XaiJu
ミケ空
ミケ空

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Vision④

 …3人だけのビーチ。俺は必死に体を動かした。…来る日も来る日も。都合がつくときは毎日ビーチにやってきて、立花さんと翔と一緒にトレーニング。最初の1週間は本当にきつかった。慣れるのにも大変で、帰ってから筋肉痛にも襲われた。けど、1週間もして慣れてくると、だんだんと自分自身の体が変わってきたのがわかる。…砂浜で長時間動けるようになった、走り込みにも慣れてきて、ミット打ちも長時間できるようになってきて。

「シッ!シッシッ!」

「お、いいぜ、ナイスフック!このパターンも随分と上手くできるようになってきたな!」

 立花さんの教えてくれる多くのパターンもすぐに身についてきた。

(…今までの俺を…捨てなくていい…!今の俺らしく、でも新しく…!)

 テオに負けて以来、パワー型の自分を否定された気分でいた。でも、そうじゃない。今の俺を貫きつつ、前に進めばいい…!

「よし、次は翔とスパーリングすっぞ!うまいこと動いてみろ!」

「はい!」

「慧、遠慮せずに来い!」

「うん!」

 …今までとは違う、何か新しい感覚。それを掴みながら、俺は浜辺でボクシングに励む。…そんな、ある日の夕方だった。

「おーっし!今日はここまでにすっか!お疲れーい!」

「お疲れ様でした!ありがとうございました!」

「おうおう!なんか、見違えるようになったな、慧!」

「ああ、俺もそう思う」

「そう…かな。えへへ、なんかさ。今までの突進癖を捨てなくてもいいんだ、って思ったら、なんか、気が軽くなってさ」

「そうだな、俺がうまくそう言うのを言葉にできればよかったんだが…」

「あはは、気にしないで、翔。立花さんがきっちり教えてくれたから」

 俺がそう言うと、立花さんは腰に手を当てどや顔をしてみせる。

「…そういえばさ、二人とも、今日はもう少し、帰りが遅くなってもいいか?今日このあたりで花火大会があるみたいでさ、見てこうぜ」

「花火大会…!」

「慧、どうする?」

「…見てみたいな。ラテと、コルネットもいるから長くは見れないけど…少しだけ、いい、翔?」

「もちろん。もっとも、ラテもコルネットも逞しいから俺達の帰りが遅くてもなんとかなってそうな気もするがな」

「あはは、確かに。…じゃあ、立花さん?」

「おう!見てこーぜ!屋台も出るってよ!」

「屋台…!いいな、お腹すいてきたし…」

「一緒に回るか、慧」

「うん!」


 …こうして始まった花火大会。俺達はビーチを出て、屋台を回り。橋の上で夜空に上がる大輪の花を眺めた。

 ひゅー…どぉんっ…!

「わあ…綺麗…」

「だな…」

「だろー?たまには、こういうのもいいだろってな」

「うん…すごくいい…!」

 俺は打ち上がる綺麗な花火を見上げながら。…ふと、快のことを思い出した。両親は幼いころから俺達を放置プレイで仕事三昧。何かトラブルがあっても兄だからお前が何とかしろ、と一言。今回のFNに快が攫われたことについてもそう。お前が解決できそうならお前がしろ、絶対に職場に迷惑をかけるな。

 ———親なんか当てにならない。俺が快を守るんだ。

 そんな俺がよく快と見に言ったのが花火大会。一緒に手をつないで、屋台で食べ物を買って、二人で食べて。

(…快…)

 不意に湧き出すあの頃の記憶。

(…快は大丈夫だろうか)

 薬の実験台になり、バーサーカーのように襲ってきた快。研究対象である以上、無碍にはされない…そう、翔は推測していた。俺もそう、信じている。けど…

(…不安…だな。快…)

 …そんな時だった。

 ガサッ!

「…ん?」

「どうした、慧?」

「いや、今なんか…俺達がいたビーチの方?なんか、影が動いたような…?」

「野生動物か?」

「ん-?なんだなんだ?このあたりに野生動物って話はあんま聞かねーけどなー」

 …妙な胸騒ぎを覚える。

「…ちょっとだけ、見に行ってきていい?」

「大丈夫か、慧?」

「大丈夫!すぐ戻るから!」

「あ、ああ…」

「おう、気を付けていって来いよ!…オレはちょっと、翔と二人で話したいこともあるし」

「わかりました!翔、何かあったら連絡するから!」

「…わかった。必ず連絡しろよ、慧」

「うん!」

 俺はそう言うと、ビーチの方へと足早に駆けだすのであった…。




 花火会場から特訓場所である隠れビーチまで。

(…そう言えば、結構近いよね。でも近隣住民の人たちもあのビーチ使ってないみたいだし…気づいてない?いや、でも誰か気づきそうな…)

 俺はなんとはなしに、ビーチに向かった謎の影が気になり足早へそこへ向かうと———

「…うぇっ!?」

 その理由を理解した。

(な…なんで!?男の人…だよね、皆…素っ裸…!?)

