裁判体験の被告人役に選ばれた女子中学生のお話01
Added 2023-05-03 08:44:03 +0000 UTC担任の先生に連れられて足を踏み入れた場所は県内の拘置所だった。5か6階建てはありそうな少し見上げる建物が、私の身長を優に超える高身の鉄柵に囲われており、私はそこで門番をしている警備員に優しく見送られる。 「今年は可愛い女の子ですね」と警備員が担任の先生と話していたことから、先生とは顔馴染みなのだろう。私は担任の先生に背中を押され、緊張からくる手汗をハンカチで拭った。 県内の進学校に通う私、持田優歩(もちだゆうほ)は14歳の中学2年生だ。両親の勧めで県内でも教育が良いとされている中学に入学して2年目の事。私はこの学校でカリキュラムに含まれている『裁判体験』の『被告人』の役目を運悪く担うことになってしまった。 裁判体験は、学校が社会体験の一環としてカリキュラムに組み込む、ある種、この学校の特色を大きく表したイベントの事だ。その名前の通り中学生の私達が裁判を体験することを意味している。またこの裁判体験は傍聴席に座り本物の裁判を傍聴することが目的ではなく、クラスから選ばれた生徒が実際の裁判が開かれている施設を使いそれぞれの役割を体験する事を目的としている。裁く事件は架空の刑事事件。そのためクラスからは裁判官6名、検察官3名、弁護人3名、被告人1名が選ばれ、本物の裁判官や検察官や弁護人の隣に座り裁判を進行していくことになっている。ちなみに選ばれなかった生徒は傍聴席に座り、裁判の感想をレポートとして提出する義務が発生する。 運悪く私はその内の被告人として選ばれてしまった。本当は裁判官を体験したい気持ちが大きかったが、クラス会議のくじ引きでその紙を引いてしまったから仕方がない。 裁判体験は実際の裁判官や検察官や弁護士が参加することから実際の裁判にかなり近いとされている。体験なので、事前に決められた架空の事件の概要と被告人と被害者の証言を元に裁判が進められ、検察は事件をよく精査し実際に近い求刑を、弁護人は事件の概要から生徒と話し合い減刑や無罪を狙い、裁判官は事実と検察からの求刑と弁護人の意見を参考に判決を下していく、といった興味深い体験となっている。 一方で被告人に選ばれてしまった私には、実際の被告人の体験として裁判が開始されるまでの間を、この拘置所で待機することが決まりになっている。待機と言っても私が体験するのは実際の被告人と同様の生活をするということ。私の身体的、精神的負担を考えて、他の役職は3日前から打ち合わせを開始しているところ、私は前日からの体験スタートとしてもらった。ただ、たかが1日の拘置所体験と言っても、目の前に広がる禍々しい建物からくる雰囲気に緊張は隠せない。 「大丈夫よ、拘置所の職員の人は持田さんのことは甘めに見てくれるらしいから」 「は、はい。頑張ります……」 担任の先生からの励ましの言葉を胸に私は拘置所の自動ドアをくぐった。 正面の入り口から入った私はそこで先生とお別れになった。もう少しだけ担任の先生に着いて来てもらいたいが、私の裁判体験は拘置所の扉を叩いた瞬間から始まっているようだ。無言で立ち去る先生に手を伸ばしてみるが、そこには実際の距離よりも大きな溝が出来たようで心が寂しかった。 「さぁ、移動しましょう」 フロントの女性職員に連れられて私は2階の別室へ移動させられた。 低いガラステーブルと革のソファーが二つ並べられた、応接間のような部屋。私はそこでしばらく待つように言われて、静かに座って待っていた。 此処に来るときに担任の先生から指示された服装は学校の制服だった。折り目が薄くなり始めたプリーツスカートと胸に校章が入ったブレザー。スカートの丈は膝上で、胸に付けたネクタイがデザインを引き締めている。ちなみに校則でスカート丈は膝下と決められている。 髪の長さは特に問題ないようだ。今は後ろで縛ってポニーテールになっているが、解いても肩にかからない程度の長さである。万が一規定よりも長い場合は切ってくるように言われるという。ただ校則に記載されている髪の長さを守っていれば大丈夫なようだ。 持ち物は全て担任の先生に預けた。ここに来るまでに必要だったお金が入った財布と、緊急時用に連絡を取るための携帯電話。その他は特に必要ないと言われ、他に持ってきたのは我が身ひとつだけ。本当に手ぶらだった。 しばらく待つと、部屋に4人のスーツを着た大人が入ってきた。男性2人と女性2人。男性の1人の手には分厚いファイルが抱えられており、とても重そうだった。 私はその人らの入室と同時に立ち上がり、頭を下げた。 「あ、あの、よろしくお願いします。持田優歩といいます」 「どうも、今回裁判体験の被告人役の担当、船津恋と言います。後ろにいるのはこちらから――」 私の挨拶に答えたのは女性の方だった。名前を船津恋(ふなつれん)と名乗り、私の裁判体験の担当する職員らしい。その後、船津は後の3人の紹介を挟んで今回の裁判体験の説明を始めた。 「本人確認が取れましたので、裁判体験の説明をさせてもらいます。今回、持田さんが引き受けてくださった被告人役は身体的にも精神的にも負担がかかる役割となっています。架空とはいえ、身に覚えのない罪状を宛も持田さんが犯したように言われたり、罪を犯していないのにも関わらず身体を拘束されたりする事は、本来拘置所の世話にならない年齢である14歳の持田さんにとって、大人以上にセンシティブに受け取ってしまう事もあると思います。そこであらかじめセーフワードを決めておきます」 「えっと、セーフワード、ですか?」 「セーフワードは言うなら、そうですね。……秘密の合言葉のようなものです。持田さんが身体的や精神的に限界と感じたり、緊急でこの裁判体験から解放されなければいけない、といった事態になった時、あらかじめ私達だけがわかる暗号を決めておくことで速やかに体験を中止にすることが目的です」 私は船津の言葉からでた『罪状』や『身体を拘束』という言葉に今一度自分が被告人役であることを自覚した。