私はどうなってしまったのだろうか。 異質な空間で異国の生活。 それも文明とは程遠い未開の生活。 あの日確かに私たちは撮影のために訪れた島のプライベートビーチで余暇を過ごしていた筈だった。 それがどういう訳か、今では裸体同然の体で原始生活。 アイドルとして人一倍気を遣い白く保っていた肌はすっかり小麦色に染まり、 全身びっしりと部族の紋様を示す刺青が施されていた。 最初島で目を覚まして自分の置かれた環境を再確認した時、 恐怖とも混乱とも付かない震えと汗が止まらなかった。 その時、私は初めて気絶というモノを経験した。 あの日目覚めてから私の様子がおかしいことを察したのか、 プロデューサーたちはすぐに私を気遣ってくれた。 そして私がいまの訳がわからない状態を正直に話すと、 多少の驚きを露にしたものの、今までの出来事を丁寧に説明してくれた。 どうやら私たちがこの島での原始生活を始めてからもう一年以上が経過しているらしい。 だが私にだけその部分の記憶が無い。 あの時プライベートビーチでみんな溺れて、気が付いたら この名も無き島に流れ着き元の場所に戻る手段も無い状態。 プロデューサーの話では、それから生きていく為に部族の一員として迎え入れて貰い、 いま日々を過ごしているとのことだった。 そこまでの記憶は他のみんなで共有しているのだけれど、私にだけは無い。 突然部族の一員として目覚め、 プロデューサーや甘奈ちゃんや甜花ちゃんと比喩ではない本当の家族となっていた。 そしてあろうことか、私たちはそれぞれプロデューサーの子供を一人身籠り、出産していた。 この島で目覚めてから畳掛けられる衝撃の事実に、私の頭はあっさりと許容量を超えてしまった。 「そうなんですね・・」 プロデューサーから一通りの出来事を伝えられて、 私の口からはぼんやりとしたどこか他人事めいた言葉が零れ出ていた。 私の心は戸惑いと動搖に支配され、事実を突きつけられても上の空だった。 これは夢であってほしい。 そう儚い願いも虚しく、五感で接する感覚は全て現実世界のもの。 つまり遭難も、焼けた肌も、刺青も、出産も、聞かされた全てが現実。 みんなでアイドルとしての生活を謳歌していたあの頃から一転、 今は名も無き島で不可逆の原始生活。 これを過ぎ去った過去としてすんなり受け入れろと言う方が無茶な話だ。 私は気が付くといつの間にか震えていた。 それを抑えようと、自分の身を抱くように両腕を握りしめた。 今では常に露となっている乳房が締め上げられる。 すると両胸がじわりと熱くなった。 私は違和感の正体を確かめようと、己の胸を見下ろした。 すると婚姻の証であるらしいリングが取り付けられた二つの乳首の先端から 乳白色の液体が滲み出ていた。 それを見て私は確信した。 この身はもう母なのだと。 アイドルとは程遠い未開部族の女。 俯いた私の瞳からじんわりと熱いものが溢れ出てきていた。 するとプロデューサーは、浅黒さを帯び逞しくなったその腕でぐいと私の身体を引き寄せた。 部族の原始生活で一層鍛え上げられた厚い胸板。 私は成す術も無くあっさりとプロデューサーの懐に収まった。 プロデューサーの浅黒い肌に彫り込まれた刺青が間近に迫る。 熱い体温とプロデューサーの体臭がすぐそこで感じられた。 「ぷ、プロデューサーさん!?」 途端に私の心と下腹部がじんわりと熱くなった。 私自身としては初めてだが、この身体は何かしら違う記憶に反応を示している。 それはプロデューサーたちと島での生活を共にした私としての記憶だろう。 夫と妻、男と女としての記憶。 不思議とそれらが今の私へと沁み込んでいくような感覚になった。 「千雪・・」 プロデューサーの囁きで私は我に返った。 「気を滅入らせてしまってすまない・・。過去に区切りを付け切れていないんだろう?」 プロデューサーの俯きがちな謝罪の言葉を私は慌てて否定した。 「そ、そんな!プロデューサーさんは惡くありません!私ちょっと・・まだ混乱してるみたいで・・」 私は取り繕うように弁明した。 