どれほど時間が経っただろう。身体中がまだどこか熱を持っていて、呼吸の乱れも完全には収まっていない。男だった頃の自分なら、一度ピークを超えればすぐに落ち着いていたはずなのに、いまはまるで違う。女の身体がもつ余韻の長さに、僕は驚きを通り越して、微妙な戸惑いと恍惚が入り混じったまま、ベッドの端に背を預けていた。
「はぁ……はぁ……」
小さく開いた唇から漏れる息が部屋の静寂に溶けていく。先ほどまでの快感が脳に残り、思考がまともに回らない。まさかここまで波が長引くなんて――男だった頃には想像もしなかった刺激で、全身がまだ小刻みに揺れている。
オナニーよりもさらに激しい快感を萌に与えられ、翻弄される事態に陥った。結果、僕は今の茉莉の肉体の限界を超えるほど一気に持っていかれてしまい、いまは力が抜け、どうにか呼吸を整えるだけで精一杯だ。ヒクヒクと自分の股間がまだ動いているのを感じる。男と違ってサッと消えない快感に身体がまだ支配されているのだ。
そんな僕を、ベッドサイドから萌が見下ろしていた。彼女は落ち着き払った表情で、まるで僕をじっくり鑑賞するかのように視線を動かしている。
彼女の息はほとんど乱れていないようだ。むしろ、笑みすら浮かべ、勝ち誇った雰囲気が漂っている。その姿に気づき、僕は頬が熱くなる。
視線を下に落とすと、脚の付け根あたりがまだじんわり怠く、さっきまで感じていたほどの強烈な快感はないが、軽く震えが残っている。男の体では想像もできない余韻が、しつこく残っていて息苦しさにも似た感覚を引きずっているのが分かる。
それが、萌に自分の秘部をいじられ、言葉でも責められ、快感が幾重にも高まった結果であることを思い出すだけで、頭がくらりと揺れる。
彼女――萌は、僕の変わり果てた様子を楽しむように、わざとらしいほど視線を這わせてくる。とくに、まだショーツがズレたままの腰回りや、汗ばんだ下着の境目を舐め回すように見ている気配があって、内心で叫びたくなるような恥ずかしさが込み上げる。
だけど同時に、その羞恥と“僕が知らなかった女の快感”を克明に見られているという倒錯感で、また体がビクッと震えてしまう。男としてのプライドが揺らぎながら、女としての感度が名残を引きずっているのだ。
「はぁ……っ……」
吐息をこぼすたび、胸の動きもゆるやかに上下する。視線を上げると、萌がくっきりと笑みを深めているのが見えた。彼女は軽く首をかしげ、まるで「お疲れさま」とでも言うような口ぶりで切り出す。
「ねぇ、茉莉すごく乱れてたよね。私こんな茉莉初めて見たかも」
その含みある低い声を耳にして、僕は胸がひどく騒ぐのを感じる。身体がまだ余韻に支配されていて、問答する気力がない。
顔をうつむかせたまま、「う……」と短く呻くように反応すると、彼女はさらに追い打ちをかけるかのように腰を沈めて顔を近づけてきた。
「身体、ひくひくさせたままじゃん。すごい声出てたよ?」
色っぽい声に、思わずまた顔が熱くなる。しばしの沈黙が続くなか、僕は首を横に振るように抵抗しようとするが、言葉にするだけの余裕がない。
男の頃なら一度弾ければ満足だったはずなのに、この女の身体はいまなお震えるほど名残に浸っている。どうしてこんなに長引くのか――それが男には理解しがたい新鮮な感覚で、同時に頬を赤らめる屈辱というか混乱が大きい。
彼女はそんな僕の困惑を楽しむかのように、手を伸ばして汗の浮いた髪をそっと撫でる。それだけの動作なのに、痺れるような甘さが首筋を走り、思わず「あ……」と声をこぼしてしまう。
男だったらもっと堪えられただろうに、女のカラダというのは全身が性感帯になっていて、一旦スイッチがはいるともう止まらないみたいだ。体に電気が走ったようになり、微妙に痙攣をおこす。
「わぁ……すご、これだけで感じてるの?」
挑発混じりに言われるたび、僕の心拍が速まる。まるで彼女が最初から全て知っていたかのようだ。オナニーとは比べ物にならない快感を味わい、いまも復帰できずにいる姿を、彼女が舐め回すように見ているこの状況。
プライドが刺激されると同時に、身体はなお火照りを覚え、後ろめたさが混じった倒錯感がさらに僕を恍惚の底へ沈めていく。
しばらく彼女はそれを満喫するように微笑を浮かべていたが、やがて軽く顔を寄せ、まだ呼吸の落ち着かない僕に口を開いた。耳元にほんの少し息が触れ、密やかな囁きが聞こえてくる。
「なあ……お前、誰だ? 茉莉じゃないよな?」
心臓が止まりそうになる。なぜ?僕は今完璧に茉莉のカタチをしているはずだ。萌よりは小さいとはいえ同級生よりも大きく実った胸、整った顔、運動している女特有の締まった身体、何も無い股間……どこを取っても茉莉そのままのはず。
なにより、萌になぜその発想が生まれるのか?
