催眠整骨院(仮)1
Added 2020-11-24 18:12:23 +0000 UTCメモ:催眠ものを書きたかったけど時間切れ。途中まで。 宝田整骨院は、何の変哲もないマンションの一室を使って開業している。紹介制で、看板もなければ、ウェブサイトもない。多分、無認可である。だが、スポーツ選手をはじめとして、その評判はとても良い。時間帯は午後から深夜までと何かと融通が利くし、料金もさほど高額ではない。 今日も常連客の一人が訪れる。プロラグビー選手のコウスケは、練習後の膝の張りが気になって宝田に予約を入れた。施術時間の5分前にマンションの玄関に立ち、チャイムを鳴らす。 「こんばんは。今日はどうされましたか?」 宝田陸院長が人懐っこい笑顔で出迎える。学生の頃は柔道で鍛え、今はやや丸みを帯び、固太りした身体が薄緑色の薄手の施術衣に張り付いている。背は比較的小さく、童顔なこともあり、実年齢よりも若く見られることを気にして髭を蓄えてみた、と話していたことをコウスケは思い出す。その企みは成功してはいなかった。 「ッス、膝、また調子悪くて」 「ありゃー、じゃあちょっとストレッチしてみますかね」 「お願いします」 緑色の安いビニール製のスリッパを履き、リュックサックをベッド脇の籠に入れる。リビングに当たる部屋が施術室となっていて、大柄なコウスケでも悠々と横に慣れる大きなベッドが置かれていた。とりあえずストレッチと言われたので、来訪時のジャージのままコウスケはベッドに仰向けに横たわる。グレーのアンクルソックスは30センチに届く大きな足を包み、ゆったりとした丈のあるクラブジャージも、コウスケの鍛えた体を仄かに感じさせる隆起を伴っている。宝田は目敏くコウスケの肉体を検分し、目当てである左膝に優しく触れた。 「それではゆっくり曲げていきますよ」 走り込んでいることがよく分かる足裏の形を確かめるように土踏まずをがっしりと握り、宝田は体重を掛けながら膝を折り曲げていく。コウスケは努めてリラックスを心掛け、全身の力を抜いていた。部屋に、仄かにアロマの匂いが漂う。宝田が、顧客一人一人に合わせて自分で調合したものだ。触覚、嗅覚、そしてこの施術室の雰囲気によって、宝田が目を付けた顧客は深いリラックス状態に──即ち、催眠状態に陥っていく。コウスケは根が単純な分、比較的こうした『施術』に入り込みやすい性質であった。 「はい、いいですよ。リラックスして、大きく深呼吸してください」 言われたとおりに、コウスケは深呼吸する。厚い胸板が上下する度に、目がとろんとして、焦点が合わなくなっていく。逞しい肉体も、健全なメンタルも、この段階に至ればまるで役に立たない。心身共に無防備な状態となったコウスケを見下ろし、宝田はゆっくりと彼の脚を元に戻した。施術をやめたことに対して、コウスケは何もリアクションしない。そうして、手元に用意していた鈴を一度、りん、と鳴らす。コウスケはむくり、と腹筋を使って半身を起こし、正面の虚空を凝視した。こうした手続きを経て、コウスケの催眠状態は深く、揺らがぬものになる。決められた手続きを経なければ、よほどのことがない限り、コウスケの催眠状態が解かれることはない。宝田は今回の顧客の仕上がりにほくそ笑む。 「コウスケさん、それでは『特別施術』に移りましょうか」 「……ッス」 ベッドから降りると、コウスケはまずジャージの上から脱ぎ始めた。半袖のスポーツシャツに乳首が浮いている。次に、ズボンを脱ぐと、擦り切れたボクサーパンツと大きな膨らみを大胆に見せつける。手入れのされていない腿や脛、陰毛を惜しげもなく晒していた。スポーツシャツを脱ぎ捨てれば、豊満な胸板に、割れてはいないが逆三角形に窄まった背中から腹にかけての見事な体躯が明らかになる。コウスケはフランカーとして理想的な体格を有していた。最後のボクサーパンツも淡々と脱ぎ、爪先に引っ掛かったそれをぞんざいに振り払う。学生時代から遊んでいたのであろう、ずる剥けになった陰茎をぶらぶらと揺らし、宝田の目の前に立った。コウスケが身に付けているものはグレーのアンクルソックスのみであり、その姿が非常に倒錯的で、宝田の劣情を刺激する。宝田は思い思いに手を出し、胸、乳首、二の腕、腋、腹、陰茎、陰嚢、尻、肛門、内腿、脛とコウスケの全身を隈なく触診する。コウスケは無表情のままだったが、これまでの『特別施術』の成果から触診の刺激だけで半勃ちになる程度には快感を得ていたようだった。ひとしきり満足すると、宝田は今日の『特別施術』のメニューを与えていく。 「それでは、ユニフォームに着替えてください」 「…………はい」 コウスケは前回の『特別施術』で指示した通り、練習で着ていたユニフォームを持ってきていた。リュックサックの中からビニール袋で包まれた、クラブチームのユニフォーム一式を取り出す。むっと籠った汗の匂いが広がり、アロマの匂いを打ち消したが、彼は既に十分催眠下にあるので心配は不要だった。汗と土で湿り、汚れたそれらを広げ、再度、身に着けていく。アンクルソックスを脱ぎ、黒のストッキングを膝丈までたくし上げる。白のハーフスパッツに腿丈の白いラグパン、黒い長袖のアンダーシャツに、筋肉と逆三角形の体躯を強調するようなフォルムの、身体にぴったりと張り付くタイプの赤いラグビーシャツ。数十秒もしない内に、コウスケはテレビで活躍するイメージそのままの姿に変貌した。 「気分はどうですか」 「……めちゃくちゃ汗臭ぇッス」 「おや?そうですか。どれどれ……」 宝田はコウスケに近付き、胸や腋、屈んで股座やソックスまで匂いをすんすんと嗅ぐ。コウスケは催眠状況下でも拭い去れない羞恥心から、瞬時、厭わしい表情を浮かべる。 「確かに汗臭いけれど『コウスケさんからはエッチな良い匂いがしますよ』。ご自分でもう一度確かめられてはどうですか」 コウスケの無意識はそれを疑っているが、宝田の教示に抗えない。おそるおそる、右腕を頭に回して大きく開かれた腋の匂いを嗅いでみる。化繊にじっとりと汗が染み込んだ、独特の刺激臭が漂う。コウスケはしかし、既にその匂いを不快な物だけとは感じられなくなっている。汗臭いが、『エッチな』『良い匂い』である。俺は汗臭くて、エッチな匂いがする。汗臭い匂いはエッチである。自分の体臭に興奮しても、エッチな匂いがするのだからおかしいことではない。無意識にそう宝田の唆しが膾炙されていく。胸も。腋も。股も。足裏も。俺の全身からエッチな匂いがする。その新しい事実は、コウスケの人生をまた一つ、決定的に変化させていく。 「気分はどうですか」 宝田が同じように問い掛ける。言わばこれはセーブポイントからのやり直しで、コウスケの『特別施術』の進捗を確かめる行為に他ならない。 「……めちゃくちゃ汗臭くって、エロい気分ッス」 コウスケは破顔し、アンダーシャツの首元を引っ張って鼻をその中に埋めながら答える。ラグパンの中身が完全に剛直していることを確かめ、宝田は次の施術を促した。 「さあ、部屋を変えましょうか」