今作は今月作品の前日譚的作品になります。
今月作品でのアイシャの任務に至るまでの経緯や、
仮弟子になったクリス・アスターを預かるまでの
話を文章作品として描いています。
いつもと投稿方法を変えているので、
見辛い所もあるかもしれませんが
こちらも楽しんで頂き、
今月から始まる作品も楽しんで
頂ければ嬉しいです。
1
「おいしっ♪ 大先輩にこんな特技があった
とは驚きです」
「ありがと やっと昔の勘が戻ってきたわ
悪いわね付き合わせちゃって」
「呼び出された時はまた小言でも
言われるのかと思いましたが
こんな事なら大歓迎ですよ
それにしても随分オシャレな内装ですよね」
「馴染みにしてたマスターが引退するらしくてね
最初は全部あげるって言われたんだけど
借りる事にしてレンタル料で老後を
楽しんでもうらうって事にしたのよ」
落ち着いた雰囲気のバー、
店内にはカウンターでバーテンダー衣装に
身を包み華麗な手さばきで次々とカクテルを作る
ライブリア室長リィアナ・エナ。
そしてリィアナが次々と作るカクテルに目を
キラキラさせながら舌鼓を打つ
クラス5マーゴハンター、アイシャ・エプタ
の2人がいた。
「でもびっくりしましたよ
ライブリアにバーが併設されるなんて」
「お酒の力を借りた方がいい子もいるからね」
「でも酒乱のやつもいるでしょ?」
「そういう時は私がコントロールするから大丈夫よ」
「ですよね 心配してないですけど
あたしはタダ酒が飲める場所が出来て嬉しいし~」
「タダじゃなくてマーゴハンター限定超格安よ
今日は私が昔の勘を取り戻す為にあんたを
特別に呼んだんだから変な噂流すんじゃないわよ」
「わ~ってますって
あっ!このモヒートってやつ
爽やかでいいっすね
このミルクのやつはちょっと甘すぎかも」
「カルアミルクは甘いのが好きな娘用だけど
それでも甘すぎ?」
「・・・なら 大丈夫かも」
ライブリアにバーが併設される事になった。
ライブリアで行われてきた報告は、
これまでノンアルコールで行われていたのだが、
話す内容が内容なのでアルコールの力を
借りる方法も以前から考えられていて、
それが実現する事になったのだ。
そして今日アイシャが呼ばれたのは、
実は過去にバーテンダー経験があるリィアナが
昔の勘を取り戻すために
お酒好きのアイシャにバーで提供する
カクテル等を試飲してもらう為だった。
2
「このスクリュードライバー
レンが好きそうだな~」
「そういえば レントの成長具合はどんな感じ?」
あれから数時間、
カクテルの味や見た目についてお互いに
意見を出し合いながらの試飲会も終了となり、
その後はカウンターテーブルに
ずらりと並ぶカクテルを片付ける為の
2人で飲みながらの世間話が始まった。
「いいですよ 特に装備新調してからは
華開いた感じですね」
「あっという間にクラス5になりそう?」
「う~ん それはちょっと
早くなっても良い事ないじゃないですか」
「実感こもってるわね」
「大先輩もじっくりやれって言ったんでしょ?
あたしも同意見です」
「じゃあ少なくとも10年以上は面倒見るって事?」
「そうなりますね
あたしが普通じゃなかったから
レンには土台がしっかりとした
クラス5にしてあげたいです」
「じゃあその間アイシャは弟子取らないの?」
「・・・あれ?弟子取るつもりって・・・
話してませんでしたっけ?」
「あらそうなの? よかったわ
私としてはあなたみたいに優秀な子が長く
後進を育成してくれないなんて
勿体ないって思ってたから」
「アハハ・・・ただ色々あって今はちょっと
タイミングが・・・ね~」
「・・・淫魔の事と新装備・・・
ちょっと立て込んでるわね」
「淫魔の方はちょっと見えてきた
ものもあるんですけどね~」
「あと2年以上空いちゃうと
弟子取るのってちょっと大変になるのよね」
「そうですよね!
