春雷(予告編)
Added 2018-10-27 11:05:28 +0000 UTCはらはらと、君の視線が落ちていく。 所在なさげにさまよう視線はまるで花弁が舞うようで、それでいてゆっくり下へと向かっている。 今晩しようと誘ったのは君の方なのに、うつむきがちな顔には朱色がほんのりと浮かんでいた。それはまるで化粧のように君を魅力的に見せるから、平時鋭い眼光を柔らかく中和してくれている。 朱を散らすのは顔ばかりではなく、その起伏の大きい肉体にも、その長い尻尾にも。 まるで桜の花びらが君を覆い隠していくかのように、優しい赤が君を彩ってくれる。 夜桜の魅力を伝え聞くことは限りなく、特にこんなSNSの発達した社会において、その風聞は耳にタコができるほど。 だけど、今、一番きれいな桜を独占しているのは貴方だ。 「な、なあ……もうちょっと、暗くしてもいいか……?」 興奮を悟られるのが恥ずかしいのか、君は窓を見ながらためらいがちに言う。 二人が乗っても大丈夫な大きさを持つベッドの上で、君はその白くきれいな毛皮を隠すように身を縮めた。無骨然とした恰幅を持つくせに、夜の光に引き立てられることを恐れている。 天を突くひげは枝を思わせ、四肢でたなびく毛皮は花を思わせる。 まさに夜桜をして恐縮せしめんとするほどの魅力は、月の光でよりあでやかに開花するというのに。白虎の君は、それをとても恐れている。 薄らぼんやりと花開く君がとてもきれいだから。貴方は賛辞を述べることにためらいなどかけらもない。 賞賛は強い風のようで、はらはらと視線は下に落ち、君の赤がさらに強くなる。 「おれみたいなやつに……そんなこと……恥ずかしくねえのかよ……」 シーツを握る君は月明りに照らされることを受け入れられないのだろう。 昼間の闊達な様を思えば、今の生娘のごときふるまいを自分自身が恥じているのか。 粗暴にふるまえるのならば、どれだけ楽だろう。きっと君はそう思っている。 だけど、君は貴方のことをとても大切にしているから、自分の爪でその柔肌を傷つけてしまうのを何よりも恐れている。 君が自分の一物を入れる事すらあきらめて、貴方のために受け入れてくれているというのに、どうしてそれを恥じることがあるのだろうか。 はらはらと、君の視線が落ちていく。 それでもやはり、君と貴方は経験豊富というわけではないから。この互いがあさましい欲望をぶつけ合う直前に至ってもなお、初々しい空気が二人の間を吹き抜ける。 花弁はそれに流されて、君は貴方と目を合わせてはくれない。 不規則に落ちていく花弁は、白くしわを刻んだ布の海へ。 君は何も言わなくて、だけど、体は赤く開花して。 受粉をと、望んでしまうことが情けないとでも思っているのだろうか。どれほどきれいな夜桜でも、生物はみなそれを求める性を抱えているのに。 貴方が君のつま先に触れると、君が少し震えた。 たくましい根。大地を踏みしめ闊歩する白虎の足は、白い波の上では余計に映える。それがたとえ月明りによってのみだとしても、いや、だからこそ、淡く輝く白は花を思わせるのか。 「……あ」 根から幹に向け、指を滑らせる。 柔らかい毛皮の下にある弾力を持つ皮膚。太ももの内側から腹にかけて、白い肌はやはり朱に色づいている。 たくましい足を閉じてしまったのは君の羞恥から。興奮を悟られたくないという意地が、君をさらに赤く色づけていく。 貴方は身を乗り出して、君の大きさに触れる。悠然とそびえる巨木が如く、その体幹は揺らぎなく、雄大な強さを秘めている。 だというのに君ときたら、こちらを見る瞳はまさに生娘のそれだ。