ダンジョン化した森で獣人たちがスライムに取り込まれる話(1)
Added 2023-04-08 19:32:58 +0000 UTC〇 国の辺境にある小さな森が迷宮化してから、数週間が経過した。 今のところ周辺の村や町に大きな被害は出ていなかったが、迷宮化した森や遺構はその領域を徐々に拡大する傾向にあり、予断を許さない。数日中に騎士団が派兵され、森の入り口に拠点を築くこととなった。騎士団長である獅子獣人のライネルが指揮を執り、調査を続けた結果、この森には確かな魔力の核──おそらく、中心となる強力な魔物が存在し、それを無力化せねば迷宮が野放図に広がっていくであろうことが分かった。 「どうすんだ団長、魔兵団を待つか?」 副団長である鰐獣人のガンダが、言外に『そんなわけないよな?』というニュアンスを含ませて尋ねた。魔力が大きくなる前に核を叩く、それが迷宮化攻略の定石であった。 「いや、当然すぐに核を叩く」 ライネルがあっさりと断言し、騎士団員の士気が高まる。実際、迷宮化する前の森は普段から村人が出入りするような場所で、魔物が出たとしてもごくレベルの低い雑魚に限られていた。攻略に手間取ることは、この精鋭たちであればないだろうという判断である。ガンダが豪快に笑い、明日の出立に備えて準備を怠らないよう団員達に檄を飛ばした。そんな中、ライネルはふと、忘れていた懸念を思い出す。 「そういえば、この森を根城にしていた盗賊団の奴らは見つかったのか」 団長の問い掛けに、周辺の村の様子を見回って情報収集をしていた犬獣人の団員が答える。 「いえ、それが盗賊の姿は迷宮化以降、誰一人として目撃していないようです。迷宮化した森に取り込まれてしまったのだと考えます」 「そうか…………」 ライネルはその報告を聞いて、顎髭を指で撫で始めた。彼の考え事をする際の癖である。弱小とは言え、首領は国の中央でも悪名高い猪獣人のヒュージ。そう簡単にくたばることはないだろうと結論付けた。 「……万が一もある。我々の相手は魔物だけではないと心得よ」 雄々しく、規律正しい了解の返事が響き渡る。心強い益荒男たちの姿を見て、それでもなお、ライネルの心は未知の危険にざわついていた。 ● 森が迷宮化してから数日経過して、ヒュージはこのダンジョンが普通のものではないことに気付いた。 いくらなんでも森の規模から考えて迷宮が広すぎる。時空が歪んでいるとしか思えない。そこら中に魔力が漂っているにも関わらず、魔物がほとんど出てこないことも不気味だった。食料となる植物や果物、小動物は意外なほど簡単に手に入る。 ──オレ達はダンジョンに生かされている。 一体何をさせたいのやら。そんなことをちっとも考えたりしない、頭の足りない手下たちが不平不満をぼやく。 「何だよこのクソ森。町に行けねえと折角盗んだ金も使えねえじゃねえか」 黒豹獣人が苛立ちながら悪態をつく。 「戻ったっす……なんかこの森、どんどん暑くなってねえっすか?」 空からダンジョンの様子を見回っていた鷹獣人がヒュージの隣に舞い降り、そう囁いた。じっとりと毛皮を濡らす汗を、誰もが意識せずにはいられない。男所帯でおおよそ清潔とは無縁な盗賊たちも、この環境、この体臭には辟易し始めていた。 「やっぱり飛んで出れねえのか」 「ダメっすね。ダンジョンなんで魔力の壁が空にもあるっす」 ふむ、とヒュージは黙り込んだ。そろそろ腹を決めなければならない頃合いらしい。「おい!」と一声怒鳴ると、思い思いの場所で思い思いの話をしていた盗賊たちが一斉に首領の周りに集った。粗野で、教養がなく、残酷な雄獣人たちであるが、なかなかどうして協調性は騎士団に引けを取らない。 「オレ達にはいま2つの選択肢がある。1つは、ダンジョンの外を目指して移動し続けること。運が良ければ外に出られるが、ダンジョンが拡がり続ける限りは、外に出られる確率がどんどん低くなる。だが、このダンジョンの性質上、当面食うものには困らんし、すぐ死んじまうこともねえだろう。