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【0】淫魔に支配された女子高にTS潜入調査

「失礼いたします」  俺は一礼して部屋に入る。 「白木君、いらっしゃい」  執務机の奥からそう答えたのは眼鏡をかけた美貌の女性、氷川主任だ。知的な瞳にきりっと引き締まった顔立ちに、きっちり着こなした制服がよく似合っている。  美しいだけでなく、どんな仕事も正確に素早くこなすことで周囲からも一目置かれている俺の上司だ。彼女は俺が書類をめくる手を止めると、こちらを向き、早速本題に入る。 「聖泉女子という学校を知ってるかしら?」 「はい、有名なお嬢様学校ですよね」  中高一貫全寮制で、普段は外出も制限されるという今時珍しいほどの超箱入りのお嬢様学校だ。噂によると、政治家や財界の大物の娘たちも多数通っているらしい。 「どうやらそこに淫魔が潜んでいるという情報があるの」 「淫魔!? そ、それはファンタジーとかに出てくるあの淫魔ですか!?」  俺が勤めているのは警視庁超常現象捜査課、通称“超査”だ。そこでは普通の人の常識を超えた存在が引き起こす様々な犯罪を取り締まっているのだが……まさか淫魔とは。 「詳しいことは分からないけど、人に擬態して相手を魅了し意のままに操る、という点ではイメージと一致しているわ。ただ、女子高を支配するというのはイメージ通りではないけれど」  確かに、普通の淫魔は男の精を吸うイメージがある。  とはいえ、超常存在を相手に先入観で議論しても仕方がない。 「一体何があったんですか?」 「元々聖泉女子というのは出入りの厳しいお嬢様学校だったけど、最近は輪をかけて厳しいらしくて、生徒が家に帰ってこないって保護者の方が不審がっていたの。学校側は『休日の外出は自由です』と答えたけど、それが何か月も続いて保護者の方は納得しなくて」  確かに、いくら全寮制のお嬢様学校とはいえ何か月も生徒が帰ってこないのは異常だ。 「それで普通の警察の方がそこの教師と出向いたところ、特に問題はないと報告してきた。不審に思った私がその警察官を調べたところ、どうやら学園で魅了されたみたいな痕跡があったの」 「なるほど」  さすが氷川主任、すぐに超常現象の関与を見抜いてしまうとは。 「すでに数か月も経ってしまっている以上、多数の生徒が魅了されている可能性が高いわ。強制捜査に乗り出せば生徒が人質にとられるかもしれない。だから白木君には潜入捜査をして欲しいの」 「せ、潜入捜査!?」 「そう、白木君はうちで一番超常現象への嗅覚が強いでしょう? だから潜入して誰が淫魔で、どの程度の教師や生徒が魅了状態にあるのか調査して欲しいの」  そう、俺は生まれつき霊感が強い。普通の人は超常的な存在が近くにいても、何か超常現象が起こらなければ気づくことはないが、俺は気配だけで察することが出来る。  子供のころは変なものが見えたり、何もないところで変な感覚がしたりして大変だったが、その能力を買われて“超査”にスカウトされた。俺であれば学園関係者のうちだれが淫魔かを見抜くことが出来るだろう。 「で、でも男の俺が潜入ですか!?」  聖泉女子は時代錯誤なほどのお嬢様学校。生徒だけでなく、教員から用務員に至るまで全てが女性だという。男の俺が入り込む余地はない。 「そうよ。実はうちの研究部で姿を完全に変える薬が開発されたの。だからあなたには生徒として入学してもらうわ」 「え、女にもなれるんですか!? それに教師とか用務員ではなく生徒!?」 「仕方ないでしょう、教師や用務員は募集されていないんだから。でも生徒は年に一回必ず入学する」 「それはそうですけど……」  そう言われてしまうと反論の余地はない。淫魔だってせっかく魅了した教師や職員を手放す訳ないし、出ていく人がいないなら募集もないだろう。  まさか社会人になってからもう一度学生をすることになるなんて。 「幸いもうすぐ高校からの中途入学の編入試験がある。白木君にはそれに合格してもらうわ」  確かに中学生よりは高校生の方がましだが。  というか仮に生徒が全員魅了されているとしたら、その生徒はちゃんと卒業してくるのだろうか? 疑問に思ったが、それは三月になれば分かることだろう。 「という訳で早速女子の姿になってもらうわ」  そう言って氷川主任は小さな瓶を取り出す。  普通ならそんな薬があるなんて信じられないが、ここが”超査”である以上本当に効果があるのだろう。 「え、今ですか!?」 「そうよ。聖泉女子の試験には面接もあるんだから慣れておかないと」  そう言われると何も言い返せない。  もちろんいきなりの女体化には抵抗があるが、“超査”で上司の指示に逆らうことは辞表と引き換え以外では不可能だ。給料は同じ大学を出た友達よりもはるかにいいし、たまに友達から上司の愚痴を聞くと、主任の下で働ける自分は恵まれていると実感する。  だからって、まさかこんなことをさせられるなんて。 「分かりました」  俺は意を決して小瓶を受け取ると、中身を一気に飲み干す。  どろっとした液体がのどを通り抜けた瞬間、体が燃えるように熱くなった。 「っ!?」  体がふらっとして俺はその場に座り込む。  心臓がばくばくとありえない音を立てながら脈打ち、体の奥からマグマのような何かがこみあげてくる。そしてそれが肌に達したところで、俺は体が少しずつ変化していくのを感じた。  まるで強い力でぎゅっと押しつぶされるように全身が縮んでいく。元々成人男性の標準的な体格だったが、気が付くと女子高生ぐらいの体型になっていた。