裁判体験の被告人役に選ばれた女子中学生のお話02
Added 2023-05-03 08:44:21 +0000 UTC15分くらい経過しただろうか。監視員は2人の職員を連れて戻ってきた。 「今から行われるのは、004番の規則違反による調査会議です。私達が問いかけた事には嘘偽りなく真実を答えるように。万が一虚偽と発覚した場合には裁判の判決にも影響がありますし、さらなる懲罰を受ける事にもなります。わかりましたか」 「……はい」 連れてきた職員は女性2人。その内の1人はカメラを片手に構えており、手錠で拘束されている私の写真を数枚撮影していた。 「まず、就寝時間に004番がしていたことを説明してください」 「……オナニーを、してました」 私は恥ずかしさから言葉に詰まるが、少し時間をおいてそう答えた。顔に血が集まっていくのが分かる。恐らく今の私の顔はとても赤いはずだ。 「はい、証言取りました。今の、記録したわね……。では、004番。確かに自慰行為は規則で禁止されていると明確に記載されています。004番は自慰行為が規則に違反していると知っていましたか」 「……はい」 「はい、今の記録……」 監視員の問いかけへの答えはすぐにビデオカメラで記録されていく。大きなテーブルの奥に面接官のように佇む女性職員3人。 「では、004番がどのように自慰をしていたのかを説明してください」 「え、えっ…」 「自慰の方法です。体のどの部位を触っていたか、どのように刺激をしていたかを、です」 私はしばらく黙ったままだった。自慰を告白しただけでもとても羞恥に犯されたというのに、自慰の詳しい方法まで聞かれてはたまったものではない。しかし、そんな私に追い打ちを掛けるように監視員はこういった。 「この調査会議は004番が自ら答えるまで終わることはありません。一応食事の休憩は認められていますが、睡眠は認められていませんので、早めに答える事をお勧めします」 「……ち、ちくびを……触りました」 私はその言葉に観念してそのように自白した。 その後も監視員の取り調べは続き、乳首をどちらの手で触ったのか、どのように刺激をしたのかを聞かれ、私は涙を流しながら正直に話した。加えてクリトリスを触っていたことを自白すると、監視員から「クリトリスではなく陰核と直してもう一度お願いします」と正され、もう一度カメラに向かって証言をさせられる。そして再び陰核をどちらの手で、どのように刺激をしたかなどを事細かく聞かれ、私は自慰に関する全てを自白させられた。 「はい、それでは調査会議は以上です。004番には規則に乗っ取り、罰として就寝時の手錠拘束と、監視のためのズボン及び下着に没収を行います」 私はその後、監視員の手によって拘置所で支給された半ズボンと、自前のショーツを脱がされ、その写真も数枚撮影される。そして、そのまま廊下を歩かされた。あまりの屈辱と恥辱から涙がこぼれ落ちたが、監視員はそれを拭ってくれるようなことはしなかった。裁判体験の被告人役とはいえど、拘置所の規則に違反してしまったことで、私は本当に罪を犯した囚人の気分を味わっていた。コンクリートから染み出る冷たい空気が、何も履かされていない股に触れ、罪の重さを実感する。 独房に入ると腰縄を解いて手錠を前に直された。 「布団に横になって、両手を頭の上に伸ばしなさい。自慰が出来ないよう、縄を壁に固定します」 そう言われ布団に入ると、監視員は手錠に繋がった縄をトイレ側の壁にあるU字の金具へ両手が万歳になる長さに固定した。 「では、このまま起床時間まで待機です。トイレは例外無く行くことが出来ませんが、我慢できずに漏らした場合も懲罰対象です」 監視員はそう言うと足元にあった毛布を私から没収してこの部屋を去った。 裸の下半身をくねらせ、どうにか陰部が廊下から見えないような角度を探るが、足を伸ばしても曲げても陰部が廊下から隠れる事はなかった。拭くことが出来なった陰部の不快感が脚を動かすたびねちょねちょと音を鳴らして股を濡らす。零れ落ちる涙を枕で拭き、私はあまり深い睡眠をとることもできず朝を迎えたのであった。 「起床!004番はその場で待機っ」 朝の目覚めは監視員の掛け声で始まった。今まで静まり返っていた保護房の空気ががらりと変わり、周囲から他の収容者が活動し始めたことがわかる。 私は下半身を露出させながら布団の上で待機していた。監視員が扉を開くときにできる限り腿を合わせて内股に陰部を隠した。手錠と縄を解かれると、私は一言監視員に謝罪をしてショーツとズボンを受け取った。昨夜の愛液が染みつき少しだけ色が変わったショーツに足を通し、ズボンを履く。規則の冊子に書いてある通り布団を戻し、監視員から支給された歯ブラシと歯磨き粉で歯を磨き、洗顔を済ました。それが終わる頃、廊下に監視員の「点呼っ!」という声が響き渡ったので、私は部屋の中央に正座で待機し、そのまま点呼を済ます。 「004番、10分後に裁判所まで移動です。準備を済ませてください」 監視員が来てそう言うと、私は監視員から制服を受け取った。拘置所で支給された服を脱ぎ、ワイシャツ、スカート、ブレザーを着る。ネクタイは自殺の恐れから着用は認められなかった。 しばらくして監視員が私の元へ来ると、小窓から手首を出して手錠を掛けられてから廊下へ出された。外には私の他にも数人の女性がおり、その女性は腰縄でそれぞれが繋がれていた。いわゆる、数珠繋ぎ。私はその最後尾に付けられ、前の女性に縄を繋げられた。あからさまに学生服なのは私だけ。着替えがないのか、他の女性は皆、私が着ていたような支給されたトレーナーと下には半ズボンを着ていた。 数珠繋ぎの先頭が職員によって引かれると、私はそれに従って歩かされる。