立花将。
スピードとラッシュを武器に、アマチュアで「無敗のヒーロー」と呼ばれた圧倒的な実力者。お人好しで嫌味のなくさっぱりとした性格、ボクサーらしく無駄のなくすらっとした体、そしてそれに合わせるかのような甘いマスクと爽やかなルックス———そんなTVにも出演するほどの男。だが、ある日。彼は天祥市に存在する地下格闘技場「ファイティングナイト(通称FN)」に身を落とした。転向したプロでの連続した惨敗。早々に手のひらを返し、彼を見捨てたファン———立花はすべてを失い、自身のヒーローとしての意味を見失ッ多結果、落ちぶれるように選んだ道が地下格闘技場「ファイティングナイト」だった。
(ヒーロー…って、なんだろう…)
立花は迷うように表舞台から姿を消し、地下へとやってくる。そして、FNで組まれた彼専用のメインイベント「Hero's Mask」と呼ばれる試合を通じ、立花は多くの強敵と出会い、闘い、犯し、時には犯され———「自身のヒーローとは何か」「負けたものはヒーローになりえないのか」という疑問に立ち向かった。そして、水瀬慧との試合を通じ、自分自身のヒーローとは何か、それを掴みかけた時———事件が起きた。———チャンピオンである寺田智が襲撃である。彼は、水瀬慧の弟をFNは誘拐しており、それを盾に試合をさせていることを立花に告げた。立花は激昂、寺田智に詰め寄るも、あっさりと返り討ち。立花は寺田智に完膚なきまでに叩きのめされ、犯され———利き腕を痛めつけられると、FNの長期療養を余儀なくされた。…失意のうちに、腐れ縁ボクサーである如月のアパートへと匿われ、自問する。…本当のヒーローとは何なのか。敵は強大、それでも自分自身はヒーローになりえるのか。負けたらヒーローにはなれないのではないか。現に、自分は主犯の一人である寺田智に一発も拳を浴びせられず、無様に負けた。———オレはこれから、どうするべきなのか。
立花は布団にくるまれながら、苦悩する。そんなところから、物語は、再び動き出す…
コンコンコン
「入りたまえ」
「失礼します」
———FNの上層部、その一角の社長室。
畔柳社長のもとに、秘書の白木がやってくる。
「畔柳社長、Curse Braker!に関する後片付けがすべて終わりました。改めて、結果について報告します」
Curse Braker!。水瀬慧を主役としたメインイベントで、畔柳社長が一番に力を入れていたイベントである。畔柳社長はこのイベントを成功させるためにあらゆる手を使い、多くの選手を捻じ曲げ、役員の力を使い———結果、Curse Braker!は大成功、過去最大級の売り上げを達することとなった。
「うむ!では、今日も張り切って頼む!」
「…張り切って…ごほん。では、まずは———
水瀬慧を主とするメインイベント、「Curse Braker!」ですが、全ての試合を終え、後片付けも終わりました。…水瀬慧は小川信二の要望通り、JAILへ収監されました」
———JAIL。FNの施設の中にあるいわゆる「独房」である。ある程度の成功実績を積んだボクサーが申請、許可が下りれば敗者をJAILに監禁、文字通り「好き勝手」出来る場所である。FN側は何をしてもノータッチ、という場所であり、敗者はその間「長期休養」もしくは「選手登録抹消」という扱いとなる。水瀬慧は、メインイベントでついに反逆者の信念を折り、格下である小川信二に飼われる、という未来に陥り、現在は「長期休養」中となっている。
「うむうむ。まあ、信二君も頑張ったからね、ひとまずのご褒美、ってやつだね。…にしても、慧君が信二君に、か。信二君は慧君を深く恨んでいたからね。…JAILで無事にやっているといいが…」
「それについては、こちらはノータッチです。流石に殺す、などということはないと思いますが…」
「まあ、そこは信二君任せだね。それに、どうせ慧君もそのうち脱出するに違いない」
「…畔柳社長は、水瀬慧が脱出する、と?」
「うーん、近いけどちょっと違う、かな?———彼はいい友達を持っている、ということさ」
「救出される、ということですか」
「ま、それは今後のお楽しみだね。———では、次に…
天河翼君について頼む」
「はい。天河翼に関しては、Curse Braker!にてこちらの邪魔をする恐れがあると判断、滝沢駆により同じくJAILに監禁されています」
「いやいや、今思えば結構乱暴な手段だったね。慧君との試合をちらつかせてリングに上がったところに駆君がドン!…Curse Braker!を成功させたいとはいえ、僕も少し冷静ではなかったかな」
「こちらについては、現在今田晃樹、吉崎圭太がJAILを管理、天河翼を監禁しています」
「ふむ?信二君はともかく、晃樹君と圭太君には権限は与えていなかったが…」
「どうやら、駆の判断だそうです。駆は翼を抱く趣味はないそうで」
「はっは、駆君らしい。———彼は慧君をずっとチェックしていたからねえ」
「同時、翼を痛めつけることで「彼の本気度を見たい」とのことです」
「ふむ。本気度、か」
