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ショーダウンⅡ 『28:贖罪の本懐』

#28:『贖罪の本懐』  普段の牡丹の凛とした振る舞いからは到底想像もつかない冷静さを欠いた笑いと余裕のない懇願を隣で目にし、紅葉は震えあがる程の悪寒と目の前が暗くなってくる不安感に苛まれた。  あの、身内にすらも感情を表に見せようとしなかったプライドの高い牡丹が、このような児戯ごときで簡単に自分を保てなくなる程の乱れを見せるなんて……と、紅葉は信じがたい現実を目の当たりにし驚愕の色を表情に浮かべる。 「あんたんトコの静かそうな女……手こずるかと思ったけど案外簡単に堕ちたみたいね?」  牡丹の崩れていく様子を見せてやろうと配慮したのか、途中から鈴音は責め立てていた左足から鴉のくちばしを離して責めを中止し、紅葉と共に牡丹の笑い悶える姿をまったりと眺めていた。  責めが止まった紅葉はこれ幸いと言わんばかりに笑わされて失った酸素を補給すべく荒い呼吸を繰り返すが、すぐ隣から聞こえて来る牡丹の馬鹿笑いに意識を奪われ拭いきれない不安を強く感じそれだけで呼吸を自ら乱してしまう。 「ハァハァハァ……ぼ、牡丹さんが……あの程度の責めに……? 嘘でしょ?」  紅葉の目には、牡丹に密着するように接近して腋やら脇の下やら脇腹を素早い手つきでくすぐり回す夏姫の姿が見えていた。そのくすぐりに牡丹は激しく笑い悶え、そして許しを請う懇願を繰り返している様子も現在進行形で見えている。 『確かに……抵抗できない身体をくすぐられるのは苦しいけど……我慢強い筈の牡丹さんがあの程度の責めで笑い悶えて屈服させられるなんて……おかしい! なにか……これにも仕掛けがあるんじゃ……?』  っと、紅葉は不安な表情とは別に疑念を浮かべる目を牡丹の方へと向けるが、その仕掛けとやらの正体を見つけるには至れない。  嫌な予感は自身にも過っているが……その予感が何を示すのか想像も出来ていない。  そんな事を思っていると…… 「さぁて、そろそろイイ感じになったんじゃないかしら? んじゃ、こっちもお仕置きの再開を……」  っと、言いながら肌から遠ざけていた爪を再び足裏へと近づけようと鈴音が動いたため、紅葉はギクリと身体をビクつかせ顔に緊張の色を乗せ直してしまう。  カチャ、カチャとくちばしのような形の爪をワザとらしく鳴らせ、それを今度は先程責めた足とは逆の足裏へと忍ばそうとしてくる鈴音。そんな彼女の仕草を見ながら、いつの間にやらそこに現われた“彼女”が声をかけて動きを止めさせる。 「ねぇ……? 私も“コッチ”に参加しても構わないかしら?」  言葉の中に艶が混じり少し高圧的ながらも妖艶ささえも感じさせるその声の人物を……鈴音は振り返る仕草を挟まずとも察する事が出来た。 「あら? あんた……“あっち”の担当じゃなかったの?」  鈴音は背後から届いたその声に振り向きもせず、くちばしを再び宙でカチャカチャと鳴らせそう答える。  背後から近づいて鈴音に並び立った女性は鈴音との身長差を利用し彼女の肩に腕を置いて少し顔を近づけ、親しさをアピールするような仕草を取る。鈴音はその馴れ馴れしい態度に機嫌を損ね、すぐに身体を揺すって彼女の腕置きを振り払うように拒否する。 「あっ、もう! ちょっとくらい親しいフリしてくれたって良いじゃない! 私達の仲でしょ?」  彼女なりの親愛の証(?)である腕置きを拒否られムッとした表情を浮かべ直してその様に文句を垂れたのは綾香だった。  先程までは牡丹の椅子の下に隠れて彼女の足裏をくすぐって責める役を担っていたが、今はその役を放棄して鈴音の方へとこっそり合流してきたようだ。  予定では綾香は牡丹への責めを続ける役だと理解していた鈴音は、彼女の予想外の登場に不快感を募らせようとしてしまうが……何か事情があるのだろうと察するとすぐにその不快感を鎮め、何の用だと言わんばかりのジロリ目を彼女に向ける。 「なぁ~~~にが仲よ? 私はあんたの事許したつもり無いんだからねっ! あんたには2度もお嬢の前で恥をかかされたし……その恨みもいずれ果たしてやろうって思ってんだから! 首洗って待ってなさい?」 「おぉ……怖い怖い♪ 気をつけておこっと♪」  鈴音はフンと鼻を鳴らして顔にいけ好かないと言いたげな表情を浮かべる。