あまり距離を詰めると歩きにくいし、かといって距離を開けると前の人に手錠を引かれてしまう。全員が一本で繋がれている為逃げ出すこともできないし、万が一誰かが転びでもしたら全員が止まる。テレビのドラマで一度だけこのような光景を目にしたことがあるが、繋がれている本人の気分になると、とても虚しく、自由がない事のストレスが溜まってくる。 連れられたのは裏手に止められている大型の護送車だった。私達は懲罰房から連れられ来たが、そのほかにも普通の雑居房から来た人たちも私達と同じように全員が一本の縄で繋がれたように引かれて歩いていた。 護送車の中は左右に座席が一つずつある大型バスのような感じだった。ただ、普通のバスとは異なり窓には禍々しい格子が張り巡らされ、窓を開くような仕組みも消されていた。私はその中間部分に座らされた。数珠繋ぎから一人ずつ外されて行き、一人ずつ席に座らされる。2人の監視員に席に着いた際の拘束を施されていた。手錠は外されず、腰縄の縄尻を窓の格子に結び付け、鍵がついたシートベルトを締められる。 「私達の指示があるまで両足を床から離してはいけません。両手も何かの事情が無い限り膝の上、腿の上に置き、私語も禁止、目線もできる限り動かさないでください」 全員が座席に拘束された後、監視員がそのように説明をした。護送車には複数の監視員が同乗し、監視の目を光らせていた。 私は座る際にずれてしまったスカートをさりげなく直すため、可動域の狭い手首をうまく使って裾を引っ張った。と、その時、監視員による注意事項が終わったころだった。 「動くなっ!!」 監視員の中に居た男性監視員が私に向かって怒号を飛ばした。車内に響き渡るその声は肌で分かるほどに空気を震わせていた。私は突然の事に驚き体が固まる。周囲にいる他の人達も一瞬こちらを振り向くような仕草を見せるが、男性監視員の迫力に負け視線を前に戻していた。 「あ……ちっ、ちが、います。す、すかっ、と、が…」 私は駆け寄ってきた男性監視員に声を震わせながらそう答える。心のどこかで私は裁判体験だからと余裕を持っていた節もあったが、今の一声で私の扱いは周りの人たちと一緒だということを認識させられてしまった。 鬼の形相で睨みつけてくる男性監視員に私は恐怖し、満足な声も出せず固まる。 「スカートの中に何を隠した」 「あ、あっ、あの、わ、た……、しっ…」 男性監視員は私がスカートに何かを隠したのではないかと、そう疑ってきた。しかし、生まれて14年。男性にここまでの圧力で叱られたことがなかった私は涙が溢れ出した。 「誰か来てくれ。スカートの中に何かを隠したかもしれない。身体検査を行う」 「ひっ…、い、いやっ…、ごめん、なさい……」 私は座席の拘束を解かれると、一旦車外へ強引に連れていかれた。その場から一歩も動か無いよう命令され、男性監視員が数名周りで見守る中、私は女性監視員による身体検査が行われる。屋外にも関わらず女性監視員の躊躇はない。さも流れ作業のようにスカートをたくし上げ、裾を念入りに捜索した後、間髪入れずにショーツを腿まで下げられる。 「い、いやああああああ」 私はたまらず悲鳴を上げながらその場でしゃがみ込んだ。しかし、周りにいた監視員の反応も早かった。しゃがみ込んだ私の両脇を複数人で抱えると、そのまま強制的に立ち上がらせた。太ももで止まっていたショーツがするりと足首まで落ちると、手袋を嵌めた女性監視員が股間に手を沿わす。悲鳴を上げられないよう口元をハンカチで抑えられながら、私は陰部を長い事触られていた。 「下着の中、異常なし。そのまま、前傾にさせてください」 女性監視員がそう言うと私は頭を押さえつけられ、前傾姿勢を作られる。臀部を突き出し、屋外であるにも関わらず女の子が見せてはいけない場所を周囲に強調させるように見せつけられる。しかし、あふれ出す涙と悲鳴は監視員のハンカチによって防がれた。 すると、私の陰部に女性監視員の手が触れる。クリームを塗っているかのようなぬめりを感じたその直後、その指は私の膣へ侵入してきた。 「んぐっ、~~ッ!」 その指は膣の奥深くまで入り込み、内部に違反物が無いかを捜索し始める。膣壁を上下左右蠢き、時には自分で触ったことのないような敏感な場所を触れられ、私は悲鳴と同時に少しの快感を覚えさせられた。 「膣内、異常なし!」 女性監視員の声が高らかに周囲に響く。すると、膣から抜かれた指は間髪入れずにその少し上の穴にも狙いを定め始める。再びクリーム状の潤滑剤を塗りたくられ、肛門にも指が侵入を開始する。しかし、ガラス棒と比べて人間の指は一回りも二回りも太い。私はそれに痛みを覚えながらも、勿論口を塞がれていることから反抗もできず、ただ肛門の検査を受けるしかなかった。 「肛門、異常なし!検査の結果、異常は見当たりませんでした!」 結果、私の下半身からは何も違反物は確認されず。その後、私は男性監視員から再び注意を受けて私は護送車へ戻された。 「あんた、中々芯があるな」 護送車が私達を乗せて出発してから数十分が経過したころ。周囲が道路工事で騒音が響いていたエリアを通り過ぎた時、私はそのように話し掛けられた。聞こえてきたのは私の後ろに座っている女性からだった。 当然、監視員の目は変わらず私達に向けられている。私が大きな注意を受けた後も、細かい注意が車内を飛び交っていた。それでも、私の後ろに座る女性は話しかけてきた。私は再び注意されることを恐れ、その声には反応しなかった。 「あんた……、私と同じ車両に乗せられてるってことは……、相当やらかした、そうだろ?」 私は無言を貫く。その問いかけに私は監視員の叱責以上に別の意味で恐怖を感じていた。後ろから感じる本物の犯罪者の気配。