このキャラです!

EX008_天井に頭をぶつける長身青年
「ここのアパート?」
「そう」
急遽アラタを俺の家に泊めることになった。服を見て飯を食い、楽しんださあ帰ろうというときにアラタの乗る電車が止まったのだ。結構込み入った事故らしく再開予定時刻もわからず、アラタの最寄り駅は振替の路線もない。「俺んち泊まる?」となるのは自然な流れだった。
「頭気をつけろよ」
「あ、うん」
俺の部屋は1階だが、通路の上は天井代わりの2階の廊下がある。もちろん普通なら気にするまでもないがアラタはそこに頭が届いてしまう。ぶつけるのも危ないが、光に誘われた虫がまた厄介で、蜘蛛の巣がはっていたりもする。案の定アラタは相当かがんで気を付けながら俺の後ろをついてきていた。一番奥のドアに鍵を差し込んで回し、ドアを開ける。中に入って電気をつけた。
「入って」
「うん、お邪魔しまーす」
俺んちはもちろん一般的なアパートなので、ドアの高さも一般的だ。身長250㎝近いアラタだと中から見えるのは腹ぐらいまで。それより上はドア枠に隠れてしまう。アラタは相当屈む、というか、殆どしゃがむような体勢になり、逆手でドア枠を掴みながら身体をドアにねじ込むようにして玄関に入る。
「……狭くてごめんな?」
窮屈そうにするアラタを見て思わず謝罪してしまう。ほぼしゃがんだまま靴を脱ごうとしていたアラタが俺を見て困った顔をして言う。
「いやいや、オレどこでもこんなだから」
一抱えはありそうな靴を脱ぐと、框を上がってゆっくりとアラタは立ち上がっていく。膝を伸ばしきらないうちに髪が天井をこする音がした。
「立てないか?」
「ん、ちょっと無理そう」
俺じゃ手を伸ばしても触れない天井にアラタはまっすぐ立たなくても届くんだな……と思いながら部屋へと向かう。アラタも早く座った方がいいだろう。ちょっと広めの1Kでよかった。アラタも中腰のままついてくる。ギシッ……ギシッ……とフローリングがきしむ音が聞こえてくるが、流石に床が抜けはしないだろう。部屋のドアを開けて明かりをつけ、ドアをそのままに中に入る。8畳の普通の部屋。ベッドとローテーブルにちょっと棚を置いたらあっという間に手狭になってしまうが、アラタが入るスペースぐらいはあるだろう。片づけておいてよかった。
「どーぞ」
「ん。よっ、と……」
部屋へのドアでまたアラタが大きくしゃがみ込む。コイツにとって殆どのドアはしゃがんでくぐるもんなんだろうな……と思うとその大変さにちょっと同情してしまう。ドアをくぐったアラタが立ち上がるが、その勢いがさっきよりも早い。天井からごっ、という鈍い音がした。
「あっ!」
やべっ、とばかりにアラタが頭を下げる。ずっと中腰だったから早く解放されたくて勢いがついたのだろうか。頭をさするアラタを見上げる。
「大丈夫?」
「あ、うん……でもごめん天井が」
「天井の心配する?」
ちら、とアラタ越しに天井を見る。…………心なし凹んでいるような気がしないでもない。敷金、という言葉が浮かんでこっちを見るアラタと目が合って無理やり振り払った。
「ぶち抜かなくてよかった……」
「まるでぶち抜いたことがあるような言い方じゃん」
「……」
「ねえ待って、あるの?」
ふい、とアラタが目をそらす。これはあるな。流石に天井に穴をあけられてはたまらないので、座れよ、とベッドを示す。が、アラタはまた眉をへの字にさせる。
「あー……これ、パイプベッドだろ? オレ、潰しちゃうかも……」
潰しちゃう、と聞いて最初は意味が分からなかった。が、思い返せば確かにアラタは店とかで椅子に座るとき体重を慎重にかけていた。アラタにとって低すぎる椅子だから座りづらいのかと思っていたが、体重が理由だったとは。いやでも、ベッドだぞ?
「ベッド潰れんの?」
「こういうのは、多分……」
それもやったことあんの? と聞こうとしたがアラタを困らせるだけなのでやめた。んじゃ俺がベッドいくからこっち座れよ、と床を指さすとアラタはその大きな体を縮こませながらゆっくりと腰を落とし、長い脚を折りたたむようにして胡坐をかいた。座っていても小学生の背丈ぐらいはあり、圧迫感がすごい。
「コップ取ってくるな」
通り道にはみ出るアラタのひざを大股でまたいで、1K特有の小さいキッチンの水切りからコップを二つ取り出す。戻ってローテーブルにコップを置き、途中スーパーで買ったペットボトルからコーラを注ぐ。普通のコップもアラタが持つとおもちゃみたいだ。握ってしまうと殆どコップが隠れてしまう。そうやってちょっと一息ついてから、アラタと今後のことを話す。
「えーっと、来る前も言ったけど、客用布団とかないからマジで床に寝てもらうけどいいな?」
一人暮らしの男の家にそんなものあるわけないし、そもそも身長250cmのアラタが寝れる布団なんて特注でもしない限りないのだ。だから泊まる前に言っておいたのだが、アラタはそれでこくりと太い首で頷いた。
「オレ別に床でも全然寝れるから。脚伸ばして寝れるだけでもありがたい」
にかっと笑顔で言われてしまうとこっちが面食らってしまう。
「あとは……着替えもないよな? 俺のじゃサイズ合わないし……」
「まあ、それは仕方ないだろ。我慢するよ」
普通サイズならコンビニやスーパーで間に合わせの下着を買う、ということができるのだが、アラタほどのサイズとなるとほぼ特注だ。俺の服を貸そうものなら余裕で破ってしまうだろう。それも仕方ないといえば仕方ない。
「あと、風呂は……」
「あ、それもオレ無理だから……」
「あ、違くて」
うちの風呂はバストイレ別だが、それでもバスタブの大きさはアラタが身体を折りたたんでも入れるような大きさではない。無理やり詰め込もうものならバスタブの方が壊れてしまうだろう。が、他にも風呂に入る手段はある。
「うち、近くに銭湯あるんだ。たまに行くんだけどさ、そっちいかねえ? それならアラタも入れるだろ?」
つづく?
ichiya
2024-08-20 10:40:25 +0000 UTCタウリン
2024-08-16 03:18:02 +0000 UTC