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潜入調査の罠 ヒトイヌ

「さて、藍先兎妃美《あいさき ときみ》……素直ないい子になれたかしら?」  金属製の扉が開けられ、真っ暗闇の状態から回復した視界のなかで、薄く嗤った嶺湖久絹恵《れいこく きぬえ》が訊ねた。  そうだ。思い出した。  不当労働監視局麾下の民間調査会社に所属する兎妃美は、嶺湖久絹恵の罠に落ち、囚われの身となった。  革製の全頭マスクに、その上から嵌められた開口を強制する口枷、鼻腔に侵入したチューブ。さらに口枷の開口部から挿入され、喉奥を超えて気管と食道が分岐するあたりまで達したシリコーンゴム製のディルド。  それらのせいで、兎妃美は言葉を奪われたうえで、呼吸を著しく制限された。  全身を覆いつくす革製の拘束衣で厳しく拘束されたうえで正座を強制され、肩の部分を天井からベルトで吊られて、立ち上がることも身体を倒すこともできない。さらにネックコルセットを嵌められて、首すら動かせない。  そんな厳重な完全拘束状態で、兎妃美はお股の3穴を、異物で占拠されていた。  尿道には、導尿カテーテル。  膣をみっちりと満たす、ゴツゴツの電動ディルド。  肛門に嵌められた栓は、排泄の管理器具と振動装置を兼ねている。  それらの淫具で、兎妃美はいやらしく責め抜かれた。  安静にしていてギリギリに呼吸を制限された状態で、淫具のバッテリーが切れるまで。  生命の危機を覚える息苦しさのなか、精神がおかしくなってしまうのではないかと思えるほど、何度も絶頂させられた。  そしてバッテリーが切れたら、光も差し込まない極小の空間に放置。  しばらくしたら、兎妃美に強い恨みを持つ黒藤麻子がやってきて、水分と栄養の補給。そして、淫具のバッテリーを交換。ときには、排泄の管理も行なわれたうえで、再び責め抜かれる。  そんな地獄のような日々が繰り返されたあと、ようやく絹恵が顔を見せた。 『それじゃ、しばらくお別れよ。次に私と会うときまでに、素直ないい子になっていてちょうだいね。さもないと……おまえは、永遠にこのままよ』  扉を閉められ、閉じ込められる前の、絹恵の言葉。  彼女の言う素直ないい子というものが、具体的に何なのかはわからない。  だが、絹恵に従わないと、地獄の責め苦が永遠に続く。  その恐怖に囚われた兎妃美は――。 「もし素直ないい子になれたなら、1回だけうめき声をあげなさい」  そう言われ。 「あぁう……」  くぐもってうめいた。  素直に従ったところで、これまでとは違う地獄が待っていることには思い至れずに。  嶺湖久絹恵の言葉に答えたあと、鼻のチューブからなんらかの気体――おそらく導眠ガス――を吸わされ、兎妃美は眠らされた。  そして目覚めると、これまでと違う拘束衣を着せられ、異なる姿勢で拘束しなおされていた。  脚は眠らされる前と同じように、膝を折りたたんだ状態。  ただし、正座を強いられているわけではない。太ももの裏とふくらはぎをくっつけたままではあるが、脚を左右別々に動かすことができる。  腕は以前、お腹の前で組まされていたが、今は脚と同じように折りたたまれて拘束されている。  こちらも肘を伸ばすことはできないものの、肩は動かせる。  おそらく、四肢を折りたたんだ状態で、革製の袋に押し込められているのだ。  そして、腕と脚を閉じ込める革袋は、それぞれが独立しているわけではない。四肢を収める部分も含めて、全身が一体式のスーツになっているようだ。  胸の下側だけ締めつけがきついのは、そこをベルトで締められているから。  ネックコルセットほどではないが首を動かしにくいのは、幅の広い首輪を嵌められているのか。  頭には、かろうじて視界が確保できる程度に、目の部分に小さな穴が開けられた全頭マスク。  口は変わらずマウスピースつきの筒で開口を強いられているが、喉奥を超えて体内に入り込んでいたディルドはなく、口呼吸ができる。  とはいえ、口中の異物に舌を下顎側に押さえつけられ、喋れない点は同じ。鼻孔にチューブを挿入されていることも変わらない。  それらは口枷で押さえられているのではなく、全頭マスクと一体になっているようだ。  そしてお股の3穴には、眠らされる前と同じように、異物を挿入固定されている。  