私のような体験でここに居るわけではなく、本当に罪を犯した人の声だ。話しかけ方が普通じゃない。 「うち、もちだ、って名前、よろしくな。……って、今挨拶しても、もう二度と……、会わないかもしれないけどな……」 もちだ。それは私と同じ姓。たまたまだと思うが、初めて自分と同じ苗字と会ったことで私は驚いていた。そして、余りの驚きで「えっ…」と、声が漏れそうになった時、監視員が私に話し掛けている後ろの女性に気が付き、怒号が飛んだ。 「そこっ!何話してるの!」 私達被疑者を乗せた護送車が裁判所に到着したのは拘置所から出発して2時間程度経過したころだった。表の入り口でなく裏の駐車スペースに下ろされた私達は乗車したときと同じように一本の縄で繋げられるように引かれて歩かされた。 その後私達は裁判所内の被疑者が待機するための部屋『待機室』に入れられることになる。私以外の人達は数人が一つの部屋に押し込まれていたが、私は裁判体験という事情もあってか、一人部屋だった。 手錠と腰縄を外されて入れられた部屋は独房よりも広い部屋だった。5か6畳程度の傷みが激しい畳が敷かれ、独房と同じように部屋の奥にはトイレが設置されていた。ただ一部異なるのは、そのトイレは和式であり陰部を前から隠してくれる膨らみ、金隠しはなく床にはめ込まれたようなトイレだった。また、拘置所のトイレに比べて汚れもひどく、匂いもきついかった。 懲罰房ではない為、部屋の中では正座を強要されることはなかった。ただ、部屋の前を監視員が頻繁に通り過ぎていて、横になって睡眠をとることも禁止されていたため、心身落ち着く場所ではないことは確かだ。 これから始まるのは私の裁判。架空の刑事事件ではあるけれども、船津の説明によると両親から虐待を受けていた女性が耐え切れずに殺害し、家に火を放ったという凶悪な犯罪だ。検察は死刑か無期懲役を求刑してくるだろうし、弁護人の弁護次第になるが、私の有罪はほぼ100%確定しているという状況。どこか他人事のように感じるし、実際そうなのだが、どうもその役柄を与えられ、拘置所で重罪の犯罪者として扱われた経験を踏まえると、架空の女性に同情してしまう節があった。手錠を掛けられ腰縄で奴隷のように引かれる女性だが、それなりの辛い過去があったのは間違いない。その女性は成人をしている。つまり、その女性は成人までの20と数年というあまりにも長い期間、両親からの虐待に耐えてきたという事だ。それなのに、女性の両親には警察は罰を下さないのだろうか。いや、死んでいることは分かる。20年の間に警察は彼女に何か手助けをしたのだろうか。私は女性にはそれなりの情状酌量の余地があると考えが浮かんできた。 例え架空であっても、もしこの事件に似たようなことがあったとしたら、この女性は死刑や無期懲役になっていいような人ではない。そのように考え始めてしまう。 「持田優歩さん、移動です。扉の小窓から両手を」 制服をしっかりと着た職員が私に呼び出しを掛けた。私は静かに立ち上がり、制服についた畳のささくれを払うと、扉から両手を出した。 上品で神聖な空気が漂う裁判所の法廷。カラメル色の木製の壇上に、同様の机が並ぶ。一段高く存在感を出す場所に裁判官の黒革椅子が、その下に女性の書記官、左に検察官、右に弁護人の席がずらりと並ぶ。 私は両手を前に手錠を掛けられ、二人の監視員に左右を挟まれながらその法廷に入場した。腰より少し高めの柵で分断された奥側には見慣れたクラスメイトが傍聴席に座り、私の入場を見守っていた。その中には私を拘置所まで送り届けてくれた担任の先生も同席している。それと現役の検察官とその隣に並ぶ見慣れた顔のクラスメイト3名と、現役の弁護人の隣に並ぶクラスメイト3名。その空気はまるで葬式でも参列しているかのように引き締まっており、傍聴席含め誰一人表情を緩める者はいなかった。入場する直前に手錠を隠してほしいという旨を監視員に伝えたが、私の要求は一切飲まれることはなく、むき出しの手錠と腰縄のまま連れてこられた。だが、私はその重く冷え切った空気を感じ取り、逆に良かったと心を撫で下ろした。何故なら、万が一、私の手錠姿をクラスの一人でも薄ら笑いを浮かべようものならその場で泣き出す自信があったからだ。 私は手錠を外され、傍聴席の前、裁判官が座る一段高い席の正面にあるソファーへ監視員2人に挟まれながら着席をさせられた。まだ裁判官は到着していないようで、法廷内にいる全員がその到着を今か今かと待っている、そんな雰囲気だった。部屋の中央に座らされる気分はあまりよくはない。全方位からの視線が一転に集まるようで、私はその落ち着かない心を履かされたスリッパをパカパカと動かして誤魔化す。 それから少し経ち裁判官が入場した。他の役職と同じように現役の裁判官一人の後に6名のクラスメイトを連れ、目の前の一段高い席へ腰かける。そこで裁判官の前に座る書記官から「ご起立ください」と一声があり、私の裁判は幕を開けた。 船津が言っていた弁護人が用意するはずのカンペはいつ渡されるのだろうか。私はしきりに周りを見渡すが、それらしき紙を渡す素振りをしている人は誰一人いなかった。ならば隣の監視員に聞けば解決するのだが、法廷の空気はそのような私語が出来る場所ではないことは肌で感じていた。 「被告人、証言台へ」 「あっ、はい…」 裁判官の低い声が法廷内に響き渡ると、私は証言台へ立つよう言われた。証言台は私の座るソファーの目の前にある、台のことだ。私はカンペが無いことに焦りながらも、小さく返事をして立ち上がった。 「被告人、あなたは○○(住所読み上げ)に住所を置く、亀村若菜さんで間違いないですね」 「あぁ…はい。間違いありません…」 船津に取調室で説明された偽名。