そして今度はその無礼な態度を軽々しく取った綾香に向けて片目だけのジト目を向け話の続きを促す。 「んで? 良かったのかって聞いてんだけど? あんた……アッチの担当放棄してコッチ来たでしょ?」  「えっ? あぁ……牡丹の方はもういいのかって事? うん、まぁ……あっちは夏姫が恨みを晴らしたそうにしてたから、責めさせるのは彼女に任せてきちゃった♪」 「任せたって……それじゃあ、お嬢の計画とは違くなるじゃない! 勝手な事しないでくれる?」 「い、いいじゃない♥ 別に……誰が何処責めようがそんなに変わらないだろうし……」 「ったく……あんたが牡丹から直接イジメられていたのを知ってたから特別に恨みを晴らせる役を与えてやろうって配置してやったのに……」 「別に……私はあいつに責められた恨みなんて持ってないわ。そりゃあ……ねちっこい責めをしやがって! ……とか、いやらしい触り方するんじゃないわよ! ……とか、文句の一つや二つは言ってやりたいとは思ったけど、恨みを持つ程ではなかったわ……」 「しっかり根に持ってんじゃないのよ! そういうのを恨みって言うのよ……この馬鹿!」 「まぁまぁ♥ どっちかと言えば牡丹に誘拐された本人である夏姫の方が恨みは深いって分かってたからね……。彼女は夏姫の手によって制裁を下された方が良いって……そう思ったから任せたの♪」 「ふぅ~~~ん? じゃあ……あんたはこいつに制裁を下したいって思ったからこっちに来たって事よね?」 「う、う~~~ん……私としては……別に紅葉にも恨みがあるって訳じゃないんだけど……」 「はぁ? じゃあなんでこっちに来たのよ?」 「私に恨みはないけど……でも、彼女の方はどうやら私の過去の事で納得がいっていない様子だったからさ?」 「過去の事? あぁ……元々因縁があったのはあんたとこいつだったんだっけ?」 「そっ♥ だから、少し説得がてらその辺の話をした方がいいかなって……思っちゃってさ……」 「説得? ふ~~~ん? まぁ……そうね、当人同士で話をした方がスムーズに事が運ぶ事も……あるかもね……」  「でしょ? んじゃ、早速だけど……私はこいつの“腋”の方……もらっていいかしら?」 「ん? 腋を貰う? 何よそれ? 説得とか言いながら……結局あんたも無抵抗になったこいつをイジメに来ただけなんじゃないの!」 「フフ♥ 説得する為には多少の苦痛は必要だって私も学んだからね……あんた達に責められて……」  「おっ? 悪い顔してる♥ なぁ~~んだ、あんたも理解出来てんじゃない♪ 気の強い女を躾けるには苦痛を与えるのが手っ取り早いって……」 「嫌な言い方ね。でも、まぁ……一理あるから否定できない……」 「良いわ。そういう事だったら……腋はあんたに譲ってあげる♥ 私はこのままこいつの足裏を引っ掻き回して笑い狂わせてやるから……」  鈴音はそのように言って紅葉の足裏に再び鴉のくちばしを構え直す。綾香は彼女から腋を責める権利を譲り受け、満足げに笑みを浮かべながら紅葉の上半身の方へと歩み寄っていく。   「ハァハァ……ハァ……椿……綾香ぁっ!! あんたよくも抜け抜けと私の前にッっ!!」  綾香の姿が自信に近づいてくるのを見るなり、疲弊していた目に怒りの感情を宿らせ激昂する紅葉。歩みを寄せる綾香はその怒りの視線を涼しい顔で受け流して、紅葉の顔の横へと身を寄せる。 「私はあんたを絶対に許さないっ!! あんたが勝ったなんてこれっぽっちも認めてないっ!! あんな卑怯な手で勝とうとするなんて……マジシャンの風上にもおけないクソよ!」  今にも食い掛らんとする様に枷をガチャガチャと鳴らせて暴れようとする紅葉に、彼女の顔の真横まで移動を終えた綾香はその場で腕を組んで紅葉の罵詈雑言を目を閉じ聞き流す。そして、それを一通り聞くと今度は紅葉の顔に自分の顔を近づけ耳元に口を寄せると、鈴音に聞こえないような小声で紅葉の言葉に自分のアンサーを返した。 「卑怯なのはお互い様……でしょ? 貴女はイカサマをして麗華に勝ったんだし……私もイカサマをし返して貴女に勝った……。そういう戦いになるって事は……ヤる前から分かっていた事じゃない♥」  その返答を聞いて紅葉はグゥの音も出せない。言っている事は真っ当である為、どんな反論をしても自分に正当性が無いという事は目に見えている。