大先輩 分かってるじゃないですか~」
「それが 良いとは 一言も言ってないわよ
責任ある立場なんだからやる事は
やってもらわないと」
「・・・・ん~まぁ それは・・・
まぁ・・・わかってますけど・・・・・・・・
・・・あむっ・・・・・もぐもぐ」
痛い所を突かれたのか
アイシャの言葉尻が小さくなり
マティーニのオリーブを気まずそうにもぐもぐする。
クラス5のマーゴハンターには後進の育成という
重要な仕事がある。
育成の仕方は各々の裁量に任せられているが、
アイシャの様に徒弟制を取る者の場合、
大体1年くらいで新たな弟子を取るのが
相場なのだが、
アイシャは約3年程レントにかかりきりになっている。
その理由はレントの前の弟子が
行方不明になった事件の後に
アイシャとリベラティオが酷く
揉めた事があった。
その騒動はリィアナが間を取り持ち
リィアナが責任を持つ事で解決し、
それ以降アイシャが弟子をいつ育成するかは
ある程度自由になった。
「・・・・・・アイシャ 実はこのバー
アンタの好きなブランデーの秘蔵のがあるんだけど
飲む?」
「飲む! ・・・なんか気前いいっすね」
「今日はあんたにこれを呑ませたかったのよ」
リィアナはそう言うとカウンターの下から
一本の瓶を取り出すと栓を抜き
アイシャと自分のグラスに注いでいく。
我が強いけど責任感があるだけに、
弟子を取る話になると、
当時リィアナに迷惑をかけた負い目を
感じているのかアイシャはいつもばつが
悪い感じになってしまう、
しかしリィアナもアイシャとは長い付き合い、
彼女の扱い方は手慣れたもので、
ご機嫌の取り方も熟知しているのだ。
「ん・・・うっわ これおいし~」
「いい香りね~ そうだ
アイシャ 私の頼み聞いてくれない?」
「え・・・え~突然なんすか~~」
「もう一杯どう?」
「聞きましょう」
お気に入りの銘柄の最上級品の味に
すっかり上機嫌になったアイシャ、
そこでリィアナは今日アイシャを呼んだ本当の
目的を話すことにした。
3
「マーゴハンターの再復帰プログラムは
知ってるわよね?」
「もちろん」
マーゴハンターという仕事は常に危険が
付きまとい、
命を落とす者もいるがそれよりも
再起不能になる者の方が
多いという。
しかしその中にはもう一度復帰を希望する
マーゴハンターもいて、
しかしすぐに復帰させるには難しい
状態のマーゴハンターにはクラス5の
マーゴハンターの元で復帰の為のリハビリを
してもらう制度が再復帰プログラムなのだ。
「・・・あたしに誰かを預かれと?」
「察しがいいわね」
「珍しくどっかのお局が気前良いから」
「あんただけ料金10倍にするわよ
・・・えっと この娘なんだけど
あんたの弟子募集試験のリハビリのつもりで
その前に面倒見てくれないかしら?」
そう言ってリィアナはいつも仕事で使っている
タブレットをアイシャに手渡した。
「覚えある?」
「ん~覚えはないっすね」
「え~アイシャの弟子入り試験経験者よ?
あんた試験受けた子は覚えてるって言ってたのに
や~ね~
いよいよアイシャ様も天狗か~」
プロフィール画像を見て見覚えが無いなと
アイシャは思ったが、
自分の弟子入り試験に来たと聞いて
また難しい顔になってしまう。
アイシャは決して人の顔を覚えるのが得意と
いうわけでは無いが、
自分の弟子入り試験に来てくれた人の顔は
覚えておりそれがちょっとした自慢だった。
「んなことないですよ!
あ・・・ このアニマウェポン見たことある
・・・ん? あれ?・・・」
「アニマウェポンだけ覚えてるって
人の心がなくな~い?」
「紐づけしてるだけですよ
でも思い出しましたよ・・・
・・・・・・ねぇ大先輩
この娘・・・イメチェンしすぎでね?」
「この娘はクリス・アスター
元はクラス4で今は様子見でクラス3に
なっている娘よ」
「前は黒い髪で肌はこんなに白くなかったですよね」
「そうよ」
「じゃあ覚えてんの無理くないですか?」
「んふふふ 当たり前じゃない♪
でね この娘ちょっと他と違う事情があって・・・」
「・・・・・・このパワハラ上司め・・・」
足から生えた大鎌という非常に特徴的な
アニマウェポンのお陰でなんとか
思い出す事が出来たアイシャだったが、
流石に容姿が別人の様になっていたなら
分かるわけがない、
そう文句を言ってやろうと顔を上げると、
リィアナのいたずらめいた邪悪な笑みが
目に入りアイシャは罠に嵌められた事に気付く。
だが自分は大人だ、
こんな酔っ払った先達みたいに
後輩をイジメる先輩にはならないぞと
目の前のカクテルを一気飲みして
気持ちを落ち着かせた。
「再起不能の子の殆どは精神的に
戦えなくなるんだけど
この娘は2年近く眠りっぱなしだったの」
「肉体的に再起不能ってことですか?