私は裁判官の問いかけに頷いた。 続いて検察官が呼ばれ、私は証言台に立たされたまま、起訴状が読み上げられた。 「被告人は、○○年○○月○○日の午後14時34分ごろ、○○(住所読み上げ)において、両親を殺害し、その後自宅へ放火――」 内容は私が犯した罪の内容だった。船津に知らされていた内容とほぼ変わらないもの。私は左から聞こえてくる検察官の声に黙って耳を傾けていた。 検察官の求刑は船津の予想通り『死刑』だった。幼い頃から虐待を受けていたとはいえ、両親を殺害した後に家に火を放つ行為は明確な殺意があり、至極残虐な犯行であることが理由らしい。それに対して弁護人の意見はその虐待の残酷さを訴えるものだった。どこまで設定がされているのか不明だが、私が父親に妊娠をさせられたという医師の診断書と、身近に助け差し伸べる大人がいなかったという点に死刑を退けるに相当する理由があると弁護した。この答弁により裁判の目的は私の犯罪が有罪であるか無罪であるかの裁量ではなく、死刑か、減刑かの量刑が裁判官に委ねられ、私の両親からの虐待が減刑に値するかどうかが争点となった。 続いて行われたのは、被告人である私の証言だった。裁判官から「被告人、証言台へ」という声を聞かされ、元々渡されるはずだったカンペも渡されぬまま証言を決行させられる。検察官が述べた起訴状の内容が正しいかどうかや、争点である親からの虐待についてを。しかし、私にはどこまで設定が組まれているのかわからない。だから、その架空の女性として扱われたこの1日で考えたことを素直に述べたのだ。 「検察官が言った起訴状は事実です。一言一句に誤りはありません。しかし、私が20と数年の長い間、親からとても辛い行いをされてきたのも、また事実です。『死刑』という重い罰を私に与えるのは至極当然の事だと私は思いますが、では、この20と数年、私に手を差し伸べてくれなかったあなた達大人に罪はないのでしょうか。私の子供じゃないから、私とは関係ないから、そう言った理由で20年という気が狂うほど長い時間を一人の幼い少女に耐えさせてきたのは、罪ではないのでしょうか。そんなのおかしいでしょう!なぜ、あなた達は他人のふりをしているのですか!助けてくれても良かったじゃないですか!なぜ、私が殺した両親に死刑が与えられないで、私が死刑なんですか!こんなの平等じゃない!」 まるで架空のその女性が私に乗り移った可能ような叫びが私の口から法廷に響いた。 法廷にいた人はまさかそんな証言をするとは思わなかったのだろう。現役の裁判官を含め、全員が一瞬だけ固まった。 「っ……ひ、被告人、静粛に…」 裁判官がそういうと、私は後ろの監視員に両脇を抱えられ、後ろのソファーに座らされた。 自分でもどうしてここまで熱くなれたのかわからない。拘置所での1日を通して自分が犯罪者であることを認識させられた事が、自分の中に何かを芽生えさせたのだろうか。法廷内がざわつく中、私の答弁はそれが最後となった。 法廷内に移されたモニターにはCGで作られた現場の状況や証拠品の写真が写されている。検察官は私の証言の後、それらを映しながら事件の説明と、どれだけ残虐な犯行であったかを訴えていた。 そして公判も終盤にさしかかったその時、検察官がある一枚の画像と、数分の映像を法廷内に映した。そこに映っているのは拘置所にいた時の私だった。 「ご覧になっていただいていますのは、被告人がいかにこの犯行に対し反省をしていないか、を示す重要な証拠です」 そこに映されているのは、私が後ろ手に手錠を掛けられ壁に縄で繋げられていた調査室の画像だった。さらにその画像に映されていた私の服装は下半身が脱がされた状態のもの。 「えっ、え…、いやっ、いやぁぁぁぁぁ!!」 私はソファーから転げ落ちると顔を埋めて甲高い悲鳴をあげた。絶対に見せてはいけない物がモニターに映し出されている。私は監視員が必死に担ぎ上げようとしているところを構わず喚き散らした。 するとモニターからは私が独房内で自慰を行っている時の映像が音声と共に流れ出したのだ。 「『はぁっ、あっ、あぁっ、はうっ。……あっ、まってぇ…』」 扉とは反対向きに枕を置き、口を歪めながら毛布の下で蠢かす手。その手は胸の位置と丁度股の位置の2か所。もぞもぞと毛布の上からでも鮮明にわかる手の動きがそこには映されていた。加えてモニターから流れる音声は公共の場で流してはいけないような艶めかしい声色で喘いでいる。私は今一度顔を上げて自分の目が間違っていないかを確認するが、そこに映されているのは変わらず、部屋の天井から私を映している監視カメラの映像だった。 私は監視員に抱えられ、両脇を挟まれながらソファーに座りなおされる。 一方で、モニターから私の自慰が流れていることに対する法廷内の反応は余りにも静かだった。裁判官はさも当たり前のような涼しい顔で黒革の椅子に座り直し、弁護人に至っては隣に座っているクラスメイトと小声で話し合っている始末だ。これが裁判の普通なのだろうか。私は自分の価値観が根こそぎ否定されていくのをひしひしと感じていた。 「被告人は両親を殺害し、自宅へ放火したのにも関わらず、拘置所では規則違反を繰り返し保護房へ移され、昨夜の看守の報告によりますと、このように監視の合間をくぐりぬけ、自慰に更けていると。全く反省の色が見えません。これでは情状酌量の余地はないと考えます」 続いて移り変わった映像には、私が下半身の衣服を没収され独房の中で万歳の姿勢で拘束されながら就寝する姿が映し出されていた。先程と異なり静まり返った房内の音声は、私が脚をくねらせるたびに鳴る布団カバーの音と、股の間でねちゃねちゃと鳴り響くいやらしい音が聞こえてきた。