事実どうなのだろう。私は自問自答した。 プロデューサーのいう様に、私は記憶障害を起こしているだけなのか? それとも最近流行りの作品よろしく、違う世界にでも迷い込んでしまっているのだろうのか? 思慮に耽りかけている私をよそに、プロデューサーは言葉を続けた。 「俺はあの時の決断を今も悩む時が有る。喩え何としてでも生きていくためとはいえ、 若い身空のお前たちにこんな境遇を強いてしまったのだから。 仮に今助けが来たとしても、こんな身体ではもう人様の前に戻る事は出来ない。 俺は兎も角、アイドルとして輝いていたお前たちおあの姿を、未來を。俺は完全に絶ってしまったんだから。」 プロデューサーは少し声を震わせながら、太い腕で私をぎゅっと抱き締めた。 暖かさを帯びた心地よい感覚が私の身体を満たした。 「千雪の記憶障害はその顕れだと思っている。たとえ無意識だとしても、 過去への想いが捨て切れないのも嫌というほどわかる。 俺は妻である千雪にそんな想いをさせてしまった。本当にすまない。」 プロデューサーは私を抱き締めたまま、私の耳元で何度目かの謝罪を口にした。 私はそっとプロデューサーの暖かい腕に触れ、プロデューサーの想いを玩味した。 するといままでの心の大きな痞えが、融解する氷の様にゆっくりと溶けていくのが分かった。 プロデューサーたちの知っている、私の知らない私が徐々に心へと染み入るように馴染んでいく。 私の持つ記憶が正しいのか、この世界が正しいのか、そんな事はもうどうでもいい。 過去がどうであれ、私は今を生きなければならない。 それに私は一人じゃない。 ここには愛する夫、家族、子供達がいる。 それだけでも生きていくには十分な幸せだ。 私はプロデューサーの腕をしっかりと握りしめ、新たにした私の想いを口にした。 「プロデューサーさん、謝らないで下さい。」 私の言葉にプロデューサーがぴくりと反応した。 そして抱き締める腕をゆっくりと離し、私の瞳を見つめてきた。 私は微笑みながら、続けてプロデューサーへの言葉を紡ぐ。 「私、やっぱり不安だったんだと思います。突然こんな事になってごめんなさい。 記憶を少しを失ってからは色々な思いが押し寄せてきて不安でしたけど、 今はもう大丈夫です。まだ色々と思い出せない事が有りますけど、 これから頑張って思い出します。私の愛する人たちの為にも、ね。」 私はたどたどしいながらも込み上げた想いそのままを決意表明とし、 未だ少し不安げなプロデューサーの顔を覗き込みながら再度微笑んだ。 すると不安を帯びていたプロデューサーの顔が乍ち破顔した。 そして再度私を引き寄せ、今度は更に強い力で厚い抱擁をし、耳元で囁いた。 「ありがとう・・ありがとう千雪・・」 私はその抱擁を成すがままに受け入れ、一身に愛する男の愛情を迎え入れた。 そして同じだけの愛情を、抱擁を以てして応えた。 少時の抱擁を終えると、ふとプロデューサーが照れくさそうな顔を私に向けてきた。 「千雪・・その・・なんだ・・」 プロデューサーは目線を逸らしながら私に何か言いたげが素振りを見せた。 「その・・プロデューサーじゃなくて・・いつものように呼んでくれないか?」 褐色に染まったプロデューサーの顔が赤みを帯びる。 その仕草と言葉に、私は何故かすぐ合点がいった。 こうしている間にも、もうひとりの私と少しずつ記憶の摺り合わせが出来てきているのかもしれない。 私もつられて顔が赤くなるのを感じ、嬉しさと笑みがこぼれた。 「ふふ・・はい、あなた♡」 私が想いを新たにしてからというもの、記憶の摺り合わせは劇的に改善していった。 生活リズム、村の仕事、行事、一度体験すると手馴れた手つきで作業に臨めて驚いた。 だが一番驚いたのは部族の言葉がすらりと頭から出てきた時だった。 今では日本語と同じ感覚で使いこなせている。 それはみんなも同様らしく、 どうやら私たちは長い時をこの村で過ごしていたようだった。 プロデューサー、甘奈ちゃん、甜花ちゃん。 事務所での他愛ないやり取りが、ここ名も無き島でも同様に送られていた。 