珍しいですね」
「ある任務でクリスのチームが
上級マーゴに遭遇してしまって
追い込まれてしまったのよ
一応チームは無事だったんだけど
クリスだけマーゴに捕まってしまって
救助された時には全身に無数の紋を刻まれた
状態で発見されそれからずっと
意識不明のままになっていたの」
「その紋が意識を奪っていた?」
「おそらくとしか
恥ずかしい話だけど原因も分からず
解呪も出来ず
分かったのは彼女の力が回復せず
ゆっくりと衰弱していったということだけ」
「でも 目を覚ましたんですよね?
なんの治療が上手くいったんですか?」
「ある日突然 なぜかめざめた」
「・・・大先輩 なんで急にやる気なくすんですか」
「そうとしか言いようがないからよ
1カ月くらい前ね
ナースが部屋に入ったら
目を覚ましてたんだって
で その時にはその髪色
肌はずっと眠ってたからって事で
説明できるけど目の色まで変わるなんて
考えられないわよねぇ」
「紋は?」
「一つも残って無かったわ」
「そんな事ありえるんです?」
「始めての事よ 先に言っておくけど
紋が消えた原因も不明よ」
「・・・・へぇ・・・中々凄い娘なんですね
で なんでこの娘をあたしの所に?」
「アイシャ あんたこの前
”呑まれた”らしいじゃない?」
「う・・・何故それを?」
「なぜじゃないわよ 別人のようになってたって
レントが随分心配してたわよ」
数週間前の事、
アイシャとレントはある任務で
災害級マーゴと相対した、
マーゴは狡猾で非常に強力な能力で2人を翻弄し、
手も足も出ない程に追い詰められてしまったのだが、
なんと淫魔がマーゴを倒すという思わぬ形で
事件は幕を閉じた。
その際マーゴの能力によるものか、
後にいつ刻まれたか本人も分かっていない
淫紋の所為か、
アイシャが快楽に呑まれ自我を失ったように
豹変してしまったのだ。
「いや でもあの時の事は覚えてないから
のまれたってわけじゃ・・・」
「覚えてないならなお悪いわ
このクリスって娘はね
マーゴの性感攻撃を
”受け入れて”
そこから反撃するっていう
対処法をとってたの
しかも暗器使いという事もあって
潜入任務もこなしていたりするくらいよ」
「うけいれる・・・
えっちな事大好きっ娘ってことです?」
「いいえ 話してみるとちょっと臆病な性格で
性行為を楽しむタイプじゃなかったわ
でもかなり深く入り込むタイプらしくて
実際現場を見た子の話では心配な
レベルで乱れてたって話よ
っていう感じで
あんたがたまにやる事を
もっと上手くやっているのよ
勿論クリスも完成しているわけじゃないけど
”未熟”なあんたは教わる事も
多いんじゃないかなって」
「・・・・・・・・預かる期間はどのくらいですか?」
「最低3か月
その後どうするかはアイシャが
決めていいわ」
「分かりました 預かりましょう・・・ フフフ」
(・・・まったく 昔から
”未熟”である事を喜ぶのよね この娘は・・・)
「ただ条件があります」
「なに?」
「そのブランデー あたしのボトルって
ことでキープしてくれるなら」
「言うと思った いいわよ
でも今日は残りのカクテルの方を
片付けるわよ」
「は~い♪」
優秀だけどなんだかんだで手がかかる
可愛い後輩の昔から変わらない所と
成長した所が見れて嬉しくなった
リィアナはそのまま朝方までアイシャとの
酒宴を楽しむのだった――。
4
~それから数か月後のアイシャ宅~
「なんで分かってくんないのさ!」
「今は状況が悪すぎます!
救助がしたいならまず
自分の安全を確保してからにすべきです!」
「だから気をつけるっていってんじゃん!
今しかタイミングは無いんだよ!」
「救助対象がいるかどうかの
確証はないって言ってたじゃないですか!