そこまで身体感覚で探ったところで、身体を起こそうと身をよじる。  だが、仰向けの体勢からでは、容易に起き上がることはできなかった。  しばし折りたたまれた手足をばたつかせ、そのまま起きるのを諦めて、反動をつけて身体を横向きにする。  そこで兎妃美は、床の上で蠢く、犬のような生きものを見つけた。 (いえ、違う。これは……)  兎妃美自身だ。  犬のような姿で拘束された己の姿が、壁に設えられた鏡に映っているのだ。  薄いグレーの全頭マスクの口と鼻に当たる部分は、犬のマズルのように成形されている。頭部には、犬の耳に似せて、三角形の飾りが取りつけられている。  全身を覆うスーツは、四肢を折りたたんで閉じ込める革袋と一体式。その胸を締めつける革ベルトと、首に嵌められた首輪も、身体感覚で探ったとおり。  3穴の異物は、股間に取りつけられた金属部分の奥にあるのだろう。  そして首輪には、『トキミ』と刻印されたプレートが取りつけられていた。  それで、鏡の中の犬のような生きものが、間違いなく自分なのだと確認したところで、背後から鉄の扉が開く重い音。 「絹恵さま、目覚めているようです」  黒藤麻子の声が聞こえた直後、鏡の中に嶺湖久絹恵が姿を現わした。 「素直ないい子になれたおまえを、私のヒトイヌとして飼ってあげる」  ヒトイヌというのは、犬のような人という意味なのか。あるいは、かつて人だった犬のことか。  ともあれ、兎妃美をヒトイヌとして飼うと、絹恵は宣言した。  戸惑った直後、胸のベルトと首輪が、きつく締まった。  背中側で胸ベルトと首輪が接続されており、そこを麻子につかまれて引かれたのだ。 「あうッ!?」  首を絞められて、全頭マスクの奥で目を白黒させたのは一瞬。  引きずるように上半身を起こされ、正座の体勢を取らされると、胸と首の締めつけからは解放された。 「とはいえ、おまえはまだ、ヒトイヌとしての躾ができていない……」  そこで、正座状態の兎妃美の前に立ち、絹恵が口を開いた。 「でも、私は多忙。おまえに付きっきりで、躾を施すわけにはいかない。そこで、ここにいる黒藤麻子を、調教係に任命するわ」  そしてそう言うと、絹恵はいやらしく嗤って言葉を続けた。 「麻子により、ヒトイヌとしての調教がなされれば良し。もし躾が進まなければ、おまえは完全拘束での閉じ込めに逆戻りよ」  胸を締めつけるベルトと首輪を背中側で接続するベルト――それは全体でハーネスと呼ぶべきだろう――につながれたリードを引かれ、緑の芝生の上を歩かされる。  ヒトイヌにされて目覚めた部屋から出されると、そこは高い塀に囲まれた屋外だった。  絹恵の別荘かなにかなのだろう。  標高はかなり高い。ぶ厚い革製のヒトイヌスーツと全頭マスクで全身を覆い尽くされていても日中の屋外でいられるのは、平地よりずっと気温が低い高原だから。  眠らされているあいだに、ここに運ばれたのか。それとも、完全拘束で閉じ込められていたときから、この場所にいたのか。  躾が進まなければ完全拘束閉じ込め罰に逆戻りという絹恵の言葉からすると、後者に違いない。  そうとわかったところで、状況は変わらない。  自身に強い恨みを持つ黒藤麻子にリードを引かれて、兎妃美――いや、もはやヒトイヌ・トキミと呼ぶべきだろう――は、四つん這いで歩かされる。  肘と膝を地面につけて、折りたたまれて拘束された短い手足を使い、ヨチヨチと歩行させられる。 「はっ、はっ、はっ……」  歩行調教が始まってすぐ、口枷の筒から、熱い吐息を漏らすようになった。 「はっ、はっ、はっ……」  鼻のチューブはマズルの鼻部分に接続されていて、そこから鼻呼吸できる。 「はっ、はっ、はっ……」  開口を強制する筒は、マズルつき全頭マスクの犬の口を模した穴につながっており、口呼吸の吐息はそこから排出される。  呼吸孔が分かれているため、鼻で呼吸孔を確保したまま、犬の口部分から水分や流動食を流し込むことができる。  つまり、厳重な完全拘束で閉じ込められていたとき同様、ヒトイヌ状態からは容易に解放されない。  スーツと一体の3穴の異物も、抜き取られることはない。  完全拘束閉じ込めのときのように淫具を振動させられないのが、せめてもの救い。  そう考えていられたのは、歩行調教が始まってしばらくのあいだだけだった。 「はっ、はっ、はっ……」  リードを引かれて歩くたび、脚やお尻の筋肉が動く。