 ———後になって知ることになったことだが、ここはゲイの隠れヌーディストビーチとして有名な場所でもあった。そして、それと同時に地元では有名な「心霊スポット」でもあった。———心霊の審議はわからない。だが、地元民はそのせいで近寄らず、辺りは藪やらなんやらに囲まれ音も聞こえない。だからこその絶好のヌーディストビーチ…!立花さんはたまたまここを発見、ゲイのヌーディストビーチだとのちに教えた瞬間にびっくりしていたが…

(…な、なにこれ…すごい…!)

 俺は思わず、岩陰から浜辺を見つめた。…まるでFNの試合後の様相。砂浜に2人組の男性が抱き合い、絡み合い、重ね合っている。

(わ…わぁ…)

 年にして20前半くらいだろうか?金髪のチャラそうな男が細身の黒髪を抱きしめ、キス———そんな光景に思わず顔が赤くなり、

(か、帰ろう…) 

 俺はそっと、踵を返そうとした———その時だった。

「おい、テメエ!何覗いてやがる!」

(やば、バレた?!)

 俺は岩陰でビクン!と背筋が凍る。———が。

「テメエ…!いいところの邪魔しやがって…!」

 金髪の男がそう言いながら俺———ではなく、別の方向へ歩いていき、抱かれていた男は見られた羞恥心七日、慌てて逃げ出すと———

「う、うわっ…!?ご、ごめんなさいっス!」

(…え?誰だろ?俺以外にここで覗きしてた人がいる…!?)

 男は俺ではない、隠れていたもう1人の『誰か』の胸ぐらをつかみ上げている。———が、その誰かの辺りは藪の影でもありよくわからない。

(え?え?俺以外に覗いていた人がいた?ど、どうしよ…逃げる…?)

 俺が迷った———その時!

「るせぇっ!水差しやがって!」

「た、助けてくださいッス!あ、殴らないで…うぐっ!?がはっ!?」

(…ッ!)

 金髪の男が胸ぐらを掴み、影を殴りつける!…それを見た俺は、ぐっと拳を握りしめた。

(…やっぱり…見過ごせない…!)

 目の前で起こっている暴力。———俺は意を決すると。

「やめろ!」

 俺は飛び出すのであった。




 ひゅー…どどんっ!

「なあ、翔?ぶっちゃけ聞きたいんだけどさ。…お前、慧のこと、やっぱり好きなん?」

「…はい。俺と慧が幼馴染…ってことは知ってましたっけ?」

「おう、何とはなしに、くらいだけど」

「俺と慧の家は比較的近所なんです。…慧の家は、両親が仕事三昧で子供に興味がないみたいで。慧はいつも快と二人きりだったんです。そんな慧達の姿を見た俺の親が慧と遊んでやれ、って言ったのが始まりでした。親同士の付き合い、みたいなのはなかったんですけど…」

「そうなんだ?で、いつから慧のこと気になりだしたん?」

「…それこそ、小学校に入る前からです。慧は昔っから、快を守る為ってすごく無理していて、快がいじめられていたらどんな目に合っても身を挺していくほどに無茶をする、そんな奴でした。そんな慧をみていたら、俺はいつの間にか」

「そっか、慧は昔からそう言うところは変わらないんだな。で、そんな慧に惚れた、と」

「はい。でも、最初は俺も少し歪んだ感情を持っていたことを今は自覚しています」

「歪んだ?」

「…はい。俺の親父のこと、知ってますか?」

「嫌?有名な人なん?」

「…俺の親父、ボクシングの世界チャンプなんです」

「え?!マジ!?」

「はい。試合の時もマスメディアに出る時もいつもリングネームで通していましたから…「柴野龍太郎(しの りょうたろう)」っていうリングネームです」

「あー!?柴野選手!?え、あれリングネームだったの?」

「そうです。うちの親父は、お袋のことを愛していて…私生活を邪魔されたくないから、とリングネームだけで過ごしていたんです。それこそ、オレなんかどうでもいいくらいにお袋を愛していて」

「………」

「話がそれましたね。だからこそ、俺は慧に強く惹かれたと自覚しています。そして、自分で言うのもなんですが、そんな親父の英才教育もあってボクシングはそれなりに強くなれた、と思っています。それこそ『弱い慧』を守るくらいに…」

「それが、歪んだ…ってやつ?」

「はい。正直に言います、俺は、慧を守ることにうぬぼれていました。慧を守ることが強い自分の条件だと思っていて…弱い慧だからこそ、俺が俺でいられる…そう、思っていました」

「………」

「天祥学園に入ってからも、慧とはずっと一緒でした。でも、そんな慧がFNに一人で向かっていって、俺が一人取り残されたときに親友に叱責されて、俺は慧をそんな目で見ていることに気づきました。…本当の意味で、慧を守ろう。そう決意してFNに俺も向って。今度こそ、慧を守れる騎士のような男になろう…そう、思いました」

「…そか、翔も色々とあったんだな」

「騎士、だなんて公言してますけど実際は情けないものですよ。FNにきて、俺は慧を守ることを誓った。けど、結果は…。慧はJAILに監禁されて、小川信二の暴行を受け。…一度、心を壊してしまいました」