「な、何言ってるのお姉ちゃん……?」
とぼけて逃げようとする僕をさえぎるように萌は続ける。
「まずな、茉莉は『お姉ちゃん』じゃなくて『萌ねぇ』って呼ぶんだよ」
しまった。呼び名という基本的なところでの違和感か。でも、それくらいならなんとでも逃げられる。そう考えていた僕に深谷萌は続ける。
「それにな、"オレ"も深谷萌じゃないからな」
「え……」
「おそらくお前も同じだろ?オレもこの女のカラダに、憑依薬ってやつで乗り移ってんだよ」
ベッドの端に背を預けたまま、僕は耳の奥でガンガンと心臓が鳴るのを感じていた。
目の前には萌の姿をした存在が、部屋の淡い照明の下で不敵な笑みを浮かべている。憑依薬、今憑依薬って言ったよな?だとすると、僕と同じ……
その問いに動揺しつつも、「……どういうこと」と声を震わせると、萌は「まずはお前が正体を明かすのが先だろ」と促す。まるでこちらが隠し事をしているのを知っているかのようだ。これは、もう無理だ。”彼女”が本当は何なのかわからないが、憑依薬のことまで知っている以上、これ以上とぼけることは不可能そうだ。
「僕は……種川優太っていうんだ」
観念したようにそう打ち明けると、心臓がさらに騒いだ。男の意識をもったまま茉莉に憑依しているなど、誰にも話す気はなかったのに、いまこの“萌”の視線と雰囲気に完全に押され、口を滑らせてしまう。
僕が本来の男の身体を離れて、どうしてこの妹の身体を手に入れたのか――あの“憑依薬”のことや、狙いは最初から深谷萌だったが彼女を乗っ取るのは惜しくなって、妹のほうに乗り移った経緯など、ほとんどすべてを吐き出してしまった。
***
「……それで、こうなってるんだ」
弱々しい声でそう締めくくると、萌は美しい顔にしっかりと笑みを刻んだ。いつも見慣れた(はずの)深谷萌の整った輪郭とくっきりした瞳が、どこか別の男の冷静さや狡猾さを帯びているように見える。その表情をまぶしく感じながら、僕は汗ばんだ手のひらをこっそり拭った。
「なるほど、種川優太……か。」
萌の姿をしたそいつは、すっと髪をかき上げながら、どこか享楽的な口調で続けた。
「じゃあ、約束だしな。オレのほうも正体を言うとするか。……実は、オレも本来はこの女……深谷萌じゃない。枝川って教師だったんだよ、30代半ばくらいの」
「え……先生……?」
その言葉に、頭が真っ白になる。深谷萌の身体をいま操っているのは、男で、しかも教師――そんな展開、想像したこともなかった。
一拍遅れて「最近、行方不明になった男性教師がいる」という噂話を思い出して、背筋に寒気が走る。高校の教職員室で「枝川先生が失踪」というニュースが囁かれていたのを耳にしていた。まさか、それが目前にいる“萌”の正体とは……。
「3ヶ月くらい前に、この 深谷萌の身体に入ったんだ。もちろん最初はちょっと戸惑ったけど、すぐに慣れた。……なにせ、この女は美人だしな? オレはお前が憑依してるその子、茉莉に恋してたんだよ」
その一言に、僕は息を呑む。枝川という男教師は、教師でありながら茉莉に恋してしまったのか。
「なら、どうして……」と問いかけそうになるのを遮るように、萌の顔をした枝川が続ける。
「本当は茉莉に憑依しようと思った。あの子に近づいて、自分のものにしたかったからな。けど、ギリギリで思い直したんだ。やっぱり本人の意識を消しちまうのは勿体ないって思って。代わりに姉の身体を使えば、茉莉に思う存分近づけるだろ?」
ぞわりと背中が粟立つ。確かに妹本人を乗っ取るよりも、姉として身近にいられれば、茉莉との物理的距離は近い――発想としては僕が「萌の意識が消えてしまうのは惜しい」と妹に憑依したのと同じ論理。
「そうして今に至るわけだ。だからお前が俺をどんな目で見ていたのかってのも、オレは3ヶ月前から気づいてたぜ? 種川クン。女って、男の目線に結構気づいてるもんなんだよ。……だからわざと太ももとかをチラ見せしてやってたのさ」
再びその美しい唇で嘲笑うような口調が紡がれ、僕は思わず短く息を飲む。3ヶ月も前から、僕が遠巻きに萌を狙っていたのを知っていただと?