私はあまりの屈辱的な映像に耐え切れず監視員に抱えられながら涙を溢した。 その後、裁判体験の制限時間が迫ったこともあり、裁判官は検察官と弁護人の答弁を切り上げ、判決を言い渡すこととなった。 「――被告人、亀村若菜を『死刑』に処す」 それが私に言い渡された判決だった。決め手は私が拘置所の保護房で行った自慰行為。私は架空の成人女性の役を担っていたものの、判決が死刑にされたことに悔しさを覚えていた。 判決は死刑とされたが、私の裁判体験はそこで終わりとなる。実際に死刑まで体験をすることなく、拘置所に戻された後、様々な手続きや没収された物を返してもらった後、私は現地で解散予定らしい。 裁判官の一声によって公判が閉じられると、私は形式上死刑囚として手錠を掛けられ、監視員に腰縄を引かれながら法廷を後にした。私は帰りのバスの時間まで裁判が始まるまで待機をさせられた『待機室』に手錠を外されて収容された。 その時には涙は乾いていたが、法廷のモニターで己の下半身の映像と自慰の喘ぎ声が流されたことのショックはまだ癒されてはいなかった。部屋へ入れられるとそのまま中央で崩れ落ち、足を抱えて丸まっていた。 それから数時間が経過して、私はやっとその部屋から出されることになった。これで裁判体験も終わりだ。そう思い、部屋から出ようとしたところ、私は行きと変わらず手錠を掛けられることが伝えられた。裁判体験自体は終わったのだから手錠はされたくないという旨を伝えたところ、拘置所に帰るまでが裁判体験であると監視員から言われ、私は不審に思いながらも扉の小窓から両手を出して手錠を掛けられた。 外へ出されると、そこには数珠つなぎにされた被疑者が列を作って待機していた。私はその最後尾に腰縄を繋げられ、先頭が歩き出すと同時にその列に引かれていった。乗せられたのは同じく、大型バスのような護送車。私は順番に乗せられ、行きとは違う場所に座らされる。拘束も変わりなく、窓枠の格子に腰縄を括りつけられ、鍵が付いたシートベルトを腰に掛けられる。今回は監視員にばれないようにスカートの裾を直した。 すると、あの嫌な声が後ろから聞こえてきた。 「おお、またあんたの後ろか。あんた、戻されるってことは判決まだなのか。ふへへっ……、わたしは、死刑……、だってさ、もう二度と会えない、とか言ったけどな、これで、もう、本当に……、二度と……、会えないな、うひっひっ」 私の背筋にいやな汗が流れる。顔は確認しなかったが、まるで常人からは感じる事の出来ない、不気味な話し方と、笑い声。本当に女性なのかすら怪しい品の無さ。私はとっさにスカートの裾を掴み、震えあがるような恐怖に耐えた。 裁判所から拘置所までまた2時間程度。私達を乗せた護送車が拘置所へ到着すると、太陽の光は無くなっていた。夜の冷たさがスカートの足元から入り込み、鳥肌が止まらない。しかし、これで終わりだ。たった一日だけであったが、拘置所で過ごした日々は1週間にも1ヶ月にも感じられるほど長く、濃密であった。私は手首に重くかかる黒光りした金属の輪を眺め走馬灯のように振り返った。 しかし、何かがおかしかった。話通りの手筈ならば、私はこのまま担当の船津に連れられて、解散の手続きをする予定のはずだった。私が向かっているのは、裏手の階段を昇らされた4階だった。数珠つなぎの列から私が外されたのは良かったのだが、何故か監視員は無言且つ、手錠を外してくれる気配も感じられない。それよりか、今一層腰縄を握る力が籠められ、さらに、気付けば私を連行する人数も2人から6人と増えていた。あまりにも厚い監視とまるで重犯罪者を見るような鋭い目付き。私はその様子に恐れ、何も言えずにただ腰縄を引かれていくだけだった。 連れていかれた先は、地下ではない保護房のような部屋が左右に並んだ空間だった。コンクリートが打ちっぱなしではなく、しっかりとクリーム色の塗装が壁に塗られ、落ち着いた病院のような雰囲気が感じられる空間。だけれども被疑者を監禁する場所なだけあって、扉や壁に貼られた鉄の格子がやはり牢屋であることを物語っていた。 私は『002』と書かれた部屋の前に連れていかれ、スリッパを脱がされると手錠を外されて部屋へ仕込まれた。背中を数人にどすっと押され、私は前によろめく。 「えっ……」 あまりに雑な扱いだった。私はその強烈な背中の衝撃に驚き小さく声を漏らした。 「ここが“もちだ”の部屋だ。死刑囚は懲役刑とは違って、労働は科せられない。刑務所や拘置所と違ってルールはない。常識の範囲で自由に過ごしなさい」 監視員は、呆然とする私に向かってそう告げると、独房の重い扉を閉じた。 「え、えっ、わたし、帰れるんじゃ……」 私がそう言おうとしたときには、既に監視員はそこにはいなかった。 部屋の広さは保護房より少しだけ広い程度。床は畳ではなく落ち着いた木目調のフローリングで、壁の色も外と変わらないクリーム色の塗装。ただ、驚くことに部屋の中には洗面台と洋式トイレの他に、テーブルと雑誌が置かれていた。明らかに地下の保護房と扱いが異なる。それに地下にはなかった光を取り込める不透明の窓。残念ながら間隔の狭い鉄格子が嵌められ、締め切られていて空気を取り込むことはできないが、窓の端から街灯のような明るい光が朧気で確認できた。 「4階の2番の部屋って、語呂合わせが悪い……」 それから数時間が経過した。しかし、私が帰れるような雰囲気はなく、部屋まで来た監視員は私を開放するためではなく、夕食を運んできたのである。私は帰れない焦りからその監視員にいつ帰れるのかを一生懸命問いただしたが、全くと言っていいほど相手にしてもらえなかった。まるで、ここに収容されているのが当たり前だという様に。 そして、就寝時間が監視員から告げられた。