うるんだまなざしは興奮と羞恥によって、月明りが引きずり出した蠱惑的な相貌を前に、貴方の喉は自然と興奮を飲み込んだ。 愛をささやいて、貴方が君のあごに指を到達させる。普段であれば届かない身長差ではあるが、ベッドにしなだれかかる君ならこうやって覗き込むことができるのだ。 「おれも、好きだ……愛している……」 君は臆面もなくそう言って、ゆっくりと目を閉じた。 紡がれるのはまごうことなく睦言であり、逢瀬にはやる心を緩やかな熱で満たしていく。 ふわりと、触れるだけの口づけを。 虎の鼻面は固く、唇というにはいささか情緒が足りない。まるで木の幹にでも口をつけてしまったかのような感触ではあった。 しかし、それでも貴方の心を満たすのは紛れもない幸福であり、この部屋でしか咲かない桜を独り占めできたという優越感だ。 健康的な肉体が、この夜にはこれほどまでに淫靡となって。貴方に愛をささやくのだ。 誰も知らない一面を、貴方だけが知っているのだ。 口づけを果たした後には、体重を預け貴方は倒れこむ。 君は難なく貴方を受け入れて、固い腕で抱き返してくれた。 「柔らかいな……それに、いい匂いがする」 君の言葉が耳元で聞こえ、吐息が直にかかる。力を抜いた腕は、抱きしめるというよりかは包み込んでいると言ったほうが適切だ。君は貴方を白く美しい毛皮で包み込んでいる。 「最近、変なんだ。お前の匂いを嗅ぐと、ほしくなる……」 触れ合う一物の硬度が、それ是と認めている。何度か体を重ねていくうちに、君は貴方を受け入れることに慣れていたのか。 興奮の集まる場所がずれていくことに、君は少しの恐怖を覚え、それでも貴方が欲しいのだと吐息交じりにつぶやいた。 「か……かっこわるい、よな……おれ、お前がほしくて……ほしくて――」 指と指と絡め、貴方は君に口づけを。その先を言わせないと、態度で示す。 今度は長く、でも舌を入れるわけでもないただのキス。君は少しだけ驚いたようだったけど、すぐに目を閉じて貴方を受け入れてくれた。 言葉は無くて、心音が二人を行き来するだけの時間がゆっくりと流れていく。力強い鼓動が早く、もっと体を重ねてほしいと。まるで自身の内側から急かして叩かれている錯覚におぼれるほど、君たちは互いを求めていた。 ようやく口を離すと、時間が動き出したかのように君たちは呼吸を思い出す。肩が上下に揺れ、瞳も合わせて揺れている。 白い君の青くてきれいな目が、そこに映る貴方へと降り注ぐ。揺れてはいるけれど貴方をしっかりと見て、言葉にならない言葉をなんとか押し出そうとわずかに牙をのぞかせている。 「もっとほしい……って言ったら、だめか……?」 君にしては控えめな言葉を受けて、貴方は動き出す。指をほどいて、今度は首に腕を絡め、貴方は君へと口を近づけた。 君の毛皮があまりに柔らかいから、まるで花びらの絨毯に飛び込んでしまったようだ。少しだけ抜けた白い毛が月明りに舞って、君の体が沈んでいく。 「ん……」 三度目の口づけは一番深く。互いの呼気を体全体に巡らせるかのごとき、深いところまで。 貴方が舌を差し入れれば、君は踊りましょうと誘ってくれる。 「んぅ……クチュ……あふぁ……」 ぬるりとした身を寄せ合って、絡ませるように啄んだ。顔の角度を何度も調節して、さらに深くを求めあう。 苦しさの中に確かな充足感があり、それは吐息を甘くとろかせた。君が貴方の頭をその大きな手で鷲掴みにするのは、かじりつくような口付けをねだるサイン。 「んっんっ……あぁ……んぅ……」 強く強く抱きしめられて、貴方の体が花びらの絨毯へと沈み込む。君の匂いは甘くはなくて、むしろ雄の香りでしかないけれど、貴方にとってはなによりも愛しい人のものだから。 