みんな不思議と明るく日々の島生活に勤しんでいる。 プロデューサーはもとより順応性の高い甘奈ちゃんはどういう環境であれ、 環境に適応して生きていくだろうと予想はしていた。 想像通り、甘奈ちゃんは快闊な性格で村の人々ととてもうまくやっていた。 意外だったのは甜花ちゃんだった。 日本での彼女は、お世辞にも社交的とは言い難い性格だった。 しかし今の生活ぶりは、そんな過去などすっかり無かったかの様に身を潜めていた。 甜花ちゃんも明るく村の人間と会話を交わし、 せっせと自分の仕事を熟し、私たちの子供達の世話を焼いている。 私たちの家族は三人の子供がいる。 全て夫である元プロデューサーの子供たちだ。 村では重婚が認められているらしく、 私たちは皆プロデューサーの妻となりそれぞれ子供を授かっていた。 この村では成人した者は皆伴侶を得る義務が有るらしく、 それは新しく部族の一員として加わった私たちにも同様であったらしい。 見目の物珍しさもあってか、当初は村の男性たちからの求婚が絶えなかったようだ。 それをプロデューサーが身を挺して他の男たちと村の掟に則って勝負をし、 辛くも私たちを妻として迎え入れる事に成功したらしい。 私はプロデューサーの想いに改めて感謝をした。 そんな或る日、プロデューサーが夕餉の後のひと時ふと私たちに提案を持ち掛けてきた。 「今年の収穫奉納の儀式、三人で奉納舞踊に臨んでみないか?」 私たちは三人揃って子供達の授乳をしているところを話しかけられ、三人同時に顔を上げる。 プロデューサーは私たちの反応見ると続けて話した。 「去年もやっていたあれだ。村から選抜で踊り子を選び特別な衣装を纏い 奉納の舞を踊る儀式。みんなが踊り子を見る様子を見てどうかなと思ってな。」 私にその時の記憶は無いが、 プロデューサーは私たちのその時の様子を見てくれていたようだ。 特別な衣装を纏い、皆の前で歌い、踊る。 嘗ての姿を重ね合わせ、羨望の眼差しを向ける私たち。 その時の様子が手に取るように想像できる。 「はい!甘奈たち、やりたい!ね!甜花ちゃん!千雪さん!」 一番に声を上げたのは甘奈ちゃんだった。 持ち前の元気で、左手で子供を抱えたまま大きく右手を空に掲げる。 その声に反応したのか、甜花ちゃんも慌てて小さく片手を上げた。 「て。甜花も・・やりたい!」 性格はだいぶ社交的になったとはいえ、 いつもの面々といる時には昔ながらの反応を示す甜花ちゃんを見て、 私はなんだか安心してくすりと笑ってしまった。 「千雪さんも勿論やりたいよね!?」 不意を突いたように甘奈ちゃんが私に話を振って来る。 私はすっかり慌ててしまって言い澱んでしまった。 「え、ええと・・そう・・そうね。」 歯切れの悪い返事。 その様子を察知したのか、みんなの視線が此方に集中する。 「千雪さん、昔みたいに甘奈たちと踊るの嫌?」 甘奈ちゃんがしゅんとした表情で此方を覗き込む。 息を合わせたように甜花ちゃんも同様の表情を此方に向ける。 「甜花・・千雪さんと・・また一緒にやりたい・・」 双子からステレオで畳掛けられる視線に、私はすっかり心を押しやられていた。 「千雪?もしかして、まだ人前で演ずるのに抵抗が有るのか?」 とどめにプロデューサーが私の心を突いてくる。 完全に図星だった。 この村での生活に馴染み始めているとはいえ、それはまだまだ抵抗が有る。 理由は単純な事で、部族の民の出で立ちは基本裸体だという事だ。 裸体に申し訳程度の裝飾。それが部族民の基本スタイルだ。 腰蓑やブラといった性的證徴を最低限隠匿するという、 我々が想像する原住民の姿とは程遠い姿。 私も最初はたまらず陰部を覆い生活をしていたが、それも今は昔の話。 今ではそれなりに順応して生活をしている。 その過程は他のみんなも同じらしかった。 だがやはり元文明人としての固定観念もある。 堂々と闊歩する人々の、剥き出しになった男性器には思わず赤面してしまう。 普段でもそれなのに、人前での奉納舞踊ともならば猶更だ。 