後編 繁華街の商業施設で、メイド服女装探偵の等身大フィギュア展示会が始まる少し前。悠斗の助手兼救出係たる柚木稟は、スマホの地図とにらめっこしながら、送り状に書かれていた住所にたどり着いていた。 「こ、ここは……」 かつて、悠斗がティーチャーYに囚われ、いやらしく責め抜かれた廃工場だ。 ただし、すでに解体工事が始まり、重機がバリバリと建物を壊している。 『まさか送り主、ティーチャーYの住所まで書いてあるとは……これは罠か、はたまた俺たちを舐めているのか……』 送り状を見たときの、悠斗の言葉。 どうやら、ティーチャーYはメイド服女装探偵を舐めていたのではなく、稟を悠斗から引き離す策として住所を書いていたようだ。 実のところ、その廃工場はもともと、柚木藍――もとい、ティーチャーYが、所有者から借り受け、つい最近まで根城にしていた場所である。 それが解体の期日が迫ったため、柚木邸兼柚木法律事務所兼原田探偵事務所に日時指定で樹脂固めメイド服を発送したあと、引き払っていたのだ。 「ぐぬぬ……ティーチャーYめ」 そんな事情を知る由もない稟が、拳を握って悔しげにうめく。 やはり稟の勘、馬鹿にはできないが、あてにもできない。 ともあれ、送り状に書かれていた住所に手がかりがないとわかった以上、あらためて悠斗の元に向かわなければならない。 「仕方ない。いったん家に戻って、悠斗の足取りを追うか」 ひとしきり悔しがってからつぶやき、稟は駆け出した。 ウィン、ウィン……。 装置内側に設えられた軟質のブラシが、乳首をいやらしく擦る。 ヴヴヴヴヴ……。 ペニスの竿の部分が振動し、射精を促すように刺激する。 ズッ、ズッ……。 けっして痛みを与えないように優しく、装置が睾丸を揉む。 ヴィイイイ……。 アナルディルドが振動し、肛門と前立腺を責められる。 まだその時期ではないということか、亀頭責めだけはまだ始まらない。 とはいえ、緩い責めがもたらした官能の火に炙られ続けてきた肉体には、1段階強くなった装置の刺激はよく効いた。 「……ッ! ……ッ!」 自身の等身大フィギュアとして、商業施設のエスカレーター横のスペースに展示されたまま、襲いくる快感に音にならない声で喘ぐ。 そんな悠斗の周りに、人が集まりだした。 集まった人々は口々になにか言っているようだが、イヤホンの電源が落とされたのか、その声は聞こえなかった。 とはいえ、ぶ厚い透明樹脂ごしに見る彼ら彼女らの表情から、どんなことを言われているのかは、なんとなくわかる。 スマホを構えて撮影している画像や動画が、SNSで拡散されるであろうことは、容易に想像がつく。 恥ずかしい。悔しい。口し惜しい。 だが、どうすることもできない。 もともと樹脂固めメイド服で上半身をガチガチに固められていたうえ、背中をフィギュアスタンドのホルダーに接続され、ハイヒールロングブーツの踵を台座に固定されては、その場から一歩も動けない。 身じろぎも許されず声すら出せない悠斗にできることは、樹脂固めメイド服に仕込まれた機械に責め苛まれるさまを、集まった人々に見られ、撮影され、拡散されることだけ。 恥ずかしすぎる。悔しすぎる、口惜しすぎる。 (でも……) 気持ちいい。 とはいえ、押し寄せる快感は、負の感情を押し流し、忘れさせてくれるほどには大きくならなかった。 ウィン、ウィン……。 ヴヴヴヴヴ……。 ズッ、ズッ……。 ヴィイイイ……。 乳首が、ペニスの竿が、睾丸が、アナルが、淫らな機械に責められる。 「……ッ! ……ッ!」 音にならない声で喘ぎながら、快感に襲われる。 高まりきれないけれど、酔えないけれど、意識せずにはいられない快感に昂ぶらされる。 嫌悪感も露わに、なにかを言い合う主婦ふうの女性。興味津々のようすで見入る男子学生。楽しそうに笑いながら撮影する女子学生。その人垣の向こうで、チラチラ見ている施設のスタッフ。 もう少し、刺激が強ければ。