もう1つはダンジョンの中心部に向かって、核、まあボスだな、多分ボスがいるから、それを殺して迷宮化を解除すること。成功すれば絶対出られるし、魔力の濃い方に向かえば必ず核はあるから確実性も高けえ。けれども、そのボスがオレらより強かった場合、みんなここでお陀仏ってわけだ」 どっちがいいか。多数決を取ることにしたが、盗賊たちの考えは1つだった。さっさとここから出たい。どうせ雑魚しかいない森だから、ボスといっても高が知れているだろう。それに、こちらはそれなりの大所帯だ──もちろん、ヒュージも同じ考えだった。 「行くか」 魔力の濃い方へと、獣人達は歩を進める。それが帰り道のない一方通行であるとは、夢にも思わない。 ● 誰かが「暑すぎて服なんか着てられねえ!」と騒いだことが発端だった。もともと軽装だった盗賊達は森の中だというのに、次々と衣服を脱ぎ捨て始め、あられもない姿でダンジョンを闊歩するようになった。皮のブーツと股間を僅かに隠す腰布、そして手持ちのナイフ。それだけが彼らの装備となった。歩きづらかった森の獣道は柔らかな下草が生える道へと次第に変わり、忌々しいブーツを脱ぎ捨てる盗賊も出始めた。いつもならば、そうした向こう見ずの行動を諫めるヒュージも、肩を竦めるばかりである。 「うへえ、オレ達マジで汗臭ぇな」 鼻の利く獣人から順に、雄獣達の体臭を否応なく意識させられていった。共に行動する以上、相手の匂いも自分の匂いも拭い去れない。むんむんと雄香を漂わせながら盗賊一味は森を往く。喉の渇きを感じると、欲しいがままにそこら中、湧き水や小川が現れた。 「あぁ、生き返る!」 一番最初に汗だくの毛皮を清め、喉を潤したのは、先程の黒豹だった。身のこなしが軽く、肉体強度もそれなりにある盗賊達の弱点は誘惑や快楽に弱いということだった。ダンジョン内の悪意には敏いが、本能的な欲求に抗うことが難しい。黒豹はその中でも、盗賊らしい盗賊と言えた。それに倣って他の者も思い思いに森の水源を利用していく。ヒュージも一口だけ水を口に含む。妙に冷えており、ほのかに甘みを感じる水であった。日の傾きを感じて、彼は空を哨戒しているはずの鷹を探した。気が付けば定刻をやや過ぎていたが、鷹の姿は天のどこにも見当たらなかった。 ● 鷹──盗賊になってからライドと名乗っている──は、盗賊一味の中の誰よりも早く森の中心部に存在する核を空から見つけていた。魔力を吸い上げた巨木の下に、大きく広がる緑色の湖。その中に不気味に光る赤い巨大な珠が見えた。 「あれが核っすか──あんなでけえ、バケモンみてえなスライムが……」 すぐにヒュージに報告しようと思ったが、森の熱気によりライドは脱水しかけていた。汗を拭おうとした拍子にバランスを崩しかける。 「あっぶね!」 木々の枝に手を伸ばして重力に引きずられる慣性を相殺する。純粋な落下よりはやや勢いを落として、ライドは地面に不時着した。怪我こそなかったものの、より困った状況に彼は陥ってしまう。 『グチュッ、グチュ、グチュチュッ!』 緑色のスライムが幾重もライドを取り囲んでいた。鷹は短剣を構えてスライムの中にある赤い珠の数を数えていく──20を超したところで、ライドは数えるのをやめた。(隙を見て飛翔すれば、ここを離脱できる) 闘うから逃げるへとライドの思考は流れるように切り替わる。いくら雑魚といえども、一人で無限に湧く魔物を相手にするわけにはいかない。ばさり、と大きくこげ茶色の羽根を広げたその瞬間。 『グチュッ!!』 「なッ?!」 スライムが四方八方から糸状にその粘液を放出した。ライドはその大翼がすっかり開いた状態でその場に固定されてしまう。 「う、おおおおおッ!!」 力んでも翼はびくともしない。すると、黄色くがっしりとした鷹獣人特有の鉤脚にもスライムがまとわりついていく。少しずつ、獲物が絡め捕られるように、ライドの肉体は緑色に覆われていった。 『グチュチュッ!グチュ、グチュッ!!』 スライムが何を言っているのかは分からなかったが、歓喜の感情だけはじんわりと伝わってきた。