UTCいつから意識をするようになりましたか? そんな使い古されたワイドショー的質問を投げかけられても。 多分自分自身答えを持ち合わせてはいない。 ソレは本当に落ちるように恋をしたのだと思う。 気がつくと微熱に犯されたように火照る頬、歩く姿を視線で追い。 もっとカワイイ子やカッコイイ英雄が山ほどいるのに。 気がつけば、美形ではあるが、悪属性のふざけた壮年オヤジに心は支配されていた。 あの、犯罪卿が、女慣れしてないわけもなく。 ましてや、少年相手にその手の隙など見せる訳がない。 日毎焦れる感情を持て余しいつしか、2人きりを避けるようになっていた。 コレ以上好きにならなければ大丈夫。 みんなのためにも恋愛だとか言ってる場合じゃない。 本音はそんな自己犠牲の精神なんてなくて、ただひどくフラれるのが怖い十代の子供らしい理由だったのだが。 そうやって距離を置いてる事実を知らない、所長の試みで2人きりにされる機会が出来てしまう。 カルデア側からすれば仲良く懐柔して、問題児を減らしたい。 そういうことなのだろうが、その趣向を汲み取れないふりをしながら下心に走る程度には若いし。 自身の好意に身をまかせる程度に自分は、自分勝手な悪党だったらしい。 バーテンごっこ遊びの合間。 うたた寝するように、椅子に腰をかけ、片頬杖をして足を組みながら目を瞑るその美しい壮年のサーヴァントに、呼吸と鼓動を乱されながら。 ゆっくりと近づく。 目の前に立ち、退路を塞ぎ、処女を武器に男へ迫る生娘のように意を決して熱くなった指先で、トンッ………とバーテン衣装の上から胸へと触れてみる。 左胸、心臓の上、相手の温かさや鼓動より、自分の血液が脈打つ音と感覚ばかりで。ジンとした指先からは。 ただ、『いる』という事実しか伝わってこない。 「この部屋は、暑すぎたカナ?マスター君」 上目遣いで、すっと開かれた青い双眸に射すくめられる。 不器用な子供の慕情を見てみぬフリをする大人の顔。 全てを見透かし、気づかないふりをして向けられる笑みには静かな拒絶が含まれる。 自分は男だし、人間で、マスターで、彼は英霊だ。 魔術供給だって、一昔前とは違いいろいろな方法が存在する。 好き好んで、弱いだけの特徴のないマスターを恋愛相手に選んだりしないだろう。 判りきっていた。 それなのに、当たり前の反応に傷ついた自分と、今、向けられた拒絶に、自身でもわかるほど惨めな顔をしている事実に耐えきれず。 「今くらい…俺だけ見てよ!モリアーティ!!」 勢いにまかせ、触れていた指に力を入れ。 ソファへと力任せに、無理やり押し倒す。 どうにか出来る訳もないのに。 逆ギレだと分かりながらも凪いだ胸の奥底の焦げる匂いにでおかしくなりそうだと、力を込める。 情けない顔しながらレイプ未遂。 どこの三文エロ小説だよ。バカヤロウ。 自身に対する自己嫌悪や、処理しきれない感情を言葉にも変えられず。 泣き出しそうな目頭に、「止まれ止まれ止まれ」と、必死にブレーキをかけ、震える唇を噛みなが視線を上げると。 少し驚いた様子のモリアーティと目が合う。 けれど、その澄んだグラスのように青い眼は何も語ってはくれない。 驚いてはいるが、最初に見せた拒絶以上の否定も肯定も表してはくれない。 「っ」 悔し紛れにドンと片手で胸を叩いて俯きながら、身を起こす。 本当に行為や好意を強要するなんて自分には出来ない。 「それだけかい?」 離れかけた指先を搦めとるように、絡ませ、腕を引きワルツのように腰を抱き寄せられ至近距離の体勢に持ち込まれる。 「キミは、やはり悪党に向いてないねぇ、マスター君。」 息がかかるほどの距離、そうハスキーな大人の色気の塊のような声で囁かれ。 「だ、だって。」 事実を突きつけられ、間抜けに半開きの唇を筋張った指先でからかうように撫でて言い訳を催促される。 褒美であり罰の様な行為に困惑しながら、目を白黒させていると。 「これはおじさんを挑発する悪いピクシーへのお仕置きだ。」 いたずら妖精と扱われる恥ずかしさに赤面しながら、もう一度あのガラスのような目を見るとそこには。 先ほどとは違い。残酷な悪意っ嗜虐を注いだような光が宿っている。 「ほら、こちらにおいで?」 手で導かれるまま、隣に座ると。 「そう、偉い偉い。じゃあお仕置きだ。」 イタズラっぽく笑うときは割とワンパクっぽいよな。 そんなことを惚けながら、これからめくるめく犯罪卿のお仕置きに思いをはせた立花の視線はぐるんと地面を向けられる。 どういった体勢になったのか。 