その上艶めかしい奉納舞踊なぞしようものなら、健康な男性は当然のように反応する。 隆起する下半身。 夜の営みでプロデューサーのそれを見る様になってある程度慣れたとはいえ、 一度に多数の男性からそんな反応をされてしまうと、とても平静を保てない。 不思議と甘奈ちゃんと甜花ちゃんは、そのような事に抵抗は無いようだった。 (さすがに若い子は違うなあ・・) 私はさほど齡も変わらないくせに、ついそんな年寄りじみた事を思ってしまった。 「千雪、俺はお前たちのステージがもう一度見たい」 プロデューサーはキッと真剣な表情を浮かべて私に語り掛けた。 「お前たちの未来を絶ってしまった事を今でも悔いている。 だから今度は今一度お前たちをステージに上げたい。 そのためには全力で支援する。 俺の為にも、やってくれないか・・?」 プロデューサーの真剣な眼差しと共に、プロデューサーの心が垣間見えた気がした。 彼はいつでも私たちの事を考えてくれていた。 業務なぞ既に適用される筈もないこの名も無き島でも。 ならば小さな私情に捕らわれず、今こそ私たちが彼に報いなければ。 私はきっと口角を引き締めた後、口を開いた。 「わかりました。私、やります!アルストロメリア、みんなで再始動させましょう!」 それからの日々は早かった。 毎日村の仕事を終えてからみんなで練習に励んだ。 トレーナーの代役はプロデューサーに努めてもらった。 私たちを一番長く、よく知る人の目は的確だった。 日々の練習は慣れているとはいえ、 初日はアイドルであったあの頃と違った感覚に色々悩まされた。 まず自分が裸体であるということに加え、衣服の無い状態で踊るという違和感。 舞う度に固定されていない乳房が揺れ動きに少なからず影響を与えてくる。 婚姻の証である鼻輪や乳首のリングから、 舞う都度刺激を受けてしまうということ。 そして何より私たちの踊りを見て隆起させる男性陣の姿が一番堪えた。 練習の見物に寄ってくる男たちの下半身は、憚る事無く皆いきり立っていたのだ。 そしてそれはプロデューサーも同じだった。 嘗ては私と同様に恥を感じていたらしいが、今の彼にはその様子は微塵も無い。 堂々と腕を組んで私たちの指導に臨んでいる間も、 皆と同じように隆起していた。 踊りの最中、ちらりちらりとその様子が目に映る。 私は踊りの間、毎回必死に自分の秘所が反応しないように堪えた。 生殺し。 そんな言葉が、練習の都度私の脳裏を過り続けていた。 そして私の努力は、それらすべてひっくるめてとんでもない状態で発揮されてしまった。 長老や族長、呪術師など村の重鎭が審査を務める選抜の儀でそれは起こった。 私たちは日々の練習とおりに熟し、歌や踊りを披露していた。 私たちの踊りを村のみんなが凝視してくる。 それはプロデューサーも同じだった。 いつも通り腕を組み、此方を見守ってくれている。 度重なる練習で或る程度克服できていたとはいえ、 私の心は色々な感情で今にも溢れかえりそうになっていた。 (みんなが視てる・・プロデューサーさんも・・私たち、私を・・視てる・・) そう思い、必死に堪えていたその時だった。 プロデューサーの方をちらりと見やると、その顔は先刻とは違い淡く破顔していた。 その表情を見た瞬間、私の心で何かが花開いた。 込み上げる想いを抑えきれず、たちまち何かが溢れ出す。 (あ!!) その時私はやってしまったと後悔した。 己の秘所から熱いものが太腿を伝いゆっくりと流れ出るのを感じる。 一度流れ出始めたそれはとどまる事を知らず、舞っている最中も止まらない。 踊りが激しくなる度に、流れ出たそれは太腿を擦らせる度に淫靡な音を立てた。 それは私が舞う度にぬちゃり、ぬちゃりと聞こえてくる。 私は激しく赤面しながらも、 出来得る限り周りの音を遮断して歌と踊りに専念した。 それでも聞こえてくる。 誰かがおお、と驚嘆する声。 誰かがごくりと嚥下する音。 それらは私の動きに余計な添加剤として作用していた。 (まるで性行為・・) そんな事を思い描きながら私は舞った。 