リスクが大きすぎます! 納得できません!」
ある日の夕食後の事である、
いつもであれば3人がのんびりした
時間を過ごしている筈のリビングは
アイシャとカルミアが激しく言い争う
緊迫した空気で張り詰めていた。
「・・・・・・・」
(う~ん中々な荒れ具合・・・・)
当然その場にレントもいるが彼女は
2人を仲裁したりせず黙っている、
それは2人が喧嘩している事に
驚いたり怯えたりしているわけでは無い。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
(あ 長考はいりましたかね・・・)
「・・・レンも聞いてたよね?
カルミアになんとか言ってやってよ」
「そうですね 私も先輩が無茶言ってると思うんで
ルミアさん派です」
「はぁ?」
「そうですよね」
レントに同意を求めたつもりのアイシャは予想外の
反応だったのか目を丸くし、
カルミアは我が意を得たりとばかりにうんうんと頷く。
「でもですねルミアさん
わたし先輩の言う事に反対
するのもどうかと思うんですよ」
「・・・聞きましょう」
アイシャとカルミアが言い争う事は
それなりにある、
ただ基本的にカルミアはアイシャに甘く、
アイシャはカルミアを信頼しきっているので、
ここまでのぶつかり合いに発展する事はまずない。
ただ揺るがせにできないものが
お互いにあるときはこうして喧嘩する事もあるわけで、
そうなった時はレントが意見をまとめ、
その場を収めるというのが
なんとなく3人の中でのお決まりになっていた。
喧嘩の発端はアイシャがある場所に
明日行きたいので手伝ってほしいと
言い出した事、
2人が詳細を尋ねると
アイシャが行きたいというのは
「星航の導」の跡地だという。
この時カルミアは装備の大規模整備を行っており、
同行するのは不可能なのはアイシャも
知っているはずなのに何故急にと疑問を
呈されるが、
アイシャはある筋から星航の導の跡地に、
とある姉妹がいるという情報を得たからというのだ。
その姉妹はアイシャが星航の導への潜入に失敗し、
捕らわれた際に出会ったマーゴに利用されていた
犠牲者だったのだが、
アイシャは彼女達の事が気になっており
事件の後に消息を調べるも行方不明と
されていたのだ。
実は星航の導で起きた事件は
現場にクラス5を含め
複数のマーゴハンターがいたにも関わらず、
全員の記憶が曖昧であったり欠如していたという
異常現象が確認され、
現在もその原因は不明なまま
情報の整合性がとれない事から、
”解決した未解決事件”とされ
被害者や犠牲者の数も正確に
把握されていなかったのである。
「”マーゴに関わった人間はまたマーゴに
関わってしまう”
っていう考え方がありますが
ならあそこにその姉妹が
いるっていうのは無い話じゃないと思いますし
一刻を争うのも分かります
でも話が急すぎるし状況が悪いので
基本はルミアさんの意見に賛成なんです
なんですけど・・・
先輩が我が身可愛さで
姉妹を見捨てるっていうのは
なんだか解釈違いだと思いませんか
ルミアさん?」
「それは・・・まぁ・・・そうですね・・・」
「それにどうせここで反対しても
先輩勝手に行くと思うんです
そっちの方が良くないので
先輩の作戦を反対しない方向で
考えた方が良いと思うんですよ」
「レン・・・」
「先輩まだ喜ばないでください
いい案が思い浮かばなかっただけですから」
「へ?」
「ルーメさん! これまでの話聞いてました!?」
2人の性格を良く知っているレントの意見に
口ごもりながらも納得するカルミア、
対してレントが賛成してくれた事を喜ぶアイシャ
だったが良い案はありませんと清々しく
言われキョトンとした顔をする、
そしてレントはこの家の4人目の住人を
呼ぶのだった。
5
「もちろん 聞いていましたよ」
ここにはいないもう一人の声だけが室内に響く、
レントに呼ばれたのはアイシャのアニマウェポンの
一つ「フォルメクス」、通称ルーメの声だ。
彼女は過去にある事件で体を失い
アニマウェポンに魂を写し、
その事件に関わったアイシャの
アニマウェポンとなった経歴を持つ。
普段は魂の一部をアイシャ宅の
コンピューター内に置き、
周辺設備の管理や防衛、
生活のサポートを担当している。
仕事に対して非常に熱心な性格で
アニマウェポンの時には乱暴な口調が
特徴ではあるが
家ではメイドのような仕事をしているという事で
穏やかで優しい口調をしている、
また私生活までサポートしてくれると言っても
住人のプライバシーに対して徹底した配慮を
行っているが、
このように呼べばすぐに返答してくれるし
相談にも乗ってくれるのだ。
「今回の先輩の我儘ですけど
明日は私が空いてるんで付いて行きますが
場所が場所なんで一人では力不足なんです
なのでもう一手か二手あれば
ルミアさんも安心できると
思うんですがいい手ありますか?」
「最近のあなたは装備を一新して力を付けていますなのでレント一人同伴すれば十分だと思います」
(・・・お? これは・・・)
「やだなぁルーメさん
先輩が敵になる事も含めたら私一人で
対処は絶対無理ですよぅ」
「なんで?あたしが敵?