そのため、元々着ていたスーツの丈と裾が余って手と足の先が隠れてしまう。  それだけではなく、男らしいがっしりした肩幅は狭くなり、ごつごつした胸板の表面は小さく膨らんでいく。手足はすらっとして生えていた毛がなくなり、ついでに“超査”に就職してから負った傷も治っていった。 「はぁはぁ、何だこれ……」 「すごいわ……! 実際に見るのは初めてだけど、ここまで劇的に変わるなんて」  そんな俺を主任は驚きの目で見つめる。 「そ、そんなに変わったんですか……あ」  そう口に出して、今度は声が変わっていたことに気づく。  声変わりをとっくに終えた成人男性の低い声は、いつの間に女子高生のような高い声に変わっていた。 「そうよ。今見せてあげるからちょっと待ってね」  主任はバッグをごそごそすると、手鏡を取り出して俺に見せる。  それを見て俺は愕然とした。 「おぉ……」  鏡に映った俺の顔は若返り、少し目が大きくなっている。髪が伸びて、顔立ちが全体的に柔らかくなり、元の顔とそんなにパーツが変わってないのに女性らしくなっていた。俺に高一ぐらいの妹がいれば、ちょうどこんな顔をしているのだろう。  そんな女子が、だぼだぼのスーツを着て床にぺたんと座り込んでいるのはかわいくて庇護欲をくすぐるものがある。  しばらく鏡に見入っていると、やがて体の中を渦巻いていた熱が少しずつ引いていき、変化は終了したのだった。 「どう? 体に異常はない?」 「今はちょっとふらふらしますが、多分大丈夫です」 「ではいつまでもその恰好という訳にもいかないし、これに着替えて」 「えぇ!?」  そう言って主任が見せたのは、近所の中学校の制服である。問題は女子が着るようなブレザーとプリーツスカートの制服だったことだ。 「何を驚いているの? 高校の受験なら中学の制服を着ていくに決まってるでしょう?」 「そ、それはそうですけど……」  さっきまで男だったのに、いきなり女子の制服を着させられるなんてハードルが高い。 「いいじゃない、それとも私服の方が良かった?」  確かに男の俺に女子高生の私服を選ぶなんて無理難題だが、だからといって制服を着るなんて。  とはいえ姿形が変われど、部下として主任の命令に逆らう訳にはいかない。仕方なく俺は渡された制服を持って更衣室に入る。女子の制服を持っているだけでまるで犯罪をしているような背徳的な気持ちになってしまう。 「はぁ、まさかこんなことになるなんて」  更衣室に入ると俺はため息をつきながらスーツを脱ぐ。今まで着慣れていたスーツも、今は全く丈が合わなくなってしまっていて、すんなりと体から抜け落ちていく。  裸になるとまずはワイシャツを羽織る。女物のシャツはボタンが左右逆で、慣れない感覚に少し戸惑ってしまう。それから俺はプリーツスカートに腰を通した。今まではスーツも私服も基本的に長ズボンしか履いてこなかったので、足の半分以上を露出するのは変な感じがする。中はすぅすぅするし、ちょっと動くだけでめくれてしまいそうだ。 「女子はいつもこんなの履いて生活してるのか……」  俺はそんな不安感を紛わせるようにブレザーを羽織り、赤のスクールリボンを首元で結び、黒のニーソックスを履く。  これで終わりか、と思ったところで靴下の下からピンクのショーツが出てきた。 「うっ、これも履くのか……」  いくら変装するとはいえ、スカートの中まで着替える必要があるのか?  とはいえこんなに頼りないスカートだと、何かの拍子に見えてしまってもおかしくない。仕方なく俺はぶかぶかになった自分の下着を降ろす。そしてふと下着の中にあったはずの物がなくなっていることに気づいた。 「本当に女の子になっちゃったんだ……」  言いようのない喪失感に襲われたが、俺はその事実を覆い隠すように急いでショーツに足を通す。股まで引き上げると、股間を包み込むような、男物の下着とは違う感触がした。 「はぁ……」  落ち込みながらも、俺は一応変なところがないか鏡を見る。  すると、そこに映っていたのはどこから見ても普通の女子生徒だった。これが俺でなければ、誰も中身が男だとは思わないだろう。 「すごい……」  薬と、そして変装の効果に俺は思わず見とれてしまう。  これなら、少なくとも外見では俺が男だとバレることはないはずだ。  俺はそんな自分の姿を見てから主任の元へ戻る。 「着替えました……」 「すごい、着替えたら全く見分けがつかないわ」 「は、はい」  褒められてるような、そうでないような微妙な気分だ。  主任はまじまじと俺の姿を見ていたが、不意にこちらに近づいてくると、腕を伸ばす。  むにっ 「きゃあっ!?」  主任の素早い動きをよけ切れず、俺の胸は呆気なく彼女に揉まれてしまった。  主任はしばらくの間真面目な顔のまま、もみもみと手を動かす。美人な主任にそうされていると、くすぐったさともどかしさが混ざって変な気分になってくる。 「な、何するんですか!?」 「うん、感触も本物そっくり。これなら揉まれてもバレることはないわ」 「そんな心配いらないと思うんですが……」  ようやく彼女が手を離してくれて俺はほっとする。  これ以上されたら色んな意味で興奮してしまうところだった、と思ってしまう。 「これで外見は完璧だから、次は女の子としての知識や仕草を身に着けてもらうわ」 「は、はい」  そしてその日から主任や、他の女性同僚たちによる俺の”女子訓練”が始まった。  だが、これは俺の女子高生生活のほんの始まりに過ぎなかった……


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