頭が痛い。まるで鉛が入っているように重い。 息が苦しい。まるで得体の知れない何かが喉に痞えているように。 どこまでも暗い。まるで夜明け前の闇夜のように。 身体が動かない。まるで仕事で疲れ果てた夜の悪夢のように。 冬優子は夢の中で必死に藻掻いた。 悪夢特有の得体の知れない恐怖と苦しみ。 形容し難い気味悪さが拭い去れない。 まるで二度と逃れられない何かに繋がれているようだった。 肌に纏わりつく束縛の空気。 それは二度と外れない枷。 (なんなのよ、これ!) たまらずに意識を覚醒へと集中させる。 (こんな悪夢、早く終われ!) 冬優子は夢の中で思い切り叫んだ。 「・・・・われ!!」 冬優子は自分の声で目を覚ました。 目を開けると見知らぬ天井が目に入って来た。 草と木を編み上げて作られた天井。 余りの異質な空間に理解が追い付かない。 横になった状態のまま辺りを見回す。 薄暗いそこはどうやら草と木で作られた簡素な小屋らしかった。 小屋と言ってもかなり簡素で、編み上げられた草の壁からは外の光が漏れてきていた。とはいえ小屋の中に照明らしきものは無く、外からの光が唯一の光源のようだった。 (ここ・・どこだっけ?…痛ッ!) 冬優子が起き上がろうとすると乍ち激しい頭痛に見舞われ、 冬優子は溜まらず声を上げ頭を押さえる。 そして痛みを堪えながら状況を整理する。 (ん・・確か・・ロケで・・) 冬優子は思考を巡らせながら無意識に肌をなでた。 身体がじっとりと汗ばんでいるのが分かる。 その時ようやく自分が裸で寝かされていたことに気が付いた。 「は!?なによこれ!!」 冬優子は一気に現実に引き戻され、溜まらず飛び起きた。 辺りは相変わらずの薄暗さだったが、徐々に目が慣れてきていた。 おかげで次第に自分の状況がはっきりと眼に映り始める。 すると心の奥底から得体の知れない恐怖がこみ上げてきた。 なにかがおかしい 冬優子は次第に明らかになる恐怖に身体を震わせ始めた。 記憶がぼんやりとはっきりとを繰り返し次第に姿を現し始める。 いやだ 次第に明瞭になる記憶と今の己の姿に心が拒絶する。 だれか、うそだといって 冬優子はがたがたと震える手を上げ己の肌を見つめる。 黒く焼けた肌、その肌に刻まれた謎の紋様。 冬優子は噓だと願うように、必死に肌を擦って紋様を落とそうとする。しかしそれは消えることは無かった。そして己の身体を確認すると、刺青は無情にも全身に施されていた。しかし冬優子はそれ以上の更なる恐怖を認める事になる。 「あ。ああ・・ああああ!」 冬優子の歯がガチガチと恐怖で鳴りやむことなく室内に小さく響く。 冬優子の身体はアイドルとして日々研鑽した肢体とは全く別物へと変貌を遂げていた。 ポタポタと母乳を垂らしながら大きく肥大し垂れた乳房、 大きな輪をあしらわれた乳首、 産後のそれを思わせるほどに醜く弛んだ腹部、 黒く変色し、すっかり伸びきった陰唇、 ぽっこりと開いたまま閉じることなく開き切った膣、 そしてそこから漏れ出す白く濁った液体。 冬優子の心は恐怖の極限に達し、そのショックで忘れていた全てを断片的に思い出し始めた。 無理な海外ロケ、スタッフの身勝手、危険な未開の部族、強行ロケ、襲撃され全滅する取材班、一人囚われ部族長の息子の妻にされる自分、呪術師の投薬洗脳、精神破壞、刺青施術、婚姻、出産。 「ああああああ!!!!あああああ!!!」 冬優子は頭を押さえながら倒れ込み、壊れそうな心を維持するかの樣に無意識に大声で叫んだ。 冬優子は思い出してしまった。全てを忘れ、押し付けられた仮初の幸せに身を浸していた日々の或る日、呪術師が冬優子に行っていた定期的な投薬を受けた途端、強烈な眩暈を覚え瞬く間に倒れ込んだ事を。 すると冬優子の叫び声を聞きつけたのか、一人の若い男が小屋の中へ飛びいる様に入ってきた。屈強で浅黒い肌、奇異な装飾品で飾られた鼻や耳、ほぼ裸というべき出で立ち、そして全身に彫り込まれた冬優子と同じような刺青。冬優子はすぐに理解した。それが自の夫であるという事を。 