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強烈な印象と共に目を覚ますと下半身に生暖かい感触を覚えた。
まさかと思って確かめてみるとパンツの中のモノはいきり立ち、白濁とした液体を吐き出した後だった。
「うわ……やっちゃったよぉ……はぁ、とりあえず洗わないと」
溜息を吐いてのそのそと寝床から起き上がり、寝ぼけた頭で考える。
風呂場まで行くには祖父の寝る部屋の前を通らなければならない。なんとなくこのことを知られたくなくって、僕は玄関から外に出て裏にある洗い場に向かうことにした。
時刻は夜中の2時頃だろうか。森閑とした夜気にバシャバシャと水の音が響き渡る。
目を覚ました瞬間から次第に夢は遠のいていき、何を見たのか判然としなくなっていた。
ただ、すごくエロい夢だった、という漠然とした印象だけが頭に残るばかりだった。
夢精なんて久しぶりだ。前は確か……そう、中学一年の時だ。
あの時も、この島でこの家でだった。
それが祖父に知れて……凄く怒られた? ような気がする。
「いや、違うな……こんなの、怒るようなことじゃないし。血相を変えて大きな声を出していたけど……
僕を怒ったんじゃない気がする」
首をひねりながら、濡れたパンツを硬く絞る。
それを干してある選択ものにこっそりと加え、後始末は完了だ。
すっかり目が冴えてしまった。少し夜風に当たってみよう。
僕は広い庭をふらふらと歩いた。夜露に濡れた草が冷たい。
懐かしいルートだった。晴樹の家に遊びに行く時にはいつも庭を通っていた。
この島には、というより田舎の家には街中の家のように塀というものがない。
晴樹の部屋の窓は祖父の家の庭と水平に近い高さにあり、庭から直接お邪魔することができるのである。
当然玄関から入れと叱られるのだが、子供というのはそういうちょっとした冒険を好むものだ。
僕は植え込みの影から晴樹の部屋を覗いてみた。
暑い夜をやり過ごすために、部屋の窓は開け放たれていた。
暗がりの中、布団の上で晴樹は上体を起こしていた。
タオルケットが畳の上に投げ出されている。
起きているのだろうか?
しばらく眺めていると、何か別の黒い大きな影が晴樹にゆっくりと近づいていくのが見えた。
影は上体を折って、晴樹の顔を覗き込んでいた。
輝くように青白い顔が暗闇の中でもくっきりと見て取れた。
「あ……あれは……」
「ばんぴろさま」だ。
棺の中に眠っていた巨大な女性に間違いなかった。
「ばんぴろさま」は妖しい笑みを浮かべながら晴樹の顔を覗き込んでいた。
「可愛い下僕……私に全てを捧げなさい……♡」
彼女が命令すると、晴樹は寝ぼけたように覚束ない手つきでパジャマを脱ぎ始めた。
晴樹が生まれたままの姿になると「ばんぴろさま」は身に纏う漆黒のマントを大きく広げた。
バサァッ……
音と共に鮮血のように赤い裏地が闇の中に広がっていく。
ぬめるような毒々しい光沢を走らせる様はまるで巨大な捕食器官めいてグロテスクだった。
マントの下の美しい白い肌や、女性的なむっちりとした肢体は思わず見惚れそうになるほど魅惑的だった。
僕はこの光景に見覚えがあるような気がした。
「そうだ……夢で……」
そして、晴樹がこの後どうされるか理解した瞬間だった。
「んっふふ……おいしそうな若い雄ね……どうやって食べてあげようかしら……♡」
「ばんぴろさま」が晴樹の体に覆いかぶさっていく。
漆黒のマントはしゅるしゅると晴樹の体に絡みつき、全身を包み込んでしまった。
丁度、黒い生地から二人の首が生えているような状態になった。
黒く艶やかな布地が肌を撫でながら、触手のように絡みつく。
晴樹は短い嗚咽の声を上げ、そのまま彼女に押し倒された。
月明りに艶めかしい光沢を返すマントは不可解な調子でざわめき、蠢き、晴樹の体を締め付けながら全身を這い回っていた。二本の手で出来る動きじゃない。言ってみればマント自身に意思があって、自らを構成する繊維を総動員して捕まえた獲物を弄んでいるようだった。
「まずはお前の精をいただくわね……♡」
「ばんぴろさま」は恍惚と呟くと、頭を黒い波打ちの下に潜り込ませた。
