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Vision②

【予告】

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【前回のお話】

【テオVS慧】Vision①

【予告】  地下格闘技場、FN。そこの選手の一人、反逆者「水瀬慧」。赤茶色の長い髪に青い目を持ち、ぱっと見女性にも見える顔立ち———そんな真面目で大人しそうな慧ににつけられた反逆、という目立つ二つ名。そんな彼を目につけている選手は多い。 「よお。あんたと手合わせできるの、楽しみにしてたぜえ?」  黒いグ...


【Vision②】

『パワーなら負けやしねえ!特に!テメエにはなあ、慧!はっははははははっ!』

『パワーでの真っ向勝負なら絶対に負けねえ!お前は…俺には…勝てねえんだよ、慧!』


 あの日以来、ずっと頭にちらつくテオの言葉。正直、今まで負けた回数だなんて数知れず。そんな言葉、あまり気にしないのが常だったんだけど———

(俺の…パワーじゃ…勝てない…?)

「よっと」

 バスバスゥゥゥゥッ!

「うぐっ!?はあっ…はあっ…!」

「…なーんや、噂には聞いてたけど…ほんま、腑抜けてんなあ?」

「な…何…!?」

「反逆者さんさー、いつもの動きはどうした―?突っ込んでくると準備しとったのに手は出てこーへん、防戦一方…あんたのボクシング、そーやないやろ?」

「うっ…」

「先日のテオとの試合か?こっぴどくボコられとったもんなあ。あーあ、反逆者だなんてレッテルなければ、あんなつえ―やつにもあたらずに済んだのにな?」

「お…俺は…!快を…!」

「ま、気概だけは買ったるけどさー」

「う…るさいッ!」

「はいはい、こわかないこわかない。そんなボクシングで、俺は倒せへんで?…あんま不甲斐ない試合してっと…」

 ダンッ!

「ッ!」

 ドスゥゥゥゥゥゥッ!

「ぐっ…!?」

「弟さん、返してもらえへんで―?」

「…ッ!?」

「ま、ゲームオーバーや。…出直してきいや!」

 バッシィィィィィィィッ!


「がっ…!?」

「やーれやれ」




 テオ=ジェラルドと水瀬慧の一戦。あれ以来、俺、水瀬慧の心は揺れに揺れ動いていた。

(…パワーじゃ…勝てない…パワーじゃ…)

 こっぴどくボコられ、リングに沈み、テオの仕置きを受けた俺につきつけられた言葉。「パワーで勝てると思うなよ」。テオ、という自分とよく似たボクサー…言うなればライバルに言われた言葉だからこそ、だろう。テオの言葉は俺に大きな影を落とし、俺は絶不調に陥っていた。…自分の戦いができない。自分のボクシングができない。今までずっと、自分のパワーあるパンチとインファイトでの一撃を主軸に戦ってきた俺にとって、それは今までのボクシングを否定されたようなものだった。

(どうすれば…どうすれば…!)

 それは、スランプでもあった。———俺は先日の火野燈也との試合を思い出す。自分自身のパワーに頼った攻め方を否定された俺は他の戦い方を試すも、染みついた癖は思うように取れるわけでもなく結果は惨敗。

『弟さん、返してもらへんで―?』

(快…!)

 それどころか、新たなプレッシャーを植え付けられた俺は、翔や竜、翼と言った親友たちにお願いし、毎日のようにスパーリングを繰り返すも———

「おらっ!」

 バキィィィィィッ!

「ぐっ!?」

「もらったぜ、慧ッ!」

 ドムゥゥゥゥッ!



「うあっ!?」

 『鷹』と名付けられた廃ジム。俺達の秘密基地。古びたリングの上、俺は竜のボディーブローをもろにうけるとふらり、と体が揺れ———

 ドタァァァァッ!

「くぅっ…!」

 背中からダウン!———俺は息を詰まらせると、竜はやれやれ、と言った表情でファイティングポーズを解いた。

「う…くっ…まだ…」

「慧、そこまでだ」

「翔…!?まだ、まだ…!もっと、強くならなきゃ…」

「無理をするな。もう何本目のスパーリングだ?」

「…そうだぜ、慧。お前、焦ってるのはわかるけどよ…」

「でも…!」

 俺は必死に体を支え、立ち上がる。…が。

 ズキッ!

