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熊獣人の少年が成人の儀としてダンジョンに潜る話

 泉水を喉に潜らせれば、茶毛の熊獣人の少年――ロシュはその透き通るような冷たさに身震いがした。  戦い続きで渇ききった喉が僅かに潤い、疲労と火照りでふわついた意識が引き戻されて鮮明になる。  吐息を一つ。腰巻と胴の隙間に挟み込んでいた手拭いを湧水に浸し、体毛に付着した返り血やら魔物の体液やらをぬぐい取ると同時に、汗に塗れて不快な脇下や首元、それから蒸れて仕方がない腰巻の内の股座を拭く。そこまでしてようやく、生き返ったような心持ちになった。  木彫りの水筒に水を汲みがてら、何度となく水を喉に流しこむ。満足に食事を摂っていないすきっ腹の中が僅かに張る感覚を覚えるあたりで、ようやく喉の渇きが癒えてきた。  洞窟に足を踏み入れてからもうかれこれ二時間は過ぎただろうか。進むたび進むたびに取るに足らないような低級の魔物が襲ってくるのに加え、極めて湿度が高く蒸し暑い密林環境とくれば、潤沢に水を蓄えていた筈の水筒が数十分で空になるのも致し方ないというものだ。偶然湧水の音を嗅ぎつけていなければ、ダンジョンの奥地にたどり着くまでに干からびていただろう。  緊張の連続に晒される中で、ようやく一息つけるような場所を見つけたせいで気が緩まったのだろうか。自覚の外にあった尿意が急激に鎌首をもたげ始め、ロシュは慌てて泉のほとりの茂みへと駆け込んだ。  腰巻をたくし上げ、陰茎に指先を添えて小便を飛ばす。はじめは落ち着きなく柔らかなホースの先が震えるために撒き散らされていた濃い色の小便が、勢いを増していくにつれきれいな放物線を描き始め、茂みを押し退けてしゅうしゅうと音を立てながら土へと突き刺さっていく。青々しく茂る葉群れが濡れ、地面に雫を滴らせていた。  十数秒で一部始終を終え、竿先を丁寧に振ってから腰巻を戻す。強い解放感に、ロシュはふうと熱い息を吐いたのちに泉へと戻る。 (泉があってよかった……)  鏡のように磨き上げられた水面の奥深くは青々と染まり、底が見えるほどに透き通っていた。普通に歩いているだけで汗が滴り落ちそうになる気温の今、この水の中に飛び込めたらどれほど気持ちがいいだろうか。しかし、今なお魔物の気配があちこちから漂ってくる中でそんなふうに短絡的な行動に走れば命取りだということは、誰にだって目に見えている。  葛藤に葛藤を重ね、ロシュは足先を水に浸すだけにとどめておくことにした。水際に腰を下ろして足先を浸せば、走り続きで擦れた足裏に透き通った冷たさがぴりぴりと染みる。 (早く奥まで行かないと……)  想定よりも敵が多いことに、ロシュの脳裏には一抹の不安が過ぎっていた。一本の水筒と一枚の手拭い、それから筋肉の蓄えられた太い肉体に辛うじて巻き付けられている膝の半分程度までしかない丈の腰巻のほかに、ロシュは何も身に着けていない。厳密に言えば、それ以外のものを持ってダンジョン内に入ることは首長の命令によって固く禁じられており、傷や疲労を癒せるような薬もなければ、身を守るための防具すらない。ゆえに、消耗すればするだけ窮地に追い込まれていくのである。  ロシュはダンジョン探索を生業とする冒険者ではなく、また魔物の巣食うようなダンジョンに好んで立ち入ろうとするような愚かものでもない。彼が膝の半分ぐらいまでの丈しかない、極めて際どい腰巻一丁でこんな危険地帯を歩かされているのは、ロシュが属する熊人部族――ウル族の男の成人の儀が、裸一貫で集落の近くのダンジョンの奥地まで辿り着き、備えてある魔力の青石を持ち帰ることだからだ。  身体的能力に優れるとされる熊人の中でも、とりわけ頑強かつ力強いとされているのがウル族である。そしてそれは、ウル族の男児に施される、半ば虐待めいた訓練の賜物であることは広く知られていた。  