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ヒーローがいなくなった日。星の滅亡が決まった日。(後編)



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ヒーローがいなくなった日。星の滅亡が決まった日。(前編)

「うぉりゃああああああああああ!!!!」  海上輸送と共に発展してきた沿岸都市。国内でも五指に入るほど発展したその街には近代的な大きなビルが立ち並んでいる。そのビルの間から、雄たけびとともに、それこそビルほどもあるサイズの何かが放たれるように飛んでいく。綺麗な放物線を描きながら海へと落ちたそれは、...





『……攻撃開始!!』


 残った三機の戦闘ヘリが散開し、目の前の一機が機関銃を放つ。一発で鉄をもぶち抜く銃弾が10秒で100発以上。銃弾は全てアレスの身体に命中しているが、アレスは表情一つ乱さない。間を置かずに両端の二機がロックオンしたミサイルをアレスに向けて発射した。計四発のミサイルはアレスの頭を狙って飛び、直撃して爆発を起こす。炎と煙でアレスの顔が覆われる。


「……どうだ?」


 パイロットもこれでアレスを倒せるとは思っていなかった。ただ直撃すれば戦車でも破壊するミサイルを、四発である。これが、生物に全く効かないってことはない……というより、あってはならないと願っていた。


「……煙だけはいっちょ前のオモチャだよなあ」


 だから煙を手で散らしながら現われたアレスの顔が全くの無傷だったことを確認して、パイロットは悪態をついた。真ん中の一機が腹にミサイルを打ち込むも、アレスはそれをただ見ているだけだ。アレスにダメージを与えるどころか、パーカーにもタイツにも焦げ目すらついていない。続けて機関砲を無茶苦茶に打ち込むが、アレスはふはっと笑うばかりだ。


「ほんとお前らは無駄な抵抗が好きだよなあ?」


 アレスがゆっくりと右手を上げ、銃のようなポーズで人差し指を一機のヘリに向ける。次の瞬間、アレスの指先から白い光が放たれ、その光がヘリのガラスも装甲も一瞬で溶かしてヘリを貫通する。直後に燃料に引火し爆発が起きる。それに気を取られているうちにアレスは反対側のヘリにも指を向け、同じように放たれた光がヘリを爆散させた。最後に残った一機にアレスはにやりと笑みを投げる。


「……で? 遊びは終わりか?」

「……ち……くしょう!!」


 最後に残ったヘリが離脱しようと急上昇するが、アレスがビームでローターを吹っ飛ばすとあっという間に推力を失ってきりもみになる。そのままなら落下して潰れてしまうところだが、アレスはズン、ズンとそのヘリに近づくと、落ちかけていた機体を両腕でがしりと捕まえた。そのヘリは全長15mほどだが抱えたときにテイル部分が折れたため10m程となり、アレスの身幅に軽く収まっている。


「な、なんで……?」


 死を覚悟していたパイロットはアレスに助けられた事実に目を剝いている。機内はいたるところが壊れて何も動かず、無線も途切れてつながらない。それでも、操縦席の空間だけは確保されていた。アレスがヘリを持ち替えるとミシミシと機体が揺れながらパイロットの視界が動く。持ち上げられながら、割れたガラスの向こうに現れたのはアレスの大きな顔。


「なんで助けたのか、とか思ってんだろ?」


 アレスが機体から手を放す。だが機体は落下しなかった。アレスの不思議な力で機体そのものが浮いているのだ。機体はふわりと高度を上げてアレスと同じものを見るように向きを変える。今アレスの視線の先にあるのは、ちょうどアレスと同じぐらいの高さのビルだ。


「今からさあ、いいもの見せてやるよ……」


 アレスはそのビルに近づくと、腰のあたりで手のひらを上にして何の躊躇もなく両手をビルに突っ込んだ。ガラスどころかコンクリの壁が砕けて地上に落下していく。


「おいっ! お前……!!」

「そらっ!」


 パイロットの怒声など無視して、アレスがそのままビルの上層階を持ち上げるようにして崩していく。上層階はデスクや椅子、瓦礫をまき散らしながら隣の低いビルの屋上にぶち当たって轟音を上げる。その音に混じる人間の悲鳴。