同じ強さでも、亀頭も責めてくれれば。 快感に押し流され、快楽に酔い、視線を気にせずヨガリ狂えるのに――。 そこまで考えて、ハッとした。 まだ、課せられたクエストは終わっていない。 ここで快感に押し流され、快楽に酔わされ、前後不覚の状態に陥るわけにはいかない。 思い直して気を引き締め、いや引き締めようとできたのは、わずかのあいだだった。 「……ッ! ……ッ!」 止まらない装置がもたらす快感が、悠斗の理性を押し流そうと押し寄せる。 無慈悲な機械の快楽が、メイド服女装探偵を酔わせようと襲いくる。 ウィン、ウィン……。 乳首が気持ちいい。 ヴヴヴヴヴ……。 ペニスも気持ちいい。 ズッ、ズッ……。 睾丸を揉まれるのも気持ちいい。 ヴィイイイ……。 もちろん、お尻も気持ちいい。 恥ずかしいのに、悔しいのに、口惜しいのに、気持ちいい。 「……ッ! ……ッ!」 フィギュアスタンドに固定され、動けなくなったことで落ち着いていた呼吸が再び苦しくなるが、気持ちよさは強まるばかり。 (いや、もしかしたら……) 恥ずかしさも、悔しさも、口惜しさも、息苦しさすらも、快楽を増幅させるスパイスになっているのかもしれない。 (だって、俺は……) 女装Mなのだから。 悠斗が快楽に襲われながらそう思ったとき、ペニスの奥がキュンキュンするような感覚。 ペニスへの振動が効いているのか。それとも、肛門の奥で前立腺を刺激されているためか。 いずれにせよ、もうすぐイカされる。衆人環視での射精は近い。 (も、もう……イクッ!) しかし――。 あと1秒責められたら射精に達するというところで、すべての装置が最弱の状態に戻った。 イク寸前まで高まっていた射精衝動が、急速に引いていく。 (ど、どうして……) イカせてくれない――いや、イカされなかったのか。 射精できなかった残念な気持ち半分、大勢の人の前で到達させられずにすんだ安堵半分。 (もしかして……) 等身大フィギュアとして展示後、一定時間だけ強い刺激を与えることが設定されていて、その切り替わりが偶然イク寸前のタイミングと合ったのか。 射精に達しそうな感覚が遠のき、漠然と考えたところで、装置の動きが最弱から再び1段階上がった。 ウィン、ウィン……。 ヴヴヴヴヴ……。 ズッ、ズッ……。 ヴィイイイ……。 意思を持たない機械が、悠斗に快楽をもたらす。 「……ッ! ……ッ!」 肉体の昂ぶりに呼吸が速くなり、快楽とともに息苦しさにも襲われる。 冷めきっていないところから、射精寸前まで一気に追い上げる。 今度こそ、イカされる。人目に晒されながら、否応なく射精させられる。 だが――。 このたびも、射精寸前で装置は最弱に戻された。 (ま、また……) イケなかった。イカされずにすんだ。 (で、でも……) あらかじめ設定されていた強弱切替えが、2回連続で射精寸前のタイミングと合致するだろうか。 その疑問を抱いた悠斗は、樹脂固めメイド服に閉じ込められた直後の合成音声を思い出した。 『また、脈拍や呼吸数をはじめ、あなたの身体データは常にモニターされており、そのときの状態に応じて対応が変化する場合があります』 (つ、つまり……) 身体データから悠斗に射精の兆候が検知されたことで、装置の動きが弱められたのだ。 (だとすれば……) 悠斗の身体データをモニターし、装置を制御している者――それは、ティーチャーYである――が、意図的に射精寸前で装置を最弱に戻している。 そこで、再び刺激が強くなった。 乳首が、ペニスが、肛門が、快感に襲われて、冷静に思考する能力を奪われる。 「……ッ! ……ッ!」 鼻の樹脂製チューブにより、呼吸孔が制限されていることによる息苦しさ。 その苦痛すら、あっさり押し流してしまう快楽。 「……ッ! ……ッ!」 あっという間に追い上げられるが、やはり射精の直前で、装置は動きを弱めた。 大勢の人に見られながら、撮影されながら、画像や動画を拡散されながらの、射精寸前の寸止め責め。 