連動して、お股周りの筋肉にも力が込められる。  尿道と膣、肛門をこじ開け占拠する異物を、軽く食い締めてしまう。  食い締めた状態で、敏感な粘膜が、異物で擦られる。 「はっ、はっ、はっ……」  軽い刺激で緩い快感が生まれ、少しずつ肉が昂ぶる。  肉が昂ぶり、身体はより多くの空気を求める。 「はっはっはっはっ……」  より多くの空気を求め、呼吸が早くなる。  とはいえ、鼻孔のチューブに加え、マズルの犬の口を模した開口部から口呼吸はできる。  そのため、完全拘束で閉じ込められていたときのように、生命の危機を感じるほどの苦しさはない。 「はっはっはっはっ……」  まるで、ほんものの犬のように、空気を吸って吐く。  苦しい、苦しい。  苦しさに加え、不自然な体勢で歩かされることがつらい。  だが、立ち止まることはできない。  歩行調教をまっとうできなければ、躾がなっていないとして、完全拘束閉じ込め罰に逆戻りだ。  気持ちいい、気持ちいい。  歩くほどに敏感なところが軽く刺激され、緩い快感が生まれ続ける。  それでいっそう肉が昂ぶり、呼吸が苦しくなるとわかっているのに、足を止めるわけにはいかない。 「はっはっはっはっ……」  苦しい、つらい。苦しさつらさは、少しずつ増していく。  気持ちいい、気持ちいい。だが快感は、ずっと緩いまま。  淫具の振動による圧倒的な快楽を知ってしまった肉体は、歩くことで得られる程度の快感では、とうてい満足しない。  呼吸の苦しさと身体のつらさ、緩い快感に苛まれながら、別荘の庭を歩かされる。 「はっはっはっはっ……」  ほんものの犬のような呼吸をしながら、ヒトイヌとしての歩行調教を受ける。  そうして歩かされ続け、体力の限界が近づいたところで、再び部屋に戻された。  全頭犬マスクのマズルから水分補給を受けたあと、麻子がカード型のリモコンを取りだす。 「ほんとうは、憎いおまえにいい思いをさせたくないんだけれど……歩行調教をうまくこなせばご褒美を与えるよう、絹恵さまに命じられているからね」  そしてそう言うと、麻子の指がリモコンのスイッチを押し込んだ。  直後、歩行による軽い刺激に熱く火照り疼いていた膣内で、ディルドが猛烈に振動し始めた。  肛門をこじ開け占拠する異物も、強烈に震えだした。  尿道のカテーテル自体は振動しないが、そこにも膣の異物の震えが伝わった。 「はッあっ、ああッ!」  気持ちいい、気持ちいい。圧倒的に気持ちいい。  緩い快感に苛まれ続け、オンナの本能がより強い快楽を求める状態に陥っていたヒトイヌ・トキミは、大いなる快感に翻弄される。 「あっアッ、あぅあッ!」  気持ちいい、気持ちいい。気持ちよすぎる。  気持ちよすぎて、肉が融ける。頭が蕩ける。  ヒトイヌスーツのおかげでようやく身体の形が保てているのではないかと思えるほど、身も心もドロドロになってしまう。  そしてたどり着く、 「あッあうッ、あァあッ!」  ヒトイヌの口であられもなく喘ぎながら、ヒトイヌの肉体をビクンビクンと跳ねさせて、ヒトイヌ・トキミは悦びの世界に飛び込み――。 「あっああッあゥああッ!」  ひときわ高く喘いだあと、身体からガックリと力を抜いた。  ゆっくりと下りてくる。  少しずつ覚醒していく。  たどり着いた性の高みは、不思議な悦びに満ちていた。  完全拘束で閉じ込められていたときと違い、到達すると同時に、すべての淫具は振動を止めた。  そのおかげで、ヒトイヌ・トキミは、恍惚の境地を堪能できた。 (これは……この悦びは……)  たしかに、つらい調教のご褒美たり得る。 (この悦びがあれば……)  きつい責めにも耐えられる。  とはいえ、ご褒美目当てに調教を受け入れたらどんな結果を招くか、ヒトイヌに堕ちた身にも理解できる。 (でも……)  自分には、この境遇から抜け出す術《すべ》がない。  嶺湖久絹恵が会社の上層部や監視局と裏でつながっているのなら、助けが来ることも望めない。  ならば、つらい地獄と、きわめてつらい地獄。どちらを選ぶべきかは自明の理。  思考力がわずかに回復した頭でそう考えたヒトイヌ・トキミには、想像できていなかった。  選んだ地獄の先に、どんな暮らしが待っているのかを。 (了)

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