「いやあああああ!!」

「み、みつか……」

「逃げろっ!」


 アレスが上層階を崩し、残って天井が無くなったフロアにはまだ逃げていなかった、というよりアレスに見つからないように息をひそめていた人間がたくさんいた。その数総勢五十人以上。人間たちが見上げるのはもうフロアの天井ではない。パーカから見え隠れする胸板や腹筋、タイツに包まれてもなお存在感のあるふくらみを見せる股間。その下はビルに隠れて見えないが脚が続いている。そして一番上にあるのは、腰を折って人間たちを上からのぞき込んでいるアレスの顔。それを見て一部が逃げ出そうと階段に向かうが、アレスはちょいと腕を伸ばして指先で階段を崩してしまう。そうするともう、人間たちに逃げ場はない。


「見てみろよ? せっかくお前らが命がけで俺様と戦ってんのに、まーだこんなとこにいる人間がこんなにいるぜ?」

「な、何を……」


 アレスはビルに手を伸ばすとスーツを着た男を一人摘まみ上げる。男は自分よりでかい指が迫ってくるのを見て逃げようとしたがあっさりその指にからめとられてしまった。


「いやだっ、助け、助けて!!」

「おいっ!! 何をする気だ!!!」

「ん~?」


 パイロットが機体の中から叫ぶ。アレスは体を起こすと男をつまみ上げた手をヘリの目の前に持って行ってやる。男はアレスの親指と人差し指で腕を掴まれバタバタともがいていたが、その胴体より太い指は全く外れそうもない。


「ほら、市民が助けを求めてるぜ? 助けてやれよ軍人さん」

「アレス! その人を放せ!」

「どうした? 助けてやんねえの?」


 ヘリはすでにスクラップ。アレスの力で宙に浮いているだけのパイロットにその男を助けられるはずがなかった。アレスもそれをわかって男をヘリの前でプラプラと揺らしていたが突如飽きたようにその男を自分の目の前に持っていく。するとパイロットが乗る機体もカメラのようにそれを追って、パイロットはいやおうなしに男とアレスを視界に収めてしまう。


「残念だなぁ~? この軍人さんはお前のことを助けてくれないってよ」

「いのち、いのちだけは……」

「恨むならそこの助けてくれなかった軍人を恨めよ」

「いやだいやだ……助けて……!!!」


 アレスの指が添うようにして男の全身を包んでいく。アレスの太い指に掴まれて、男の顔以外は見えなくなった。アレスが握る力を強めるとやめて、助けてと叫ぶ声が悲鳴に変わり、パイロットの怒声と交錯する。そして男の悲鳴が途切れたのと同時にアレスの拳の隙間から赤いものが噴き出し、男の頭ががくりと下を向いた。ビルの人間から金切り声が上がる。まだ男の残骸を握りしめたまま、アレスはパイロットの方に顔を向ける。


「あーあ、あんたが助けなかったから、この人間死んじゃったぜ?」

「お前……!!! お前……!!!」


 パイロットはもう怒りで言葉さえ出てこない。そんな姿をみてアレスは満足そうににやっと笑い、潰れた男をビルへと放り投げる。フロアに落ちたそれを見てまた上がる金切り声。


「今から俺がやること見てろよ? 市民を守る軍人さん」


 それはもう、虐殺であった。フロアに残る人間を手で追いまわし、指で押さえつけてそのままフロアが抜けるほどの力でぐちゅりと潰す。ピンと指ではじかれた女性は上半身が吹き飛ばされ、腰が抜けた男は指先から出る超低出力のレーザーで全身を焼かれながら灰になった。愚かにもアレスのいる方から飛び降りようとする人間は、アレスがビルに腰を打ち付けると股間のモノにぶち当たり、瓦礫とともに吹き飛ばされて動かなくなる。逃げ惑う人間をアレスは一人一人丁寧に殺していく。その全てを動けないパイロットはアレスと同じ視線から余すことなく見せられている。壊れた操縦桿では武器も動かず、繋がらない無線では救援も呼べない。喉から血が出るほどやめろと叫んでもアレスはその手を全く緩めない。怒声の命令は人が死んでいくたびに小さくなり、次第に涙混じりの懇願になる。20人程が消えたところでアレスはまたパイロットと目が合うように機体を動かした。


「あ~あ、お前が助けないからもう20人ぐらい死んじゃったけど?」

「も、もうやめてくれ……うぐ……アレス……お願いだ……」

「ははっ、もう市民を守る気もないってか」


 失望したように目を細めると、アレスは手で残った人間をフロアの真ん中に追い立て、机や瓦礫でそれを囲むように壁を作った。そしてまたパイロットの機体が動く。フロアの真ん中で機体の先端が下を向き、操縦席のベルトに吊り下げられる形となったパイロットはヒュッと喉を鳴らした。