衣服に触れるとスライムはそれをゆっくりと溶かし、ライドを裸に剥いていく。 「うあっ、やめろぉッ!」 こんもりと茂った股の獣毛の間から、鳥類特有の総排泄腔がずるりと剥けて飛び出る。ライドはスライムの催淫により、発情状態にさせられているのだった。火照る体は、首から下を緑にぴっちりと覆うスライムのせいである。 「はあっ♡はあっ♡んっ、やめっ♡オレ、スライムなんかにイカされたく、ねえのに♡」 口ばしから長い舌がだらりと脇にはみ出て、涎が垂れる。彼もまた、欲望に従順な盗賊であった。 「もう、無理っす……♡おッ♡イクッ♡おおおおおおおおおおおおおおおッ♡」 ライド自身はかなり耐えたと思ったものの、実際は時間にして数分程で、スライムの中にたっぷりと精を吐きだしてしまう。総排泄腔の先端は精液によってスライムがこぶし大状の球形に膨らみ、ライドの大量射精を如実に示していた。猛禽類の鋭い眼光は淫欲に鈍り、光を失う。この時、一匹の鷹はスライムによって人体構造を完全に把握され、どんな交尾よりも、どんな自慰よりも気持ちの良い射精を全身に刷り込まれたのだった。震える足腰で、萎えることのなくなった一物で、再度搾精が始まる。ライドは獣人から野獣へと還り、ほとんど自動的に精を放った。 (……すげえ気持ち良い♡もう、何も考えられねえ♡) 『グチュッ♡』 陰嚢が空になった頃合いを見て、スライムが次の動きを始める。球形に留まっていたライドの精子がスライムの中に溶け、鷹獣人の遺伝子を取り込んでいく。精子が赤色の珠に触れると、そこからスライムがみるみる変形し、ライドと同じ体躯のスライム・ビーストが生み出される。胸の中央に赤い珠が露出し、肢体が固定する。全身は緑色に透き通り、目も鼻もないが、ライドと同じ口ばし、ライドと同じ翼、ライドと同じ鉤脚──形は全て同じだった。総排泄腔のみ、膝丈まである極太の一物に変わっており、繁殖に対する渇望が生々しく反映されている。その横に、後ろに、右に左にと無限にライドのスライム・ビーストが増殖していく。 「はは……気が狂いそうっす…………」 力なく笑うライドに、スライムが応じるかのようにさざめいた。 『…………れ………………も、…………つに……………………』 眼前のスライム・ビーストが、自分と同じ声音で何かを言おうとしている。ライドはただそれを呆然と聞く。 『……なれ…………お前、も……………ひと、つに』 スライムに覆われていた手足が、急に頼りなくなる。ライドは慌てて指先を見ると、そこにあったはずの黄色い鉤爪がない。緑色の透き通ったスライムが、ただ鉤爪の形をしているだけだった。 「あ……あぁ…………嘘だ…………」 恐怖と絶望がライドの心を満たしていく。手足は動かない。羽根も。身体で自由になるのは、スライムに覆われ得ていない頭だけだった。目の前の自分と全く同じ形をしたスライムが少しずつ、顔面に手を伸ばしてくる。 『お前も、ひとつになれ』 スライムがライドの頭を鷲掴みにすると、どろりと粘液が広がっていく。口ばしの中に、耳の中に、頭の中に、スライムが侵入する。 『ひとつになれ』 『我々と同じになれ』 脳内でスライムの意志が響く。ライドに抗う術はない。 (オレはひとつになる) (オレたちは同じだ) 獣毛も、羽根も、骨も、最早ライドには必要ない。身体が透き通っていく。過去も、ライドという名も、鷹獣人であるという事実も、不要である。傍から見れば、ライドはスライムに消化されたことと変わりない。その肉片を全てスライムへと転じ、新たな珠を与えられ、胸から生やす。新たなスライム・ビーストである。しかし、その姿形はやはり、ライドなのだった。 (オレたちは殖える。オレたちは栄える。オレたちはひとつだ) 転生したスライム・ビーストが雄叫びを上げる。それは生れ落ちた快によるものだった。鷹獣人のライドではなく、魔物として新たなスライムを総排泄腔からとめどなく噴出させ、森の魔力濃度を高めていく。 「グチュッ♡」 とある鷹獣人の形をしたスライム・ビーストたちがまぐわっていく。新たな繁殖と繁栄のために。