紅葉はその事実に対する悔しさを無言で口内で噛み殺し、抵抗を諦め綾香に恨みがましい睨みを向け続ける。 「貴女も理解していたでしょうけど……イカサマは犯罪よ? バレなければ多額の富を生むのは確かだけど……バレた場合は得られた利益以上のモノを失う羽目になる……」 「フン! あんただって今まで散々イカサマしてきたんじゃない! 偉そうに説教しないで貰える?」 「そう……私は確かにイカサマをしてきた……。そして色んなものを失った……。命だけは助けて貰えたけど……私が奪ってきた数多くのものを考えると、きっとその命を捧げてもお釣りさえ返ってこないでしょうね……」 「命? 何を大袈裟な……」 「大袈裟だと思う? 私が言った事……」 「えぇ! たかがイカサマしただけでそんな……死刑になる訳でもなし……」 「刑法上ではそうでも……被害を受けた当人やその家族はそうは思わない……」 「……ッ!?」 「例え……然るべき制裁を受ける事になったとしても、騙されたという遺恨はずっと残り続ける。その遺恨はやがて復讐という形で自分の身に返って来ることになる……」 「復讐? そんなの……ある訳ないじゃない! 漫画や映画じゃないのよ? 馬鹿馬鹿しい……」 「私もそう思っていたけど……実際、今も私はそれに悩まされてる……」 「……はぁ? 優雅に高級ホテル暮らしをキめながら毎日豪勢な食事を楽しんでる癖に何言ってんのよ!」  紅葉の反論に苦々しい笑みを浮かべるしかない綾香は、一呼吸を置いた後にもう一度耳元へと口を近づけ……そして今彼女が実感している脅威を静かに話し始める。 「イカサマがバレて失うものは……利益だとか信用だとか、そういうなまっちょろいモノだけじゃなかったわ」 「……なまっちょろい?」 「失ったものよりもむしろ……イカサマによって“得てしまった”モノの方が遥かに怖い……」 「え、得てしまった……モノ??」 「そう。イカサマをしたとバレて咎められ罰を受け……その後色んなものを失った後に唯一得られたモノ……それは、客からの“恨み”……それだけよ」 「……っ! う、恨み……?」 「それもただの恨みではないわ、私のイカサマで人生を狂わされたっていう絶望から来る巨大で深い恨み……」 「……ッっ!?」 「イカサマのせいで仕事も生活も人生そのものも狂わされたという絶望や怒り……それらは全て……不正を犯した人間への恨みへと昇華され根深い復讐心を駆り立てるようになる」 「ね、根深い復讐心!?」 「そう……例えば、あんたが知らず知らずのうちに貶めた人間の中の一人に……人生を賭けた勝負をした人だって居たかもしれないわよね? その一人が勝負に負けて自殺したとなれば……残された家族はどう思うかしら?」 「そ、そんなの……ギャンブルで負けた馬鹿な人としか……思わないに決まってる!」 「そう? まぁ、そう思ってくれる家族もいるかもしれないけど……じゃあ、そのギャンブルをしていたディーラーがイカサマをして勝っていたと分かったら……どうかしら?」 「……うっ!?」 「イカサマなら仕方ないよね……とか、そんな間の抜けた解釈すると思う? 自分の大事な家族の死の原因がイカサマで搾取されたからと分かって……」 「そ、それは……」 「あんたが逆の立場なら……決して許せないって思うんじゃないかしら? 殺してやりたいって……そう思うんじゃないかしら?」 「うっ……ぐっ……うぅ……」 「それが良識ある家族であれば……まだ、法的手段なりなんなりで手を打ってくれるかもしれないけど……皆が皆そうじゃないわ。大金をはたいてカジノに遊びに来るような客の中には……普通じゃない事情を持つ人間だって紛れ込んでる……」 「普通じゃない……事情を持つ人間……?」 「そういう人間が……恨みをどういう形で発散するか……想像した事ある?」 「……………………」  再び呼吸を整える様に耳から口を離し大きな息を吐く綾香……。紅葉はその顔に焦りの色を浮かべつつも口を挟まず綾香の次の言葉を大人しく待つ。綾香はその様子を見て覚悟を決める様に生唾を呑み込み、自身に起きた恐ろしい出来事を言葉に抑揚をつけず淡々と語り始める。 「ホテルの廊下で部屋に押し込まれて犯されそうになった事2回……。ボーイや客に変装して私を誘拐しようと企ててきた事3回……。