「行方不明の枝川先生って……本当にあなた……なのか?」
なんとかそれだけを返すと、萌の姿の枝川は涼しい顔で頷く。
「ああ、男の身体なんか捨てちまったのさ。 ‘女の子の体’ は最高だよ? 可愛い姿で振る舞えばみんなチヤホヤするし、茉莉にも堂々と近づけるだろ? ちょっと ‘姉’ を演じればいいだけだしさ」
この言葉に、僕は複雑な胸の痛みを感じる。自分も同じように「萌を奪うのが惜しくなって、妹を選んだ」という思考に至ったわけで、本質は似たような行動原理だった。こんなにも皮肉な一致があっていいのかと、変な苦笑すら漏れそうになる。
だけど根本的な違いもある。枝川という男は、教師という立場でありながら、女生徒(茉莉)に恋してこんなリスキーな真似をしている。生徒を導くべき聖職者たる教師がそこまでするのか……と思いつつ、同時に「お前も大差ないだろ?」と自問してしまう。僕も男の意識を保ったまま妹に憑依して、姉の萌に近づこうとした人間だ――枝川から見れば同族のようなもの。
「お前だって似たようなもんだろ? 茉莉を乗っ取るくらいなら、姉の意識を消すのが惜しいから妹を選んだ……というより、姉に憧れてて、あえて妹のカラダを『使った』んだよな? 種川クン。」
そう切り出され、僕は言葉を失う。まさかここまで自分の思考を見透かされるとは。枝川と名乗るこの男は、僕の目をじっと覗き込むと、最後に一言、突きつけるように告げた。
「で、どうする? 茉莉として暮らすのを続けるか? オレは萌だから、ちょうどいいかもしれないよな?」
その問いには即答できない。そもそも茉莉の身体で姉に近づこうとしていたけれど、姉はもう別の男に乗っ取られている――こんな皮肉があるか?
頭が混乱する一方、枝川(=萌)の美しい顔がにやけているのを見ていると、理性が勝手に背筋を凍らせる。事態は僕が思っていた以上に、歯車がズレた状況に陥っているのだ。
「さて、お前が誰なのか、話は聞けたし。次からはよろしくな、相棒……? それとも 敵同士になるか?」
もう一度、美しい唇が言葉を紡ぐと、そのまま萌は軽く背を向けた。部屋の空気がひどく重たく感じられ、僕は苦い唾を飲み込む以外なかった。結局、男であるはずの教師と、男の意識を持つ僕が、それぞれ姉妹の身体を奪っているという奇妙すぎる事実を突きつけられ、しばらくは言葉も出ない。
このまま、どうなってしまうのか――。僕たちは同じ“家族”として振る舞うのか、それとも憎み合うのか。姉妹の体でありながら、中身は男同士……。いっそう背徳感が増した世界に、僕は足を踏み入れてしまったのだと、身震いしながら改めて痛感するしかなかった。
言葉がうまく出てこないまま、僕はベッドの端に腰を落としたまま、目の前に立つ萌の姿を見上げていた。いや、正確には“萌の身体”を借りている男――枝川という名の教師が中にいるはずなのに、その顔はまぎれもなく深谷萌の美しい輪郭を保ち、優雅な佇まいを崩さない。
その彼女(彼)が、突如スカートのジッパーに手をかけ、上着のボタンをゆるめ始めたとき、頭が真っ白になる。まるで戸惑う僕を楽しむかのように、一枚ずつ服を“スルスル”と脱ぎ去っていくのだ。
「何をやってるんだ……」
慌てて声を上げかけるが、身体の火照りが残るせいか息がうまく回らない。まだ先ほどの衝撃が抜けきっていないのに、またも新しい波がやって来そうな嫌な予感がする。
萌の姿をした枝川は、微笑んだまま上着を床へ落とし、シャツのボタンを外し始める。動作は落ち着いていて、まるでモデルが着替えをするように滑らかな腕や肩が次々にあらわになる。
あくまで外見は深谷萌であり、その華奢な首筋や胸もとのラインが徐々に露わになっていく――かつて男として憧れた相手が、すぐ目の前で服を脱ぎ、惜しげもなく裸体を晒している事実に、僕の心臓は酷く打ち震える。