「おい……まさか、やめろやめろやめてくれ」


 パイロットの視界に映るのはフロアの真ん中に固められた人々。男も女も関係なくパイロット――つまり、パイロットの乗っている機体を見上げて恐怖に泣きわめいている。今機体はアレスの力により浮いているだけで、もしアレスが力を解除すれば、機体は……


「アレス!!! お願いだアレス!!!」

「――はっ、無力ってのは哀れだな」


 楽しそうなアレスのその声とともに、固定されていた機体が動き出す。フロアで固まる人々に向かって。それは自由落下というもので。パイロットは逃げろと叫びながら操縦桿をむちゃくちゃに動かすが、どちらも何の意味もない。どんどん加速していく機体が、数秒もせずに互いの顔がわかるほどに近くなり、そして、肉が潰れる凄惨な音の数秒後に、ヘリ自体の爆発音。それをしばらく見下ろしていたアレスだったが、すぐに興味を失ったのかもうそのビルには目もくれず、街の中心部に向けて歩き出した。



***



 アレスの惨劇は止まらなかった。アレスが大通りを歩くだけでアスファルトが陥没しビルが揺れる。乗り捨てられた車はバス並みのブーツに踏み潰され、蹴飛ばされ、それがまたビルにあたって二次被害を巻き起こしていく。そしてそれはアレスが歩くだけで引き起こされる被害だ。気まぐれのように通りに建つビルに蹴りを入れると、全ての窓ガラスが爆散し、下層の支えを失ったビルが情けなく崩れていく。隠れている人間をテレパスで見つけるとビルの前にしゃがみ込んでフロアをのぞき込み、ゆっくりと恐怖で弄ぶかのように腕を入れて追い詰めていく。勿論最終的にはビルごとお陀仏だ。ビルだろうが車だろうが物陰だろうが、隠れている人間は丁寧に見つけられ殺されていく。


 もちろん人類側の攻撃は続いている。地上からは対地ミサイル、海上からは対艦ミサイルがなりふり構わず降り注ぐ。だがアレスは全く意に介さない。どれだけ打ち込んでもまるでゴムボールが当たったか、という程度の反応しかなく、外れたミサイルがビルを破壊しているのを見て笑っている始末だ。精悍な顔にも鍛えられた肉体にも、それどころか服にも、傷一つつけられない。人類が絶望の色を濃くする中、とうとうアレスが都市中心部へとたどり着く。


「――へえ、まだ抵抗すんだ?」


 アレスの目の前に広がるのは、都市最大級の広さを持つ中央公園。災害の際の広域避難所となっているそこには多くの避難民が集まっていた。アレスの侵攻が進むにつれそこからの避難命令も出ていたが、人が多すぎて全く避難が進んでいない。


 そして公園の駐車場とその前の大通りに、まるで立ちはだかるようにして並ぶのが人類の軍隊だ。地上には戦車から自走砲、多連装ロケット砲まで総勢100両以上、歩兵は携行式ミサイルを構え、空には戦闘ヘリがアレスを包囲するように武器を向けている。この短時間に隣接した基地の総力を挙げた、必ずここで止めるという意思を携えた現状最大級の配備。


「よく集めたなあ、お前ら」


 その下手すれば小国すら落とせる戦力を前にしてもアレスは顔色一つ変えない。今はアレスがいる場所は建物が邪魔で最大火力が出ない。アレスがもう少し近づいた時が攻撃のタイミング。軍隊がじりじりと機をうかがう中、アレスはまたふはっと笑う。


「やりやすくていいや」


 次の瞬間、スコープを覗いていた砲手の視界が緑色に覆われる。一人だけではない。歩兵も、通信兵も、戦車のカメラ画像も、その視界のすべてが緑色になる。地上部隊はそれがすぐには理解できなかった。空中に配備されていたヘリ部隊の通信をもってようやくその原因を知ることになる。


「ち、地上部隊が、地上部隊がバリアに覆われています! おそらく、歩兵含めた全部隊! 数十のバリアが地上部隊を覆って……ぎゃっ!!」


 その通信も途中で途切れた。アレスのビームでヘリが撃ち落とされたのだ。まるでハエを薙ぐかのように、ビームで次々と空中のヘリが落とされていく。墜落したヘリは地上部隊の方にも落ちていくが、アレスのバリアに守られているため、バリア上部にぶつかってそのまま残骸となってヘリは燃えていく。あっという間に空にいたヘリ部隊はいなくなった。地上部隊はなんとかバリアから脱出しようと試みるが、戦車で突撃しても銃を撃ってもアレスのバリアはビクともしない。そんな地上部隊を見下ろして、アレスはにんまりと、意地の悪い笑みを浮かべた。


