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大地讃頌

有生物惑星はいつも同じ末路を辿る。


進化して、殖えて、殺し合い、そして最後には星を穢して絶滅する。


単純に資源の奪い合いから戦争が拡大し、世界全土が核の炎に呑まれるケースもあれば、戦争こそ回避できたものの資源が枯渇し、緩やかに飢餓で死滅していくケースもある。


いずれにせよ本来の寿命を全うできる星はほとんどない。


“外部”の介入がない限りは。



―そう、この広い宇宙には、星の住人達からすれば神のような高位の種族が存在している。


その名は『スペースモンスター』、縮めてスペモン。


彼らは全銀河系の生物惑星を支配し、生命の均衡を維持することを使命としており、生殺与奪を以て星々のバランスを管理してきた。


『創造神』は命を生み出し、『破壊神』は命を奪い去り、そして『秩序神』は、惑星の生命へ干渉を行い、進化と淘汰を促す。


宇宙に存在するすべての生命は、彼らスペモンの“命の調整”によって厳正に管理されているのだ。



―そして今日もある一柱のスペースモンスターがその役割を果たすために、有生物惑星へと向かっていた。


彼の名はシェイミ。秩序神の一柱にして、『遺伝子浄化』を得意とするスペモンだ。


彼は美しいものが特に好きで、だからこそ、宇宙の美しいバランスを守るためにも、遺伝子浄化という冷徹な使命を果たさねばならないという強い意志を持っている。


今回の干渉先は、『地球』という名の有生物惑星。この星には『人間』という知的生命体が多く生息しているが、近年、彼らの急速な文明発展により星が酷く荒んでしまったようで、このまま放置していれば、いつ核戦争を起こし自滅の道を辿るかわからない状態だ。


彼はそんな絶望の未来を回避させる為に、人間達に再生のチャンスを与えることにしたのだった。



太陽系宙域。


使命を果たすべく目的地に向かって宇宙空間を飛翔するシェイミ。前方に地球が見えてきた。しかし、その星の様子を見た彼は思わず絶句してしまった。


かつて『青い星』と呼ばれ青く輝いていたはずの地球が、くすんだ灰色の大気に覆われ、ところどころ黒い雲が重く渦巻いていたのだ。


「これはひどいな…」

シェイミは静かに呟いた。視線を地上へと向けると、かつて緑豊かだったはずの大陸は、もはや灰色の都市群と枯れ果てた大地ばかりが広がっている。


生命が咲き誇る楽園はもうない。人類が築き上げた文明は、星にとってみれば、ただの巨大な傷跡でしかなかった。母なる大地を敬愛するシェイミにとって、この光景はそれだけで人類を皆殺しにしたくなる程の憤りを覚えさせるには十分だった。


しかし、彼も神の一柱である。一時の感情で種を絶やすのは許されない。あくまで冷静に彼らの価値を見定める必要がある。


(…本当に遺伝子浄化が必要なのか、少しだけ、歩いて確認させてもらうか…)

彼は容易く大気圏を突破すると、翼状の大きな耳を器用に羽ばたかせ、着地に向け体勢を整える。


巨体が雲を払い、天を引き裂き、轟音とともに大地へと舞い降りる巨神。彼が足を着いた瞬間、世界は震え、都市全体が悲鳴を上げた。

ズドオオオオオオオオオオオオオン!!!


山脈のごとき巨大な脚が大地を覆い尽くし、周囲の地盤が砕け、道路が波打つ。都市全体が彼の巨大な影に包まれ、すべての命が圧倒的な存在を前に沈黙する。


彼はこの星のスケールに換算すると身長10kmにも及ぶ超強大生物だ。どれだけ優しく降り立とうとも、激甚災害は免れない。

彼の降臨と同時に彼の足元に広がっていた筈の大都市はもはやただの瓦礫の山となり、どれだけの死者が出ているか皆目見当もつかない。


地上だけでなく地中奥深くまで波及した着地の衝撃は大都市のインフラを滅茶苦茶にし、其処ら中で破断したガス管が引火・爆発し、町に点々と赤い炎を灯していく。その炎の光に照らし出されるアスファルトは同じように点々と『命の跡』で赤く地獄の装飾がなされている。


しかし、そんな血塗られた大地とは対照的に、町の上に堂々と立つシェイミのその姿は、光の使者とでも呼べるかのような神々しさに溢れており、風になびく青々とした鬣は、まるで命を宿した森のようだった。そして、その鬣の下に広がる純白の毛並みは、雲よりも白く輝き、神聖な光を放っていた。


「…あぁ…」

そのあまりの巨躯に誰かが息を呑む音が聞こえた。今何が起きているのか人間達には理解すらできず、全員が思考停止状態に陥っている。崩壊した町は一時不自然な程に静寂に包まれた。


だが…

ゴゴゴゴゴ…


再び無情にもその巨大な足が動き出したと時、恐怖で凍り付いていた人間達の時も同時に動き出したかのように、町は急に阿鼻叫喚の大パニックに陥った!