「何って? 君は私のこと好きなんでしょ?」
低くて艶やかな声が、萌の形を借りた唇から放たれる。急に男言葉から、萌らしい言葉に戻る。しかし、それは姉らしい柔らかさよりも、男の持つ自信めいたニュアンスを帯びており、僕の脳を二重三重に混乱させる。
「いや、だから……やめろ……」
かすれ声で訴えようとするが、萌の姿をした枝川は意に介さない。シャツを脱ぎきると、今度は下着のホックに手を伸ばす。その動作に続いて、ブラがふわりと緩み、かき集めるように床へ落ちていった。
「ちょ…待ってくれ、本当に……深谷さんの真似なんて……!」
なんとか声を出しても、焦りの色がにじみ出るだけ。だけど彼女(彼)は滑らかな胸元をさらしつつ、嘲笑うようにこちらの方へ近づき、一言、囁いた。
「嫌なら止めていいんだよ? だけど……本当は男の意識のくせに、”この女”に惚れてるんでしょ? 私は茉莉に惚れてるし、君は萌に惚れてる。相思相愛じゃない――」
その台詞を言い放つと同時に、萌の整った顔が少し傾き、にっこりと微笑む。まるで本物の彼女がそこにいるかのような愛らしさを醸し出しながら、その中身は全く違う男――枝川が“女らしい仕草”を意図的に操っているらしい。
見た目は確かに美しい。長い髪がさらさらと揺れ、曲線的な肩や鎖骨、そして想像していたよりもしっかりボリュームのある胸がむき出しになって、僕の視線をさらう。胸にはわずかに形のいい頂があって、微かな灯りが汗ばんだ肌を照らしている。見惚れてはいけないと頭で思うのに、男だったころの性欲がそのまま沸き起こってきて視線が外せない。
「……やめろ……深谷さんの真似をするな!」
必死で声をあげるが、内心は動揺と興奮が混じって、押しとどめる言葉も力もない。紛れもない深谷萌の声と姿で、しかし中身は30過ぎの男教師の枝川だと考えると背徳的すぎて、息がつまるような甘さを覚える。
そんな僕の様子を見て、彼女(枝川)はくすりと微笑む。次の瞬間、するりとスカートも下着も下ろし始める。
視線を逸らそうとしても、どうしても目が釘付けになってしまう。薄暗い照明のなか、深谷萌の体が次第に露わになる。以前の男の自分が心底求めていたものがそこにあるのに、いまは中身が男だ――という事実が混沌をきわめさせる。
完全に全裸になった彼女(彼)は、その華奢でいて女性らしく整ったフォルムを存分にさらしたまま、不敵な眼差しでこちらを見下ろしている。男同士の視線が交錯しているわけなのに、この光景だけならまるで“女神”が僕という”オンナ”を誘惑しているみたいだ。
「……ねぇ、これが深谷萌の体だよ。君がずっと欲しかったんじゃないの?」
挑発するような言葉を吐き出すと、僕が静止する間もなく、するっと僕の腰付近に手を伸ばしてきた。恐怖というよりも、あまりに想定外の展開に体がフリーズしそうになる。
「や、やめろってば……!」
一応声を上げるが、本気で拒めるだけの力が入らない。先ほど絶頂したばかりで、思考力も握力も落ちているのを自覚しているし、この倒錯的な魅力に飲まれつつある自分がいる。
彼女(彼)は悪戯っぽい笑みを浮かべて「嫌なら止めればいいんだよ?」と繰り返すが、僕はその言葉どおりに止める動きができない。枝川もその弱みをわかっているのか、ゆっくりと僕の服を脱がせにかかる。
「くっ……ちょ、やめ……!」
声を荒げたところで、萌の美しい顔に余裕の笑みが浮かぶだけ。男の意識であっても、僕は女の身体だ。腕や脚の力はそれほど強くないし、先ほどの行為でへとへとになった状態――抗うには明らかに不利だ。
しかも、目の前にいるのは大好きな“深谷萌の身体”。それを中身が男である教師がコントロールしている。
さらに、「抵抗しないんなら、このまましちゃうよ?」なんて言葉を囁きながら、僕が茉莉のカラダを借りて着ている下着をするすると剥ぎ取っていく。