「はい。どれだけ水瀬慧を翼が想っているか、ということだと思いますが…」
「間違いないね。翼君の慧君を想う気持ちは翔君に勝るか、劣るか…ふふ、駆君も面白いことをする。そのまま様子見と行こう」
「かしこまりました」
「そう言えば、彼と一緒にいた———
獅童勇斗君は?」
「———翼との試合後、何かもめたようであれ以来接触はないようです」
「…ふむ、彼は確か…そうだ、慧君と試合をしたいと来て試合させたね。慧君を勇斗君が押し倒したと聞いたが…慧君を想う翼君、そんな慧君を押し倒した勇斗君。ま、ケンカでもしたかね、少し様子を見ようか。では次は、…
沙月翔君と
伊東涼介君だ」
「はい、あの二人も水瀬慧と一緒によく練習をしていた、というところからCurse Braker!の邪魔をされる懸念があったため、伊東涼介は水瀬快の実験台で病院送りに、沙月翔も北村一輝に襲わせ病院送りとしています。沙月翔は一度、脱走を脱走を図りましたが、再度捕えています」
「うむ、翔君も涼介君も、よく慧君を支えていてくれたからね。…彼らの様子は?」
「翔、涼介共に、大怪我で治療中です。…特に、翔の方は内臓に達するまでのダメージを受けています」
「なるほど、一輝君も容赦がないね。…そう言えば、一輝君と翔君は中学時代の因縁があったね。翔君に勝てなかった、とかなんとか…いやはや、恨みとは恐ろしいねえ。今の虎視眈々な一輝君からは想像もつかないよ」
「はい。それと、涼介に関してですがモデル事務所からの催促が来ています。そろそろ一度戻してくれ、と」
「ふむ。涼介君か。モデル事務所にイケメンで強そうな子を欲しい、と言ったら彼が送られてきたが…なかなかに彼も素質があったね」
「はい、スピードを活かしたボクシング、ここのシステムへの順応、何よりもそのメンタルの強さ。適性があったと言えます」
「ノリいいもんねえ、彼。僕とどこか似ている気がするんだよねえ。そう言えば彼、結構ウケの素質も高いよねえ。いつか慧君との試合も…」
「…社長、報告の続き、よろしいでしょうか?」
「む、失礼失礼…涼介君に関しては怪我が治り次第、一度モデル事務所に戻ってもらおうか。FNへはまた機を見て戻ってきてもらいたいが…ま、地下も見せちゃったし、深入りは厳禁だね。ほどほどで放逐と行こう」
「かしこまりました。———では…
次は広瀬孝について」
「む、広瀬君かね?何かミスでもしたのかい?」
「いえ、広瀬はCurse Braker!以降、我々のことを嗅ぎまわっているようです。うまく水面下でやっているつもりのようですが…たまたま、その動きを発見しました」
「なるほど。確かに、広瀬君も翼君や立花君…今回の試合で犠牲になった選手との関係は深いからねえ」
「彼らの行方、とりわけ、JAILの場所を探しているようです。おそらく、救出目的と思われますが…どうしますか、処罰しますか?」
「いや、放っておいて構わないよ。彼は優秀だ、処罰して仕事できなくなっても困るしね。それに、JAILは治外法権。仮に彼が場所を特定して慧君や翼君を助けたとしても何も言えない、というのが本音だね」
「かしこまりました。では、広瀬も様子見とします。あとは…
立花将について、この報告が最後となります」
「———では、報告を頼む」
「立花将もまた、水瀬慧に何かを感じているようでした。そのため、寺田智の方が直々に手を下す、とのことで立花を負傷、長期休暇を取らせています」
「そうだったね。しかし、あの寺田智君が直接手を下す、とはねえ」
「立花はFNでも上級クラス上位、と手練れの中の手練れです。———寺田智、滝沢駆レベルでなければ無理かと」
「まあ、確かにね。しかし、少し悪いことをした気もするねえ。反省はしないが」
「…さすが、畔柳社長です」
「———水瀬慧君、天河翼君、沙月翔君、伊東涼介君、立花将君。君らのおかげでCurse Braker!は無事成功を収めた。さて、次は…」
「次は…?」
「どん底まで落とされた彼らがどう這い上がってくるか。それこそが、FNの次のメインイベント、ってことになるかな」
畔柳社長はにこやかに、だが、どこか陰のある「悪の顔」をしてみせるのであった…。
「…ヒーロー…ヒーロー…」
如月のアパート。ヒーローと呼ばれたオレ、立花将は布団にくるまりながら痛めつけられた腕をじっと見つめた。———あの日、慧との試合後すぐに寺田智に襲撃され、慧の真実、慧がさらわれた弟を助けるためにFNへと飛び込んだということ、FNの悪事を知ったオレは、毎日が苦悶の日々だった。
(ヒーローでありたい、ヒーローとは何か、負けたらヒーローなんて名乗れないのか…そんなことを考えてこの世界へ来たけど、それどころじゃないよな。…負けても、負け犬でも。オレは慧を助けたい。…今どこで、何をしている、慧…)
立花はふう、とため息をつく。
(…悶々とするな…。あの日のCurse Braker!はオレも見た。慧が壊れた瞬間をモニターを通じて、オレも見た。小川信二なんかに…いや、小川信二だからこそ、か…?あいつに敗れて……あああ、もやもやする…!慧、どこにいる…!)