夫は安堵したような表情で冬優子に微笑みかけた。そして冬優子に近寄りそっと冬優子の頭を撫でた。 嘗ては愛する夫からのその行為は、とても嬉しく同時に性的興奮を覚えるものだった。だが今は違う。 反射的に冬優子はぞくりとおぞましい程の嫌悪感を覚え、夫を全力で突っ撥ねて拒否した。 「なによあんた!!近寄らないで!!」 その言葉に夫は吃驚した表情を浮かべる。明らかに動搖している。 「dfvbん?mじゅygvhj??」 夫は現地の言葉で「どうしたフユコ?大丈夫なのか?」と冬優子に問うてきた。冬優子は現地人の言葉が理解できる己を酷く嫌惡した。それほどまでに部族の一員として馴染んでしまっていたのだ。 己の葛藤を押し殺し、冬優子は嘗ての夫を睨み付けた。 「・・よくも・・よくもふゆをこんな身体に!・・どうしてくれんのよ・・!!ふゆを・・ふゆをここから出しなさいよ!!」 冬優子は込み上げる怒りと共に大粒の涙を零し始めた。 その様を夫はただ唖然と見つめていたが、ふと我に返ったように大声で小屋の外に叫び始めた。 「xcvfgtkl;;:うy!!slsyf、、ggq!!(呪い師を呼べ!!薬を持って来させろ!!) その言葉に冬優子は危険を感じた。このままでは不味い。あの呪術師の怪しい薬でまた全てを書き換えられてしまう。 「っ!!」 冬優子は反射的に逃げ出そうと勢いよく立ち上がった。しかし途端に強烈な眩暈に襲われバランスを崩し無様に倒れ込んでしまった。 夫は冬優子の意図を察知したようで、即座に冬優子に覆いかぶさり冬優子の身体を押さえ付けた。圧倒的な体格差の下、こうなってしまっては最早どうにもならなかった。 「・・・っ!!ちょっ!・・離しなさいよ!!」 冬優子が抗い切れない腕力で押さえ付けながら、夫は冬優子に顔を近付け囁くように愛の言葉を紡いだ。 「dびdy;;ttlb・・drwpbろdgcっbsぇ;どg(愛しているよ・・すぐによくなるから安心して)」 冬優子は恐怖とおぞましさの中に、どこか愛おしいと感じる己の心を怒りと嫌惡で押さえつけた。これは洗脳が解けていないのか、はたまた己の本心なのか。夫の吐息と頬擦りによる愛撫が繰り返される度に心が戸惑う。 そんな二人をよそに、小屋の外から器を手にした一人の老人が小走りに駆け込んできた。 「ぢえlphyh(お待たせしました)」 「fすw@@f・9うp?drぎぇlppszっぱwゆっでxcヴ(今度は調合は大丈夫なんだろうな?おれの愛する妻だ。しくじるな) 二人の男の短い不穏な会話が交わされると、老人の手にした器が冬優子の口に向けられる。器には見覚えのある、鼻を突く臭いのする黒い液体。冬優子はいつも「フユコのため」と称されて飲まされ続けてきたあの薬だと即座に理解し恐怖した。そして冬優子は無駄とは分かっていながら必死に抵抗した。 「ちょ、嫌!!離しなさいよ!!やめなさ・・んぶ・・!!」 冬優子は二人がかりで口と鼻を押さえ付けられ、容赦なく黒い液体を口に注がれる。たちまち喉を滑り降りるそれが鳥肌を催す。もうどうにもならない。恐怖が冬優子の身体を支配した。ガタガタと震える身体。しかしそれもすぐに薄れつつあった。ぼんやりとした意識にふわふわとした心地よさ。全てが消されていく。それが終わればまたいつもの生活に戻る。愛する夫と愛する我が子。優しい部族のみんなといつまでも続く幸せな日々。何も心配は要らない。全ては平穏無事。ずっと続く平和。恐怖。 いやだ だれか たすけて めい あさひ ぷろでゅーさー たすけて あんた たすけなさいよ おねがいだから ねえ フユコは心地よい眠りから目を覚ました。 いつもの爽やかな朝。今日も一日みんなとの楽しい生活が始まる。 隣には愛する夫と我が子。 二人ともまだ寝入っている。 フユコは微睡んだ瞳でそんな二人を見つめ、優しく微笑んだ。 更新長らくお待たせしました。 今回は拙作の続きが見たいアンケートで一位だった部族化冬優子の続です。冬優子ちゃんは今日も村で元気に且つ幸せに暮らしています♡