樹脂固めメイド服に囚われ、等身大フィギュアとして展示されながら、悠人は過酷な責めを課される。 射精衝動が引いたところで、また装置の動きが強くなった。 「……ッ! ……ッ!」 息苦しさのなか、大いなる快感に襲われて、射精直前まで追い上げられる。 しかし、射精させてもらえない。 もはや、衆人環視下での射精を回避できた安堵はない。 射精寸前の寸止めを繰り返された悠斗のなかにあるのは、到達できなかったことによる残念な気持ちのみ。 そして、射精衝動が落ち着いてきたところで、強い刺激。 「……ッ! ……ッ!」 音にすらならない声で喘ぎながら高められるが、やはり射精させてもらえない。 イキたい。 その思いが、寸止めされるごとに強くなる。 また、装置が動きを強めた。 「……ッ! ……ッ!」 射精に達する直前、最弱に戻った。 イキたい、イキたい。 寸止めを繰り返されるたび、到達を望む気持ちがどんどん強くなる。 それでも、射精寸前寸止め責めは終わらない。 「……ッ! ……ッ!」 また、イケなかった。 イキたい、イキたい、イキたい。 もし樹脂固めメイド服に閉じ込められていなければ、人前であっても自分でペニスをしごいていたかもしれないと思えるほどの、射精への渇望。 それがどれほど高まろうとも、イカせてもらえない。 イキたい、イキたい、イキたい、イキたい。 もし言葉を奪われていなければ、集まった人々全員に聞こえるよう、大きな声で叫んでいただろう。 しかし、音にすらならない悠斗の願いを、聞き届けてくれる者はいない。 イキたい、イキたい、イキたい、イキたい、イキたい。 そのことしか、考えられない。 イキたい、イキたい、イキたい、イキたい、イキたい、イキたい。 もう、頭がおかしくなりそうだ。 イキたい、イキたい、イキたい、イキたい、イキたい、イキたい、イキたい。 いや、衆目に晒されながら、射精のことしか考えられない自分は、もうおかしくなっているのかもしれない。 高まりきった射精欲求のなか、悠斗がぼんやりと考えたときである。 ピーッ。 耳の装置から、電子音が聞こえたような気がした。 「規定の時間が終了しました。クエスト前半の課題、『等身大メイドフィギュアを体験せよ』はクリアされました」 それは、藍の身体にしかけられた時限爆弾のタイマーが、解除されたことを意味する。 とはいえ、そのことでホッとする気持ちにはなれなかった。 射精欲求を極限まで高められた肉体と精神を、最弱に戻った装置群に責められ続けていたからである。 そんな悠斗の樹脂固めメイド服に囚われた身体が、フィギュアスタンドの台座ごと、舞台のセリのように、床の下に沈んでいく。 (こ、こんな機能、あったんだ……知らなかった) ときどき稟と行く商業施設に、レディーXの組織の資本が入っているとはつゆ知らず、奈落の底に沈められながら、悠斗はぼんやりと考えた。 油圧式だろうか。振動もなく、ゆっくりと降ろされた奈落の底は、倉庫のような地下室だった。 全体の広さは、10メートル四方ほど。 床も、壁も、各種配管と配線ラックが走る天井も、コンクリートの打ちっぱなし。 装飾性のない実用本位の照明器具が、地下室全体に過不足なく設置されており、隅々まで暗さを感じることはない。 着脱用ファスナーが硬化とともに樹脂に埋まり、絶対に脱げなくなった樹脂固めメイド服を固定するフィギュアスタンドごと悠斗が降ろされた場所は、壁ぎわから1メートルほど離れた位置。 右手の壁には、1階へと登る階段が設えられている。 反対側の壁際には、事務所でよく見かける合成皮革張りのシンプルなソファ。その上には、ブラウスとタイトスカート姿の女性が、後手に縛られた身を横たえていた。 (あ、あれは……あの女性《ひと》は……) 顔を覆うぶ厚い透明樹脂ごしでも、見紛うはずがない。