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揺れる糸 【第一章】 心の相互作用

セミが乾いた音を鳴らす。 雪沢由美(ゆきざわゆみ)は冷房の効いた部屋から、ただ外を眺めていた。 寂れたアパートの窓から見える公園では、子供達が元気に遊んでいる。 その子達と昔の自分が重なって見えた。 「おねーちゃーん、紗耶香さんが来たよー」 玄関の方から由美の妹である綾(あや)の声が響いた。 「はーい!」 由美は自分の部屋から返事をする。 紗耶香とは中学からの付き合いで、高校を卒業した昨年までは二人でいることが多かった。 「お邪魔しまーす」 「お姉ちゃんは部屋にいますよ」 「ありがと」 由美はベットに腰かけて待つが、緊張のあまり、心臓の鼓動が聞こえる。 ドアが開き、隙間から紗耶香の笑顔がのぞいた。 「ゆみー、久しぶり」 「久しぶり」 なるべく笑顔で返すが、ぎこちないのが自分でもわかる。 1年ぶりの再開だった。 紗耶香が今の姿を見て、どんな反応をするか不安に思っていたが、いつもと変わらない。 紗耶香は由美の隣に腰を降ろす。 少しの間、沈黙が続いた。 「大変だったね」 ぽつりと、紗耶香が言葉を漏らす。 由美の空っぽの袖がわずかに揺れた。 「…うん」 一年前、由美はある事件で両腕を失った。 肩にはわずかな突起が残っただけで、どこかに、誰かに触れることはかなわなくなってしまった。 食事や着替え、風呂、トイレに至るまで誰かの手を借りなければならない。 腕を失った日からはずっと、綾にお世話をしてもらっていた。 多くの思春期の女の子にとってはあまりにも辛い生活だろう。 昨日までずっと、恋人にすら会うことを避けていた。 この姿を見られたら嫌われるんじゃないか。 そんな不安で頭がいっぱいになっていたのだ。 けれど、会いたいという気持ちを切り離すことはできない。 それどころか、恋人を思う気持ちが日を追うごとに増していくばかりだった。 だから、今日は勇気を出して紗耶香に会うことにした。 「ねえ、紗耶香」 「なに?」 「私の事、どう思う?」 紗耶香は由美を優しく抱きしめた。由美の心を察したかのように。 「どんな由美も、大好きだよ」 紗耶香の温もりが、由美の不安を和らげていく。 「…うん、ありがとう」 無意識に紗耶香の背中に腕を回そうとするが、できないことに気づく。 紗耶香に触れたい衝動が抑えられない。 「紗耶香、キスしていい?」 「…うん」 二人はゆっくり唇を重ねた。 お互いの舌を絡めては、歯をなぞる。 紗耶香は由美の腰に手を当て、お尻に手を滑らせた。 それが刺激になり、由美は少し身体をくねらせる。 「由美、こんなに感じやすかった?」 「だって…」 突然、綾の足音が近づく。 二人は慌てて離れ、同時に綾が部屋に入ってきた。 「お菓子とジュース、よかったら召し上がってください」 気を利かせて差し入れを持ってきてくれたらしい。 「あら、ありがとう」 綾は二人を交互に見つめると、何かを察したようにそそくさと部屋を出ていった。 「…また今度にしよっか」 紗耶香は小声で耳打ちすると、由美は黙ってうなずいた。


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