部屋唯一の照明が薄くなり、私は仕方なく部屋の隅の置かれていた布団を床へ敷いた。保護房と同じように扉の反対側に頭を向け、顔を隠さずに布団に潜る。そしてもう、裁判体験が終わっていることから、制服に折り目が付かないように布団の中でスカートを脱ぎ、こっそり毛布の下に隠した。 私は何故変える事が出来ないのだろうか。もしかしたら、何か手続きの勘違いで私が本当に死刑囚であることになっていたり。よく思考が回ってしまう布団の中で、私はそんな妄想を永遠に考えていた。ドキドキして眠ることが出来ない。当たり前だ。 「はぁ、もういいや…」 私は裁判体験が終わったことで振り切って、ここの規則なんてどうでもよくなった。体を横向きにして、足が重なった隙間に手を入れる。昨日満足にイクことが出来ずに終わりを告げた自慰。その続きでもしようと思ったのだ。 自ら出る事が出来ない狭い監獄に閉じ込められた、お姫様になった気分で、股の間の気持ちの良い場所を触る。 ぬちゃりとした感触が既に感じられ、私は自分の淫乱さに少しだけ笑ってしまう。 「手なんか、拘束されちゃて、ね……」 私は毛布を足の間に挟み、両手を後ろに回してみる。友人と話していた、手錠の心構えの中にあった、私がドMだというもの。それは実際、事実であり、こうして心の余裕があるときに妄想の中で拘束されるのは嫌いではないし、むしろ興奮する。手と足を動けないように、逃げられないように拘束されて、快感をただ与える為だけに足の間にいやらしい玩具を装着させられて。 毛布に擦り付けた敏感な場所から広がる快感。私は我慢することなく、熱い息を口から溢した。わざと拘束された様に腰をくねらせ、いやだ、いやだ、と心の中で叫びながら毛布に擦る。2日間履いていたショーツにさらに愛液が染み出し、音はしないけれども、股とショーツの間で粘性の液体が潤滑液となって広がっていた。 「んっ、もう我慢できないっ」 私は後ろに回した手を股に移して、まさぐる。じれったい毛布の快感だけでは何時まで経ってもイクことはできない。ショーツの中に手を入れて、ぐじょぐじょに濡れた陰核を本能のままに弄りたおした。 「はっぁ、ああっ、んぁぅ…、くぅぅぅぅ…」 甘く鋭い絶頂が広がり、腰が跳ねた。快感の波が打ち付けるたび、私はそれに溺れるように流される。体を毛布の中で小さく丸め、強すぎる快感を全身で受け止めていた。 絶頂の波が収まると、私は敏感に膨れ上がった陰核から手を離した。高鳴る心臓を落ち着かせるため、肩を上下に揺らしながら呼吸をして、少し汗ばんだ額を枕に埋める。 「んんっ……、はぁ、はぁ」 お預けを食らっていただけあって、今回の自慰はとても心をすっきりとさせる事ができた。私は頭の中で反復されてしまう嫌な妄想が広がる前に寝てしまおうと、疲れ切った心身の電源をオフにして、ゆっくりと目を閉じた。 監視員の起床を知らせる合図より、少し前に目を覚ましていた。寝ても覚めても状況は変わらず、この部屋と世界を隔てる鉄の扉が、これが夢ではないことを主張してくる。 布団を畳み、渡された歯ブラシと歯磨きで歯を磨いて、軽く洗顔をする。点呼が終わると、私は解放される時をただただ待っていた。 そして、その時は来た。 この独房エリアに入るための扉が、開いた音がすると4人の監視員が私の部屋の扉をあけた。 「やっと、終わりですか?」 私はその監視員にそう問いかける。 「そうだな、残念ながら、お別れだ」 4人の監視員は神妙な面持ちを浮かべながらそう言った。まるで、海外に旅経つ恋人を見送るかのような暗い顔色と声色。裁判体験でお世話になったのはたった1日であるにも関わらず、さらに目の前の監視員は初対面だというのにも関わらず、ここまで悲しんでくれるのだろうか。私は少しだけ疑問に思ったが、すぐに立ち上がり扉へ近付いた。 ――ガチャリ 「えっ…?」 私はその音に一瞬の遅れをもって反応した。 その音は私の手首に、あの嫌な感触を発生させながら鳴り響いた。それは短い間隔で2回。両手首にずしりとかかる重さと金属の冷たさ。恐る恐る下を見ると、私の手は監視員に捕まれ、手錠を掛けられていた。 「手錠…、かけるのですか…」 私は疑問に思って、再びそう問いかける。今までは「両手を前に」と一声かけられていたのに。 「最後の、最期まで、あなたの手首には……、手錠がかかります」 監視員はそう言ったので、私はあまり気にせず了解する。 私はスリッパを履かされ、4人に囲まれながら移動させられる。長い廊下だった。太陽が右から差し込むガラス張りの廊下を歩かされると、4階から下へ降りるはずの階段を通り過ぎ、そのまま直進をさせられる。階段の入り口を横目に、私は奥にも同じように下へ降りる階段があるのかと思い、特に何も言わなかった。 廊下の角を曲がり、私は『教誨室』と書かれた一室へ通された。白塗りの壁と部屋の中央には足の低い机に椅子が2つ。入った扉の反対側には何故か、神々しい仏壇が祀られていた。仏教関係でよく見る阿弥陀如来像。心臓が高鳴った。まるで、祖父が亡くなったときに親戚で集まった葬式の一室のような冷たく重い雰囲気。明らかに裁判体験に終わりを告げられるには相応しくない部屋だった。ヒシヒシと感じるある感情。 私は2つある椅子の内、その片方に座らされる。私の周囲に監視員が囲むように立ち、腰縄が私の後ろに伸びて、ピンと引かれていた。 監視員の男が私に一枚の紙を机に置いて見せた。そこには私が拘置所へ預けた数少ない持ち物がリストとして並べられていた。スカートのポケットに入れていたハンカチと、ネクタイ。それと、その下には今着ている制服の一覧。ブレザーとワイシャツ、スカートにショーツとブラ。 「これらの扱いを指定できます。