あいつとシェアハウス 短編13
■七夕カレー(改訂版)
「もう七月かー」
ソファに寝そべり端末を眺める大智の声を聞いて、思わず調理の手を止め、カレンダーのほうへ目をやった。そういやこの前、何の気なしに六月と表記された紙を破いた気がする。今年ももう半分が過ぎ去ってしまったというのに、まるで実感がないらしい。
「なんで急にそん...
2020-07-07 14:36:39 +0000 UTC View Post
■七夕カレー(改訂版)
「もう七月かー」
ソファに寝そべり端末を眺める大智の声を聞いて、思わず調理の手を止め、カレンダーのほうへ目をやった。そういやこの前、何の気なしに六月と表記された紙を破いた気がする。今年ももう半分が過ぎ去ってしまったというのに、まるで実感がないらしい。
「なんで急にそん...
2020-07-07 14:36:39 +0000 UTC View Post
■図書室
大学図書館に併設された会議室は、いつも人気がない。だから、一人になりたいときはここに来ることが多かった。近場の本棚にはもう、幾ばくも古くなった文献ばかり。余程の物好きだろうと、滅多に寄り付きやしないような場所だった。
そんな奥まった地帯の、隅にあるたわんだ椅子。そこが俺の特等席だった。程...
2020-06-14 22:01:17 +0000 UTC View Post
日永です。
本日5/15、おかげさまで『あいつとシェアハウス』が4周年を迎えさせていただきました。
もうそんなに経ったのか、と思う反面、よくここまで続けられたな、とも思う次第です。
こんなにも長い間彼らの物語を追い続けてくれた皆様に、まずは感謝を申し上げます。
本当にありがとうございます。彼らを愛してく...
2020-05-14 20:43:49 +0000 UTC View Post
■俺の性、君の性
いつになっても飲み会っていう文化には慣れない。酒が得意じゃないのもあるが、あのしっちゃかめっちゃかな空間が、どうにも毛並に沿わなくて。新入生歓迎会なんて大層な名目を付けたぐらいにして。その実みんな飲み倒したいだけっていう。
とはいえ、俺ももう大学四年生。過度に酒を回されないよう、...
2020-05-09 22:51:01 +0000 UTC View Post
■セカンドムービー
温い紅茶。温い店内。春先の緩み切った雰囲気と、空気中に粒になって滞留する気怠さ。朝から重い肩と瞼に嫌悪感を抱きながら、首にかけたヘッドフォンを弄ったところで、仕切りの向こうに見覚えのあるような影を見つける。
そんでわいは、不意に思い出す。猫だったか、豹だったか、虎だった...
2020-05-08 20:00:00 +0000 UTC View Post
十九 女子たちに明日はない 昼間の編集部は切迫していた。あちこちで電話が鳴り響き、誰か急ぎ足で出て行ったかと思えば、別の誰かが毛を振り乱し室内に駆け込んでくる。日焼けで茶けた壁掛けカレンダーには、赤と黒のペンで予定がぎっしりと書き連ねられていた。 そんな、目まぐるしい世界の窓際。『相談室』とは名ばかりの物置同然のスペースで、...
2020-04-29 04:26:16 +0000 UTC View Post
日の暮れた林道を、エルフは不貞腐れながら歩いていた。なにせあの騒動のせいで、フォークロアの開く市場が閉鎖されてしまったのだ。起こった事件を思えば仕方のないことだと頭では理解しているものの、その心境は微妙だ。
「商品の一部が盗まれたらしい」
ジェフはそう説明していた。無許可で市場に紛れ込んでいた行商人の誰か...
2020-04-20 08:41:37 +0000 UTC View Post
■その手を
「恋人……なんだよなー」
「え」
食堂の片隅。二人席に座り、購買で買ってきたパンを頬張っていると、向かいに座す豹が同じく買ってきたおにぎりを手にぼやく。あまりに唐突だったから、思わず聞き逃すところだった。
「急に何の話だよ」
「何って、話聞いてただろ、大智」<...
2020-04-12 04:21:41 +0000 UTC View Post
明くる日の昼下がり。澄み切った空の下で、小袋を抱えた娘は意気揚々とレンガの通りの中央を走っていた。上質な薬草が安く手に入っただとか、いつもはケチなケットシーが珍しく香辛料をサービスしてくれただとか、街角で吟遊詩人が耳馴染みの良い詩を披露していただとか、あるいは同じエルフ族の御婦人と洒落た会話を交わしただとか……そういった出来事...