「…それは仕方ないさ。FNのルールでもある」

「ありがとうございます。でも、俺は思うんです。本当に慧を守りたいのなら、もっとできることがあったのでは、と」

「………」

「俺は、プロボクサーなんかになるよりもずっと、慧を守ることが大事です。…昔は歪んだ感情で慧を愛していました。でも、今はそうじゃない。心から愛しています。でも…思うんです。慧の『反逆者』という二つ名であり在り方。慧が反逆者でなければ、あそこまでのことはされなかったのではないか、と」

「…それは」

「反逆者になった慧は、多くの選手に辱められました。それこそ、試合でも、そうでないところでも。それでも、快を助けるため、不甲斐ない自分のまま快を助けたくない、とひたむきに進もうとする慧を俺は守るつもりでした。ですが、その根本から見直すときなのでは…そうとも思うんです」

「慧に反逆者をやめさせる…ってことか?」

「それを決めるのは慧自身です。ですが、道を示すくらいはできないかな、と思っています。快を助けること、胸を張って快を迎え入れること…どちらも口にするのは簡単ですが、容易な道ではない…」

「そもそも、慧のFNのさ、リングの上で敗者を押し倒したくないっていうあれ。あれが慧の『胸張って快を迎え入れること』につながっているんだろ?」

「ですね。でも、俺は正直に言えば、どうなのかなと思うところもあります。…ボクシングはボクシング、FNはFN」

「…だよな。全て自分を通すことが正しいとは限らない…オレもそれを受け入れている」

「慧の反逆者、という在り方はそこに我を通している、そう、思わないでもないんです。…どうするのは慧次第ですが、その道を示すことは俺の役目かな、と思わないでもない。でも…上手い伝え方が思いつかないんです」

「…なるほどな」

「話したり前に出るようなことは慧が得意、俺は裏方が得意…ずっとそれに甘えていたツケです」

「はは。でも、いいコンビだと思うぜ、翔と慧は」

「ありがとうございます。だからこそ、俺ももっと強くなりたいんです。ボクシングも、人としても」

「…立派だな、お前は」

「そんなことないです。ずっと大きな問題に真正面から立ち向かっている慧こそ、です。俺は慧を支えたい。いや、俺だけじゃない。きっと、竜も翼も、立花さんも同じ思いなんじゃないかなって」

「…だな。翔も色々と、悩んでんだな」

「一番苦しいのは慧ですから、俺はもっとしっかりしないと。竜のような大胆さもなければ、翼のような直球さも俺にはないところです。だからこそ、俺は俺にできるようなことを磨いて慧を助けたい」

「だな」

「ところで、立花さんは俺と話したいと言ってたのはこのことですか?」

「ん、まー…それもあるけど、オレ自身のこと、翔に少し相談したくてさ」

「俺に立花さんのことを…ですか?」

「おうおう。…オレさ、今、好きな人が二人いるんだ」

「…それは。如月さんと広瀬さんですか?」

「さすが、よくわかってんな」

「はは、何かと目立ちますからね、立花さん」

「…如月はさ、なんつーか、自分のこと全然話してくれなくてさ。でも、ぶっきらぼうに見えて面倒見が良くて。今、一緒に住んでて…一方で広瀬先輩は率直にオレのことを大切にしてくれる…っていうの?」

「なんていうか、真逆…みたいな感じですよね。如月さんはツンデレみたいですし」

「はは、わかるー。如月は不真面目なんだよな、一方で広瀬先輩はまじめな社畜」

「…で、立花さんはどちらが好きなんですか?」

「わかんね。広瀬先輩はいつか答え聞かせろよーみたいなこと言ってくれるんだけどさ。…好きって気持ち、オレ、あんまり考えたことないからわかんなくって。そんで翔はどういうふうに言うのかなーって思って聞いてみたんだ」

「…好き、ですか。なんていうか、慧がいなければ俺の心にぽっかり穴が開く、そんな感じ…なのかな?」

「あはは、たぶん、そうだよなあ。でも、オレずっと一人だったせいかそう言うのが想像つかねえんだよなあ。…オレはどうしたらいいんだろうな」

「……うーん」

「なーんて!こうやって話悩みながら答えを出さないとって思ってるからさ。今日はこうして、翔の話が聞けてよかったよ」

「…はい、力になれていれば」

「全然!あんがとな!…翔の気持ちも聞けて良かった。慧の反逆者…っていうのも、オレも少し引っかかっていたからさ」

「立花さんも?」

「おう。…純粋に快を助けるため、っていうんならFNの言うことを聞くのが本筋だからな。反逆なんかしていたら…とは思うけど、FNも慧の反逆者っていうのを利用しているようだったからさ」

「…ですね。それにしても、慧、遅いですね?」

「…だな。どこまで行っちまったんだ?っつか、なんかビーチの方に影が行ったからって…」

「虫の知らせ、みたいなものだと思いますが…俺、ちょっと見てきます」

「おう、気をつけろよ!」


【続く】


☆イラスト

・藍路アヲムさん

Vision④

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