親族へ預ける、もしくは拘置所で数ヶ月保管後、処分するかです」 教誨室に響く低い声。私は今着ている服の扱いに引っ掛かりながらも、処分されても困るので、「今、受け取ります」と申し出たが、何故か却下され、致し方なく親族へ預けるにサインをした。 すると、扉から一人の男が入ってきた。礼服を思わせる真っ黒なスーツに身を包み、落ち着いた色のネクタイを締めている中年の男。監視員が職場に合わせた制服であるのに対し、その黒づくめの服は浮いて見えた。その男は机を挟んだ、私の反対側に着席した。 「はじめまして、“もちだ りさ”さん。私は離れた場所で寺を持っています、教誨師の富山利久と申します」 この男は自分の事をその寺で働く住職と名乗り、そして、私の名前を間違えて記憶しているようだった。私の名前は“もちだ ゆうほ”だ。決して“もちだ りさ”ではない。 「あ、あの。私はもちだりさ、ではなく、もちだゆうほ、と言います……」 富山は一瞬固まり、慌てた表情で手持ちの資料を確認していた。すると私の後ろに立っていた監視員の男の一人がこう口を挟んだ。 「ああ、富山さん。大丈夫です。ここに入れられる前に薬を使っていた経歴がありまして、医師からはそのような自らを他人と言い張る癖があると診断を受けています」 「あ、ああっ。そうでしたか。では、今はもちだゆうほさんとお呼び致しましょう」 監視員と富山の間で訳が分からない会話が繰り広げられる。裁判体験の公判でそのような説明があっただろうか。いや、思い出す限りそのような医師からの診断なるものは聞こえてこなかったはずだ。 「もちださんは、とても罪を犯すような人には見えませんね。まるで、自分の中にある罪と悪をしっかりと、認識している、そんなふうに感じられます」 「は、はぁ……」 「これであれば、天から見守ってくれている阿弥陀様ももちださんの事を見放したりはしないでしょう。皆、必ず死にます。それは遅かれ早かれ、私も、後ろに立つ“執行官”の皆さまも同じことです。皆、いつかは“死刑囚”……、怖がることはありません――」 富山の口から出た、『死刑囚』と『執行官』という言葉。私はその言葉を聞いて、今私がいる場所が死刑執行前の一室に居る事を悟った。ドラマで見たことがある。死刑囚が刑を執行される前に行われる宗教のお話で心を落ち着かせるための前室。 「え、いや、何かの冗談ですよね。私は、もう帰れるって……、聞いて。あ、あの、わたしっ…、もちだ、ゆうほです。さっ、さいばん……、たいっ……、けん、の」 何か大きな勘違いがされていることを悟った私は、とっさに後ろに立つ“執行官”なる人たちにそう説明をした。口が自分の物でない程震え、それは全身に渡った。肩や腰、足や手までもが恐怖から震え出し、抑えが効かない。ぐっと力を込めようとも、その震えは収まらず、手首に掛けられた手錠がカチャカチャと鳴り響いた。 私は死刑を執行される人ではない、ただ、裁判体験で死刑を下されただけの、被告人役であると。 「望田さん、大丈夫です。あなたは帰ることが出来ますよ。先程までの心の安らぎを思い出してください。今一度自分の中にある罪と悪を認識いたしましょう。さぁ、一緒に――」 富山が震える私にそう問いかけるが、そんな言葉耳に入るはずもなく私は後ろの執行官に訴え続ける。 「ひっ、人違いです。わたっ、し、持田優歩です。裁判、体験、でっ……、中学、2年の」 「すみません、富山さん。やはり、望田理沙には虚言癖があるようで、いや、しかし、裁判体験の情報が洩れているのはよろしくないな……。後程会議に回しておいてくれ」 私はそこで護送車に乗せられていた、あの女性の名前が頭に浮かんだ。その女性は自分の事を『もちだ』と名乗り、さらに帰りの護送車の中では自分に科せられた刑が『死刑』であることも告げてきた。まさか、私はその人と間違われているのではないか。いや、そうに違いない。どうにかして私が本物の持田優歩であることを証明しなければ。 すると、私の頭の中にある一つの言葉が思い浮かぶ。それは拘置所に初めて来たときに船津から伝えられたあの言葉。セーフワードだ。私はとっさにその言葉を口にした。 「あ、あのっ!セーフワード、わっ、わたし、知ってます。『私は有罪です』ですよね。ほ、ほらっ、言いましたよ!セーフワードっ!」 あまりに興奮する私を執行官たちは抑える。しかし、私の言葉は悪い方向へ運ばれることになった。 「『私は有罪です』……?いったい、何を当たり前な事を言っている。望田は昨日、有罪が確定されたはずだろう。今更何を言い出すのかと思えば……、やはり薬の副作用が影響して――」 「ち、ちがっ……」 「富山さん、そろそろ時間です。わざわざご足労頂きありがとうございます。先に前室へ移動します。その後、後ろからお願いします」 私はその後、執行官4人の担ぎ上げられながら、教誨室から連れ出された。私は精一杯暴れた。体の節々を掴む執行官の手をこれでもかと振り払い、叫び、泣いた。しかし、14歳の女子の身体なんて、大の大人4人の手にかかれば、多少の妨害はできようとも容易く運ばれていくものだ。私の足はほぼ地に着いていなかった。 廊下に出されると、私は前室と呼ばれる部屋に連れていかれた。廊下に嵌められた重々しい扉が開かれるとそこは1つの部屋を分厚いカーテンで2つに分断されている部屋だった。天井には部屋の大部分を傘下に入れるような照明が光を放ち、カラメル色の木目調の壁と、灰色のカーペットを照らしていた。 すると、そこには一人の男が立っていた。私を担ぎ上げる執行官と同じような見た目の制服を着ている。 「所長、連れてきました。よろしくお願いします」 「い、いやぁぁ!ちがう、ちがうんです、わたしは、死刑じゃない!」 