「うわあああああ!!!」

「きゃあああああああ!!!」

「死にたくない…!」

人々は皆悲鳴を上げ、振り下ろされる彼の巨槌から逃れようと必死に四方に駆けだす。しかし、どこに向かってもどれだけ走っても、彼の巨大な足裏は何処までも広く大きくすべてを呑み込もうとしていた。

グシャアアアアアアアア!!!


次に彼の足が地に着いた時には、繁華街にいた数万人が瞬時に消滅。逃げる間もなく、肉も骨も押し潰され、血の染みとなってアスファルトにこびりついた。


しかし、そんな世紀の大虐殺も彼にとってはただの一歩に過ぎない。次の世紀の大虐殺までの猶予なんて与えてはくれない。“世紀の”レベルの災害が数秒のうちに何度も引き起こされるこの究極の絶望を形容する言葉がもはや見当たらない程だ。


次の一歩、その先にも当然そこにはまた数万単位の命があり、皆“死”という共通のエンディングに向けて、その最期を十人十色のドラマで彩ろうとしていた。


「に、逃げろ!逃げろおおおお!!!」

ただ喚き散らす男。


「ま、待って! まだ、子どもが……!」

泣き叫びながら幼い少女の手を引いて走る母親。


「頼む! 開けてくれ! ここに入れてくれ!!」

その横では、若い男性が半壊したビルの扉を必死に叩いていた。しかし、中にいる者たちは恐怖に駆られ、扉を開けようとはしなかった。そもそも外にいようと中にいようと、何の意味もないということすら理解できるほど彼らは冷静ではなかった。


そして次の瞬間…

ズドオオオオオオオオオオオオン!!!!


轟音と共に、骨が砕け、血肉が裂ける生々しい音が響く。シェイミが足を上げると、もうそこには彼らの姿は存在しなかった。あるのは血の海と、砕けた骨の破片だけ―


こんな凄惨な悲劇が彼の歩数の数だけ生まれているのだ。

降臨してたった数秒。シェイミは瞬く間に100万をゆうに超える死体の山を築いたのだった。


シェイミは人々を見下ろしながら、静かに瞳を閉じる。その表情はどこか悲しげで、しかし、大量虐殺者とは思えない程に穏やかで、口角は少し上がっている。

そして、何より摩羅不思議なのがなぜか彼の股間から巨大な塔が聳え立っていることだ。

腕の太さほどある神の一振り。怒張した彼の陰茎はまさに彼自身が豊穣と繁栄の神プリアポスその人だと思わせるほどの凄まじい巨根だった。


彼は別に快楽のために町を破壊しているのではない筈なのだが、しかし、そもそも虐殺性愛というのは神の役割を全うする上で必要不可欠なものでもある。特に破壊神に至ってはその資格を得るために性器で大量虐殺させる儀式があるくらいだ。


彼は秩序神ではあるが、もともとは破壊神の一柱で、遺伝子浄化の技が秩序神としての役割に巧く適合していることがわかってから転身した経緯があった。そもそも命を食むのは性癖として根付いている。そして、このフル勃起こそが、遺伝子浄化の技と深く関係していることはこの後の顛末を見れば一目瞭然となることだろう。


今目の前で繰り広げている大量虐殺は遺伝子浄化の為の準備でもあるのだ。そして、その過程で同時に彼は見定めている。人類が皆殺しに値する存在かどうかを。


一度、浄化を行えば、もう後戻りはできない。だからこそ、彼は自分の足で星をよく観察しているのだ。



―彼の進路にはひと際栄えた大都市。老朽化したビルの壁面は黒ずんでおり、排気ガスと腐敗臭が混ざり合い、シェイミの目には、この都市全体がまるで朽ち果てた動物の死骸のようにどす黒く穢れた都市に見えた。