僕はもう何が何だかわからなくなり、二重三重の意味で心臓が暴走している。彼女の色気、憧れの姿、しかし中身は男――そこに自分もまた“男の意識を持ちながら女の体”という摩訶不思議な図式が重なっているせいで、本当に世界が歪んでしまったようだ。
「やあ……っ」
ブラの紐もじわりと下にずらされて、先ほどとは違う意味の恥ずかしさに鳥肌が立つ。男なら堂々としていられたかもしれないのに、いまはまるで弱々しい女の子みたいに震えてしまう――この身体が、反射的に嫌がるように身を捩るのだ。
にもかかわらず、どこかで「深谷萌に脱がされるのも悪くない」と思ってしまう自分がいて情けない。それは本来の“深谷萌”が僕にとって絶対的に魅力的だったからだろう。
やがて、彼女(彼)は最後のショーツ一枚を外そうとしつつ、再び頬へ軽い吐息を吹きかける。鼻先で柔らかい髪が揺れ、萌の整った顔からは甘い香りが漂ってきて、頭がクラクラするほどだ。そして、僕も似たような匂いをまとっているのだ。僕たちは姉妹なのだから。
「ほら、こうやって、二人とも中身は男同士なのに、女同士の見た目で服を脱がし合う……悪くないシチュエーションだと思わない?」
ふざけた調子の囁きが耳を犯し、唇が震える。何も返せず、僕はただ目を泳がせるのみ。背徳的な状況に心が軋むが、身体は微妙な熱を帯びて彼女の指先を感じとってしまう。
さらに彼女は、深谷萌そのものの声色で「私、茉莉のことが好きだからさ……ね、相思相愛でしょ?」と続ける。
男同士の意識が姉妹に憑依している――そんな事実を突きつけられる。外見はあくまで“美少女”同士。頭の中で理解がぐちゃぐちゃになりそうだ。
「あ……っ、やめろ……」
一層弱い声を上げるが、それはかえって誘っているようにも聞こえるかもしれない。すると、萌の美しい唇が笑みに歪み、まるで己の勝利を確信したかのようにそっと耳元で囁く。
「――それなら、このまま男同士だけど、”女と女の姿”で一緒に堕ちてみる? どんな気分になるのか……試してみたいだろ?」
その言葉に、全身の血が逆流するかのような感覚が襲う。倒錯に次ぐ倒錯。これは夢なのか現実なのか――分からないまま、僕の吐息はまた浅く荒くなっていく。
「……っ……」
反論もできず、身体を抑える腕がじわじわ服を剥いでいく。この夜、いったいどれほど深い闇へ落とされるのか予想もつかない。それでも、萌の姿を持つ枝川の艶やかな声と仕草が、嫌がる僕の言葉をどこか甘美に打ち消していくのを感じていた。
こうして、僕と“萌”は「男の精神同士」でありながら、「女の身体同士」で、さらに倒錯した悦びの底へ突き進んでいこうとしていた。拒否しきれない背徳感と、この身体が持つ止められない官能が、僕の意志をも呑み込むかのように迫ってきたのだ――。
ベッドの上で、僕は逃げ場を失ったように身を強張らせながら、いま“萌”の姿をした男――枝川――を仰ぎ見ていた。
ついさっきまで下着を脱がされ、どうにか抗おうとしたものの、身体は女の姿であり、先ほどから続く興奮に翻弄されている。加えて相手もまた、男の意識とは思えないほど巧みに萌の声や顔、体を扱い、妖艶な仕草で僕を追い詰めてくる。
「茉莉……茉莉……」
深谷萌の整った顔が、紅潮したような色を帯び、わざと上気した息を漏らす。見慣れた優美な頬にはほんのり汗が滲み、鼻先から熱い吐息がこぼれてくる。
まるで本物の女の子が切なそうに恋人の名を呼ぶような声色で「茉莉……」と唇が震え、僕の胸の鼓動がさらに乱れ出す。この正体が男だということを一瞬忘れそうになる。
「や、めろ……深谷さんの顔で、そんな……」
抵抗のつもりで言葉を投げるが、声が上ずってしまい、もはや抑えの効かない自分の緊張が伝わってしまう。