革のソファーの上で行儀よく揃えた足の上で緊張を表す拳が一段と引き締まった。 「体験終了までこの言葉を忘れないで下さい。セーフワードは『私は有罪です』になります」 「『私は有罪です』……?」 「はい、セーフワードはその環境で普通なら発言されないような言葉を用いるのが一般的です。私がここに勤めて8年くらいになりますが、拘置所に収容されている方々から『私は有罪です』という言葉を聞いたことはありません。近いものを言うとしても罪を否認することから発せられる『私は無罪です』になりますから、わざわざ自分から『私は有罪です』と発言することはまずありません。なので今回の裁判体験のセーフワードはこの『私は有罪です』という言葉を使うこととします」 私は船津の言葉に頷き、小声でそのセーフワードを繰り返した。万が一忘れたら自ら命綱を切断することに等しいから。 「それでは、セーフワードの説明を終わりましたので、これより裁判体験を始めます」 「あっはい、よろしくお願いします」 船津の言葉で空気が一気に変わった気がした。今までの私に対するお客様対応ムードとは一変して完全に事務的。紛らわさずに言うならば、私を本物の犯罪者として扱っているような、そんな雰囲気が漂い始めた。 船津は後ろの男性職員から青色の紐とそれに繋がった黒光りする金属製の何かを受け取った。それらは金属の輪が2つと、それらを短めの鎖で繋げた物。チャリチャリと金属同士が擦れ合い脳の奥に深く刻む音を響かせていた。 「それでは持田さん、両手を前に」 「…はい」 事前にこのことに説明を受けていたが、実物を目の当たりにしたことで私の心構えが全く足りていなかった事がすぐにわかった。長年使われている金属に入る傷や、光の鈍い反射と禍々しい黒色。そして、それに繋がれた簡単に切断できそうもない青色の縄。 前日に友人と話していた強がりの会話は、本当にその場凌ぎの物でしかなかったようだ。 なにがブレスレットだ。なにがドMだ。 手首にキリキリキリという金属音を立てながら金属の輪が締まり、ウエストに青色の縄が巻かれる。言わずもがな、手首に掛けられたのは手錠だった。きつくウエストに巻かれた腰縄に繋げられたその手錠は私の手の可動範囲を大きく狭める事になった。体を大きく曲げなければ顔も触ることが出来ないほど腰縄と手錠の距離は短くて、満足に顔を掻くことも叶わない。 その手錠は私のここでの身分を証明する一種の烙印だった。 「移動です。着いて来てください」 船津の手によってぐいっと引かれたその縄に、私は抗うこともできず、まるで屠畜場に移送される家畜のように着いて行く これから語られるのは裁判体験の一番のハズレ役を引いた私、持田優歩のお話だ。 連れられたのは検査室と書かれた部屋だった。部屋の角にある扉から入るとそこはテーブルとパイプ椅子が置かれた殺風景な部屋だった。ただ普通の部屋と異なる点と言えば、脱走防止のために窓に嵌められた鉄格子と天井に設置された監視カメラ、それと床に手型と足型が描かれたマークが貼られているだけ。 服は制服のまま、手錠と腰縄に繋がれてその部屋に入れられると、女性職員2名と入室をして、扉には外から鍵を閉められた。私は船津に拘束を解かれると、靴と靴下を脱いで床の足型に足を合わせるように命令された。 応接間からこの部屋まで数分の距離だったが、手首にはくっきりと手錠の痕が残っており、私はそれを良く揉みながら足型に足を置いた。左右の足型マークの距離は肩幅よりも少しだけ広い程度。若干脚を開き気味になるが、辛いと感じるほどではなかった。 「それでは、今から持田優歩さんの身体検査を始めます。この検査では拘置所内に危険物やその他の違反物を持ち込ませない為に行われる必要事項であり、万が一こちらの指示に従えない場合は身体を拘束した後、強制的に身体検査を実行することになります。素直に従ってもらうのが賢明です。よろしいですね」 船津の有無を言わせぬ迫力に、私は「はい」しか言えなかった。 学校からあった事前説明でも身体検査に関する説明はしっかりと説明を受けた。服を全て脱がされ検査を受けると。しかし、裁判体験ではそのようなことはせず、まだ14歳という年齢も考慮して服の上から触る程度に収めるらしい。それ故、私はこの身体検査をそこまで重視していなかった。しかし――。 「持田優歩さん。足型から足を動かすことを許可します。服を全て脱ぎ、この籠の中に入れてください」 船津がそう言うと私の脚元にひとつの籠を置いた。プラスティックで出来たどこでも買えそうな大きめの籠だった。 私は一瞬その言葉に思考が飛びそうになったが、慌てて船津へ質問を飛ばした。 「え、あの。学校で、服は脱がされないって……」 「いいえ、持田さん。此処に勤めて8年になりますが、あなたの学校の生徒さんは例外なく服を脱がして身体検査を受けています。恐らく学校の通達ミスです。諦めてください」 胸に手を重ねてブレザーをぎゅっと握った。 学校と拘置所で連絡の食い違いが起こっている。事前説明では私が受ける予定だった服の上からの身体検査の他にも、実際に拘置所で行われている身体検査の方法も説明がされた記憶がある。確か、服を脱がされて体のあらゆる穴を徹底的に調べられるのだ。あまり言葉では言えないような場所まで。 それは流石に受け入れる事はできない。私も被告人役を引き受けたのにはそれなりの善意があってのことだし、何も強制されているわけではないからだ。頭の中にあの言葉、『セーフワード』が浮かんだ。使い道はこういう時だろう。 私はその言葉を言おうと口を開きかけた。しかし、それを船津が遮ったのだ。 「ちなみに、学校側から頼まれて“仕方なく行っている”この『裁判体験』ですが、検察官、裁判官、弁護士、拘置所の持田さんの収容、全てに莫大な予算がつぎ込まれています。特に、人件費が他の役職に比べてとても大きいのは、持田さんの『被告人役』です。