そんなことあるわけないじゃん?」
「先輩があの場所に行きたいのが
その姉妹の事だけじゃない可能性があるっていう
話です」
「呼ばれているというやつですね」
「そうです!」
「オカルトな話?ルーメまで?」
「ちょっと前に術で人を操って集めた
マーゴの話がありましたけどマーゴハンターも
操れるかもじゃないですか
先輩まだお腹に紋残ってますよね?」
「またその話? 最近出てくる感覚も
堪え方も分かってきたってば」
「そもそもあの事件はみんな記憶が曖昧なんですよ
だから先輩が紋を刻まれたのってたぶん
あそこだと思うんです
そう考えると幽霊とか運命じゃなくて
厄介なマーゴに無自覚に操られて呼ばれてるって
可能性も考えないと」
今回のマーゴの犠牲になった姉妹を助けに行く
そんなアイシャの突発救出作戦、
レントの気持ち的には大賛成だった。
でもカルミアの心配も凄く理解できる、
しかしわが身可愛さで救出を諦めるような
かっこ悪い師匠は考えられないので
出来るだけアイシャの要望に応えたかったが
一つ大きな不安要素があった。
それはアイシャの体調だ、
実は災害級マーゴの事件でアイシャが豹変
した原因を心配で調べたのだが、
おそらくアイシャを豹変させたのはあの淫紋
だとレントは考えていた。
しかもあの淫紋は特殊なもののようで、
いまだに消えておらず、
そもそもアイシャはいつ刻まれたかすら
覚えていないのだ。
そしてカルミアが手助けできない状況で
アイシャがこの救出作戦を持ちかけてきた
タイミングの悪さに、
人間に術を施し、
マーゴハンターの警戒網の外に
操って集めたマーゴの話を思い出し、
アイシャが紋を刻んだ者に呼ばれた
という可能性も踏まえて作戦を考えるべきだと
思ったのだ。
「自分の力を正しく把握した上で
未知の状況への用心もしている
レント いい判断です
成長していますね」
「えへへ ルーメさんちょっと
試してるっぽかったから~
じゃあもう一押し理論的なやつ
たのみます」
「畏まりました
まず1つ目にクリス・アスターを
同伴させてください」
「再復帰プログラム中のクリスを連れて行って
大丈夫なんですか?」
「再復帰プログラムは徐々に任務の難易度を
上げていく事になっています
クリスがアイシャの元に来て約3か月
難易度の高い任務に同伴させ進路の決定を
行って良い時期だと思います
レント クリスと難易度の高い任務を行う事に
不安要素はありますか?」
「いつもオドオドしてるから心配になる時はありますが
凄い頼りになるので不安はないです
もうちょっと自信もっていいのにって思うくらいです」
「2つ目はアイシャ
今回の任務の現場での決定権を
レントに一任してください」
「それは あたしが操られてるかもって話?」
「そうです 現場での配置 ミッション時間
そして”撤退”の決定です
レント できますね?」
「はい 先輩に嫌われる覚悟はできてます」
「嫌うわけないでしょ
あたしも覚悟して助けに行くんだから」
「そして3つ目
アイシャは
”ステルススーツ”
を装備してください」
「え!?・・・ええ~それは~ちょっと・・・」
「なんです?そのステルススーツって?」
「アイシャが以前助けた人が
ある方のお孫さんだったのですが
その事に恩義と感謝を込めて
贈ってくださった品がステルススーツになります」
「へー ん?でも私そんなの見た事ないんですけど
ルミアさん知ってます?」
それまで真剣に話を聞いていたアイシャが
ルーメの3つ目の条件に急に難色を示す、
レントは聞き覚えの無いスーツが気になったが、
アイシャが話したがらない雰囲気だったので
付き合いの長いカルミアに聞いてみることにした。
「ええ
アイシャの戦闘着とアニマウェポンの動作を
極力邪魔しないように
デザインされているだけではなく
光学迷彩に髪色を変える擬装機能
そしてアイシャのバリア性能を上げるという
普通では考えられない優れた装備が
いくつも施されたスーツです」
「はぁ!? なんですそれ どんな人助けたら
そんなものプレゼントされるんですか?」