彼女――いや、枝川は軽く首をかしげながら、まるで僕の反応を愛しむように微笑む。深谷萌そのままの表情であるはずなのに、その眼差しには男の勢いと狡猾な駆け引きが潜んでいる。
「ふふ……いいじゃない、茉莉?ね……?」
萌の声で、しかし低く艶やかに囁かれると、皮膚が鳥肌を立てる。まるで男同士の呼びかけにも思えるのに、外見は美少女そのもの――この矛盾こそが倒錯の極みだと感じ、頭がクラクラする。
次の瞬間、枝川は上体を傾けて僕の上にかぶさるように身を寄せてきた。ブラから覗く胸がちらりと揺れ、こちらの肌に触れようとする。あまりにも生々しい女体の温もりに、息が詰まりそうになる。
「姉妹同士の単なるスキンシップだよ?……だから、遠慮は要らないだろ?」
揶揄するような言い回しに、僕は無言で唇を噛んだ。……理解を超えている。
しかし、彼が茉莉と呼ぶ声があまりに甘く、耳に優しく馴染みすぎて、男の時のような拒絶感が湧かない自分がいる。むしろ、この容姿で、このように連呼されると、身体が余計に勝手に反応してしまうのだ。自分がもともと茉莉という女の子だったかのような気分にさせられている。実際いまは、カラダは茉莉なのだ。僕の精神がそれを認めてしまえば、僕はこれからもずっと茉莉でいられる。
「はぁ……はぁ……」
僕のほうも浅く息を吐き続ける。先ほどの行為の余韻がまだ消えず、体の中で奇妙な熱がじわりと蘇ってくる。
枝川――萌の形をした彼は、その様子を捉えてさらに唇を緩めると、自分の胸元をあえて近づけてきて、汗ばんだ肌を密着させようとする。否応なく目に入る美しい鎖骨、グッと寄せられた白い肌の谷間がまぶしく、僕は「う……」と視線を落とした。
「ねぇ、本物の萌の身体なんだよ。私のハダカ、ちゃんと見てよ?最高でしょ……茉莉、ねぇ?」
鼻先で呼気を揺らしながら枝川が言う。もし本来の深谷萌がこの光景を見たら悲鳴を上げるかもしれないが、いま僕の精神はその事実を考えるよりも、目の前の誘惑に押し流されそうだ。何しろ大好きだった姿がここにあり、その身体が紅潮したような色気を放ち、僕を絡め取ろうとしている。
「嫌なら振りほどけばいいんだよ……男同士なんだから」
「はぁ…あ……やめ……」
声を震わせても、枝川の動作は止まらない。彼は萌の整った顔をわずかに傾け、上目遣いで僕を見ながら、紅潮したように頬を染めていて、まさに憧れの深谷萌が息を荒げている姿そのものだ。
そのフェイクとも本物とも取れぬ色気が、僕の五感を乱す。男と知りつつ、見た目は理想的な美女――この矛盾に体がマヒする感覚に陥る。
「茉莉……ねえ、もっと一緒に気持ちよくなろう?……ほんとは嫌じゃないんでしょ?」
その言葉はまるで性的な誘い文句そのもの。しかも思い描いていた深谷萌の表情で、声で、少女のように紅潮しながら発せられるのだから、男である僕も完全に翻弄され、理性の箍が外れかける。
思わず「もう……っ…」と漏らして上体をのけぞらせると、彼はすかさず手を回して僕の胸に触れる。
「ひゃっ……」
少し声が出る。その声も女そのもので、僕の頭は混乱する。
気づけば、彼の顔は至近距離――ほとんど唇が触れそうなほどに迫ってきている。見れば、その瞳は艶を帯び、息も僅かに荒い。完璧な“女”の姿なのに、根底にはオスの狩人の気配が滲んでいて、僕を落とすための手段を選ばないように見える。
また「茉莉……」とわざと息を混ぜて呼ばれる。
「ねえ、茉莉……好きだよ。……オレは茉莉の体に憑依しようと思ってたくらいだからさ……」
萌の顔がかすかに歪んだように見えて、嗤うような微笑が浮かぶ。その瞬間、耳朶にシビれる声が流れこんでくる。まるで本物の萌のような甘い響きで「茉莉、茉莉……」とささやかれ、僕は完全に身動きが取れなくなる。