他の役職と比べて数倍、いや、数十倍の予算がね。もし、ここで持田さんが中止を宣言した場合、学校側はその損害をさらに負担します。どれだけの迷惑がかかるかは計り知れませんね。もしかしたら裁判体験自体中止になるかもしれません」 私の口は閉じられた。もし私がここでそのセーフワードを言った場合、どれだけの迷惑がかかるのだろうかと想像をしてしまったからだ。事前説明に参加をしてくれた校長先生や、教頭先生、担任の先生を始めに、裁判官役をとても楽しみにして役を与えられた友人など。さらに、船津が言った言葉の中に、被告人役を務めた先輩方は例外なく服を脱がされた身体検査を受けたとあった。先輩方ができて私が出来ないのはなぜか悔しい気持ちにもなり、結局私は船津の身体検査を受ける事に決めた。 「ご協力ありがとうございます。それでは持田優歩さん。足型マークから足を動かすことを許可します。服を全て脱いで籠の中に入れてください」 ブレザー、ネクタイ、シャツ、スカートと上下の下着。髪もポニーテールからゴムを外して下ろした。 検査室の明るい照明に照らされながら、私はその下で一糸纏わぬ姿を晒される。油断が表れている肉付きの良いお腹周りと、同級生からも評判の高い膨らんだバスト。だけれども女としての輪郭は健全であり、くびれた腰回りに照明が影を落として凹凸を表現していた。そしてその下にはうっすらと生えそろった恥毛と、健康的に肥えた生足。 右手はさりげなく恥丘に当てて、左腕で膨らみを押さえつける。足型のマークに足を乗せるように命令されたため、肩幅よりも開かされた鼠径部が強調されて恥ずかしかったが、脱いだ制服を細かく検査する必要があるらしく、その間は体を隠しても良いとのことだった。ただ、足の位置は変えてはいけないと。 どうやら、船津ではないもう一人の女性職員は新しく入った新人のようだった。私が脚を広げて待たされている間、船津はその女性職員に付き添い、服の検査の仕方を教えているようだ。服の皺を一つ一つ伸ばして丁寧に触っていき、服の中やポケットの中身をくまなく検査していた。その検査の中に下着も当然含まれている。乳が当たっていたカップをこれでもかと検査し、ショーツの陰部が当たるクロッチ部分も大きく広げられ手袋越しに触られていた。 勿論、その長い間、私はただ待つことしかできない。私語をする余力もなく、服を剥がれているため逃げ出そうなんて考える事もない。ただただ裸で放置され私の服が検査されているのを眺めているしかなかった。 「腕は体から離して、両手は開いて掌は正面にお願いします」 長い服の検査が終わると、私の腕は体から引き離された。 小型のライトを持った船津が私の口、鼻、耳、腋、髪を検査して行く。 口は船津の指示に従って舌を動かし、鼻と耳はライトで照らすだけ。脇は両手を真上にあげて何も隠していないことを示した。髪は船津の手によって乱暴に振られて痛みを覚えたが、裸の恥ずかしさでそれどころではなく、特に苦言は言わなかった。 「これは、一応女性にはお願いしている検査なので」 船津は私にそう断りを入れた。指示したのは自らの乳を下から持ち上げる事だった。どうやら私とは無縁な巨乳の人種は下乳に物を挟めるらしく、私にその検査を受けさせたいとのこと。恥ずかしさとは異なる悔しさを感じながら私は自らの乳を持ち上げた。当然、何も挟めるはずもなかった。 下乳検査が終わると船津は銀色のトレーに乗った小道具をいくつか取って私の元へ来た。船津が持っていたのは向こう側が透けているガラス棒と、容器に入ったクリームだった。 「これから行う検査について、学校から説明は受けていますよね」 「……はい」 私は静かにそう頷いた。肛門と膣に隠し物をさせないための検査だ。 「では、後ろを向いて手型に手を置いてください。体が硬い場合は脚を曲げてもらっても結構ですが、床に膝をつくことは許されません」 私は船津の指示に従って後ろを向き、70センチ程度足型から離れた手型へ手を置いた。幸いなことに体は柔らかい方だ。脚を曲げずとも両手両足を型に置くことが出来た。 「それでは膣と肛門の検査を行います。初めに行うのは肛門からです。万が一痛みがあっても検査は続行致しますのでご了承ください」 私は目を瞑って静かにその時を待った。船津ともう一人の職員に陰部を突き出すような姿勢を取らされ、そして。 にゅるり 「はぁっ…」 クリームを纏ったガラス棒が私の肛門に侵入する。敏感な刺激が伝わり私は思わず声を漏らしてしまった。自ら肛門に何かを入れるという経験は当然ない為、その刺激はとても新鮮なものだった。 ガラス棒は体感で5か6センチは奥へ入れられたと思う。そして船津はそのガラス棒を乱暴に掻き回す。 「んぐっ、ふっぁ」 直腸で蠢くガラス棒が伝わり、抑えきれない声が漏れる。まるで制御できない排泄感を永遠に味わっている、そんな気分だった。 「はい、次は膣の検査を行います。肛門検査の時は声について何も言いませんでしたが、膣検査で声を出すのは禁止です。では始めます」 にゅるる 「いたっ…」 突然の痛みに思わず声が零れた。それもそのはずだ。私はいまだ処女膜を破った経験がなく、ガラス棒はその処女膜にぶつかっているのだから。 しかし、そんなことも知らない船津は私を注意する。 「静かにしなさい、たとえ痛みがあっても我慢してください」 「あ、あの。私、まだ経験がなくて、痛みが……」 「関係ありません、この検査は性交渉の経験の有無に関わらず女性であれば必ず行っています」 「えっ、いや、そんな…」 船津は私の願いを聞き届けてはくれなかった。そして次の瞬間。 ずぷりっ 「あっ、いたっ!!」 私は大きめの悲鳴を上げてしまった。ガラス棒が処女膜を通過し膣へ侵入したのだ。皮膚が破けた時と同じ痛みが股間に広がり、そこからは少量の血液が流れ始める。強烈な痛みに私は体勢を崩しそうになるが、なんとか堪える事が出来た。 しかし、そんな痛みを感じている私に対し、船津は容赦なく検査を続行する。