2020-04-09 22:20:28 +0000 UTC View Post
リリー・アシュレイの酒場。巨大なギルド都市・アクロポースの郊外に位置する同所は、美人で気概のいい彼女の人柄と提供される料理の質の高さとで、連日大盛況であった。様々な種族が玉石混交ありとあらゆる情報を交わし合い、時に結託しまた魔物の巣食う外界へと旅立っていく。 「最近この辺りにドワーフの野盗が出るって」 「あの違法ギルド、とうとう取...
2020-04-06 05:54:17 +0000 UTC View Post
■一路青年の迷走
ある日の暮れ方。俺が向かったのは大学構内の、誰も来ないような休憩スペースだった。学内の最奥の棟、しかも四階建ての四階で、埃の被った資料が山積みになった部屋しかないような場所だ。目的でもなけりゃ来るはずもない。
無論、俺には目的がある。正確には呼び出された。電車での一件以来、やたら...
2020-03-25 00:43:36 +0000 UTC View Post
■まだらのしっぽ
春も近くなった、三月のある日の朝。薄いカーテンから漏れ出す日光で、意識がぼんやりと覚醒していく。寝起きの身体はどうも気怠い。唸りながら上体を起こし、首を押さえながら肩を回したところで、傍らの寝息に耳をそば立てた。
「…………」
なんとも無防備な寝顔。初め寝食を共にするう...
2020-03-03 13:33:23 +0000 UTC View Post
■それはなんと特別な
「今年も来やがるな、例の日が」
「来るって、何の話っすか」
ゼミ終わり。研究室に戻るなり、坂東先輩が楽しげに話しかけてくる。何の話だか知らないけど、なんで毎度俺の席に居座って煎餅をバリバリ食べてるんだこの人。
「何って赤木お前、もう二月になるんだぜ。購買でも...
2020-02-14 04:08:12 +0000 UTC View Post
■嗅がれた男
「…………」
拝啓、お母様。いえ、別にお母様でなくても構いません。天にいらっしゃるお父様でも、泰利くんでも悟くんでも、なんならあの浮浪狼でも構いません。とにかく誰か、俺の話を聞いてください。
俺は今、同棲相手である黒犬の部屋におります。貸していた電子辞書を取りに来ただけです...
2020-02-11 23:36:09 +0000 UTC View Post
■洗濯物クライシス
「……さて、と」
一人意気込んだ俺は、腕まくりをして目の前に積まれた洗い立ての衣服の山を見据えた。今日は頼みの猫は不在。背後のテーブルに置かれたメモには『洗濯よろしく』の走り書き。朝方慌てて出て行ったのか、キッチンのシンクには汚れた食器が積まれたままだった。
要するに...
2020-02-09 00:02:30 +0000 UTC View Post
■遅めの初詣
「そういや今年、まだ初詣行ってなくね」
きっかけはそんな言葉だった。ソファで寝っ転がっていた大智が、壁掛けカレンダーを見上げおもむろに呟いて。そういやそうだな、と俺も何の気なしに同調して。
そこからは早かった。明くる日の昼、まだ寝惚け眼の大智を引っ張ってバスに乗り込み、近場...
2020-02-01 19:54:19 +0000 UTC View Post
■ちょっとの冒険
「んー」
鏡の前で唸り続けて、早十数分。年季の入った丸眼鏡を、何度も付けたり外したり。約束の時間は刻一刻と迫っているのに、なかなか決まらない。
「……どうしよ」
自分にここまで決断力がないとは思わなかった。普段なら即断即決、悩んでる時間が勿体ないとすら考えてる...
2020-01-30 22:33:24 +0000 UTC View Post
■こたつと蜜柑
こたつ。暖房器具の一種。その魔力は凄まじく、一度入ったが最後、恐ろしく温い熱に食らいつかれ二度と出ることは叶わないという。
「……おい」
何も大袈裟に言っているわけじゃない。話を盛っているわけでもない。現に目の前にいるのだ。せっかくの休日の半分を、あろうことかこたつからほ...
2020-01-18 06:03:05 +0000 UTC View Post
2019年12月30日、数年にわたり描き続けてきた『あいつとシェアハウス』が、無事完結を迎えました。現在の心持ちや今後の日永の活動につきましては、俺自身が随所でひけらかしまくっているので、ここでは敢えて記述することはしません。あらかじめご了承ください。
本題になりますが、この度完結を記念して、先日投稿した描き初めイラストを、ネ...