メイド服女装探偵・原田悠斗の助手兼救出係にして同級生の幼なじみ、ただならぬ関係にある柚木稟《ゆずき りん》の姉、柚木藍《ゆずき らん》だ。 レディーXに攫《さら》われて以来、後継者ティーチャーYに交代してからも解放されていなかった――少なくとも、悠斗はそう思っている――女性が、ふつうに歩けば十数歩という場所にいる。 目立った外傷はない。見たところ、血色もよさそうだ。目を閉じているが、眠らされているだけだろう。 ストラップで胸に固定された時限爆弾のタイマーが止まっているのは、悠斗がクエスト前半の課題をクリアしたからだ。 そこまで考えたところで、防音イヤーマフの奥で耳穴にねじ込まれた耳栓兼用イヤホンから、電気的に合成された音声が聞こえた。 「最終クエストです」 そうだ。クエストだ。 『柚木藍の命が惜しくば、別に送るメイド服を原田悠斗に着させて、指示されたとおりにひとりで行動させろ。彼がクエストの前半を達成できれば、自動的に時限爆弾のタイマーは停止する。すべてのクエストを終えれば、柚木藍は解放される』 稟のスマホに送られてきた、ティーチャーYからのメール。 クエスト『等身大メイドフィギュアを体験せよ』をクリアした結果、その文面どおりに、藍にしかけられた時限爆弾のタイマーは止まった。 (つまり……) これから行なわれるクエストを達成すれば、藍は解放される。 悠斗がフィギュアスタンドに身体を預けて考えるあいだも、耳栓兼用イヤホンからの音声は続く。 「最終クエストの課題は、『柚木藍とともに脱出せよ』。彼女を連れて階段を登り、地上に出ることができれば、課題は達成です」 これなら、いける。 悠斗は直感した。 等身大メイドフィギュア体験のクエストが終わったということは、じきフィギュアスタンドの固定は解除されるだろう。 そうなれば、歩ける。 藍は後手に縛られているが、足は拘束されていない。 眠らされている彼女を起こせば、樹脂固めメイド服に囚われたままでも、クエストを達成できる。 そう判断した悠斗は、気づいていなかった。 衆人環視監視のもとで繰り返された射精寸前寸止め責めにより精神を消耗し、冷静な判断力を喪失していることに。 樹脂固めメイド服に囚われた身を、フィギュアスタンドに固定されているメイド服女装探偵は、わかっていなかった。 精神のみならず、肉体も疲労困憊《ひろうこんぱい》の状態であることを。 そして、忘れていた。 レディーXの後継者たるティーチャーYが、残酷な嗜虐者であるという事実も。 そこで、耳栓兼用イヤホンに、音声が流れた。 「それでは、最終クエストの開始です」 同時に、樹脂固めメイド服を固定していたフィギュアスタンドの接続が解除された。 ハイヒールの樹脂製ロングブーツの足を踏ん張り、ふらつく身体をかろうじて支えたときである。 「……ッ!?」 射精寸前寸止め責めが終わり、ユルユルと最弱で動いているだけだった淫らな装置が、再び1段階強められた。 ウィン、ウィン……。 胸に仕込まれた装置の軟質ブラシが、乳首を淫らに擦る。 ヴヴヴヴヴ……。 ペニスの竿の部分が振動し、射精欲求が高まる。 ズッ、ズッ……。 あくまで緩やかに、優しく、装置が睾丸を揉む。 ヴィイイイ……。 アナルディルドが振動し、肛門に妖しい感覚が生まれ、前立腺も刺激される。 そして今回は、亀頭責めの装置も起動した。 キュル、キュル……。 柔らかく、艶めかしく、半分ほど皮を剥いたペニスの先端が擦られ、衝撃的な快感が駆け抜ける。 「……ッ!?!?」 ぶ厚い透明樹脂の奥で目を剥き、音にならない声で悲鳴じみて叫ぶ。 「……ッ!!!!」 履きなれないハイヒールロングブーツの足がもつれる。 固く滑りやすい樹脂の靴底では体勢を立て直すことは叶わず、バランスを崩してしまう。 「……ッッ!?」 反射的に手をつこうとするが、スカートの上で添えた状態で固められた両腕は、ピクリとも動かなかった。 そのまま、もんどり打って倒れる。 