中身は男だとわかっていても、視覚も聴覚も“深谷萌”そのものに支配されていて、否応なく意識が溶けかかっていた。
***
僕の上に覆いかぶさるようにして、萌の姿をした枝川が、深く息を吐くたびに、その体温と甘い吐息が肌に重なってくる。先ほどから互いに衣服は乱れきり、男の意識同士が女の身体をまといながら、否応なく背徳の深みへ誘われているようだった。
必死に「やめろ……」と抗う言葉を口にするものの、彼女(彼)はまるで耳を貸さず、むしろ見た目そっくりそのままの深谷萌の仕草と表情を使って、こちらを誘惑するかのように微笑んでみせる。
「どうしたの、優太くん? 私、深谷萌だよ――」
萌の美しい声が僕の耳元に染み入り、脳がクラクラする。まるで本物の彼女がここにいて僕を呼んでいるかのような錯覚を覚えてしまい、胸が苦しいほど高鳴る。だが、その中身は確かに男の教師のはず。わかっていても、視覚や聴覚が“深谷萌”だと認識してしまい、体が勝手に熱を持ってしまう。
しかも相手が「茉莉」に乗り移っている僕を“優太くん”と呼ぶのは、状況をさらに倒錯させる。視線をそらそうとするが、彼女(彼)は緩やかに笑うだけで、容赦なく僕の胸を揉みしだく。深谷萌の形をした柔らかな指が、僕の胸に触れた瞬間、甘い電流のような感覚が腰から背へ抜け、拒否する力がいっそう萎えていくのが分かる。
もう逃れられない――そんな気がして、喉を鳴らして息を詰めた。
「はぁ……ん……」
自分の口から漏れる甘ったるい声に驚きつつも、体は明らかに昂ってきていた。男ならば一度達してしまえばある程度クールダウンできるのに、いまの女の身体はまだまださきほどイッたばかりの熱を引きずっている。
そんな僕の反応に、あいつはくすりと微笑むと、今度は少し体をずらしてこちらと秘部を重ね合うような姿勢になった。
「ね?こうすると気持ちいいと思うの」
「…はぁ…や、やめろ……」
弱々しい声で訴えるが、その声はもはや喘ぎ混じりだ。枝川が男の意識だと分かっていても、視覚と聴覚と触覚はあくまで深谷萌。
彼(彼女)がそのまま一気に体重を預けてくると、柔らかい胸の感触までもが押しつけられ、僕は呼吸が止まりそうになる。僕の、茉莉の胸と、深谷萌の胸が合わさってやわらかさが伝わってくる。萌の顔が一瞬歪むようにして、再び妖艶な笑みを浮かべた。
「嫌がってるわりには、おマンコすごく熱いよ……?」
ふと気づけば、枝川は僕の太ももをさすりながら、態勢を変えてさらに腰を合わせようとする。彼女(彼)の下腹部――深谷萌の秘部――が、自分の股間のあたりと擦れあうように接触してきて、じわりと摩擦熱が生まれる。男としての勃起感はないはずなのに、女の感度が猛烈に訴えかけてきて、また呼吸が乱れる。
「はぁ……はぁ…や、やだ……」
かすれた声を上げるが、身体はまるで燃料を注がれたかのように昂っていく。そもそも、先ほどからの状態でまともに抵抗できるわけがないのだ。
そんな中、枝川(萌)は自分も切ないような吐息を漏らし、耳元で「ん……」と声を上げてくる。萌をまねているのか、本当に感じているのか。頬が紅潮し、艶やかな唇が半開きに息を吐くその姿を見れば、本当に女の子が感じきっているようにしか見えない。
ギシ…とベッドがわずかに軋む。二人の体が重なり合うたび、濡れた下腹部同士が擦れて、微妙な水音が混じることに気づく。僕は恥ずかしさで頭がぐらぐらしたが、もう止める言葉も力も残っていない。
枝川――萌がどこまで本気で感じているのか、計り知れない。しかし、その顔は完全に女の快感に溺れた表情をつくっており、呼吸が早まり、胸が小刻みに上下しているのがはっきり分かる。視覚は完全に深谷萌を捉え、それに引きずられるように僕の意識も再度高まっていく。
そして、彼女(彼)はさらに腰をグッと押しつけてきた。お互いの裸体が重なり、粘膜が直接触れているような感覚まで混ざり合って、互いの体温がいや増すばかり。