処女膜貫通による出血を軽く拭きとると、まだ傷が開いている膣へガラス棒を動かし続けた。 「いっ、いだい…ひぎっ、いたたっ」 ガラス棒は傷口を抉りながら上下左右に蠢き続け、膣の中に隠されたあるはずのない物を探し続ける。時には経験したこと無いほど奥までガラス棒を押し込まれ、奥の壁に当たったりもした。私は船津からの声出しの注意など、痛みで吹き飛んでしまい、しきりに痛みを訴えていた。 「はい、検査終了です」 膣と肛門の検査は船津の声と共に終了した。 私はその後、制服を没収され拘置所で支給されている紺色の半ズボンと灰色のトレーナー、それと着用してきた下着を着ると、安物のスリッパを履かされてその部屋を後にした。 その後、医者による問診と、指紋とDNAの採取を行い、私は地下1階の『休憩室』に連れていかれた。その部屋は、入り口が鉄格子の扉で塞がれ、左右に気の板を打ち込んだ椅子があるだけの奥に細い部屋だった。腰縄を外されるが手錠の拘束はそのままで中へ入れられると、そこには私以外の女性が3人いた。私と同じく腰縄が外され手錠はそのままの状態。 入室する際に簡単な規則を説明された。その中に会話の禁止があったので、会話をすることはできなそうだが、私のような裁判体験といった行事で来ている雰囲気ではないことは確かだ。恐らく本当の。いや、あまり考えないようにしようと思う。 私は開いている場所へ腰を下ろし、直角の背もたれに寄りかかった。手錠が嵌められた両手をそのまま腿の上に置き、氷のように冷たいこの部屋の空気にぐっと耐える。外には拘置所の職員が目を離さずこちらを監視しており、休憩室の名前通りの休憩はできそうになかった。 ふと横を見ると、衝立の奥に洋式便所が隠されていた。外蓋は外されており、便座がむき出しの状態。そしてトイレットペーパーが何処にも見当たらない。そして何よりも便器を隠している衝立はどう見ても高さが足りていない。隠れているのは腰から下くらいで、上半身は丸見えになるに違いなかった。 すると、私の対角線に座る女性が不意に立ち上がり外にいる監視員に声をかけた。 「すみません、お手洗いをさせてください」 「木下さんですか。前にこちらへ来た時も説明したはずだけど、お手洗いに行きたいときは『排泄願います』と言わない限り紙を渡すこともしないし、トイレの水を流すこともしないわ。恥ずかしいと思うけど、ここではそれが決まりなの」 対角線に座る女性は木下と呼ばれていた。肩よりも長めの茶髪を纏めることなく乱雑に伸ばしており、服装は私と少し違う灰色のトレーナーだった。胸に『留4』と書かれているバッヂが貼られていた。そして何より驚いたのが、この木下という女性、ブラを付けていないという事だった。いや、よく見れば私以外のここに待機させられている女性はみなブラを付けていないように見える。 木下は鉄格子の奥で監視している職員にお手洗いの使用を申請したようだが、どうやら言い方が間違っているらしく、その職員にそのように咎められていた。『排泄願います』なんてどれだけ古臭く恥ずかしい言葉だろうか。 木下は唇をぎゅっと噛みしめると、若干震えた声でこう言った。 「はっ…排泄、ねっ、ねがいます……」 「はい、よろしい。これがちり紙ね。で、この部屋にいる限り手錠は外せないから、服が汚れないよう注意する事。それと――」 私を含めた木下以外の女性はその様子を他人事のように見ていたが、内心はそうではなかったはずだ。私は初めて肌で感じる拘置所に心がブルーになっていくのを感じていた。 どうやら『休憩室』と言うのは検察からの取り調べを待機するための部屋らしい。私は外で監視している職員に名前を呼ばれると鉄格子の前まで来るように言われ、腰縄を巻かれた後取調室へ移動させられた。私にも取り調べがあるようだ。 廊下に面した扉から入ると部屋の中はテーブルがひとつとパイプ椅子がひとつ、それと回転式のオフィスチェアがひとつ置かれているだけだった。ただ部屋の天井には部屋の中を監視している監視カメラが常時目を光らせている状態であり、休憩室とは違った意味で休むことが出来そうにないことはわかる。 私はその部屋の奥側のパイプ椅子に座らされた。対面に置かれている回転式のオフィスチェアと比べて一目でわかる座面の厚さがここでの私の待遇を物語っている。座らされた時に感じたクッション性がほとんどなくなったこのパイプ椅子はとても長時間座ることに適しているとは思えなかった。処女膜が破られた傷が少しだけ疼いた。 手錠が外されると、腰縄はパイプ椅子に括りつけられた。どうやら手錠は外されるが、私が自由に動き回ることは許されないらしい。手首に残る手錠の感触を解しながら私は待機させられた。 「こんにちは持田さん。さっきぶりね。長いこと待たせてごめんなさい」 そう言いながら部屋へ入ってきたのは身体検査ぶりに会った船津だった。手にはいくつかの分厚いファイルを持っており、席に着くとそれをテーブルの上に置いた。 「地下の待機室はどうだったかしら。持田さんには実際の雰囲気を体験してもらいたくて、特別に本当に逮捕されている人達と同じ部屋にしてもらったのよ」 「あ、なるほど。部屋に入れられた瞬間にそんな雰囲気が漂っていましたので。それにしても、ここに連れてこられる人たちは、えっと、その、ブラは付けてないんですね」 身体検査の時と比べて船津の人柄は柔らかくなっていた。さっきまでは職員と被告人の関係だったのが、今では世間話をする友人のような空気だった。 私は船津の問いかけに答え、休憩室で女性がブラを付けていない理由を尋ねた。 「ああ、あの人たちは留置場から取り調べを受けに来ている人たちでね。ここの拘置所と比べて留置場の規則ってとっても厳しくて、女性はブラを没収されるらしいわ。でも、安心して。あなたのブラが没収されることは無いし、あの中に殺人を犯した人はいないから」 留置場の女性の扱いを聞いて私は少しだけあの人たちに同情をしてしまった。 その後、少しだけの世間話を挟んだ後、私は取り調べと言う名の『裁判体験』打ち合わせを受けた。 