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ミケ空
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4-2 立花将伝「Medical treatment ~療養~」②

「…思うに、さ」

「あ?んだよ?」

「…ヒーローって、希望を与える人のことじゃないか、って思うんだ」

「…どうした、急に」

「…いや、いつも思っていたこと。…こういう時くらいいいじゃん」

 如月のアパート。今日も如月に押し倒され、抜かずの3発を決め込まれたオレはへろへろとしながらも———如月に思いのたけを打ち明けた。

「オレさ、プロで2連敗って惨敗してさ。少しヤケになってあちこち回って、他の地下格闘技場なんかにも少し顔出して———結局、FNに転がり込んできたけどさ。プロで負けた俺に待っていたのは冷たい目線ばかり———負けたらヒーローって失格なんだなあって思っててさ」

「…んで?」

「でも…FNで、Hero's Maskでいろんな奴と戦って…思うんだ。負けてもヒーローって思ってくれる奴は実はいたってこと。…慧と翔が言ってくれたんだ。負けても立花さんはヒーローだって。憧れだって。勇気をもらえるって」

「…んで、ヒーローってのは希望を与えるってやつか?」

「…うん」

「水瀬慧、か」

「…まあね」

「沙月翔は違うのか」

「あいつも大事だよ。でも、なんていうのかな…俺は、慧の方に親近感を覚えるっていうか。…なあ、あいつの戦う理由、知ってるか?」

「…知らね。ってか興味ねえ」

「…弟、攫われてるんだってよ。FNに」

「その割には、この前の試合は弟にヤられてたじゃねえか」

「…なんだよ、如月知ってんじゃねえか」

「るせぇ、細けぇことはいいんだよ」

「はいはい。…なんていうかさ、翔はさ、これから壊れようとしているものを守ろうってしてるんだと思うんだ」

「…慧、か」

「騎士の二つ名だしね。逆に慧は壊れてしまったものを取り戻そうとしているように見える。…オレと同じで」

「ま、おめーら二人、性格も似てるかもだしな」

「そうか?」

「さあな」

「だから、さ。オレ、慧が困っていたら助けてやりたいなって。もちろん、翔だって助けるけど。…慧はなんていうか、放っておけないんだ。…変?」

「お前が思うんなら、そうなんじゃね?」

 如月はそう言うと、オレに背を向ける。

「お前はお前、よそはよそだ。お前がそう思うなら、それがお前のヒーローっつことならそれでいいんじゃねーの」

「…おう。でも、誰かに聞いてほしくてさ」

「それで俺、か?お前、こんな屑に言うとか頭沸いてんじゃねーの」

「お前は屑じゃねーっての」

「屑だっつの。俺自身のことは俺が一番よく知っている」

「……そうかなあ」

「はあ…ったく、お前といると調子狂う」

「…うっせ」

「早く寝ろ。俺も明日は試合がある」

「え?そうだったの?…わりぃ」

「馬鹿か。押し倒したのは俺だ。…テメエは俺の言われる通りに股開いてりゃいいんだよ」

「…如月」

「あ?」

「…明日の試合、頑張れよ。オレ、スマホで見てっから」

「はいはい。テメエは大人しくここで休んでろよ。怪我して自衛もできねえ今、下手にFNでうろついて襲われても知らねえからな」

「…おう」

「ま、それでもFNに行きたければ勝手にしろ。ただし、自己責任でな」

 …如月はそう言うと、すうっと意識を闇の中へと落としていったようだった。

「如月…」

 いつもありがとう、その言葉をオレは飲み込むとそんな如月の寝息を聞きながら。オレもまた、ゆっくりと目を閉じるのだった…。

「オレ、この手を治したら慧を助けに行く。だから、その時はお前も…」



 その頃。

「くっくっく…いやいや、いつ思い出しても笑いが止まらん!あの狂暴性!あの性欲!EBSPは成功だった!小川信二、水瀬快!いずれもあの水瀬慧を打倒し、反逆者の信念までも打ち砕くほどの力を得た!これぞ、まさに科学の勝利よなあ!!」

 ———FNの地下深く、もっとも暗いとされる場所、生命科学研究科、通称FN生科研。名前だけ聞けば長寿や健康、といったものを日夜研究している場所に聞こえるが、ここは名ばかりに、怪しげな薬———ここ最近出回りまくっている非合法で強力な媚薬、精神と肉体の限界という名の枷を外し、狂気を代償に爆発的な力を得る薬、EBSP———様々な非合法なものを開発する場所である。そして、この生命科学研究科のトップを務めることの男が「毒島 秀一(ぶすじま しゅういち)」である。年にして20代から30代、やせ型の茶髪のオールバックの男で風貌はいまいちだが、その頭脳はまさに世界トップクラス。惜しむらくはその狂った精神だけである。そして、

「この素晴らしき結果!まさに生科研の力の賜物よ!———お前もそう思うだろう、冴羽!」

「…はい、毒島主任」

 騒ぐ毒島の隣で無心な顔で話を聞くこの男が冴羽賢(さえば けん)。医務室で常に怪我をする選手の身体、メンタルのケアをする「保健室のお兄さん」というやつであるが———その彼の所属は生科研。FNでも最も暗い場所の出身である。彼は表情をピクリとも動かさず、ただ、毒島の言うことにうなづくように返事をしていた。

「くっくっく…!EBSP、EBSP!精神の枷を外し肉体を極度に強化するあの薬!はっはっはっはっはっはっは!…あいつさえいればもっと開発は早かったが…まあいい!冴羽よ!さしあたり、生きのいい被験者を連れて来い!そうだな…あの水瀬慧や沙月翔、立花将辺りがいい。…医務室に来たら必ず連絡を入れろ。いいな?」

「…はい」

「くっくっく…素直で結構!さあ、冴羽よ!次はもっともっと!強くなる薬を作るぞ!はーっはっはっはっはっは!」


【続く】

4-2 立花将伝「Medical treatment ~療養~」②

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