すると儀式後半は不思議と気持ちが良いものとなっていた。 悦楽に満ちた表情を浮かべながら舞う私。 ちらりと重鎭たちを見やると、皆年甲斐も無く反応していた。 その様子に私は動搖と興奮を覚え、得も言われぬ達成感を得ていた。 そして終演を迎えると、一瞬の静寂の後に周囲から大喝采が巻き起こった。 みな喜びの表情と大きな拍手で私たちを祝福してくれていた。 歓声のシャワーを浴びながら、私は嘗ての自分に想いを馳せていた。 (どこにいたって、どんな境遇だって、私たちは頑張れる。みんなを笑顔にできる) 私は自分の犯した失態なぞすっかり忘れてしまい、みんなと喜びを分かち合った。 私は甘奈ちゃんや甜花ちゃんと抱擁を交わした後、 近寄ってきたプロデューサーと一層熱い抱擁を交わした。 プロデューサーの隆起した熱い下半身が私の下腹部に触れる。 (!!) 私の秘所はたちまち反応した。 粘液が脚を流れ伝う感覚に、私は何度目かの赤面を経験した。 それを目ざとく見つけた観衆から、囃し立てる声が上がる。 それを聞いた私は溜まらず、隠れるようにプロデューサーの胸に飛び込んだ。 するとプロデューサーは私の身体をしっかりと抱き締めてくれた。 プロデューサーの暖かさが心地よい。 続けて甘奈ちゃんや甜花ちゃんも私の背中を覆うように抱き付いてきた。 私は皆に包まれたまま、演舞の余韻に浸った。 その行為に観衆は最高潮の盛り上がりを見せた。 私は早く終わってくれといわんばかりに、 そのままの姿で縮こまり続けた。 あの選抜の儀から、はや半年以上が過ぎようとしていた。 ここに四季は無いが、日本で例えると秋頃といったところだろう。 ささやかな村の作物收穫も粗方終わり、いよいよ迫る奉納の儀が近付いていた。 三人揃って文句なしに大役を勝ち取った私たちは、 いよいよ迫る本番に向けて私たちなりの調整をすすめていた。 いつもと変わらない練習と同じ事をするだけ。 そのはずだったが、ここ数か月の間に私の身体はかなりの変化を帯びていた。 (ずいぶんおおきくなっちゃったな・) 今日の仕事を終えた手でそっと自分のお腹をそっとさする。 大きく膨らんだお腹には、二人目の子供が宿っていたのだ。 (あの時・・だろうなあ・・) 私は何気なく青く広がる空を見上げて思い起こした。 大役を勝ち取ったあの日の夜、 私は昂る感情を抑えきれずにプロデューサーに何度も求めてしまった。 甘奈ちゃんや甜花ちゃんと三人で代わる代わる夫を求める熱い夜だった。 根拠は全く無いが、不思議と女の勘で何となくあの時授かった事が分かった。 そのことに後悔は無い。それどころか幸せに満ちている。 問題は出産より前に儀式が重なる事だった。 大きなおなかを揺らして以前の舞踏をするのは難しい。 日本であるならば、早々に辞退や延期も考えられたであろう。 しかしここは場所も文化も違う異郷の地である。 一度決まった事は覆せない。 努めは果たさなければならない。 プロデューサーは即座に演舞の内容を緩やかな動きへと変更提案してくれた。 そして村の重鎭たちへの掛け合い、儀式の調整など、 プロデューサーも昔と同じように各所へ迅速な手回しもしてくれた。 私は心の中でプロデューサーに、夫に改めて感謝の念を伝えた。 「千雪、ここにいたか。」 すると突然背後で張本人の声がし、私は慌ててふりかえった。 「ぷ、プロデューサーさん!?」 私は慌てるあまり、昔の呼び方に戻ってしまった。 そんな様子を、プロデューサーは少し寂し気な顔を浮かべていた。 私はしまったと後悔した。 急いで弁明しようとすると、 プロデューサーはすぐに元の顔に戻り、私の手を取り歩き始めた。 「ちょっと来てくれ。衣装の試着を頼みたい。」 私のてを握り、歩きながらそう告げるプロデューサー。 日常万事裸同然の生活をしているのに、どうやら儀式には衣裝が存在するらしい。 私は不思議に思いながら、 プロデューサーに手を引かれるまま我が家の方に向かった。 「あ!千雪さーん!」 我が家の前には大きく手を振る甘奈ちゃんの姿が有った。 