最初に接地したのは、パニエを穿いたように膨らんだ形で硬化したスカートの裾だった。 とっさに身体をひねったせいで、続いてパフスリーブの肩が床に当たった。 そして最後に、中途半端なブリッジをしたように仰向けで、後頭部とスカートの裾で身体を支える体勢で止まる。 『樹脂固めメイド服の硬化が終了しました。このメイド服に使用された特殊樹脂は、きわめて高い硬度と衝撃吸収性が確保されており、不測の事態が訪れても、着用者の身体は保護されます』 樹脂固めメイド服が硬化を終えた直後、耳栓兼用イヤホンから流された合成音声のとおり、転倒しても悠斗の身体は護られ、ケガはおろか痛みすら感じなかった。 そのことに心のなかで胸を撫で下ろすが、いつまでも床に転がっているわけにはいかない。 動きを強めた装置がもたらす快感に苛まれながらも、立ちあがろうと悠斗はもがき始める。 かつて、大男のマッチョがハンマーで叩いても割れない特殊樹脂のパネルを、正拳突きの一撃で粉砕した稟ならば、ブリッジの体勢から立ち上がれるだろう。 だが、そんな芸当は、悠斗には無理だ。 そこで悠斗は、身体を回転させてうつ伏せになり、その体勢から膝をついて立ちあがろうと考えた。 しかし、できなかった。 片方の靴底を床につけ、脚に力を込めて身体を回そうとしても、パフスリーブの形で硬化した肩が当たったところで止まってしまう。 それではと、もう一方の脚を開いて反動をつけても、結果は変わらない。 膨らんで硬化したスカートの裾が、ガリッとコンクリートを擦る感触が伝わってくるが、傷ついているのは床のほうだろう。 「……ッ、……ッ」 淫らな装置で肉体を昂ぶらされているうえ、力を込めてもがいたせいで、また呼吸が苦しくなってきた。 「……ッ、……ッ」 小さな呼吸孔から空気を吸って吐き、呼吸を落ち着けながら考える。 今、諦めるわけにはいかない。 残されたクエストは、たったひとつなのだ。 なんとかして藍の元に行き、眠らされている彼女を起こし、ふたりで階段を登れば、クエスト達成で解放される。 逆に藍に近づくことができなければ、クエスト失敗とみなされ、ペナルティとしてすべての装置がいっせいに最強で起動してしまう。 そうなると、まったく動けなくなってしまうだろう。 亀頭責めが加わったことも相まって、いやらしい装置の動きを1段階強められただけの今でも、大いなる快感が悠斗を蕩けさせようと押し寄せているのだ。 もし、すべての装置が最強で動きだせば、悠斗は床に転がって悶え狂うしかない。 (そ、それだけは……) いやだ。 だがティーチャーYは、正確にはティーチャーYにより、そうなるよう設定された機械は、きわめて非情だ。 「最終クエスト『柚木藍とともに脱出せよ』達成のための、行動が検知されません」 床に転がってもがく悠斗の耳中に、合成された音声が告げる。 「10秒以内に行動を開始しない場合、クエスト達成の意志がないとみなし、ペナルティを課します」 そして、始まるカウントダウン。 「10」 藍に向かってわずかでも進めば、クエスト達成の意志はあると判断してくれるかもしれない。 そう考え、仰向けのままハイヒールロングブーツの足に力を込める。 「9、8、7」 しかし、硬く滑りやすい靴底が、ガッガッと床を掻いただけで、身体は前に進まなかった。 「6、5、4」 それでも、悠斗はもがき続ける。 予想される最悪の結末を回避するため、あがき続ける。 「3、2、1」 そして、カウントダウンが終わり。 ピーッ。 最後通牒するかのような電子音が聞こえたあと。 「……ッッッ!?!?」 すべての装置が、最大出力で動きだした。 ウィンウィンウィンウィン……。 乳首を捉える軟質ブラシが、高速で回転する。 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ……。 ペニスの竿の部分が、猛烈な振動に襲われる。 ズッズッズッズッズッ……。 