四方を二千メートル級の山々に囲まれ、周囲の市町村と地理的に隔絶されたこの村には、独特の風習が残っている。 そのひとつが、巫女の試練だ。 始まりは、田植えが始まる時期に合わせて行なわれていた豊穣を祈念する祭り。 それがいつからか、研修を終えたばかりの新人巫女に課せられる、過酷きわまりない試練の儀式に姿を変えていた。 その巫女の試練が今、大学で民俗学を学ぶ私の前で、始まろうとしている。 縄目を打たれた新人巫女が、先輩の巫女に縄尻を取られ、引かれてきた。 縄の猿轡が食い込む頬が朱に染まっているのは、村にとって大切な儀式に臨む高揚感ゆえか。 それとも、白衣に緋袴の巫女装束の下に施されたしかけ――その詳細は、部外者たる私には知る由もないが――のせいか。 ともあれ、頬を紅潮させた新人巫女が、先輩巫女に促されて、境内に設えられた石造りの台に上がる。 台に設えられた柱に背中をつけ、木製の板の上に正座する。 それから、新人巫女の身体に、さらなる縄掛けがなされる。 正座を崩せないように、お腹に巻きつけられた縄で脚を。胸縄高手小手の縄尻を柱につながれてから、首と額を柱ごと。 その場からけっして動けないようにきつく固く縛られて、彼女を囲って木で格子が組まれる。 それは、試練のきつさに耐えかねた新人巫女の逃亡を防ぐ目的に加え、不心得者が動けない彼女にちょっかいを出すのを防ぐためでもあるのだろう。 もっとも、関係者の誰も祭りの詳細を教えてくれないから、あくまで想像にすぎないが――。 「巫女の試練に、強い興味がおありのようですね」 村を訪れてすぐ、話を聞きにいった巫女長が、私に声をかけてきた。 「巫女の試練について、部外者の方に詳しくお教えすることはできませんが……ひとつだけ、試練の中身を知る方法があります」 そして、妖しい光を宿した目を細め、巫女長が私に告げた。 「それは、あなた自身が、巫女になることです」