「お前ら、そこで指くわえてみてろよ」


 地上部隊を見ていたアレスの顔の角度が変わる。その先にあるのは、いまだ避難を続けている市民たちだ。アレスが右手をかざすと、手のひらに光が集まっていく。次の瞬間、先ほどヘリを撃ち落としたのとは比較にならないほどの太いビームが避難民のいるところに放たれる。直後に、まるで爆弾でも落ちたかのような大爆発。直撃したところ、つまり避難民の約三割がいた場所は消し飛んだ。ビームが直撃した人間は一瞬にして蒸発し、余波を浴びたものは焼けただれながら悲鳴を上げる。公園の木々は燃え、あっという間に地獄のような惨状が生まれる。――それを、地上部隊は安全な場所で見ていることしかできない。バリア内から悲鳴と怒号が怒涛のようにあふれだす。


「くそがああああああああ!!!!」

「戦うのは俺らだろうが!!!」

「殺す! 殺す! 絶対殺す!!」


 だが、どんなにあがこうが人類の力でアレスのバリアを破ることはできない。装甲車数台で突進しようが、戦車がゼロ距離でバリアを撃とうがヒビすら入らない。むしろ至近距離の砲撃で歩兵の方に被害が出ている。アレスはそれを時々ニヤニヤ見下ろしながら、一歩も動かないままで、今度は細いビームで逃げ惑う避難民を嬲るように焼いていく。人間が何十人もまとめて薙ぎ払われ、車が何台もまとめて爆発する。細かいところが見えない地上部隊のために、わざわざアレスは街の監視カメラ映像をビルのオーロラビジョンや戦車内の画面に転送してやっている。避難民のスマホから拾った音声付きだ。悲鳴はもはや狂気に変わった。至近距離砲撃で死ぬもの、拳が砕けるまでバリアを殴るもの、銃を咥えて自決するもの。戦いと思っていたのは自分たちだけで、アレスにとっては本当に取るに足らない作業、遊びなんだと、身を持って思い知る人間たち。それを目や耳やテレパスで楽しみながら、アレスはゆっくりと人間を、都市を焼いていく。もうミサイルどころか弾の一つもアレスには飛んでこなかった。


「んー……まあこんなもんか」


 アレスの気の抜けた言葉の先にあったのは、灼熱地獄のようになった都市だった。いや、もう都市と呼べるほどの高い建物は残っていなかった。アレスのビーム攻撃で十や二十のビルがまるでバターのように薙ぎ払われた。アレスの五倍はあるこの都市で一番でかいビルもビームで中腹を真っ二つにされ、周りのビルを巻き込みながら倒壊。あっという間に街は火の海……いや、火の海という言葉では生ぬるいほどの業火が上がり、炎の竜巻が何本も空へと巻き上がっていた。地面もアレスのビームの熱量でマグマのように溶けており、もはや無事なところなどなかった。生き残った人間がいるなんて想像すらできないほどに。――アレスの足元にある、バリアで囲われた場所以外は。アレスが膝に手をついてバリアの中の地上部隊に呼びかける。


「どうだ? 何もできずに街が滅びていくのを見た気分は?」


 その言葉に答えられるものはいなかった。怒りなどとうに通り越して絶望にまみれた軍人たち。バリアに突進して死んだ者や自決した者も少なくない。魂の抜けたように乾いた笑いを浮かべる者や、涙と嗚咽を漏らしてアレスを見上げる者。様々だが、アレスと戦おうという気概を持つものは、もう一人としていなかった。それらを見たアレスは、少しだけ残念そうに息を吐く。


「あ~あ、やりがいのねえやつら……」


 そうやって地上部隊を見下ろしながらため息をつくアレスの頭上に、遥か高くから迫ってくるものがあった。核弾頭。大陸間弾道ミサイルによって発射された、人類が開発した兵器の中でも、危険すぎて半世紀以上も抑止力としてしか使われなかった代物。その上かつて極東に落としたモノの20倍の火力を持つメガトン級。街がまとめて更地になる威力。その後何年も人が住めなくなる悪魔の兵器。使ってはいけない力、禁忌。それでも――それでも人類は、あのアレスを倒さねばならなかった。ミサイルが効かなくても、周囲二キロを覆う太陽より高熱の火球に包まれ、莫大な放射線を浴びれば、生き残れる生物などいない。アレスが上を見上げた時にはもう核弾頭は高度1kmにまで迫っていて、たとえアレスがビームで撃墜しようとしても、もう間に合わないタイミングだった。アレスが核弾頭を捕捉する。