隠し持ったナイフや包丁で切りかかられそうになった事5回……。ファンのプレゼントに紛れて毒物を混入した食べ物を送ってきた事7回……。他にも未遂に終わった事例やホテルに入る前に予防できた事例も含めれば数えきれないわ。それが2年経った今でも続いているし……きっとこれからも無くなりはしない……」 「……ッっ!?!?」 「あんたからすれば……私が、優雅にホテルの部屋を好きにとっかえひっかえ移り住んで豪華絢爛な生活を楽しんでいる様に見えたかもしれないけど……。現実は、いつ報復を受けるか分からないっていう恐怖に怯えて部屋を特定されないよう転々と移り住んで一時しのぎをしている逃亡者に過ぎないわ」 「そ、そんな状況だって分かってんのに……あんたは……ショーに出てるって言うの? あんな……人目を引くような大舞台に……」 「ショー? あぁ……マジカルオンステージの事? アレは私の唯一の稼ぎ場所だから……出ない訳にはいかないの……」 「命を狙われているって自覚してるのに……金稼ぎ? 呆れてモノも言えないわ……。どんだけ肝据わってんのよ……」 「部屋を移るにも、食事をするにも、生活するにも、お金は必要よ?」 「うっ……!」 「結城社長や麗華のやつからは、お金の心配はせずにせめてほとぼりが冷めるまでは大人しくしておけって言われたんだけど……それまでに二人には十分すぎる程の世話を受けてしまっていた。私はその恩に少しでも報いたいと思ったから……すぐにショーに出る事を決意したのよ……」 「はぁ? イカサマしてた癖に反省した途端に心を入れ替えたとか言いたいの? 馬鹿みたい……」 「そりゃあ……私だって反省くらいするわよ。だって……麗華や社長も危ない目に合ってるの……見ちゃってたし……」 「っ!? あいつらも……危ない目に?」 「私を匿っている事をどうやってか気付いた連中が……脅してきたのよ……私を差し出せって……」 「……!!」 「でも……社長たちは私を差し出さなかった。麗華も、然るべき対応を取って少しでも安全になるよう取り計らってくれた……。それを知っているから……何か少しでも受けた恩を返したいって、そう思った……」 「そ、そうだとしても……何でショーに出るようにしたのよ? 別にこっそり仕事をするんだったら……マスクして正体隠して清掃員や売店のレジ打ちとかでも良かった筈じゃ……」 「それは……恥ずかしい話だけど……私の中にマジシャンとしての未練がまだ残っていたから……としか答えられないわね。迷惑かけるって分かってたけど……どうしてもショーに出たいって自分を抑えられなかった……」 「マジシャンとしての……未練?」 「イカサマが糾弾され罰を受けていた時……私は自分の人生がこれで終わるんだと覚悟したわ……」 「……人生が……終わる……」 「自分は死ぬかもって想像した時、私は罪を犯したのだから当然だと……納得もした。だけど……そんな中でも私は……最後にもう一度くらいは……マジシャンとして観衆の前でスポットライトを浴びたかった……って、そんな強い後悔の念が浮かんできていたの」 「マジシャンとして……スポットライトを……?」 「もう全てが遅くて……それは叶わない願いだと理解してたけど……でも、願わずにはいられなかった……。その未練だけは残して去りたくはない……と……縋る様に後悔した……」 「………………それが、マジシャンとしての……未練?」 「無理だと思っていたけど……でも、そんな私に麗華達がチャンスをくれた……」 「……っ!?」 「これから開幕する予定のショーに、いずれほとぼりが冷めたら出てみないか? って……麗華が……誘ってくれた……」 「あいつが? そんな事を?」 「ショーが軌道に乗れば……安全対策やら何やらバッチリにして私を出場させたいって……そう言ってくれた。だから私は……あいつについ言い返しちゃったのよ……ショーを軌道に乗せる役は……私が担ってやる……って……偉そうに……」 「……っ!!」 「散々反対されたけど……でも、私は自分の身は自分で守るって誓って……ショーに出して貰えることになった。結局……自分自身で身を守る事なんて殆どできなくて、結城社長に安全整備を急かしてしまう事になってしまったのは心苦しい限りだけど……でも、そのお陰で……私は自分が彼女達に生かされているって強く実感させられたわ。