オレは右手をぐっと握って見せるも———その骨にびしっと痛みが走る。
「…ちくしょ…」
こういう時は、体を動かしてサンドバッグを叩くに限る———そう思うのだが、体がそれを許さない。
「…オレにもっと力があれば、な…」
オレが自分自身の無力———あの日、寺田智に一方的に負けた襲撃され、一方的にボコられたときの無力さを感じながら、さらにため息をついたその時!
「おい、うっせーぞヒーロー!」
ボスッ!
「うおっ!?」
———オレの顔面に枕が降ってくる。投げたのは当然、このアパートの持ち主、如月雪だ…が。
「ったく、毎日ため息ばかりつきやがって…落ち着いて抜けねーじゃねーか」
その如月は下半身素っ裸でオレを見下ろす!そのブツもバッキバキに勃起していて———
「っだああああああ!如月!オレがいるんだぞ!?抜…抜く…なら…その…人のいない場所…」
「っせーよ、オナごときで顔を赤らめてる童貞ヒーローが生意気言ってんじゃねえ」
「ど、童貞ちゃうわ!」
「はいはい、FNで童貞捨てるような素人が偉そうに言ってんじゃねーぞっと。つーよりも、ここは俺の部屋だ。俺の好きにさせろ」
「…へいへい、邪魔ものは布団に被ってますよーだ」
…オレはそう言うと、布団を頭まで被り———ゲイ動画の音声流れる真っ暗な部屋の中、さらにオレは闇の中へと逃げ込んだ。…そして。
「…なあ、如月」
「なんだ、童貞」
「もう童貞じゃねっつの!…じゃなくて、慧って、どうなっちまうんだ?」
「ああ?」
「…信二に負けて、心まで折れちまっただろ。あいつ、選手としてやっていけるのかなって」
「…JAILだ。あいつはあそこに収監される。大々的に発表されていた」
「…JAIL」
「そうだ。優れた功績を上げた選手にFNが気まぐれで与える…牢獄みてえなもんだ」
「じゃあ、慧は?」
「…信二によっておそらく性奴隷だな」
「…なんてこった」
「だが、今のお前にはどうしようもねえ」
「…ああ」
「全ては治ってから、だ。焦るなよ」
「…くそ。はああ…」
オレがため息をついた、その時。
のっし!
「うおあっ!?」
「———気が変わった。一人で抜くのもつまんねーからな。…相手しろよ、ヒーロー」
「は、はあ!?また?!お前、昨日もそう言って…」
「んだよ、乱暴されるほうが好きだろ、マゾヒーロー」
「マ、マゾちゃ、ちゃうわ!」
「なら———はねのけてみろよ、オラ、どけてみな?」
如月はそう言いながら、布団を引っぺがしあっという間にオレに馬乗りになると———オレの両腕を抑えながら、その顔を近づけてくる。…そして。
———ちゅっ
「…んっ…」
ちゅっ…ちゅうっ…ちゅ…るっ…
「う…はっ……あっ!」
「…は。やっぱ、押し倒されて感じてんじゃねえか」
如月の言うとおり。…オレは腕を抑えられて拘束されると、如月のキスで喘ぎ声をあげる。如月のキスは、激しいんだけどどこか優しくて、気持ちよくて…オレはこうされることが特段に嫌、というわけではなかった。…ヒーローのイメージが崩れる!っていう心配はあるけれど、如月のやつはこうやってオレにいつも覆いかぶさるも、オレはそれをどこか受け入れている。
「———さあ、今日も楽しもうか、ヒーロー?…ケツだしな」
「…う…」
その証、と言わんばかりにオレは如月に言われる通り両足を自らM字に開脚させると———
「…は。こんな姿をファンが見たらどう思うかな?」
「……別に…ファンは関係ない…如月だから…」
「はん。随分可愛いこと言うじゃねーか。んじゃ、今日も楽しませてもらおうか」
———オレは、今日も如月にその体を捧げ、互いに性欲を解放させるのであった…。
【続く】