「まず、今回持田さんが掛けられている容疑は『殺人及び放火』よ。勿論、架空の物で、毎年こちらでランダムに刑事事件を選んでいるから、実際に持田さんの尊厳が脅かされることはないわ。安心してね。それじゃあ事件の詳しい内容と、裁判の手順を簡単に説明していくわね」 船津はそう言うと私に説明を始めた。 要約すると、私の設定はこうだ。 幼い時から両親に暴力や性的虐待などを受けていた成人女性がある日、父に関係を迫られたことをきっかけに父を酒瓶で撲殺をしてしまった。その後、その一部始終を母に見られたことに気が付いたその成人女性は警察へ通報を試みている母に襲い掛かり、首を絞めて殺害。そしてその証拠を隠滅しようとして家に火を放ち家はほぼ全焼となり、隣の家にも被害を及ぼした。現場から逃走していた成人女性は近くの恋人の家で発見され、そのまま重要参考人として警察が署まで連行したところ、あっさり自白。結果、そのままお縄となった。 というのが大筋のシナリオらしい。船津が説明した内容によると、この事件の争点はその成人女性に殺人を犯すだけの動機があったのかどうかになるらしい。検察が求刑するのは恐らく『無期懲役刑』か『死刑』。弁護人は死刑を回避しつつ、無期懲役刑を減刑させるというのが大体の目的になるそうだ。そのため私の行う事は被告人証言の時間でどれだけ両親に暴行をされていたか、どれほど身体、身体的苦痛を受けていたのかを裁判官にアピールする必要がある。 私はその説明を聞いているだけで心臓が高鳴り始める程緊張していたが、どうやら毎年被告人証言には弁護人が用意したカンペを読んでいるらしく、今年もそれを読めばよいらしい。 次に説明されたのは明日の裁判までの流れだった。私はこの取り調べが終わると、通常なら雑居房と呼ばれる数人単位の部屋に収容されるが、実際の被疑者と同じ部屋にするのは流石に無理らしく、私は懲罰房を体験させられるとのこと。基本的にその部屋で明日の朝まで待機して、明日の朝に出発。予算上、裁判所まで移動させられるのは他の被疑者と同じ車らしいが、その時は監視の目が厳しいことから、安全上の心配はいらないようだ。そして、裁判所に着いたら時間まで待機して裁判開始。その日中に判決が言い渡されるそうだ。 「以上が大まかな流れになります。何か質問はありますか?」 「えっと、今日はお風呂に入ることは…」 「できません」 船津の即答に私は肩をガクリと落とした。学校の事前説明でも風呂に入れる可能性は低いと伝えられていた。もし運が良ければ風呂の日と被って入浴できるだろうと。しかしその儚い希望は打ち砕かれた。とっさに思ったのは風呂に入っていない状態でクラスの皆の前に姿を現すこと。すこしだけ抵抗を覚える。 続いて私は次の質問をする。 「明日の朝の服装は、その、このままですか」 「それは希望があれば変える事が出来ます。基本的に例年、制服で裁判に出席することが一般的ですね。希望するようでしたら、こちらから担当へ連絡しておきますが」 「あっ、はい。よろしくお願いします」 私は船津に制服の手配を頼んだ。 その後、いくらか細かい話があった後、私はそのまま拘置所の懲罰房へ移動することになった。 本来、拘置所に収容される際は手錠と腰縄の拘束は必要ないらしいが、私がこれから収容される懲罰房なるものは拘置所内で規則を犯した人達が収容される場所のため、逃亡や職員の安全面を考慮して手錠と腰縄の拘束は解かないようだ。懲罰房はこの拘置所の地下2階にある。前に手錠を掛けられた私はそのまま非常階段を降りて地下へと向かった。 非常階段の扉から地下2階のフロアに足を踏み入れると、そこは上の階とは全くの別世界が広がっていた。まず目に入るのはそのフロアと非常階段を仕切る重厚な鉄格子の扉だった。扉を開錠する際、壁に頭を付けるように命令されたのでその扉の開錠方法は確認できなかったが、恐らくカードキーとパスワードの2段階認証が必要のようだ。もし船津からカードキーを奪い逃走を図ろうとしても職員だけが知っているパスワードを知らなければここから脱出することはできないという事だ。徹底した管理体制だった。壁はコンクリートがむき出しで、天井には破壊されないようにカバーが被されている照明が鈍く光を放ち、それを照らしていた。灰色の絵の具をべったりと塗りたくったような薄暗い壁。間接照明があまり働いていないのか、コンクリートの壁で挟まれた狭い廊下は照明のわりに薄暗かった。 灰色のコンクリートから放たれる冷えた空気が肌を触る。私は船津ともう一人の職員に挟まれながらその道を歩く。そして見えてきたのは、もう一つの鉄格子の扉だった。扉のパネルには『保護室』と書かれている。 「この先から保護室と書かれていますが、いわゆる懲罰房が持田さんを待っています。それぞれの部屋のひとつひとつがとても狭いため、隣の懲罰房との距離もとても近いです。何が言いたいかと言うと、つまり、この懲罰房に収容されるという人の精神状態はとても不安定なので、持田さんが若い女性だと分かると恨みを買ってしまう可能性があるということです。まぁ、部屋の扉には鍵が掛けられていますので、出てくることはありませんが、この扉を一歩でも通過したら私語は無し、できる限り音は立てないようよろしくお願いします」 漫画やアニメで見たようなテンプレートな牢獄が広がっていた。コンクリートの壁に重厚な鉄扉がはめ込まれ、それが左右に等間隔に並んでいる。足を出すのが遅れ、後ろから職員に背中を押されると自分が本当に罪を犯した囚人のような気分になった。 3畳程度の畳と、1畳程度に押し込まれた洗面台と洋式便所。地下の為当然窓はなく、鉄の扉以外の壁はクリーム色の塗装が塗られているだけ。自殺防止のために壁に紐を掛けられるようなでっぱりはない。天井にはひとつの照明と赤いランプが点滅する監視カメラ。それと部屋の隅に置かれた一式の布団。腰縄を外されて部屋に入れられると見えてきたのはそれだった。