貴方は交接を、より深くの交わりを求めてしまう。 君もおそらくはそうなのだ。無頼漢もかくやといった相貌は今や恍惚と細められ、うるんだ瞳には熱が浮いている。 「はぁ……ンクゥ……」 君らが肉をよじらせては白い波が衣擦れの音を奏で、静謐を満たした闇に情交を匂わせる。悦を含んだ声が絵具のようで、口の端から漏れれば漏れるほど淫靡に染まっていく。 「……っはぁ!」 どちらかともなく接吻をやめると、名残惜し気に透明な糸が垂れて落ちていく。だけど君はそれを気にすることもなく、欲望がささやくままに貴方をまたも抱きしめる。 ふわりと、貴方の四肢が花弁に埋まってしまった。白色はこんなに華やかなのに、君は貴方を受粉したいという意志で明確に色づいている。うるさい鼓動は熱を伝播させて、貴方に欲望を悟らせる。 それほどまでに、君の体は熱い。柔らかい毛皮の奥に獣の欲をにじませて、固い体では抑えきれない熱で君に触れて。 君は、貴方を欲するのだ。 「なあ、そろそろいいか?」 何をとは言えない。君はいまだ雄を求める自身を恥じている節があり、新しく芽生えた感情を受け入れられていないから。 控え目で君にしてはかわいらしいおねだりに、貴方は小さく笑って頷いた。 体を離すと隙間に空気が入り込んで、君の体温が遠く感じられる。 だけど、ねだるようにうるんだ瞳が興奮に火を灯すから、寒さが身を震わすこともない。 「……」 君は何も言わなくて、大きな体をベッドに広げていく。初々しさすら漂わせるぎこちなさで、たくましい根が貴方に向けて開かれる。 君の耳が少しへたれているのは羞恥からだろう。不安で、でも欲しくてたまらない相反した感情が機微として随所に現れている。 白くてふわふわとした体はいつ見てもたくましい。貴方が体重をかけてもびくともしない屈強さは、分厚い体に似つかわしい。 そんな君の体に、優しく指を這わせて。開かれた太ももの付け根の毛をいじるように。 「んっ……」 こらえるような声が注がれて、君は顔をそらした。拒絶は無くて、貴方はのしかかるように体重をかける。 興奮は怒張を硬くさせて、君の入口にくっつけると呆けた声が出た。花びらのような毛皮が汗でそよぎ、泣きそうな目に貴方が映っていた。 顔を見合わせて、正常位の体勢。花びらの絨毯が貴方に向けて広げられている。 「ふぅ……ふぅ……」 荒い鼻息が聞こえ、君はおもねりそうな自分を律していた。縞模様が麗しい相貌では眉が下がり、口をきつくかみしめる。 そんなことをしても態度は隠しきれていないというのに、君はどうにも自分をさらけ出せないでいる。 貴方はそんな君をなだめようと、しきりに優しく語り掛ける。 いつくしむようにまぐわいたいのであり、君の心が付いてこないことには先へは進めない。いかに体が求めているとはいえ、無理をさせることは本望ではない。 「…………」 君は強情で、言葉を紡げない。いつもならもう少しだけ素直なのだけど、今日はどうしたことか、ここまで意地を張る君を見るのは珍しい。 貴方は困ったように虎を覗き込み、何か気にしていることでもあるのだろうかと問うた。 もとより率直な性分だ、聞かれたらたいていのことは教えてくれる。 「その……」何故だか君は恥ずかしそうに、ほほをかいて口を開いた。 「やられるのが好きだなんて、やっぱりちょっと、男らしくないっていうか……。お前が傷つかないように買って出たけど、おれも男だし……情けないところをみられるのは……えっと……だからな……」 はらはらと、君の視線が落ちていく。 伏し目になった君が紡ぐ声はとてもかぼそくて。 