あいかわらず繊細ではあるが、大胆さを増して装置が睾丸を揉む。 ヴィイイイイイイイイ……。 アナルディルドが暴れ、肛門性感を煽りつつ、前立腺を責める。 キュルキュルキュルキュル……。 敏感すぎる亀頭への責めに、衝撃が走る。 いや、正確には衝撃ではない。 それは強すぎ、大きすぎ、激しすぎたため、衝撃と認識された快感である。 「……ッ! ……ッッ!」 ぶ厚い透明樹脂の奥で目を剥き、完全密封された口で音にならない悲鳴をあげる。 樹脂固めメイドに囚われた上半身はまったく動かせず、脚をこわばらせて襲いくる衝撃的な快感に耐える。 いや、そのつもりでいるだけで、実際は耐えられていなかった。 ウィンウィンウィンウィン……。 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ……。 ズッズッズッズッズッ……。 ヴィイイイイイイイイ……。 キュルキュルキュルキュル……。 無慈悲な機械が、全開で悠斗を淫らに苛める。 押し寄せる暴力的な快感に飲み込まれ、前後不覚の状態に陥る。 そして――。 「……ッッッ(イクッ)!」 あれほど望んでも到達できなかった射精に、あっけなくたどり着いた。 等身大メイドフィギュアとして展示されながら、数えきれないほど寸止めされたあげくの射精。 ほんとうなら、圧倒的な開放感に、快楽に、満足感に、陶然としていただろう。 だが、待ち望んだ射精の悦びに、酔うことは許されなかった。 悠斗を捕らえて離さない樹脂固めメイド服に仕込まれた数々の淫具が、最大出力で動き続けていたからだ。 ウィンウィンウィンウィン……。 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ……。 ズッズッズッズッズッ……。 ヴィイイイイイイイイ……。 キュルキュルキュルキュル……。 乳首が、ペニスの竿が、睾丸が、アナルと前立腺が、敏感すぎる亀頭が、無慈悲な機械に責められる。 頭がおかしくなりそうなほどの快感が、射精したばかりの悠斗を襲う。 「……ッ! ……ッ、ッ!」 喉奥を超えて体内まで挿入された異物で塞がれた口で、音にならない叫び声をあげる。 ガッガッ、ガリッ……。 そうしようとしていないのに脚がこわばり、硬い樹脂製ブーツが床を掻く。 「……ッッッ(イクッ)!」 またイカされた。 それでも、すべての装置が止まらない。 止まるどころか、持てる性能を余すところなく発揮して、囚われのメイド服女装探偵を責め苛む。 「ッッッぅッ(きついよう)ッ!」 しかし、叫ぶ声は音にすらならない。 「ッぅッッッ(もうやめて)ッ!」 音にすらならない懇願が、誰かに届くわけがない。 いや、声を出せていたとしても、聞き入れられることはなかっただろう。 悠斗を無慈悲に責めているのは、そうするようあらかじめ設定された機械なのだから。 「ッぅ(また)ッ!」 イカされた。 いや、実のところ、もはや自分が今、射精しているのかいないのかもわからない。 樹脂固めメイド服に閉じ込められた犠牲者は、ただ圧倒的な快感に飲み込まれ、翻弄されるだけ。 「……ッッッッッ!」 もはや、息苦しさを気に留める余裕はない。 全身から汗が噴き出す。 ぶ厚い透明樹脂の奥で見開いた目から、とめどなく涙が流れる。 内径の細い呼吸用チューブを挿入された鼻から、鼻水が垂れる。 密封された口の端から、涎が溢れる。 ペニスを包む樹脂製の筒の中は、放出された白濁液でヌルヌルだ。 体内を挿入された異物から護るため分泌される粘液で、肛門がいやらしく潤滑される。 気持ちいい。 でも、気持ちよすぎてつらい。 大いなる快感と、快感が大きすぎるがゆえの苦痛に、同時に襲われる。 頭の中がチカチカする。 脳の回路がひとつ、またひとつと、焼き切れているような気がする。 このままでは、ほんとうにおかしくなってしまう。 いやきっと、すでにおかしくなっている。 もうダメだ。 