今までとは比べ物にならないほどの人口密度だが、しかし、シェイミは敢えてそれを迂回する事もなく、そのまま市街地に足を踏み入れていった。


「……助けて……!」

「いやだ……死にたくない……」

「神様……どうか……!」

神の裁きを前に泣き叫ぶ人々。しかし、その悲鳴が彼の耳に届くことはない。ただそれでも彼らが必死に自分に対して命乞いしていることくらいは彼も想像できた。


「ごめんね……でも、これは君たちが招いた結果なんだ」

シェイミは一人呟き、目の前の命の塊に容赦なく次の一歩を踏み出す。


張り巡らされた巨大な高速道路網や巨大建築群も、彼の足元で簡単に拉げ、次の瞬間には粉々の塵となって霧散する。足を着地させるごとに大地は裂け、地下鉄も高層ビルも工業地帯も学校も病院も…何もかもが無慈悲なまでに崩壊していく。


遠方でひと際大きな爆発が起こり、ふとシェイミが振り返ると黒煙が立ち上がっているのが見えた。彼の一歩一歩が巻き起こす地震がはるか遠く地平線の先まで波及していることがそれだけみてもよく分かる。徐々に火災が拡大し、至る所で爆発が連鎖していき、人類がこれまで積み上げてきた文明が紅蓮地獄の中に消えていこうとしている…


(この惑星の生命は、どこで進化を誤ったのだろう…。大地を敬い、大地に感謝して毎日を生きていればこんな醜い文明を築かずに皆が平和な一生を謳歌できるはずなのに…)

救いのないほどに愚かで浅はかな文明の観察を淡々と続けるシェイミ。


大都市を横断し、滅茶苦茶に虐殺し、すでに死者数は1000万人を超えていた。


しかし、そこからしばらく大地を踏み荒らし、海岸線に近い工業都市を蹂躙したところで彼は漸く立ち止まった。彼の視線の先には炎上した石油精製所や化学工場の一帯があり、真っ黒な煙と猛毒のガスを空に向かって吐き出している。急速に川や海が黒く汚染されていく様を、彼は冷ややかに眺めた。


(これは……やはり救いが必要だね)

シェイミから見ると、これらの工場はただの星の悪性腫瘍にしか見えなかった。そしてそんな文明が世界中に蜘蛛の巣のように広がっている。


地球が手遅れであることをしっかりと見届けた彼は、改めてもう人類を見限ったように

「もう十分だね……世界を浄化する時が来たようだ」

そう言い放った。


徐にその巨大な手が彼の陰茎に添えられる。


そして……


いきなり彼はフル勃起ペニスを扱き始めた!

…ゴシュ!!…ゴシュ!!…ゴシュ!!


3㎞を超える爆根の包皮がバキバキに膨れ上がった海綿体の上を滑り、周囲に轟音が鳴り響く。激しく上下する腕が周囲の雲を霧散させ、暴風を生み出し、崩壊した都市に追い打ちを掛ける。


彼が得意とする遺伝子浄化の技。それは端的に言えば『射精』だった。

しかし、ただの射精ではない。


『シードフレア』。彼の遺伝子を内包する収束した光の種。人知を超えた高エネルギーの生命光線。


それを今全世界に向けて解き放とうとしているのだ。

今までの蹂躙は前座に過ぎない。本当の悲劇はここからだ。だが、この浄化によって、彼らは再び命の本当の意味を知ることになるだろう。


―俄かにピストン運動が早くなる。シェイミの純白の毛並みが光り輝き、光の粒子が全身を包んでいく。


その光景を見たすべての人が悟った。今、世界が終わると。

しかし、その終末の使者の表情は決して殺意に歪んではおらず、むしろ穏やかで慈愛に満ちていた。


そして、確かに人々は聞いた。彼の言葉を―

「安心して…これは救済だよ。」


オルガスムスが近いのか、彼は頬を紅潮させ、獣のようにだらしなく舌を出し涎を垂らしている。


次の瞬間、シェイミを包んでいた光がただ一点、彼の陰茎に収束した―!!


「新しい星の門出―これは祝砲だッ!」

ドビュルッルルルッルウッルッルルル!!!

シードフレアが放たれたー




彼の主砲から解き放たれた『シードフレア』は純白に輝く無数の光の雫となり、世界全土に拡散していく。彼の完璧な遺伝子を宿したそれらは、海を越え、大陸を越え、地球上のあらゆる地域に降り注ぎ既存生命を滅茶苦茶に蹂躙していった。


それは人類にとって途方もない絶望の始まりだった。


世界各地へと降り注いだ光の粒子。人々はその美しさに呆然と見惚れたが、すぐにその存在の恐ろしさを知ることとなる。


シードフレアはすべての生き物の遺伝子を書き換え、適応できないものを瞬時に死滅させる無慈悲な光の柱。空間がねじれ、大気が焼かれ、世界そのものを"書き換える"力。弱く、歪み、汚れた遺伝子を持つ生命に未来はない。