ウル族の男児は、常に己の肉体を誇りとしながら生活をするように教育される。生を受けてから八歳の誕生日までは、例え震えが止まらないほどの極寒の日であろうと、或いは豪雨が矢のように身を打つ日であろうと、一糸たりとて身に纏うことは許されない。彼らは生まれたときのままの姿で鍛錬をし、村の老人より学問の手ほどきをうけ、よく遊び、よく眠り、時には同年代の女子や村の女性たちに交じって女性の仕事の手伝いをすることもある。  八歳の誕生日を迎えたときに、彼らはようやく真っ赤な腰巻を一枚与えられる。鍛錬や勉強の傍ら、集落の警備や父親の狩猟の補佐へと駆り出されるようになるのである。  はじめは華奢な肉体に余るほどの丈の腰布だが、ウル族の男児の成長は早い。十歳の頃には大抵の少年の腰巻の裾が膝あたりに位置するようになり、十二歳にもなれば、肉体はかなり成人に近づきつつあり、腰巻は殆ど恥部隠しとしての意味を為さなくなってしまうのだ。  平時、立っているぶんには辛うじて問題はないが、少し強めの風が吹いて捲れ上がったり、或いは椅子や地面に座りこんだり、格闘訓練で少々ばかり激しい動きをしたり、或いは木の上で狩猟の獲物の見張りなどをするたびに、彼らの股間にぶら下がる発展途上の若芽は開けっぴろげになってしまうのだった。  現に今も、泉のほとりに腰を下ろすロシュの姿を真正面から捉える者がいれば、開いた両足の間にてろりと垂れる毛皮の茶より僅かに浅黒い皮被りの竿と、それを乗せる瑞々しい陰嚢の膨らみが丸見えなのである。  いくら裸を誇りとする教育を受けていようとも、性の目覚めを迎え、思春期に差し掛かった少年達にとって、自分の最も恥ずかしい部分がぶらぶらと揺れるさまを常々他の大人や女性達に見られながら過ごすというのは極めて屈辱的だ。格闘訓練での激しい取っ組み合いの最中、互いの腰巻が解けて素っ裸になる度に観戦に来ていた同年代の女子たちから黄色い悲鳴やら羞恥心をくすぐるような野次やらを投げかけられるのも、正直顔が火照りあがるぐらいには耐えがたい。  そんな艱難辛苦の時代を過ごしてしばし、男児たちが十三の齢を迎えた日に、彼らは『成人の儀』として長らく苦楽を共にしてきた腰布一丁で洞窟へと潜らされる。いくら低級とはいえ魔物の巣食う洞窟に子供一人で足を踏み入れるなど、どう考えても恐ろしいことなのだが、少年たちは誰一人として臆することはないのである。  成人として扱われるようになれば、狩りの補佐と称して早朝間もなくに叩き起こされ弓の弦張りを押し付けられることもないし、これまで少年達で集団生活をしていたのが一転、誰かの管理下に置かれることなく自由に生活ができる。そしてなによりも、新しい腰布を与えられると同時に褌を身に着けることを許され、自分の丸出しの股間をにやにやと見つめてくる大人や異性からの視線と別れられるということが、なによりも大きかった。  加えて言うならば、成人の儀を終えた若者たちの内、半数以上は集落の皆に別れも告げず外の世界へと旅立っていくという。集落より遠くへと向かうことの許されなかった少年たちにとって、外の世界とは極めて強いあこがれの対象であり、ロシュにとってもそれは同じだった。 (行こう……急がないと日が暮れちゃう)  日が暮れればダンジョンの魔物はより狂暴になり、夜目の効きづらい熊獣人にとってはいっそう過酷な環境になる。そうなってしまえば奥地まで辿り着くどころか、魔物に襲われて怪我をしてしまう可能性は高くなるだろう。  ロシュは立ち上がり、足先を振って水を払う。太陽に熱された地面を踏みしめた瞬間、冷たく冷やされていた筈の足先が熱を取り戻していく。暑い。 (……もう一口だけ、水を飲んでいこうかな)  多少は奥地に近づきつつあるだろうが、先はまだまだ長いと聞いている。