まさに生き地獄。いや、イキ地獄。 射精寸前寸止め責めから一転、悠斗は連続射精のイキ地獄に堕とされてしまった。 そして、堕ちた地獄で悶絶するメイド服女装探偵を、助ける者はいない。 そんな絶望に囚われながら、最大級の快感と苦痛に襲われ続け――。 「悠斗ぉおーッ!」 薄れゆく意識のなかでぼんやりと、ほんとうになんとなく、物理的に聞こえるはずのない柚木稟の声を聞いた気がした。 ドン! 1段ずつでなく、何段か飛ばしでもなく、階段の最上部から一気に飛び降りた稟が、悠斗の真横に着地する。 助手兼救出係にして、幼なじみの同級生。悠斗とただならぬ関係にある稟が、助けにきてくれたのだ。 しかし――。 「まぁ……まぁなんて……素敵なの?」 樹脂固めメイド服に囚われたまま床の上で悶絶する悠斗を見下ろし、稟がうっとりした表情を見せた。 音は聞こえず、ぶ厚い透明樹脂ごしに口がパクパク動くのが見えるだけだが、なにを言っていか理解できるのは、悠斗と稟が特別な関係だからだろうか。 ほんとうのところはわからないが、今はどうでもいい。 なにを差し置いても早く助けてほしいのだが、稟は頬を朱に染めて瞳を潤ませ、イキ地獄に堕ちた悠斗を眺める続ける。 「ッッッ(早く)ッ、ッッぅッ(助けて)!」 音にならない声で必死で訴えても、稟は悠斗をうっとりと見るばかり。 「このまま、家に持って帰りたい! いえ、持って帰る!」 やがてそう叫ぶと、樹脂固めメイド服ごと悠斗をひょいと担ぎ上げ、稟は階段を駆け上がった。 その後、悠斗はイキ地獄に堕ちた姿を衆目に晒しながら、繁華街を運ばれていったことは言うまでもない。 稟の手で柚木邸兼柚木法律事務所兼原田探偵事務所まで運ばれた悠斗は、一緒に回収されたフィギュアスタンドに固定されて展示された。 そのまま悶絶しながら数時間を過ごし、バッテリー切れで全装置が停止すると同時に、ようやく樹脂固めメイド服から開放された。 そして、翌朝。 稟とふたりで食後のコーヒーを飲みながら、悠斗が口を開いた。 「樹脂固めメイド服、一定の電圧で通電させ続けることで、硬化を維持する仕組みだったんだな」 「そうみたいね。バッテリーを充電し直してあるから、またいつでも着られるよ」 「いや、着ないって」 「ホントに?」 「う……んん、まぁ、ちょっとだけなら、また着てみたい……かな」 冗談半分、残りは本気で答えてから、悠斗は稟に向き直った。 「ところで、あの地下倉庫に稟が踏み込んだとき、藍さんはいなかったんだな?」 「うん、それは間違いない。あたしが着いたときには、お姉ちゃんの姿はなかったよ」 「ということは、クエスト失敗とともに、ティーチャーYが連れ去ったのか……くッ、俺のミスだ。あのとき、転倒していなければ……」 「ううん、悠斗が悪いんじゃない。ティーチャーYはきっと、あそこで転倒するよう、緻密に計算していたんだよ」 「ありがとう。そう言ってくれると助かるよ。それにしても…… ティーチャーY、周到で用心深い奴……」 そこで悠斗は、いつものメイド服姿で拳を固く握った。 「あの階段以外にも、地下倉庫のどこかに隠し扉があったんだ。ティーチャーYは稟の到着をいち早く察知して、俺が悶絶しているあいだに、そこから藍さんを運び出した」 実ところ、悠斗の推理は間違っている。 今回、ティーチャーYは登場していない。 樹脂固めメイド服に閉じ込められて責められる悠斗の姿を自分の目で見たくて、柚木藍は眠らされたふりであそこにいた。 そして薄目を開けて悠斗の痴態を見、ハァハァしていたところ、稟が気合いもろとも階段上の鉄扉を蹴り破った。 そこで、慌てて起き上がり、物陰に身を潜めたのである。 ともあれ、藍とティーチャーYの関係は、悠斗も稟も知らないこと。 「憶えていろ、ティーチャーY。いつかきっと、きさまを倒して藍さんを助けだす!」 拳を握ったまま悠斗が誓い、その横で稟がウンウンとうなずいた。 (了)