2020-01-08 05:07:43 +0000 UTC View Post
「今からお前のこと、犯すから」
「は……?」
「……なーんつって」
飄々とお道化る狼が、夕焼けには不釣り合いなほどだった。意味分からん、という顔でそいつを見れば、傍らから俺がここに来たときに着ていた服を取り出し、持ち前のニヤケ面を返してくる。
「とりあえず着替えとけ。汗だくじゃ嫌だろ」
<... 2019-12-23 02:25:44 +0000 UTC View Post
「今からお前のこと、犯すから」
「は……?」
「……なーんつって」
飄々とお道化る狼が、夕焼けには不釣り合いなほどだった。意味分からん、という顔でそいつを見れば、傍らから俺がここに来たときに着ていた服を取り出し、持ち前のニヤケ面を返してくる。
「とりあえず着替えとけ。汗だくじゃ嫌だろ」
<... 2019-12-17 02:17:40 +0000 UTC View Post
「お前らってさー、なんでそんな一緒にいんの」
高校時代の、どうでもいいような昼下がりのひと時。つるんでた同級生の一人が尋ねてきた質問に、俺は面食らう。
「なんで、って……」
意図が汲めず、縋るように振り向くも、当の猫は弁当後の昼寝の最中だった。いつもそうだ。お前みたいに授業中寝たくないから、と戒...
2019-12-09 22:54:53 +0000 UTC View Post
「しっかしなぁ……いいのかよ、それ」
思いの外堅実にハンドルを捌くセンパイは、バックミラー越しに後部座席を覗いた。そこにいるのは、今し方攫ってきたばかりの、眠れる猫。俺は助手席側の窓を開けながら、得意気に鼻を鳴らす。
「いいのいいの、これも必要なことっつーか」
「そうは言うがこの猫ちゃん、赤木んと...
2019-12-03 06:21:41 +0000 UTC View Post
誰かが言っていた気がする。それは長いトンネルを抜けるようなものだと。
大きく口を開けた、深い空白の中。穴ぼこの心の淵にしがみつきながら、足掻いて、藻掻いて。ようやく脳裏に浮かんだのは、朧気な温もりと、柔らかくて力強い拳。
「どうした善人、自分の手なんか見つめて」
研究室の自分の席で物思いに耽る...
2019-11-06 02:29:56 +0000 UTC View Post
「では次、赤木くん」
「…………」
気付けば薄暗がりの中にいた。雑多で真っ白な部屋。棚に入りきらなかった資料や書籍が、所狭しと積み重なって空間を圧迫してる。そのせいか、なんだか息苦しい。
「……赤木くん?」
「…………」
小さく唸る機械の駆動音が、鼓膜を上滑りしている。プロジ...
2019-10-20 06:51:15 +0000 UTC View Post
FANBOXをもっと有効活用すべく、月ごとの支援者特典として限定イラストを投稿することにしました。 第一弾は優雅な朝の善ちゃんです。セブンイレブンのネットプリントで以下の予約番号を打ち込んでいただきますと、ポストカードサイズで印刷することができます。ぜひお手元に置いてみてください。 なお今回は、第一弾を記念して全体公開としております。...
2019-10-14 10:47:14 +0000 UTC View Post
psd公開第三弾、先月Twitterにアップした水着タダトモです。需要あるかわかりませんが今後も気まぐれに上げていきたいと思いますので、レイヤー情報など覗きたい方はご活用ください。 ※ こちらに上げたファイルおよびイラストの悪質な無断転載、 二次配布、過度な改編等を禁止します。
2019-10-08 06:38:18 +0000 UTC View Post
「なぁ」
大学の廊下に設置された無機質なソファ。往来の目も厭わず、そこに寝そべって隣に座る兎に話しかける。
「あん?」
相変わらず端末の画面から目を離さず、ぶっきらぼうに返事をされた。いっそ分かりやすく不機嫌だ。また上手くいってないのか。こう何度も微妙な空気を見せつけられると、殊更恋愛への不信感...
2019-09-23 03:42:58 +0000 UTC View Post
「よし……っと」
一息ついて、掃除機のスイッチを切る。稼働音が消えたとき、見た目小奇麗になったリビングは突然、水を打ったような静けさに見舞われた。息苦しさを拭えぬまま、掃除機を部屋の隅に片して、ソファにぼすんと腰を落とす。
開け放たれた窓からやってきた風が、カーテンの合間を潜り抜けて、また別の窓へ...
2019-09-17 00:58:08 +0000 UTC View Post