灼熱と渇きに晒される中でようやく見つけた安息の地なのだ、名残り惜しさに後ろ髪を引かれるような思いをするのは当然だった。あの、喉が潤っていく魔性の感覚にはどうにも逆らえず、結局ロシュは三口ほどの水を飲み下し、それからようやく先へ進むことにした。  そして、このダンジョンに潜るものとしては限りなく不正解に近い選択が牙を剥くことを、ロシュは間もなく知ることとなる。 ◇  泉を離れ、ダンジョンの奥地へと向かい始めて1時間と少しが経った。  生息する木々の形がいびつになり、集落の辺りでは見慣れない葉の形のものもちらほらと見かけるようになっている。加えて現れる敵の歯ごたえが少しずつ強くなっているのも、奥地に近づきつつある証拠だろう。大抵の冒険者は目的地が近いことを察知すると足取りが軽くなるものだが、ロシュはそのようなそぶりは見せず、寧ろ足取りは少しずつ重くなっていた。  慣れないダンジョン探索での精神的疲労に加え、照り返す太陽の暑さや敵への対応で肉体も疲れ切っている。それらが枷となり、ロシュの足取りを重くしているというのが理由の半分であるだろう。そしてもう半分の理由は―― (……っ、おしっこ……!)  何度かの強い尿意の波に襲われ、ロシュはその場で立ち止まる。腰巻の上からぎゅっと両手で股間を握り込み、どうにか衝動を抑え込もうと冷や汗を滴らせていた。  いくら暑さからくる汗やらで体内の水分が失われていくとはいえ、腹が満腹になるほどの量の水を飲み干せば尿意を催すのは当然の摂理である。経験を積んだ冒険者たちが必要以上の水分の接種を避けるのは、こういう理由なのだった。 (な、なんで、急に……!)  またロシュは知り得ないことであるが、泉の水に含まれる栄養価は集落の近くの川の水とは比べ物にならないほど豊富で、伴って利尿作用を高めるような栄養価もふんだんに含まれている。泉のほとりで済ませたばかりだというのに、歩き始めて数十分もしない内に再び尿意を催し始め、一時間もたつ頃には堪えるのすら一苦労なほどに膨れ上がったのはそういう理由である。 (もう、いっそその辺で……いやだめだ、さっきからずっと、誰かに見られてる気がする……!)  ダンジョンの深くに差し掛かるにつれ、魔物たちの強度も上がっていくのは道理である。そして強度とはたいてい、単純な能力だけでなく知能や老獪さも含まれるものである。獲物を静かに追跡し、気が緩んでいる瞬間を見計らって襲い掛かってくるような魔物がいることを、ロシュは村の大人たちから嫌というほど教え込まれていた。  ゆえに、背筋に何者かの気配を感じる今この瞬間においては、どれほど小便が漏れそうであってもロシュは立ち小便という選択肢に踏み切ることが出来なかった。耳を澄ませば茂みの奥から獣の息遣いが聞こえてくる中で、用を足せるほど愚かでもなければ度胸もない。 「っ、どうしよう……あんなに一杯飲まなきゃよかった……」  ぽつりと漏らす泣きそうな上ずり声にも、答えるものは誰一人いない。大人になるとは自分の選択に自分で責任を取ることであると、大人たちが口を酸っぱくして言ってきたことの意味を、ロシュは今痛いほどに理解していた。  一人でダンジョンに潜っているのだから、誰にも遠慮をする必要などない。どうしようもなく苛まれている排泄欲求は、道端の草むらにでもしてしまえばそれで解決する話だ。分かっているからこそ、御預けを食らっている現状が堪らなく苦しいものだ。  まだ幼い肉体の中に溜め込まれた大量の水をこぼさないように歩こうとすれば、奥地にたどり着くころには日が暮れてしまう。いやそもそも、奥地にたどり着くまでに間違いなく限界を迎えてしまうだろう。今のロシュにとっての最善は、どこか安全な場所を見つけて小便を済ませることなのだが、そんな場所が果たしてどこにあるというのだろう。 「……ん、あれ。