眩い光による選別。美しき破壊が今、始まったのだ。


巨大な光の雫が落下した地点―シードフレアの爆心地となった地域では、一瞬にして世界最大級の人口を誇る巨大都市群が光に飲み込まれた。光の中心部にいた者たちは、一瞬で蒸発し、塵すら残らない。ただ、そこにいたという"記憶"だけが、瓦礫の焼け跡に微かに刻まれているだけだった。


ビル群はまるでジェンガのように崩壊し、アスファルトが灼熱の風に溶けていく。大地が音を立てて裂け、川の水が一瞬で蒸発する。熱と光の奔流が、人間という存在をこの世界から塗りつぶすように消し去っていく。


別のある経済大国では、奇跡的に都市の2割程度がシードフレアによる被災を免れていた。しかし、降り注いだ光の雫は死のミルククラウンを描いた後、周囲に精液の津波を引き起こし、より広い地域を蹂躙しようとしていた。


国家機能が完全に停止する中、人々は必死に避難を試みたが、どこにも逃げ場など存在しない。地下シェルターに逃げ込んだ者もいたが、すべてを破壊する光の前では全くの無意味な行動だ。すべてを浸透する光の精液を前に瞬く間に呑み込まれ地下シェルターごと無数の命が光の中に溶け去ってしまった。


そんな凄惨な殺戮がすべての国と地域で発生しているのだ。


シードフレアの初動被害は死者約40億。人種、地位、貧富関係なく、公平に、無作為に生命は裁かれていく。


被害はどんどん広がっていき、世界に絶望が渦巻く中、それでも、運よく命を散らさずに生き残っていた者もいた。


しかし、人間はどこまでも愚かだった。


世界の終焉が訪れた瞬間、この期に及んで彼らは自らの本性を剥き出しにしたのだ。


各国の政府はどこも機能不全に陥っていたが、一部の軍事組織は絶望の中で暴走し、残った少数の人々が奪い合いを始め、生き残りを賭けた殺戮が世界各地で勃発した。わずかな食料や安全地帯を求め、人々は狂気に駆られて互いに牙を剥いた。その醜悪さは、遺伝子浄化の必要性を改めて証明するかのようだった。


ある軍事施設では、シードフレアの閃光を敵国からの核攻撃と誤解し、報復の核ミサイルを発射した。それが引き金となり、ミサイルが世界を飛び交い、各地で大規模な核爆発が起こった。神々が予見した通り、ちょっとした淘汰圧でいとも簡単に人類は自滅しようとしていた。


しかし、幸いにもシードフレアは既に放たれている。


確かに核の炎が齎す放射線や爆風は星を穢しているが、しかしシードフレアはそれをも纏めて浄化する希望の光でもあった。彼らの最後の愚行も罪もまた、シェイミの精液が綺麗に洗い流し浄化していったのだ。


その“再生”の様子をシェイミはただ静かに眺めていた。思い切り子種をぶちまけて恍惚した様子だったが、しかし、その表情には何処か哀愁も漂っている。


「儚いね…一つの文明が消えていくのを見るのは。いつも何とも言えない気持ちになるよ…」

しかし、これはただの大量虐殺ではない。彼は破壊神ではなく、あくまで秩序神の一柱。シードフレアは虐殺の光ではなく選別の光。


人間達のほとんどが選別に耐えられなかったために、まるで凄惨な虐殺のようになってしまったが、シェイミが行ったのは母なる大地に自身の種を蒔いただけに過ぎなかった。


実際、人類のごく少数、人類以外の動物や植物もごくわずかの個体は遺伝子の変容を受け入れ、新たな生命へと進化を始めていた。シェイミの完璧な遺伝子を得た生命は、彼が理想とする美しく力強く、適応性に満ちた完全な生命体へと変貌を遂げていくのだ。


最終的に彼の射精は、世界人口の99.99%を消滅させ、国家はすべて崩壊し、文明は灰燼に帰し、世界は静寂に包まれつつあった。しかし、この先に待つのはもう絶望ではなく、希望に満ち溢れた再生だけだった。


「浄化は終わった…。次は再生の時だ!」

シェイミは期待を膨らませるように目を輝かせ、そしてその優しい眼差しを地上へと向けた―




―シェイミが放った『シードフレア』の光が地球を包み込んでから、数百年が経過した。


あの日、惑星中に広がった光の雫は、すべての生命の遺伝子情報を浄化し、新たな生命の種を蒔いた。それは決して蹂躙ではなく、生命の再生、正しい進化、そして星の未来の為に放たれた一撃だった。