一瞬わからず硬直しているが、ソレが膝の上で前屈姿勢をとるように上半身を乗り出し、オシリを突き上げた状態だと気づいて。 ようやく自分に対してのお仕置きと、今の状況の意味を理解する。 「ちょ、待っ、モリアーティ!!?騙したの!?」 「騙してないよ、お仕置きっていっただろ?いたずらなマスター君。」 パンッ。 「ひっ」 楽しそうに腕まくりをして、華奢で細身のクセに、割とたくましい腕を見せ。 ズボンの上からというのがまだ優しさなのか、それとも屈辱をあたえるためなのか。 本当に子供を叱るように、軽く。 パンッ パンッ と軽めの音だが。 はたかれたあと、ほんの少しジンッと痛むような平手打ちを連続で落とされる。 「ひどいよ!!オレ、本気でイロイロ考えて。」 決死の告白をするつもりで、結局押し倒してしまったわけなので。 実際お仕置きなんかで済まされるレベルではないのだが。 子ども扱いに、深く傷つく。 「舌噛むよ?マスター君。」 「っ。いっ、っ」 「色仕掛けにしてもお粗末だし、何より、ああいったことは合意でないといけないんじゃなかったかな?」 「………。」 「昨今は体罰なんていわれるらしいが、我々の生きた時には悪童は決まって、こう泣かされたものだ。」 冷静なご高説と、本気を出してはいないのもわかるが。 何度も同じところを叩かれてるせいで。 じっとしているにはつらい尻をもぞつかせ。 「……モリアーティだって、俺をからかったじゃないかぁ。」 とうらめしげに返す。 「反省していないのだね?それならば仕方がない。明日の朝、皆に座るのが辛そうなのは。悪い子だからオシリペンペンされたせいですと懺悔するといい。」 そういってズボンに手をかけられる。 「うわ、うわぁぁん。やめて!やめて!ごめんなさい!!」 地獄のような状況を想像して、今から行われるであろう刑の執行を拒むように膝の上、相変わらず前屈体制のまま抑えられ。起き上がれないまま足をばたつかせる。 「………ぷっ」 「ぇ?」 「はははは、降参だ、マスター君。いやぁ、いい反応するねぇ。オジサンちょっと本気でイジメたくなっちゃったよ。」 「え?え?」 「安心したまえ、本当はそれほど怒ってはいないよ。ただ、君の年で色恋をどうこうできず思い余って。ムリヤリなんて、婦人相手じゃあ笑えなかっただろう?だからちょっと驚かせてみただけだよ。」 ウィンクしながら腰がぬけた立花の体をローテーブルに据わらせる。 そして、先ほど見ていなかった彼を移した目できちんと前を見据え。 頭を撫でながら、年長者として語る。 「オシリペンペンされてはずかしがる君はなかなかに面白かった。」 「い、言わないでよ。」 「ふふ、君はまだ若い、それに男のロマンだ。わかるよ、アウトローなナイスガイは色っぽく見えちゃうからネ。何より私はナイスガイなイケメンだ。魅了されてしまうのは仕方が無い。」 うんうんと大げさにうなずいて見せるモリアーティに先ほどまでの。 本気で怒ったと思った姿は無く。 子供を諭すかっこいいヒーローの姿がそこにある。 いや、犯罪卿にヒーローという名称があっているかはともかくとして、それでも人として彼はやはり魅力的だ。 けれど、どうしてだろう。 あれほど思いつめ焦げ付いた感情は。 先ほどの子ども扱いと、今の彼の笑顔や言葉で随分と穏やかなものに代わっていた。 「さて、悪さをしたイタズラっこへのオシオキもおわったし。片付けて今日は部屋に戻ろうか。」 「う、うん。」 何度もお仕置きだとかオシリペンペンという意地悪には。 ぎこちない困り顔を浮かべつつ。部屋に戻る準備をする。 かなり手加減してくれたのはわかっている。 それでもほんの少しジンジンとするような痛みをもった尻を軽くさすりながら。 部屋へ戻るため反対方向へ歩くモリアーティに声をかける。 「あ、あのさ。」 「うん?」 「み、みんなには内緒にしててね。その、怒られたこととか。」 耳まで熱いと思いつつ、恐る恐るたずねると悪い笑顔で彼が言う。 「安心した前、悪舌を好むものもいるが、悪党とは秘密を持ちたがるものだ。探偵のように真実を暴く露出狂ではないさ。」 後姿で手を軽く振り。 ついでというようにホームズをけなしながら遠ざかる。 なにもかも一枚上手だ。 かなうはずが無い。 きっとフラれたら大泣きするほど惚れていると思っていたのに。 そういった気持ちまでうやむやにさせてしまう。 その狡さや賢さに自分は惚れているのだと思う。 そしてこれからも、かれに対しての『好き』はかわらない。 でも、ほんの少し、違うソレは尊敬する人に向ける好きに代わったような気がした。 fin