そのまま彼女はマントの内部でその巨体を擦り付けるように動き始める。
「んううっ……んんっ……んあ、ああぁ……んふううぅ……♡」
晴樹の口から聞いたことも無いような切なげな声が漏れ始める。
それは苦しみのものではなかった。激しい快楽に打ち震える、よがり声だった。
あの中で一体何が行われているのかわからないはずなのに、僕には理解できた。理解できてしまった。
「ばんぴろさま」が晴樹を犯しているのだ。若い雄の肉体の隅々まで舌や手やマントで思う存分堪能しながら。
愛する者同士が愛を確かめ合うためにするセックスとは違う、一方的に相手を貪りつくす捕食行為。
あまりにおぞましい。なのになぜか目が離せない。
見ているだけで背筋が冷たくなるほどの興奮を覚えていた。
自分も「ばんぴろさま」に、あの淫らな光沢を放つマントに包み込まれ凌辱されてみたい。
そんな考えで頭がいっぱいになって、制止の声をかけることさえできずにいた。
黒い塊は絶え間なく蠢き続け、晴樹の喘ぎ声もだんだんと激しいものになっていった。
きっとあの黒い捕食器官の中で晴樹は何度も絶頂を迎えているのだろう。
あんな風に犯されたら、どれだけ気持ちいいのだろう。
闇色のマントに取り込まれ、籠った甘い香りに思考を蕩かされ、滑らかな質感で肌という肌を愛撫されながら、「ばんぴろさま」に、あの大きくて美しい女神のような女性に精を捧げる快感。
きっと、魂までも溶けてしまうほど心地いいのだろう。
晴樹が羨ましい。僕と変わって欲しい。
「ばんぴろさま」の贄になるのは僕なのに。
そこで僕はハッと我に返った。
今、何を考えていたんだ? 贄になるって、なんなんだ?
「くああっ、あっ……んひいいいいいっ♡」
悲鳴にも似た嬌声が上がる。
いつの間にか「ばんぴろさま」は頭をマントの外に出していて
晴樹の首筋にキスしているような格好になっていた。
熱く甘い、吐息交じりの声を時折漏らしながら、彼女は濃厚なキスを晴樹に見舞う。
それはまるで晴樹の顔や首から何かを啜っているようだった。
じゅる…、 じゅる…、
しゃぶりつく音を立てる度に、晴樹はマントの下で激しく全身を悶えさせながら、喉から喜悦を迸らせ続ける。
それは、人外の快感に脳を焼かれる憐れな犠牲者の断末魔だった。
ありえないほど長い絶頂ののちに、晴樹の体と思しき部分はぐったりと動きを止めた。
「んっふふふ……とってもおいしいわぁ……♡ 最後命は私の棺の中で吸い尽くしてあげるわね♡」
「ばんぴろさま」はゆっくりと立ち上がると、部屋の暗がりから縁側へと出てきた。
晴樹の布団があった場所にはパジャマとトランクスがあるだけだ。
まるで、身に着けていた人間がそのまま溶かされてしまったかのような有様だった。
さーっと冷たいものが背筋を駆け抜けた。
この場を離れろと強く警告する本能に従って、踵を返したその瞬間だった。
「あら、急いでどこへいくのかしら? ボウヤ……」
僕の身体は、たちまち凍り付いたように硬直する。
ちょうど立ち上がったところで、僕は完全に姿を晒した状態になってしまった。
「ふふふふ……♡」
「ばんぴろさま」まるで地面を滑るように、音もなくこちらに近づいてきていた。
「あ……あぁ……」
「すっかりおびえてしまって……可愛いボウヤ」
「ばんぴろさま」が僕を見下ろして嫣然と微笑する。
身長は2メートルをゆうに超えていて、目の前に立たれるだけで圧迫感は凄まじかった。
だが、僕が全く動けなくなってしまった理由は恐怖ではなかった。
赤く色づいた唇に指を添えてくすくすと笑う仕草が、その表情があまりにも魅惑的だったからだ。
こんな状況なのに、恐ろしい相手と知りながらも見惚れてしまう。
グラビア雑誌やスマホの画面の中にもこれほどの美しい女性はいないと断言できるほどの圧倒的な美貌。
「隠れて見ていたの? 相変わらず悪戯っ子なのかしら……♡」
相変わらず。その言葉が気にかかった。
それは、昔から相手を知っていなければ使わない表現だからだ。
「ぼ、僕はあなたと会ったことがあるのか……?」
「ふふ……直接会うのはこれが初めてだけど……夢の中では二度会っているわ♡」
夢で……そこで記憶の糸が繋がったように、今夜の夢を思い出した。