「やば……こんなに……」
僕が息を詰めた瞬間、枝川は「茉莉……!」と甘ったるい声で叫び、こちらを強く抱きしめる。まさに“姉妹の姿”なのに、いまは男同士――その事実が脳裏をよぎり、制御不能な背徳感が一気に爆発しそうになる。
部屋にぐちょぐちょとリズミカルな音が響く。深谷茉莉と深谷萌は今、お互いのマンコを擦り合わせながら、絶頂へとともに駆け上っている。しかし、その中身は……
「ああ……っ、も、もう……!」
音にならない悲鳴にも似た声が口をついて出る。腰のあたりが高波に飲み込まれるように疼き、男の時とはまったく違う形でピークへと駆け上がっていく実感がある。
それと同時に、上から重なる萌の肉体も激しく震え出した。視線を合わせると、萌の瞳もどこか焦点が合わず、紅潮した頬はさらに上気して汗を滴らせている。
「く……茉莉……あ……あっ……」
萌の声で、男が最後の合図のように吐息を漏らした瞬間、二人の身体がピタリと固まる。
「っ……!!はぁっ……!っ……ぁ!!」
「あぁんっ……イっ……!!ううっ……♡♡」
一気に視界が暗くなるほどの衝撃が下腹部から湧き上がり、僕は思わず背を反らせ、甲高い悲鳴めいた声を上げた。同時に萌の体も痙攣するように跳ね、部屋に混じった濡れた呼吸とわずかな水音だけが残響として漂う。
何秒……あるいは何分続いたのか分からないほど、息が止まるような絶頂に互いが絡め取られたまま、動けなくなっていた。昨日まで男だったはずの自分が、女同士で絶頂するなんて、こんなことが現実に起こるなんて、想像すらしていなかった。
「……っ……ぁ……」
声にならない声を途切れ途切れに漏らし、僕は力を失った腕をシーツに投げ出す。萌の顔をした枝川もまた、荒い呼吸を止められず、やや俯き加減に髪を揺らしながら、微かに震えているようだ。
一瞬の沈黙があたりを包む。部屋の照明が二つの女体を照らすなか、中身はどちらも男という、悪夢か幻か分からない光景がそこにある。
「……はぁ……はぁ……」
呼吸音を交換するように、互いの体が一度大きく痙攣する。それからようやく、萌は仰ぐように顔をあげ、半開きになった唇で震える笑みをこぼした。
「オレ、『茉莉』とエッチしちゃったんだな……」
死角になっていた瞳がこちらを向き、再び微笑を刻む。僕は返せる言葉を持たず、単に上気した肌をさらしたまま肩で息を続ける。
「………」
何も言えずにいる僕の頭を、彼女(彼)はそっと撫でるように触れてくる。自分もだいぶ息が荒いはずなのに、萌の形をした頬にはどこか上品な血色感が残り、美しさに艶を加えていた。その圧倒的な背徳感と熱が、僕らを同時に突き動かした事実は消せない。思わず唇を噛みしめながら、胸の鼓動がまだ荒れ狂うのを感じるほかない。
萌のカタチをした男教師が、想い人である深谷茉莉と行為に及び、同時に果てた。それと同じく、僕は、憧れだったクラスのアイドル、深谷萌と「女同士」「姉妹同士」として体液を交換し合い、最後には二人で同時に絶頂を迎えたのだった。
僕は、萌の顔が迫ってきて、僕の唇から舌を入れてきて僕の口内を味わい尽くすのを抵抗もせず、むしろ舌を出してそれに応えながら、再び抱き合った。
二人の乱れた呼吸だけが部屋に満ちていた。
(つづく)
皆月ななな
2025-04-03 23:37:27 +0000 UTCsakrano30
2025-03-31 08:30:27 +0000 UTCKawaii Tsun'aho
2025-03-28 15:14:32 +0000 UTC皆月ななな
2025-03-28 14:59:18 +0000 UTCKawaii Tsun'aho
2025-03-28 10:38:21 +0000 UTC