あの、花って……」  地面から突き出した木の根っこに躓くたびに溢れ出しそうになるのを気合で抑え込みつつ、きょろきょろと周囲を見回しながら進んでいたロシュの視界に、奇妙なものが飛び込んできた。  周りの木々よりも背の高い、真っ赤な色の巨大花。風が吹き抜けて花が揺れる度に蜜のような甘ったるい香りが流れ込んできて、張りつめていた緊張が僅かに緩まっていくのを感じる。 (た、確かあれって……魔物が寄ってこない花、だったような……)  ダンジョンに潜る前、村の老人から耳にしたことをロシュは思い返していた。ダンジョンの奥地にある、自分よりも遥かに背の高い巨大な赤い花の周りには、決してほかの魔物が寄りつくことはないという話だった。 (でも、なんでだっけ……?)  魔物が寄り付くことがないのには、何かそれ相応の理由があったはずだ。しかし咄嗟には思い出せない。深く思い出そうとすれば、今にもはちきれんばかりに膨らんだ膀胱がそんなことはいいから早く小便をしてくれと訴えて来るものだから、思い出そうにも思い出せない。 (でも、とにかく、あそこなら……おしっこできる……!)  魔物が寄り付かないということはつまり、花の近くにいればしばらくは安全だと、ロシュは短絡的に考えを張り巡らせた。花の近くで小便をする分には、少なくとも獣たちの視線に見守られながらの放尿よりはいくぶんか安全だろうとロシュは考える。  最後の力を振り絞って下腹部をきゅっと引き締め、なんとか大きな花の傍へと辿り着く。もう一刻の猶予さえなく、ロシュは腰巻を両方の手でまくり上げ、股間を花の太茎へと突き出した。すっぽりと皮の被った柔らかい肉の棒がぷるん、と震え――    ――しょろ、しょろろろろろろろろ……  僅かに太ましさを帯びた、柔らかそうなへその周りの少し下。ぷらんと揺れる小さな玉袋の上に乗っかり、ちょこんと突き出したロシュの男の象徴の先端から、ほとんど透明色の小便が放物線を描いて花の太茎へと引っ掛けられ、そのままロシュの足元の地面へと広がっていく。限界まで堪えていたせいか、むしろ勢いはか細く、強い風が吹き抜けるたびに放物線は飛沫となってロシュの足や太腿を濡らしていく。自分の小便が毛並みに跳ねているというのはいつものロシュならもちろん嫌がることなのだが、今までにないほどの放尿の恍惚感を味わっているロシュには、どうでもよいことだった。 「ああ、はあああ……きもちいい……」  解放感に打ち震えるロシュの声は絞り出されるように小さく、捲れ上がった腰巻から顔を出した丸尻の付け根の小さな熊尻尾がぴこぴこと揺れていた。花の太茎の根本の日陰に吹く風はほんの僅かに涼やかで、風がむき出しの尻や蒸れた玉の裏側を撫ぜるたびに、背徳感にも似た不思議な気恥ずかしさが込み上げてくる。  膀胱のタンクの中に溜まったものは今なお流れ出ている。相当な量を溜め込んでいたせいで、まだしばらくは放尿が終わることはない。ロシュは無警戒にも目を瞑り、敏感な竿の先からしゅうしゅうと噴き出し続けている小便の心地よさに身を委ねることにした。    ――ゆえに、ロシュは気付かなかった。今自身が気持ちよく小便を引っ掛けている大きな花が、僅かに蠢いていることを。また、大花の根元から伸びたいくつもの太い蔦がぬるりと地面を這い、獲物を狙う蛇のようにしてロシュの足首に絡みつこうとしていることを。 「ん、はあ……ふう……――ッ!?」  目を瞑ったまま流れ出る感覚に身を委ねていたロシュの足首に、鈍い痛みが走る。虫にでも刺されたかと慌てて目を開けば、毒々しい深緑色の太い蔦が一本、ロシュの小さな足首に何重にも巻き付いていた。 「……え? ――うわッ!」  蔦が徐に持ち上がり、伴ってロシュの身体は足首が上になるような形で逆さ吊りにされた。一瞬のうちに周囲の木々の葉よりも僅かに高い位置へと持ち上げられ、地面は遠ざかっていく。ここから落ちれば一溜りもないことを本能的に察知し、ロシュは強烈な命の危険に晒されているという事実に身震いをした。 (そ、そうだ……思い出した……! 確か、あの花って――!) 「……っ、んっ、ぶえっ……おええっ……!」  思考は途中で中断される。  驚愕に開いた口に生暖かく苦い液体が降りかかり、ロシュはえずいた。逆さ吊りにされても止まらないまま流れ出ている小便が顔面に引っかかり、口やら鼻やらに流れ込んでくる。重力に従ってへそへと垂れた腰巻は最早恥部隠しとしての役割を完全に放棄し、ロシュのやや小ぶりな竿もぷっくりと膨らんだ玉の裏側も、巣渡りの近くの締まった尻の穴も、全てが白日の下に曝け出されていた。  逆さで揺れるロシュの視界に、逆さになった巨大花が映る。巨大花――厳密には花に擬態した巨大な魔物の姿。うぞうぞと蠢く太茎と、巨大な花弁の中央の空洞から覗く、びっしりと生え揃った牙。罠に掛かった熊の少年を目の前に、久方ぶりのご馳走を悦ぶような金切り声が響き渡る。 「ひっ……! や、やだ……やめろ、放してっ……!」  自分の身にこれから何が起こるのかをロシュは理解し、涙やら鼻水やら小便やらで顔面はもうぐちゃぐちゃになっていた。殆ど狂乱に近い声を上げ、遮二無二身体を揺らしてどうにか拘束を解こうとするも、そもそも手は足首の蔦に届かないし、厳重に足首に結ばれた蔦を解くのは、ロシュ一人の力では無理な話だった。 「やだ、やだあっ! 誰か! だれかたすけてえっ……!」  声は届かない。当然である。今このダンジョンにいるのはロシュ一人だけなのだから。  花に擬態するという狡猾な知性を持ち合わせる大花の魔物が、久方ぶりの獲物を取り逃がすはずはない。ロシュの足首を掴んだ蔦は極めて淡々ととろみを帯びた透明の分泌液を分泌し、どこからともなく現れたもう一本の蔦が、ロシュの身体にまんべんなく塗りたくっていく。 「ひ、あっ……な、なに、つめたい……」  ひんやりとしたものが足先を伝って太腿に垂れ、やがて蔦はロシュの身体の中で一番柔らかく大切なところへと達する。快楽と麻痺の成分を帯びた花の魔物の体液が、雄の獣人種の中で一番柔らかく美味な箇所――性の目覚めを知らないまま死にゆく子供の若竿へと絡みつき、舐めるようにして念入りに磨き上げていく。 「あ……おしり、やだ……」  濡れた蔦先がロシュの薄桃色の尻の穴を広げ、穴の奥へと分泌液を流し込んでいく。途端に、強烈なまでの酩酊と多幸感、それから触覚が薄れていく気色悪い感覚と共に、意識が朧げになっていく。視界が曇天のようにさっと薄黒く染まっていく。 「や、やら……あ……」  ロシュが最期に見た光景は、蒼く澄み渡る密林の空と、血走った眼でこちらを美味そうに眺める、悍ましい姿の巨大花の赤だった。 ◇  多産、かつ男児の出生率の多いウル族において、男児はあまり重視されることはない。  八歳までの子が一糸まとわぬ姿で生きるというのも、ほとんどプライバシーのない腰巻一丁で過ごさせているのも、結局はウル族にとって希少な布地を男児に割く理由が薄いためである。  男児達に求められるのは優秀な遺伝子――つまり、身体能力および生存能力の高さである。成人の儀とは即ち、本来兼ね備えているそれらの能力の高さを図るためのテストであり、集落の皆に別れも告げず外の世界へと旅立っていったと言われている若者たちは皆、成人の儀を超えられずに命を落とした落第者達なのだった。  ロシュもまたその一人である。  三度の朝日を経てなお集落に戻ってこなかったロシュを、村の大人達は「旅人」として扱うことに決めた。そして次代の子どもたちに、彼は外の世界を見に行くために旅人となって出ていったと吹き込むのである。  ウル族の集落は、こうして質の高い男性のみが生存を許される、小さくも過酷な世界なのだった。


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