「んっ!?」

 すぐさま、ガクンと膝が折れ、再びリングに跪く。…俺の目から涙があふれた。

「強くならなきゃ…!不甲斐ない試合してたら…快…が…!」

「だからこそ、休憩しよう、慧。…ほら、まずはリングから降りて、ベンチに座ろう」

「だな。疲れて満身創痍じゃあ、いい試合もできねえぜ?」

 …俺は二人の言うことを聞くと、ゆっくりとリングを降り、ベンチへと腰かけた。———テオ=ジェラルドとの試合。パワー勝負のインファイトで押し負けた俺につきつけられた事実。…得意としていたパワーでは勝てないという事実。

(前々から…気づいていたけど…)

 気づいていても対策を取れず。持ち前のパワーで押し切ってきた俺は、今、そのツケを払う羽目になっている。…パワーで勝てないのならば、別の道を探らなければいけない。なのだが…

(…俺に何があるんだろう…)

 俺は下を向いた。———竜や翔、翼。皆には何度もスパーリングをお願いした。けど、癖っていうものはそう簡単に抜けるものでもない。例えばインファイトをやめ、アウトボクシングをしようとしても長年の俺のファイトスタイルが許さない。カウンターも。あまり狙ったことのないそれを狙おうとすれば反応は遅れ、足を使って戦ってみようとすれば足はもつれ、その隙にパンチを何度も何度も浴び、リングに倒れ伏す毎日。

(…どうすればいい…)

 出口のない真っ暗闇に置き去りにされた感覚。手探りでも何もつかめず、出口の光も見えず、ただただ、漠然とした不安が蔓延する気持ち…

(…!泣いちゃ…ダメだ…俺がしっかりしないと…快が…!)

 ぽんっ

「慧、思いつめるな」

「んだぜ。慧は真面目過ぎるんだよなー」

「翔…竜…」

「たまには気分転換しようぜ、慧!」

「そうだな。慧、竜の言うとおり、少し気分転換しよう。…思いつめていては、頭も動かない」

「…わかった…」

「ま、真面目で一生懸命!ってのはお前のいいとこだけどさ。たまには発散しようぜ。それこそオレが付き合うし!そうだなー、今夜、優しく抱いてやろっか?」

「だ、抱いて…?」

「ごほん。竜…」

「おっと、お前も慧を抱きてーんじゃねーの、翔?」

「お、俺は…!」

「へへ!…慧は渡さねーぜ?」

「俺も、渡す気はない…!」

「あ、あはは…」

 にらみ合い火花を散らす二人を見ながらも、俺は心の中で大きく息を吐く。———二人の言うこともわかる。気分転換は大切だ。大切だけど…

(…快…)

 あの日、Curse Braeker!で俺に襲い掛かり、押し倒してきた快。薬で理性を失った快は、きっと、今でも苦しんでいる。それを想うと———

(…俺は、どうすればいいんだろう…)

 火野燈也に言われたセリフ。改めて、俺は快という人質を取られていることを意識したあの日。テオ=ジェラルドから突き付けられた課題を何としてもクリアしなければならない俺は、焦る心を止められずにいると。

「…おい、慧」

「え!?」

「…これは深刻、だな」

「あ、ごめん、翔、竜…」

「別にいいって。にしてもどうすっよ?スパーリングの相手、くれーしかオレや翼は出来ねーし…」

「…すまない、俺の教え方があまりうまくないから…」

「だ、大丈夫!翔や竜、翼が悪いわけじゃないって!…翼、いないけど…」

「んでもよ、お前の悩みは解決できねーわけだろ?」

「…うん」

「………そうか」

 その時。翔がポンっと手を打った。

「もう1人、頼れる人がいる。その人ならきっと…」

「お?」

「きっと、いいアドバイスをしてくれる…!」

「ほんと!?…え、誰だろ…」

「慧もよく知っている人で、慧によく似たお人好しな人だ。きっと、力になってくれる。だから…もう少しだけ、頑張ろうな、慧」


【続く】



☆イラスト

・キールさん

・yukibouさん

・ショウさん

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