そして……感謝もしてる……私にこんなチャンスをくれた彼女達に……」 「………………」 「っと、話が逸れてしまったけど……兎に角言いたかったのは、素直に自分の罪を認めて……大人しく罰を受けて反省なさいって事……」 「……はぁ? 反省? なんで私がそんな事を……」 「そうでなければ、私と同じ道を歩むことになるわって……そう言ってんのよ……」 「……ッっ!? くっ!」 「良い? よく聞きなさい……。あんたは今……まだギリギリやり直せる場所に立っているって状況よ。立ち直れるかどうかの分岐点に丁度立っている……そう思いなさい?」 「立ち直れるかどうかの……分岐点?」 「幸い……あんたがイカサマをしたという“事実”は、まだ私達しか知らない。客達は……この罰を“ショーの演出”だと思い込んでいる筈よ……」 「……ッっ!?」 「イカサマをした……っていう体で罰を受けているんだって……まだ、そう思ってる……」 「そ、そうかっ! じゃ、じゃあ……それなら!」  紅葉は一瞬、歓喜の感情を湧き上がらせた。綾香の語るその言葉は自分に希望をもたらすものであり、もしかしたら無罪放免になる可能性だってあり得るものだ。そう思ったからこそ声のトーンを上げ身体を起こそうと構えたのだが…… 「でもね……最終的にあんたの処遇をどうするかは、麗華達が判断するって決まりになってるの……」 「……えっ!?」 「罰を与えて、あんたが反省するかどうかをしっかり確認して……それで処遇をどうするか判断するって言っていたわ……」 「あ、あいつが……判断??」 「表面だけの反省ではダメ。心の底から反省したと認めない限りは……麗華はきっと許してくれない……」 「こ、心の……底から?」 「あいつがどういう基準でそれを判断するかは分からないけど……今のままだと到底あんたは許されないでしょうね。反省する気なんて無さそうだって思われてるだろうから……このままだと仕置きを終えてそのまま警察に突き出す流れを取るかもしれない……」 「うっっ……うぅ……」 「私も、あいつが何考えているか分かんないから大した助言は出来ないけど……でも、これから与えられる責めを受けながら……今一度考え直した方がいいと思うわ……」 「考え直す……? な、なにを……?」 「自分の犯した過ちが……一体どれほどの罪に値するか……。そしてどれほどの罰を受ければそれを許して貰えるのか……を……」 「どれほどの……罪に……? どれほどの……罰を……?」 「あいつは……うわべだけの安い言葉なんてすぐに見抜いてしまう。あいつが聞きたい言葉そんな言葉じゃない……。本当に反省したからこそ発される言葉こそが、あいつの心を動かす言葉だと覚えておきなさい?」 「本当に反省したからこそ……発される……言葉?」  紅葉はその言葉を聞き、頭を混乱させてしまう。綾香が何を言いたいのか……それがあまりにも抽象的過ぎていまいち言葉に理解が追い付かない。  要は……反省すればいいだけでしょ? っと、その様に安易に考えはするが、その反省によって一体どんな言葉を発すればいいかなど想像もつかない。  ただ謝れば良いだけなのか? 自分の非を認めて……素直に御免なさいって言えば伝わるのか?  いや……それだけでは良いとは到底思えない。それで許されるなら……多分、綾香はわざわざ忠告してきたりはしない。きっと何か……麗華の琴線に触れる何かをしないとならないのだろう……っと、紅葉はまとまらないながらもその様に考察し綾香の顔を改めて見つめ直す。 「あんた……何でその事を私に? 別に……敵である私に……教えなくても良かったんじゃないの? そんな事……」  綾香にその様に聞くと、彼女は目を閉じフゥと重い呼吸を一つ零す。そして、目を開いた後は真面目な顔を作って彼女の目を見つめて言葉を紡いだ。 「私は“私のせい”で人生を狂わせてしまった人間に謝罪したいと思ってる。それはイカサマとかそういうものだけではなく……私の不手際が招いてしまった全ての事象が対象よ……」 「不手際? だったら……私に謝りなさいよ! 今すぐにっ!」 「えぇ……そうしたいのは山々……だけど、今の貴女に誠意をもって謝罪しても……曲解されて受け取られる事は目に見えているわ……だから、今はまだ……謝らない」 「な、何よその偉そうな言い草っ!! 