船津に命令されて部屋の中央で奥側の壁を向いて正座をさせられると、背後でこの部屋の扉が閉められた。 「立ち上がってこちらに来てください」 「あっ、はい……」 鉄の扉には外側から開けることが出来る小窓が2つ開いていた。ひとつは目線の高さの小さめの小窓で、もうひとつは丁度私の手錠がある腰の高さ。そちらは物を受け渡しできるほどの大きさが確保されていた。 「下の窓を開きますのでそこから両手を出してください。手錠を外します」 私は言われた通りその小窓に両手首を入れた。すると扉の奥で職員が私の手錠に鍵を差し込み、手錠が解かれる。 「では、懲罰房の規則を簡単に説明します。日中は部屋の中央で扉を向いて正座をする事。その間しっかりと自分が犯した罪と向き合い、反省をしてください。希望があれば反省文の作成を認めます。次に後ろのトイレを使用する際は廊下に待機している監視員に一声かけてちり紙を貰ってから排泄をするようにしてください。申告無しにトイレを使用した場合、水は流れないようになっていますのでお気を付けください。排泄終了後は再び監視員に声を掛けてトイレの水を流してもらってください。食事の時はその都度監視員に従ってください。重要な説明は以上です。後はこの冊子に細かな規則が書かれていますので、熟読するように」 それだけを言い残して船津は立ち去った。 手錠と腰縄による身体拘束の解放と引き換えに与えられた3畳の独房。朝から数時間連続で拘束された手首と肩を良く解しながら部屋の中央で正座をしていた。 何も変わらない目の前の視界と音。音は時々私ではない誰かの溜息や壁を蹴るような重い音が時々聞こえるだけ。 ただひたすら正座。初めは慣れない正座に新鮮さを感じていたが、それも数十分とすれば飽きが出始める。指示されていた正座を黙って崩して手先を弄ったり頭の中で好きな曲を流したりした。案外監視カメラと言うのは常時監視されているわけではないようで、長い間正座を崩していたとしても特に何も言われることはなかった。 そして再び正座に戻ったのは廊下に監視員の足音が響いてからだった。 「004番、食事です」 下の窓からトレーに乗せられて出てきたのは簡素な食事だった。乾き始めている固めの麦米とぬるい野菜スープ、そして漬物が少々と暖かいお茶。私は004番と呼ばれ、名前で呼ばれなかったことに少々傷ついたが、黙ってその食事を頂いた。 育ち盛りの女子である私からしても物足りない食事だった。味も薄く、肉や魚などのおかずがない。お世辞にも美味しいとは言えない食事だった。 昼食が終わり数時間経過したように思える。その間は特に何もなく、時々見回りにくる監視員が窓を覗くたびに私は正座に座り直し、特に叱られることもなく時間を過ごしていた。そして、尿意が限界に近付きだしたのはそのあたりだった。私は部屋の奥に設置されている衝立が一切存在しないトイレを眺めて、葛藤の末、監視員に願い出たのだった。 「すみません、お手洗いに行きたいです」 見回りに来たところを狙って私は監視員にそう話しかける。 「あれ、冊子は読んでいませんか?トイレを使いたいときは『排泄、願います』と申告しなければいけませんよ」 監視員が行った言葉に私はあっけに取られた。その言葉は地下1階の『休憩室』で他の女性が言っていた言葉だ。 私はとっさに渡された冊子を手に取ると、該当のページを読んだ。するとそこには『排泄』という欄に『排泄を希望する場合は監視員にその事を告げ、『排泄、願います』と――』と確かに書かれていた。 「あ、えっと。排泄、ねがいます…」 「はい、よろしい。規則があまりに守れないようでしたら、さらなる厳罰がありますからね。今後の申告時は注意すること。では、今ちり紙を持ってきますので少々お待ちください」 私はその後監視員から数枚のちり紙を貰い、奥の洋式便所へ腰を下ろした。幸いなことに便器の向きは横の壁側だった。『休憩室』にあった排泄風景を隠すような衝立は無かったが、監視員の方を見なければあまり恥ずかしさは感じなかった。渡されたちり紙は雑紙のように表面が荒く、一般的に出回っているトイレットペーパーのような柔らかさは一切なかった。そのため尿が滴る陰部を拭く際はあまり擦らず、水分をちり紙に吸い付かせるように使用した。ただ、そのちり紙の吸水性はお世辞にも良いとは言えない。私は渡されたちり紙を全て使い切って便器の中へ入れると、扉まで歩いて監視員に願い出た。 「排泄終わりました。水洗、願います…」 「はい、よろしい。今からトイレの水を流しますので、流れてから数十秒の間に手洗いを済ませてくださいね。トイレの水洗と洗面台の水道は繋がっていますので、これを逃すと手を洗えませんから」 私は冊子に記載されていた水洗時の言葉を監視員に言った。監視員が扉から立ち去ってしばらくするとトイレの水が流れ始める。私は言われた通り洗面台のレバーを上げて手を洗った。だた、石鹸はない。今にも止まりそうな少量の水が零れる蛇口に手をかざし、できるだけ手を清めた。私は一連の作業に一気に疲れた来て「はぁ…」とため息を一つ溢す。濡れた手をタオルで拭くわけでもなく――タオルは支給されていないのだが――半ズボンの布で拭いて、再び部屋の中央で正座をした。 私は船津から渡された冊子を眺めていた。使い回されていると思われる、染みの付いた紙で作られたその冊子の表題は『保護房・概要及び規則』。 1. 収容者の権利と責任 保護房に収容される目的は収容者の更生を願い、自らの罪を自覚させる事にある。収容される収容者には憲法による基本的人権の尊重が義務付けられ、それらを監視する者のいかなる身体的、精神的虐待を受ける事はあってはならない。――中略――。収容者は規則で定められている範囲で監視者の言葉に速やかに従う必要がある。万が一従順な態度が見られない、その他の理由で従うことが困難と判断された場合は、一時身体拘束を施すことがある。 2. 保護房内の言動 保護房内では緊急性がない限り私語を禁ずる。