そして、おぼろげながら一度目の夢のことも。
中学一年の時の夢。初めておしっこ以外の液体を漏らした夜に見た夢でも、
僕は確かに「ばんぴろさま」と会っている。
「また戻ってきてくれて嬉しいわ……遅れてしまったけれど、封印を解いてくれてありがとう……♡
約束を果たしてくれて感謝しているわ……ボウヤ♡」
「約束……僕はあなたと約束なんか……うっ……」
頭がズキリと痛む。約束。封印。
何か重大なことを忘れているような気がする。
「くすくす……まあ、じきに思い出すでしょう。
随分とおいしそうに育ったわね……背はあまり伸びていないようだけれど♡
小さい男の方が私は好みなの……惨めで、情けなくて、可愛らしいから♡」
「ばんぴろさま」がスッと目を細める。品定めする捕食者の眼差しに背筋がゾッと震える。
「くっ……そんなことより、晴樹……晴樹をどうしたんだ」
「ふふっ……お友達ならここよ」
マントがわずかに開かれる。
彼女の丁度胸のあたりから捕らえられた晴樹の頭が現れた。
「は、晴樹……」
異様な様子に、僕は言葉を失った。
位置が高すぎる。晴樹の身長は僕よりも高い、とはいえ「ばんぴろさま」からすれば子供くらいの大きさだ。
なのに、彼の顔は彼女の胸の辺りにあった。体を持ち上げられているのだろうか。
「ああぁ……あっ……んああぁ……いうっ、んううぅ……」
彼女の大きな乳房の間から、焦点の合わない目がわずかに垣間見える。
時折、言葉にならない声で呻き続けている。
一体この中で何をされているんだろう。
よく見るとマントは絶え間なく蠢き続け、内に捕らえた晴樹の体を嫐り抜いているようだった。
耳を済ませれば、ぐちゅぐちゅと粘液をかき混ぜるような淫らな音さえ聞こえてくる。
マントが晴樹の体を貪り食っているように思えてしまう。
けれど、晴樹の表情も声も苦痛を訴えてはいなかった。
僕にはわかる。彼が感じているのは快楽だ。
それも、目の前に友人がいても全く気にする余裕がないほど圧倒的な快楽に恍惚としているのだ。
「この通りお友達はもう私のモノ……」
「聞こえるでしょう? この音…ぐちゅっ、ぐちゅ~♡ って……。
ねぇ、この子は私のマントの中で何をされていると思う?」
「え……」
「うふふふ……そんなに見惚れちゃって……どんな想像をしているのかしら……?」
「教えてアゲル……♡ この子はね……マントの中で私のおまんことつながっているの……♡」
「ほぉ~らぁ♡ こんなふうに、ビクン……ビクン……って震えるたびに
たぁ~っぷり……どろっどろに濃いザーメンを流し込み続けているのよ……♡」
「おほほほほ♡ そうねぇ~~♡
この調子だと……、もう長くはないでしょうねぇ~♡」
「おほほは……とっても気の毒だけど……
ボウヤとは二度と会うことはないでしょうね……おほほほほ♡」
妖しげな笑い声が夜の闇に響く。
変わり果ててしまった晴樹を見つめる。晴樹はこの化け物に殺されてしまうのだと思うと恐ろしくて悲しくて。
それと同時に、あってはならない欲望が心に芽生えてしまっていて。
「お、お願い……晴樹を連れて行かないで……か、代わりに僕を連れて行ってもいいから……」
僕は震える声でそう口にしていた。
「あらあら……そこまでこのお友達が大事なの……?」
「ばんぴろさま」が僕の顔を覗き込んでくる。
その妖しく輝く瞳に見つめられているだけで、心が芯から痺れてしまう。
ああ、なんて美しいんだろう……。
「おほほほほ……違うわね……ボウヤはお友達を助けたいんじゃなくて、
私のモノになりたいって思っているわね……お友達のようにこのマントで包まれて……犯されたいって……♡」
「え……!?」
僕は言葉を失った。「ばんぴろさま」の言葉が僕の心の内をピタリと言い当てていたからだ。
「な、なんでそれが……い、いや違う、晴樹が心配なのは本当で……」
しどろもどろに意味のない言い訳をする。
そんな僕を見下ろし「ばんぴろさま」は嫣然と微笑した。
その美しい顔につい見惚れてしまう。
「誤魔化さなくたっていいのよ……だってボウヤのズボン、膨らんでいるじゃない……♡
お友達が私に犯されているのを覗き見して、おちんちん硬ぁくしちゃったのよね♡