「しかも今でも逐次アップデートが行われていて
最新版では攻撃や淫気のダメージを
20回程肩代わりしてくれるシステムも
搭載されたそうですよ」
「はいぃっ!? 」
「その方というのはヴァルプレオスの
創始者の一人だったんですよ
今は一線から退いているので趣味で作った
と仰っていましたが
御夫婦揃って今でも技術者で
そんな人達が趣味全開で作ったものですから
性能は推して知るべし
そんな凄いスーツなんですが
使わないんですよ アイシャったら」
「もったいなー! なんで!?」
「いや~あれは さ
”フラグスーツ”なんよ」
「・・・はい? 先輩 なにいってんすか?」
「”フラグ”スーツ
あれを着ると高確率で
良くない事が起こるんですって
アイシャ曰く」
「・・・・・・・・・じゃあ大丈夫っすね
今クリスからもOKもらいました
流石返信が早い
あと何持っていきましょうか・・・・」
アイシャが規格外の性能の装備を
使いたがらない理由を
知ったレントはあんぐりと口を
開けしばらく呆けていたが、
すぐに持ち直しクリスに連絡のメールを送り、
テキパキと予定を立てていく。
「ええっ! ちょっと待ってよレン!
勝手に話進めないでよ!
あれはちょっとソレなんだって
レンならそういうの分かるでしょ!?」
「あれソレだけで何が分かりますか
ジンクスとかの話でしょ?
因みに何回着て何回災難に会いました?」
「え?え~っと・・・」
「3年内の記録では11回中7回
アイシャの規定する災難に会っています」
「じゃあ気のせいです」
「き・の・せ・い!
いや今ルーメが言ったじゃん!
50%以上じゃん!気のせいじゃないよ!」
「100%じゃないなら偶然性を無視しちゃダメです
それに聞く限り先輩の無事を祈って今でも
手を加えてくれてる品物を災難を招くなんて
言っちゃいけません!」
「うっ・・・それは・・・は・・・はい・・・
いや でも さぁ・・・」
「納得できないならリィアナさんに言いつけますよ」
つい最近装備の新調で色々大変だったレントは
世の不条理に何故かとても腹が立ったので、
アイシャの主張を切って捨てる、
アイシャはまだ食い下がろうとするが、
レントのジト目正論パンチと
出来れば知られたくない
恐い大先輩の名前を出され
閉口するしかなかった。
「うう・・・わかり ました」
「ルーメさんこれで成功率って上がります?」
「数値を出すのは難しいですが
フラグスーツにはいざという時に
脱出を助ける機構が内蔵されています
今のレントとクリスが連携すれば
操られたアイシャを無力化して生存する確立は
非常に高いです
しかし救助の方は情報が不足し過ぎていますので
なんとも言えません」
「ルミアさん こんな感じでどうでしょう?」
「・・・わかりました ただもしもの事があるので
装備の整備を急いでもらいます
そして準備が整い次第すぐ応援に向かいます」
「OKです なんだったら追加メンバーも募って
ください」
「いやいや あのあの・・・
できれば~あんまり大事にはならないように
してほしいんだけどな~」
「出来るだけ秘密任務のつもりで
やりますが
なっちゃったら先輩怒られてくださいね♪」
「あう あう ・・・・・・はいぃ・・・」
そもそもこの救助作戦、
一人で向かうにはかなり無理があるのは
アイシャも自覚していた、
でもあの時姉妹の片方が酷い扱いを受けた時に
心配し涙を流すもう一人の姿を思い出すと、
絶対に助けたいという気持ちが収まらなかった。
だから手助けしてもらうつもりで2人に打ち明け、
なんだったら大事にならないように
こっそり極秘作戦としてやりたかったのだが・・・。
という思惑は殆ど叶わなかったが、
一番大事な部分は叶ったのだからいいじゃないか
と、そんな諦めにも似た感情を抱きながら
途方に暮れた目でアイシャはその後の
作戦会議に参加するのだった――。
※
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M_SOLNOID6
2025-08-15 19:13:49 +0000 UTC