反省してんだったらその場で謝るのが筋ってもんでしょ!」 「例え今、私が……昔の話をしても……それを貴女は信じようとはしないでしょ? 私がどういう経緯であの時逃げる事になったのか……それを話しても聞く耳持たないでしょ?」 「あ、当たり前よ! あんたの言い訳なんて聞いてやる義理なんてない!」 「そう……だから、しかるべき時に……ちゃんと話すわ。謝罪と共に……ね?」 「くっっ!? ふざけてるっ! 結局……謝る気なんてないんじゃないのっ!!」 「フフフ……♥ でも、あんたにこの事を話したのは……あんたを助けたいって純粋な気持ちからよ?」 「はぁ? よく言うわ! 私の事脅しておいてっ! どうせ私をビビらせて自分達の良い様に操ろうとでも思っていたんでしょ?」 「そんな事はないんだけど……でも、あんたってば信じてくれないわよね? 私がそう言っても……」 「そんなふざけた笑みを浮かべてる奴の事なんか信じれる筈ない! 今までの話だってどうせ嘘ばっかりで……」  紅葉がそこまで言いかけると、綾香は見つめていた瞳に妖しい光を宿し薄い笑みを浮かべる。そして、敵意を向ける紅葉の顔から少し視線を横にずらし“そこ”を視界に収め直す。 「今は何を言っても信じてくれない……そう思ったから、謝罪は後回しにさせて貰うと決めたの♥」 「あ、後回し? なんの?」 「まずは……物理的に反省を促そうと思ってる。話はその後にする……そう決めてココに足を運んだのよ♥」 「ぶ、物理的に反省を……促す??」 「自分が犯した罪……それを真に後悔させるには、結局この方法が一番分かりやすいんだもの……ねぇ? 鈴音チャン?」  急に名前を呼ばれ、ピクリと片眉を反応させてマスクの奥から睨み目を向ける鈴音。その口元は“ちゃん”付けされた怒りにへの字に曲げられていたが、綾香の手元を見るとすぐにニヤリと笑う形に変えられた。 「……あら、長々と話ししてた割には……ちゃんと責める準備はしていたみたいね? 良いわ……その爪……使わせてあげる♥」  綾香は、紅葉と会話を交わしつついつの間にか左手に鈴音と同じ“鴉のくちばし”を装着していた。そして、その付け心地を確かめるべくカチャリカチャリとくちばし同士をぶつけ音を鳴らす仕草をさせていた。それを見て、綾香が責める気満々でココに来たのだと改めて察し、思わず笑みをこぼしてしまう。 「自分が苦しまないと他人の苦しみなんて気付けないものだ……って私も2年前に痛いほど分からされたわ。だから再現してあげる♥ ヤった事を後悔したくなる程の……どギツイお仕置きを……」  綾香はその様に額から目に至るまでに影を差させる。そして、靴を脱ぎ素足になって紅葉の寝かされている台のへと上がり込んでいく。 「くっっ! なんだかんだ言って……結局それ? 何がお仕置きよっ! どうせあんたも私の事くすぐりたいだけなんじゃない!!」  台の上へとあがった綾香は、顔を真っ赤にして怒りを露にする紅葉を見降ろし……クスリと笑みを零してゆっくりと姿勢を低く下げていく。  そしそのまま紅葉の股間付近に腰を下ろしていくと、膝を彼女の腰の横に立てて膝立の姿勢になり……若干上半身を前のめりになって顔を近づけさせていった。 「うっ! や、やめろ! そのニヤけた顔を近づけるなっ!」  綾香の顔がゆっくり紅葉の顔に近づき……ある程度の距離まで近づくとその動きを止める。少し前傾姿勢になりつつジッと紅葉の顔を見つめていた綾香は、子供のように歯を見せてニンマリと笑いかけると、両手を顔の前に差し出してワキワキさせて見せた。  片方の手には鈴音とお揃いの鴉のくちばしがはめられ爪部分をカチャカチャと鳴らせながら煽る様子を見せ……もう片方は彼女の生の手がワキワキと蠢いて見せている。  いかにも“これからくすぐるぞ!”という仕草を見せながら、綾香はボソリと彼女を絶望に落とす言葉を一つ告げるのだった。 「死ぬほど笑って……死ぬほど反省なさい? 話しは……それからよ♥」……と。

Comments

お待たせしました。やはり綾香が攻めてる姿……見たいですよね? 活躍の場を用意してみました笑

ハルカナ

綾香が紅葉をくすぐる展開待ってました!

ラク


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