自分もこのマントに包み込まれて、可愛がられたいって妄想しちゃったのよね……♡」
舐めるような淫らな眼差しが僕の股間に注がれる。
男の象徴は僕自身気づかないうちにズボンの生地を突き破りそうなくらい勃起していた。
「これは……ち、ちがう……僕はそんなこと……」
「隠さなくたっていいじゃない……
ボウヤがとってもエッチな男の子だってことは……もうずっと昔から知っているんだから♡」
「おほほほ……この綺麗な顔も昔と同じ……本当に私好みだわ……」
妖しく囁くような言葉に胸が高鳴る。意識がぼんやりとなって、息が荒くなる。
このまま「ばんぴろさま」に抱き着きたい。
自分も晴樹と一緒に連れて行って欲しいとおねだりしたい。
そんな衝動を僕はギリギリの理性で抑え込んでいた。
「でも残念ね……ボウヤを連れていくのは約束だからもう決まっているけれど……今夜はその時じゃない……
忘れていることを思い出してもらわないといけないし……ボウヤは私にとって特別だもの♡」
「あぁっ……♡」
白く長い手がマントの中から伸びてきて僕の頬をするりと撫でた。
たったそれだけで甘い官能の電流が背筋を駆け抜け、腰砕けになってしまう。
「時が来れば私の方から迎えに行くわ……
その時は、このお友達や他の獲物たちとは比べ物にならない悦楽をプレゼントしてあげる……♡」
その言葉に期待に胸が高鳴ってしまう。
ただ撫でられただけでイってしまいそうになったのだ。
「ばんぴろさま」に犯されたら……どれだけ気持ちいいんだろう。
「だ・か・ら……いい子にして待っているのよ、ボウヤ……♡ おほほほほほっ♡」
そう言うと「ばんぴろさま」は恍惚としたまま立ち尽くす僕に背を向けた。
そのままふわりと宙に浮きあがり、闇に溶けるように消えてしまった。
僕の心には滑らかなマントの衣擦れと、くらくらするような甘美な匂い、そして頬を撫でたしなやかな手指の感触がいつまでも残り続けていた。
……………………
気が付くと布団の中にいた。祖父の家の客間だ。
習慣的にスマホを取り出して眺めると、昼の12時を少し過ぎた頃だった。
夢だったのだろうか。それにしてはやけにはっきりとした印象が頭にこびりついている。
のそのそと起き出すと、家の中には誰もいなかった。
庭の方を見ると、未だに取り込まれずに干されたままの洗濯物の中に、昨晩こっそりと処理した下着があった。
あれは夢じゃなかったのか――。
急に不安になった僕は晴樹の家へと足を運んだ。
晴樹の家の玄関には村の大人や年寄りが集まっていた。
皆口々に「ばんぴろさま」とか「祟り」とか「呪い」とか不穏な言葉を口にしていた。
僕は断りもなく中へ上がると人の気配のする晴樹の部屋へと向かった。
部屋の中には晴樹の両親や祖父母、それからうちの祖父の姿があった。
彼らの中心には布団が敷かれてあり、顔を布切れで隠された誰かが横になっていた。
誰か、なんて直感的に分かったのに、信じたくなかった。
北枕に寝かされてピクリとも動かない“それ”は晴樹に違いなかった。
「は、晴樹……? 何があったんだよ……」
けれど、どうしても確認するまでは信じられなくて、
僕はその動かなくなった体に縋りつくと、顔を覆っている布に手をかけた。
「コウ、やめないか! 見ちゃいかん」
僕に気づいた祖父の制止も意味をなさなかった。
「は、る……き……」
そこにあったのは確かに晴樹の顔だった。
けれど、その死に顔は異常そのものだった。
眼窩は落ち窪み、頬はこけ、肌は黒ずんで皺だらけだった。
いうなれば、ミイラのように干乾びてしまっていたのである。
けれど一番異常だったのは表情だ。
恐怖と恍惚のない交ぜになって不気味なほどに歪んでしまっていた。
それは、死の瞬間の激情が固着したものなのだろう。
一体何があったのか……僕には容易く想像できてしまった。
そして、晴樹の死に装束の襟元から覗く首筋には鋭い何かで穿たれたかのような穴――
二つ並んだ牙で噛みつかれたような跡を目にした時、僕は忘れていた記憶を思い出した。
「ばんぴろさま」は吸血鬼だ。
そして僕は確かに「ばんぴろさま」と会ったことがある――。
…………
……
続く
唯识无垢
2024-04-27 06:16:45 +0000 UTC