執行官は私をその男に向かって強引に立たせた。 そして所長と呼ばれたその男はある一枚に紙を取り出し、こう告げた。 「――拘置所所長、鳥井信明。これより、○○(日付)、望田理沙に死刑を執行する」 そして、鳥井がその紙をひらりと裏返すとそこには役所で使われるような大きな印鑑と、細かな文字がずらりと並んでいた。 隣にあった分厚いカーテンが開かれ、分断されたもう一つの部屋が現れる。 前室とは変わらない雰囲気の部屋。だが、その部屋の奥にはもう一つ分厚いカーテンが引かれ、その下の床には赤い太線で描かれた2重の正方形。そしてその真上にゆらゆらと揺れているのは、先に輪が付いた白色のロープ。ドラマで見た絞首刑場がそこにはあった。 「ほら、いくぞっ」 「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」 執行官に再び担がれて運ばれる。いくら叫ぼうとも、私の声は彼らには届かず、ドラマで見た赤い正方形が私の真下にきた。片手の手錠を外されると、すぐに手首をねじ上げられて後ろに回される。痛みを訴えようにも、執行官は聞く耳を持たない。 「いたいっ、やめてっ!」 すると、ガチャリという音が鳴り響いて私の手首は後ろで動かなくなった。手首に手錠が食い込み痛む。そして、真上にぶら下がる縄と同様の太さの縄が脚に巻かれる。その縛り方には容赦がなく、足の血管が止まってしまうほどの強さで両足がまとめられた。もう自力ではほとんど動けない。両手を後ろに、足は一纏めにされて芋虫のようにその場で蠢くしかできない存在にされてしまった。 突然、視界が真っ白になった。ふわり顔に風がかかると、私の目元には真っ白の布が巻かれ、頭の後ろできつく縛られてしまった。上下左右何処からも視界の情報が無くなり、私はさらに取り乱すことになる。 「や、やめてっ!本当に、違うんです!い……、いやっ、死にたくない……」 極限の精神状態の中、私の頭の血は足りなくなり眩暈が起こり始める。足もふらつき、ほとんど自力では立てない状態だった。そして――。 私の首に縄が掛けられた。 太く頑丈な縄が首に掛かり、首の根元に隙間なく宛がわれる。ロープの輪がするすると小さくなり、頭の後ろに輪の結び目が付いた。ロープがピンと張られ、少しだけ首が締まり始めた。 「ひっぃ、あっ…、あっ、いや……、だ、やめて…」 私の身体を押さえていた執行官が離れていくのが分かる。しかし、私は動くことが出来ない。足が縛られているが、動こうとすると、首が締まり始める。すぐそこに迫る『死』という文字が脳裏にチラつき、恐怖から一歩も動けないのだ。足が震えるが、少しだけしゃがむだけでも首は締まる。そして、その締まった首の輪は再び足を伸ばしても緩まることはない。 目の前のカーテンが開かれたのがわかった。私はその奥に立会い室という、死刑囚がしっかりと死刑が執行されたかを見守るための部屋があることをドラマで知っていたが、今はそんなこと、考えている場合ではない。立会い室で見ているひとりでも私の存在が、本来死刑執行される人物と違うことを認識してくれれば……。 ビイイイイイイイイイイ。 その音が鳴った瞬間、足元にあった台が外れ、腿に触れていたスカートがふわりと浮き、体が宙に浮いたことに気が付いた。 「いやいや、まさか、中学生の死刑執行が見られるとは思いもしませんでした」 「持田さんの両親には前もって承諾を得ていましたし、国からの補助金もかなり費やされましたから。前もって伝えられていなかった優歩ちゃんには残酷な事をしてしまいましたが……」 拘置所内の応接室で話をする船津と担任の先生。2人は持田優歩の死刑執行を立会い室で見ていた立会人だった。ガラス張りの奥のカーテンが開かれた時、目隠しをされ、手首と足を縛られた状態で現れた持田を見守っていた。船津は貴重な資料となるこの、女子中学生の死刑執行をビデオカメラで収めていた。 持田から確認はできない仕様だが、持田の真下には分厚いクッションが敷き詰められており、けたたましいブザーで踏み板が外され落とされた持田の身体は怪我なくクッションによって守られた。すぐにこの死刑執行が偽物であることを知らせる為階段を降りて持田に駆け寄ったが、持田は失禁をしながら気を失っていた。すぐに医務官が医務室へ運んだが、どうやら命に別状はない様だ。 「許しませんからね、先生に船津さん」 応接間の扉から入ってきたのは、持田だった。拘置所内の職員専用シャワー室を借りてきたため、髪が若干湿っており、服も下着も担任が両親から預かってきた物に変えたようだ。持田はソファーに腰かける担任の隣にわざとらしくドサッと座り感情を露にした。 「ごめんね、先生も事前に伝えたかったんだけど、学校と拘置所からどうしても極秘でって言われて……、これで償いになるかはわからないけど、今度のテストは甘く見るから、許してっ」 「許しません!」 「私も、今回の件は極秘で伝えられなくて……、拘置所側からもお詫びとして、懲罰房体験のご招待を……」 「いっ、いらないです!!」 その後、持田優歩には多額の報酬が支払われ、それを持田が受け取ったことでこの一件は幕を閉じたのであった。 ちなみに持田に勘違いされていた望田理沙という人物は拘置所が用意したプロの役者であった。護送車の椅子の配置も拘置所の職員によってわざと前後にさせられていた。そういった背景があった。 後日、持田の死刑執行が収められた監視カメラ映像および、船津が撮影していたビデオ映像が流出してしまったり、持田自身が手錠の感触を忘れられずに懲罰房体験に拘置所へ行ってしまったりするのは、また別のお話。持田は普通の女子中学生とは少し変わった中学生生活を送ることになるだろう。 END