「待ってたぜ、お前が今日のお客様なんだろう?」 繁華街の路地裏。そこは色鮮やかで賑やかな照明が建ち並ぶ表通りとは全く雰囲気が異なり、室外機や剥き出しの配管などで埋め尽くされ、それを覆うように産廃としか言いようが無いゴミが散乱している。所々には雑居ビルの非常口らしき扉はあるにはあるが、人通りは全く無い。 俺の商売のためにあるような場所だ。 「まずはあんたの携帯をすべて預からせてもらおうか。お互いの信頼関係があってこその商売だからな」 依頼主はジャケットの胸ポケットからはみ出していたスマホを2台取り出し、俺に差し出す。 「2台。これで全部なのか?」 相手は静かに頷いた。 「あんたを信頼しているが、もしルールを破ったら・・・わかるよな? こう見えても生体スウツは通常の人間より遥かに身体能力が高くなるように調整されて作られている。商用で流通した個体に何かがあった時の自己防衛のための機能、ってことらしいがな」 俺はその自己防衛目的の能力で飼い主から逃げ出してきたんだ。 人権など無視した扱いを受け(もう俺は人間ではないが…)、本来の目的である性行為ではなく買い主から虐待を受ける日々。 それに耐えかねた俺はチャンスを伺って買い主に反抗し、軟禁状態にあったその邸宅から脱走することに成功したのが一ヶ月前のことであった。 そして人目を避けて彷徨うなかで幸運にもこの街の一角にある拘束フェチ御用達のラブホテルのオーナーに救われたのが半月前のこと。 それからはそのホテルで住み込みの雑用係をしつつ、このように俺にしかできない商売をして生きながらえているんだ。
giovanni
2023-09-11 07:13:58 +0000 UTC