「あ……あ、あ……」
晴れた昼のビルの屋上だというのに、薄暗い。大きな影がかかっているからだ。そして俺は今、その大きな影を作っている原因を見上げている。それは、雲でも飛行機でもない。大きな大きな……………巨人、だ。俺のいるところはビルの屋上なのに、それより高いところに顔がある。
(ま、まさか……ありえねえ、だろ……?)
ありえない、と頭ではわかってはいながらも、見上げる先にある俺の身長より大きな顔は確かにそこにある。仕事をサボって休憩していた時に突然発生した大きな揺れ。地震かと思いながら床にへばりつき、やっとおさまったと立ち上がったら、これだ。何が何だかわからないけれど、それ以上に上から見下ろされるプレッシャーで身体が動かない。顔から続く首は太く、広い肩はこのビルの幅いっぱいに広がっている。そして何より目の前いっぱいに広がる大胸筋は、人間が何十人と乗れそうなほどもでかい。屋上からはそこまでしか見えないが、その下にも筋肉でボコボコの肉体が続いているのだろう。
(な……何が……)
しばらく動けず震えていたが、巨人が動く様子がない。もう一度、ゆっくりと首をそらして巨人を見上げてみる。大きさに圧倒されていたが、その巨人の顔はモデルのように整っていて、無表情のままじっと俺を見つめている。――つまり、目が、合った。今度こそ俺の身体は蛇に睨まれたように硬直する。
(お、れ、殺される……?)
それでも、巨人は動かなかった。いや、正確には呼吸による胸の収縮や肩の上下、身じろぎや瞬きはしている。それは屋上から見ている俺にとっては重機のような大きな動きだが、巨人にとっては静止しているのと変わらないだろう。とにかく、首をかしげたりだとか口や手を動かしたりだとか、そういうことを一切せずに、じっと俺を見つめているのだ。
(に、逃げる……か……?)
巨人ばかりを見上げていたのでわからなかったが、ビルの下からは悲鳴やクラクションのような音が立ち上るように聞こえている。突然ビルよりもでかい巨人が現われたのだ。当然だろう。棒のようだった脚に、次第に力が入るようになる。屋上の出入り口は真後ろだ。数メートルもない。ダッシュで飛び込んで、階段を駆け下りて……
(いくぞ……いくぞ……)
さん、に、いち、と心の中で数を数えて、ゼロと同時にぐるんと振り向いてドアへと走り出す。その瞬間、背後の空気が大きく動く気配がして――――
ichiya
2023-12-02 12:43:50 +0000 UTC曹達(ソーダ)
2023-12-02 09:29:43 +0000 UTC