認められる私語は以下の通り。『著しい体調不良』『保護房内の異常』『宗教上避けられない発声』『排泄』『その他の緊急な事案』。 保護房内では身体に異常がない限り収容者は正座で待機する事。 許可のない言動や暴言はさらなる処罰の対象となるだけでなく、刑期が伸びる原因にもなる。 3. 服装 収容者は監視員に許可を受けた服装のみ許される。許可のない着衣や脱衣を禁ずる。 4. 食事 収容者はアレルギーが考慮された食事を取ることができる。食事の時刻は8時、12時、18時の計3回が与えられる。収容者はこれらを完食する必要がある。もし食事の量が収容者と合わない場合は監視員と相談することができる。 食事の姿勢は正座に限られる。使用する箸が使えない場合は監視員と相談することができる。 5. 緊急時 収容者は施設の緊急時に監視員の監視が無くとも施設から逃げる事ができる。ただし24時間以内に最寄りの警察署に出頭する義務が発生する。その際の一般市民との接触は禁ずる。 6. 医療 収容者は適宜、必要な医療行為を受ける事ができる。 7. トイレ・入浴 収容者は排泄する際、監視員に排泄を申し出ることが出来る。排泄を願い出るときは「排泄、願います」と大きな声で発声する事。便器の水洗を願うときは「水洗、願います」と大きな声で発声する事。収容者は排泄の際に監視員から雑紙を貰うことが出来る。 収容者は1週間に1回の入浴が許可される。入浴の際は――省略――。 8. 監視員による捜索 収容者は監視員による室内検査に備え、常に室内を整頓していなければならない。室内の検査は必要に応じていつでも行う事ができ、それは収容者が就寝時であっても例外ではない。 9. 就寝 収容者は21時から7時の間、就寝することができる。ただし、避ける事の出来ない事案が発生した場合は例え就寝時間であっても、収容者は直ちに起床しなければいけない。 就寝時間の排泄を禁ずる。ただし、やむを得ない大便に限り使用は許可される。 収容者は支給された布団を部屋の中央に敷き、頭を扉とは反対に向けて就寝しなければいけない。支給された就寝道具一式は全て使用しなければいけない。(例:枕を使用しない。布団カバーを使用しない。等) 収容者は就寝時間が経過してから布団から出る事は許されない。ただし、緊急時を除く。 収容者は就寝時に顔を隠してはいけない。 10. 起床 収容者は監視員の合図、もしくはその他の合図により必ず起床しなければいけない。就寝道具を正しく畳み、定められた位置に置かなければいけない。 収容者は監視員の見回りまでに準備を整え、扉を向いて正座で待機し、監視員の点呼を待たなければいけない。 11. 運動 収容者は保護房の収容者であるため運動場での運動を禁止する。ただし、朝食後の8時30分から室内で軽度の運動をすることを許可する。ただし、床には片足が付いていなければならない。 12. その他 収容者は監視員の言葉を無視してはいけない。 収容者は監視員の許可を貰い、洗面台の水を飲むことが許される。 収容者は室内で飛び跳ねてはいけない。 収容者は部屋を過度に汚してはいけない 収容者の自慰を禁ずる。またそれに似た陰部を摩擦する行為も禁ずる。 「厳しいな…」 私はそう言葉を溢した。特に最後の一文、『自慰の禁止』が盛り込まれている事にはとても驚いた。そもそも家以外で自慰を行うこと自体自分にとってありえない話ではあったが、わざわざそこに記載されているということは、前にここに収容されている人がそれを犯したという事だろうか。 ただ、人間の三大欲求は食欲、睡眠欲、性欲だ。その内の生理的欲求1つを禁止するこの文章は生物的にどうなのだろうか。排泄や睡眠、その他の生理的現象は許可されているのにも関わらず性欲を満たすことは許されていない。いや、そのような事を考えても仕方がないのだろう。拘置所が考えていることは恐らくその生理的欲求が生死に直結するかどうかだろうから。 私はその後も、定期的に脚を崩しては監視員の目を誤魔化していた。昼食を取ってから6時間という何もない時間をただ鉄の扉を見るだけに費やす。とても無駄な時間に思えたし、途中、とても外に出たくなる衝動に駆られ、抑えるので精一杯だった。 夕食を取り、特に何もない時間を過ごして時刻は就寝時間になった。私は監視員から歯を磨きたいことを申告したが、どうやら歯を磨けるのは朝のみらしい。体も洗えず、歯も磨けない。せめて着替えだけでもしたかったが、それも却下された。不快感が溜まる中での就寝となる。 規則が書かれた冊子に乗っ取り、私は布団を部屋の中央に敷いた。敷き布団にカバーをかけて、枕を扉と反対側に置く。掛け布団は一枚の毛布だった。 監視員から就寝時刻の合図があると、私は黙って布団の中へ入った。部屋の照明が薄くなり、大きな光は廊下からの染みる照明だけになった。 他人の体臭が染みた布団と頭の上から漂う便所の匂い。頭を扉と反対側にさせたのは収容者に対する嫌がらせではないかと錯覚するほど寝心地は悪い。 私は目を瞑り眠ろうとするが慣れない環境と様々な臭いに邪魔をされて眠ることが出来ない。いつもなら、満足のいく食事を取り、風呂に入って自分から香るシャンプーの匂いに包まれながら眠るのだが、今日はその何一つ満足に至っていない。それに監禁されているという現実が私に孤独を感じさせ、心がぽっかりと開いたような気分にさせられる。布団で体が包まれ、光が落とされたこの部屋で思考が廻らないということはありえないだろう。ただただ押し寄せてくる孤独と焦燥。手首に残る手錠の感触と腰縄を引かれた時の虚しさ。私の心は段々と暗くなっていった。 「明日の裁判、ちょっと嫌だな…」 負の思考が連鎖し、私は明日へ不安を覚え始める。体も洗えず、手錠と腰縄で繋がれた姿を見られたくない。その思いが強まってくる。 「すうぅぅ、はあぁぁ、すうぅぅ、はあぁぁ」 不安を抑えるために深呼吸を試みる。しかし、それはその場しのぎでしかない。またすぐに私の心は深く沈み始めるのだ。