「うわ」


 ――だが、その兵器は起動しなかった。爆発しない。それどころかパラシュートもないのにだんだんと速度を落としていく。そうしてそれが、ついにアレスの目の前で停止する。司令部が躍起になって起爆命令を送っているがうんともすんとも言わない。この崩壊した街の中でアレスが核兵器のコントロールを掌握したことに気付いた人間が、どのくらいいただろうか。アレスは目の前に固定した核弾頭をしげしげと眺める。


「うわ~、初めて見た。こんな骨董品まだ使ってんだ……」


 アレスの星では廃れた技術に少しばかり反応を示していたが、すぐに興味を失うとまだ下にいる地上部隊を見下ろして笑ってやる。


「ほら見ろよ? お前らの上司はこれで俺を殺すんだってさ。まだ生きてるお前らも巻き添えにしてだぜ? 酷いやつらだよなー」


 まだ考える力のある部隊の人間はそれを見上げて静かに涙をこぼした。よかったのだ。たとえ自分たちが死んだとしても、アレスが倒せるならよかったのだ。だが今目の前で起きているのはその覚悟すら嘲笑い踏みにじり、もう出しつくしたと思った絶望を搾り取るような暴挙。地上部隊を覆っていたバリアがすうっと消えていく。だがもうアレスを攻撃できる配備も人員も気力も、残ってはいなかった。そんな地上部隊を見下ろすアレスの身体が、ゆっくりと光輝いていく。


「ま、これで俺が本気だってことわかっただろうし、いったん戻るわ。星壊滅させるためにまた来るけど。……だから、これの始末は、お前らでよろしくな?」


 そうしてまばゆい白い光にアレスの身体が覆われ、次の瞬間、ビルより大きいアレスの姿は消えてしまった。残された人間たちは一瞬呆け、何があったかと思考能力の低下した頭で考えて、まだ残っていたと思うほどの怒りが激昂として声になろうとする。その瞬間、人類側の悪魔の兵器がようやく起爆する。一瞬にして生まれた超高熱の火球に包まれて、地上部隊のすべては行き場のない怒りを携えたまま瞬時に蒸発して、消えた。


***



そして、人類によるアレスへの抵抗の日々が始まる。ワルフィー宇宙基地襲撃事件、アリスト海峡防衛戦、世界連合軍結成、作戦名「アテーナー」、カイタ首都総力戦――人類は抵抗した。抵抗して抵抗して抵抗した。だが、その抵抗の日々も、アレスの「もういいや」という一言で、案外あっけなく終わるのだ。星が壊滅することは、あの日にもう決まっていたのだから。



END

ヒーローがいなくなった日。星の滅亡が決まった日。(後編)

Comments

コメントありがとうございます!! もう本当にやりたい放題というか、どれだけ人間の尊厳を踏みにじられるかでやっている感がありますね……!!リクエスト元の設定だと本来ビームで星ごとまとめて破壊できちゃうので、わざと時間をかけて嬲っている感じです。 アレスとしてはぶっ壊す命令がでたけど、すぐぶっ壊したんじゃ今までこんな下等生物の世話させられてた鬱憤も晴れないし……って感じで思いっきり遊んでいる気もしますね!人間からすれば絶望でしかないですが……最高の味方が最悪の敵になるってのもなかなか自分で書いていて新鮮でした!

ichiya

ひええ、アレス君、ヘリの操縦士に市民嬲るところ見せ付けたり、 バリア張って地上部隊が身動きできない状態にしてから蹂躙したり、 やることがえげつないですね……^q^ パーカーやタイツにも焦げ目すらつけられなかったり、 人類の兵器が骨董品扱いだったり、 体格以前に技術力の格差もありありと見せ付けられちゃってますね\(^o^)/ 人類が色々と手を尽くしても、もうアレス君が破滅させると決めてしまった以上、 それを覆すことはできないのですね…… これまでの味方が、恐ろしい敵に180度変わる様にとても興奮しました!

曹達(ソーダ)


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