その傍らで小さく手を振る甜花ちゃんも一緒だ。 私はよく分からないまま、今度は二人に手を引かれ家の中へと連れ込まれた。 「甘奈たちはもう試着しちゃったから、千雪さんが切るの手伝ってあげるね!」 「・・ちょっと、最初は着方・・わかんないかも、だから・・」 嬉しそうな二人に連れ込まれた薄暗い家の中の食卓に何やら置かれている。 「・・え?衣装?・・え?これが?」 私の頭はあっさりと許容量を超えてしまった。 そこに有るのはレース地の多用された透過布、赤く映える一輪の花、 申し訳程度の白い布地、金色に輝く腕輪、貝や木の実を繋ぎ合わせた首飾り、 それだけだった。 着る、という概念が年月と共に風化してしまったのだろうか? 一瞬そう思ったくらいに着方が分からなかった。 いや、そもそもこれは服なの? 私が固まったまま棒立ちしていると、 察していると言わんばかりに二人がてきぱきと私に着せ始めた。 「これ、着方わかんないよねー。甘奈たちも最初戸惑っちゃったよ。」 「・・でも千雪さん、きっと似合う・・にへへ。」 二人は楽しそうに私を彩っていく。 反面私は些かの不安が募っていく。 この衣装、これはどう見てもアレにそっくりで・・。 「出来た!もういいよー!」 甘奈ちゃんがそう大きく声を上げると、 外に居たプロデューサーが中に入ってきた。 慌てて其方へ振り返る私を視て、プロデューサーは少し困惑した様子だった。 「あ、ぷr・・あなた・・どうかしら・・?」 私は恥ずかしさを抑えながら、プロデューサーへ問いかけた。 そうは言ったものの、私は逃げ出したい気持ちで一杯だった。 レースのウェディングベールに一輪の花飾り、 口元は踊り子がするようなフェイスヴェール、 腕や首には貝や木の実本物と思しき金を誂た装飾品 腰巻には辛うじて透過しない布地が使われているものの、 下腹部はこれまたレース地の布が心許なく垂れさがっている。 肝心の乳房はそのままで、露なままの乳首からは母乳が滲み始めていた。 まるで如何わしいお店の風俗嬢。 そんな言葉が私の脳裏を飛び交う。 ここまでくると、いつもの裸でいる方が遥にましだった。 私の問いかけにプロデューサーは沈黙したままだったので、 私は逸らしたままの視線をゆっくりとプロデューサーの方へと向けた。 すると即座に目に入ったのは、彼の隆起した下半身だった。 私は戸惑いと共にそれを凝視してしまった。 「いい・・きれいだ千雪・・とてもいいぞ」 プロデューサーは感嘆に満ちた言葉を漏らした。 この衣装はどうやらプロデューサーの心を意外にも捉えてしまっているようだった。 (これが男性の嗜好?みんなこういうのが好きなの?) 私が不思議めいた面持ちのままでいると、 プロデューサーはそのまま私の方へと歩みを進めてくる。 「今回の件で、なんだか昔を思い出す機会が増えたよ。そしてすごく嬉しくなった。 またお前たちがみんなの前で歌い、踊る姿が見られるなんてな・・。」 プロデューサーはしみじみとそう語ると、私の片手を取った。 すると示し合わせたように、 甘奈ちゃんと甜花ちゃんも私とプロデューサーの手に己の手を載せてきた。 私はみんなの顔をそれぞれ見やった。 みんな想いは同じらしく、一同満面の笑みを浮かべている。 私は一度眼を閉じ。心を束ねた。 どういう状況下であれ、成功させてみせる。 みんなで、きっと。 そして眼を見開き、まっすぐプロデューサーを見つめた。 「はい。私、いいえ、私たち、頑張ります! 昔の様に、あの頃と同じように。」 そう区切り、私は残ったもう片方の手をみんなの手の上に重ね、 そして続けた。 「だから、しっかりと見届けていて下さいね!あなた!」 そして誰からともいわず、お互いに腕を廻し、皆で抱き合った。 以前依頼以外でぼくが描いた千雪さんの物語の続きをとの事でしたので、頑張って描いてみました。駄文は依頼者様のあらすじを頂いて、ぼくが書き綴りました。あれもこれもと追加して書いているうちに、ぼくにしては長文になってしまいましたが御容赦下さいませ。