シェイミは再びゆっくりと地球へ降り立ち、浄化された地球の様子を見渡す。


灰色だった空は澄んだ青色に戻り、白い雲がゆったりと漂っている。広大な海はかつての汚染を忘れたかのように鮮やかなコバルトブルーに輝いている。

大都市群は跡形もなく姿を消し、代わりに新たな生命で満ちあふれた豊かな森がどこまでも広がっていた。


「ああ……なんて美しいんだろう。この星は蘇ったんだ…」

シェイミは胸の奥から感嘆の吐息を漏らした。


大地には、かつての人類が進化した新しい生命体が、彼が遺伝子に刻んだ通り、理想の姿をして暮らしていた。その肌は輝くような白銀に近い透明感を持ち、深い緑の髪がそよ風に美しく揺れている。


彼らは完全に環境と調和し、地球の生態系の一部として共存を果たしていた。過去の人類が持っていた利己的な欲望や支配欲は、遺伝子レベルで取り除かれ、彼らは生まれながらにして生命を尊び、自然と調和する本能を備えている。


大地は再び肥沃になり、果実や植物が自然に溢れ、それを食する動物たちもまた美しく、生命力に満ちている。


かつて地上を覆っていた鉄とコンクリートの世界はもうない。代わりにあるのは、自然そのものの美しさと豊かな恵みを享受する新たな文明だ。

シェイミは静かに腰を降ろし、新人類の暮らす村に視線をやった。


膝を曲げると爆根が地面に着いて、せっかく再生した大地が亀頭に滅茶苦茶に食い荒らされてしまうので、被害が出ないように片手でチンコを持ち上げてやる。


新人類たちはシェイミのその雄大で荘厳な姿を見ると、一瞬驚いたように静かになったが、しかしすぐに敬虔な眼差しで彼を見上げた。恐怖ではない、畏敬と感謝の視線。彼がこの星を再生させたことを、彼らの遺伝子は記憶している。


「神よ……」

誰かが小さく囁くと、彼らは皆シェイミに向かって次々と頭を下げた。シェイミもそれを見て微笑み、ゆっくりと頷いた。


「母なる大地のふところに…」

ふと新人類の一人が歌を口ずさんだ。


『大地讃頌』。それはかつて旧人類が大地に感謝する為に作った曲だった。文明は滅びても、その歌だけはこうして未来に引き継がれていたのだ。


一人につられるようにして、周りの者も歌い出し、その声が届いたのか、少し距離の離れた隣の村の者まで歌い出す。


そのようにして次々と歌声は広がっていき、気付けば世界中の人々が歌を歌っていた。その声は地上から10㎞にあるシェイミの耳にまで届いた。


大地讃頌

母なる大地の ふところに

われら人の子の 喜びはある

大地を愛せよ 大地に生きる

人の子らその立つ土に感謝せよ


平和な大地を 静かな大地を

大地を誉めよ 頌えよ土を

恩寵の豊かな 豊かな大地

大地 大地 頌えよ 頌えよ土を

母なる大地を 母なる大地を

頌えよ誉めよ 頌えよ土を

母なる大地を ああ 頌えよ大地を ああ


その歌は、母なる大地と恒久の平和を授けてくれたシェイミへのお礼の歌だった。


その歌を聞いて胸が熱くなった彼は、今までにないくらいの満面の笑顔を彼らに返した。


(これで僕の仕事は終わりだ。君たちの輝かしい未来を願っているよ…)

シェイミは満足して地球からゆっくりと飛び立った。新人類たちが奏でる歌に見送られるように…


彼は特に慎重に飛び立ったが、それが巻き起こした暴風は決して少なくない数の新人類の命を奪った。しかし、それでも歌は止まることはなかった。暴風で被災した者や大怪我した者でも最期までシェイミの姿を目で追い、命尽きるまで歌声を上げ続けた。


彼らは母なる大地を齎した偉大なる父のすべての行いを肯定し、彼から与えられた運命を受け入れていた。



―地球は遠ざかり、シェイミは再び宇宙の暗黒に包まれる。まだ微かに彼らの歌が聞こえる。振り返って見ると、小さな青い星が太陽の光を浴びて輝いていた。


「美しい……」

シェイミは一人呟く。その美しい光景を脳裏に焼け付けながら、彼は自分の使命を改めて思い出したかのようにグッと拳を握りしめた。


宇宙にはまだ彼の遺伝子浄化を必要とする星が数えきれないほど存在している。次の世界でも、また多くの命が消え去り、そして新たな命が生まれるだろう。


彼は射精を繰り返し、宇宙全体の生命のバランスを守り続ける。それが彼の使命――秩序神シェイミの、果てることのない旅路なのだから。


おわり

大地讃頌 大地讃頌 大地讃頌 大地讃頌

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