もうこうなったら眠るためにはあの方法しかない。 「少しだけ…少しだけなら、監視員さんも許してくれるよね」 私は自分の左手をそっと胸に触れさせた。そしてゆっくりと下から支えるように揉み始める。流れるように反対の右手も同じように胸に伸ばして、全体を弄るように揉む。 「はぁ……はぁ……」 段々と心の闇が晴れてくるのがわかる。余計な事を考えず、ただ一つの事に没頭する。 頭の中は灰色から徐々に薄っぽいピンク色に変わり、幸せな感情に包まれ始める。 徐々に体温が上がり始めると、私はそのふわふわした柔肌の頂点に手を当て指の平で軽く擦った。すると、今までじんわりとした快感が広がっていた場所に、ぴりっとした細かい快感が現れる。 「んっ……」 声を出さぬよう口を閉じて呻く。鋭く尖った快感は胸全体に広がり、脊髄を通って脳まで到達する。もう、私の頭の中にはここに収容されている不安や心配は消え去っていた。ただ今感じているのは、快感を受け入れようと必死に尖り主張してくる乳首の刺激だけ。 「んっぁ、はんっ」 声が漏れ始めたところで私の右手は流れるように下へ下っていく。毛布の形が中央で盛り上がり、手が股間へ伸びていることが分かるだろう。拘置所で支給された半ズボンを捲り、その下の柔らかい綿に触れる。初めは優しく、あまり体を驚かせないように、ショーツの上から摩っていくのだ。 「はっんっ」 乳首が送り出す快感によって昂った体へさらに鋭い刺激が与えられる。思わず声が漏れてしまい、私は右手をいったん離した。恥丘の一番盛り上がっている場所の少しだけ下の場所。ショーツの上からでも感じる少しだけこりっとした硬い肉豆が。今日は一段と敏感に勃起しているようだ。何故だろう、恐らく極度の寂しさからだろうか。 私は今一度その硬くなった先端に指を下ろした。ピリッと鋭い電気が体を走るような刺激と、その後にくる染み渡る快感。感じているのはその先端だけではなく、もはや腰全体。勿論左手の乳首への刺激も欠かさないため、ほとんど全身が快感で支配し始めていた。 もう止める事はできない。 私は声を漏らしながらその甘い蜜を夢中で啜った。 「はぁっ、あっ、あぁっ、はうっ」 頭の中ではクラスの好きな男の子を思い浮かべながら、まさに今自分を慰めているのはその子だと妄想して。トントンと軽く触れていただけの刺激を突然擦り上げられるように変えて。 「あっ、まってぇ……」 一番敏感な場所をその男の子が虐めてくるという妄想。それは私の興奮をさらに昂らせる。慰めている右手がまるで自分の手ではないように、私は私の事を虐める。今一番感じる場所を、一番感じる触り方で。 指は止まらない。ここが拘置所の独房であることを忘れていた私は無我夢中でその快感に浸っていた。溜まっていくその快感はもうそろそろ自分の限界を超える。甘い蜜を溢さないようにじっくりと自分の中に蓄えて。 と、その時。 コツ、コツ、コツ、コツ 廊下を見回りに来た監視員の足音が響き渡る。私はとっさに口を閉じた。しかし、高鳴る心臓は急には落ち着かない。 「んふー、んふー、んふーっ」 まるでベッドで就寝している人とは思えない呼吸の粗さを周囲に響かせながら、じっと足音が過ぎるのを待っていた。 コツ、コツ、コツ……。ピタッ その足音は止まった。私の部屋の前で。 すると。 「004番、起きなさい」 女性監視員の低い声が部屋の中に響き渡る。ショーツに伸ばした手を毛布の中でゆっくりと戻そうとしていたが、その様子だともう遅いだろう。 私は半ば諦めながら、素直にその指示に従って布団から起き上がった。体を起こすとそこには監視窓から顔を覗かせる監視員の鋭い目がこちらを睨んでいた。 「004番、たった今、何をしていたのか説明できますか?」 「あ、あの…、ごめんなさい……」 私は規則で禁止されている自慰行為をしてしまいました。そう言えば良いのだが、自らの口で自慰をしていたことを認める発言はとても恥ずかしかった。 「ばれないと思っていたのですか?」 「いや、違うんです。もうしません…すみませんでした」 「はぁ、良い子にしてればいいものを……。とりあえず、お話をしなければいけないので、下の小窓から両手を出してください」 呆れたように声を漏らす監視員の女性。私は扉の前まで行くと、開かれた小窓から両手を入れた。すると手首に掛けられるあの嫌な感触が。私は手錠を掛けられてしまった。 腰縄に引かれ連れていかれたのは、保護房の扉から出てすぐ隣の『調査室』という部屋だった。中は、全ての壁がコンクリートの打ちっぱなしで出来ており、そこにあったのは大きめのテーブルと一つのパイプ椅子。テーブルとパイプ椅子は入り口側に寄せられていて、反対の壁には埋め込まれたU字金具と、その下の身体検査の時に見た足型のマーク。私は靴と靴下を脱がされて、その足型のマークに立つよう命令された。 「両手を後ろに」 片方の手錠が外されると、監視員は私にそう命令した。私がそれに従うと監視員は手錠を前手錠から後ろ手錠に拘束し、壁に埋め込まれたU字金具に腰縄の縄尻を巻き付けた。 「後ろ手錠は収容されている被疑者がさらに規則違反したときに取られる拘束方法です。拘束方法の中で最も不名誉なものと言われています。その意味があなたにわかりますか」 私は黙って頷いた。 壁に括りつけられた腰縄は常に張られている状態だった。それ故、手首を腰に近付けることができない。不名誉な拘束方法と彼女は言ったが、まさにその通りだと思う。前手錠に比べて後ろで手錠をされるのは拘束されている感覚が数倍跳ねあがるのだ。前手錠でも不自由していたものが、今では全く動かすことが叶わない。 私は自慰でイクことが出来なかったのも相まって不完全燃焼な気分と、ショーツの中に広がる愛液のねちょねちょとした不快感に気分を沈められる。 私はしばらくそこで立たされていた。監視員が「準備をしてくるので待っていなさい」言ったので、私は誰もいない空間で手首を後ろに縛られながら、ただ待機をさせられていた。