それでも、夜半の静寂を裂いて、その声は確かに貴方の耳へと届いたのだ。 「……お前に、嫌われたら、嫌だなって……」 なんということか。君はこれほど優しいのに、嫌われるだなんてどうして思ってしまうのだろう。 白虎は吐露してしまった気恥ずかしさゆえか、尻尾を所在なさげに揺れ動かして貴方と目も合わせてはくれない。ただ月明りを受けて淡く光りながら、朱を強めた相貌で答えを待つのみ。 そんなことはありえないというのは簡単だ。 だけど、それをそのまま伝えるのはなんだか味気なく感じられてしまった。生まれたままの姿で白くきれいな君はまるで桜の化身のようだから。貴方はつい、普段はしないようなことさえできてしまう。 君の太い首に抱き着いて、耳元でささやきを。丸くてかわいらしい耳が一言も逃さないと言わんばかりにせわしなく動き、吐息に揺れていく。 情けないと思ったことなどこれまで一度もない。君はいつでもたくましくてかっこよくて、笑った顔が太陽みたいにまぶしかった。 太陽も夜になると暮れていくように、月明りを受けてはにかむ君が見せる顔はそのどれでもない。ただただ君は美しく、きれいだった。 一挙一動がまるで花吹雪だ。ふわりとした毛皮がほのかな軌跡を描いてあでやかに舞い落ちる様は、春の妖艶な色香に満ちている。 恋人ができることを春が来るなどというが、貴方にとって君はまさに春そのもの。君がいるだけで、春はいつでもそこにある。 締めに貴方は、愛しているとささやき、首に回した腕に力を込めた。 普段は言えないような恥ずかしいことを言ったという自覚はある。しかし、嫌われまいとして意地を張る君が見るに堪えなくて、貴方も本心で応えたのだろう。 貴方の体を君の手が抱きしめた。強く、それは強く。大事なものを取られまいとするかのように。大事な貴方と、より近くありたいと望むかのように。 「ありがとな……おれは、あんまりうまく言えねえけど……お前がおれを好きでいてくれて、本当に良かったと思ってる。おれも、愛してるぞ……」 君の喉が鳴った音を、貴方は確かに聞いた。君はほおずりをして、ピンと立った髭が少しだけ痛かった。 それに、君の価値観では情けない事なのかもしれないけれど、貴方はベッドの上で愛されて蕩けた顔を浮かべる君を好いている。またたびをあげたってこうはならないほどに、君が貴方を求めてねだる様はそれはそれは愛くるしいのだ。 なんて冗談めかして言うと、君が赤くなる。今までとは違う、赤が強い顔。 「お、おれが、かわいいとか……やめろよ。こんなにでかい雄だぞおれは……」 すねたような声が返ってきて、抗議として背中を少し叩かれた。自分が雄々しいと自覚がある君にしてみたら面白くない言葉なのだろう。 でも真実なのだからしょうがない。君はきれいで格好いい白虎ではあるけれど、同時にかわいい子猫でもあるのだ。 なんて、口が裂けても貴方は言えないだろうが。 君のためらいも薄まってきた頃を見計らい、貴方は正常位へと戻り君の太ももに手をかける。 到底動かせそうにないたくましさを持つ足はしかし、貴方の手に合わせてすんなりと開いてくれた。君の気持ちが付いてきていることを確認して、二人の間に優しい空気が入り込む。 そうして、さらけ出される君の秘部。白くてきれいな君が持つ肉の色が、余すところなく月光にさらされた。 「あ、う……」 君が頬に散らした朱色もその赤には及ばない。鮮烈で生々しい、きれいな君が持つ欲望うごめく色。 白い君が白いベッドで魅せる肉の塔はそこだけが赤く塗りたくられていて、血管がまるで蔦のように絡まっていた。何度見てもその大きさに圧倒され、思わず見入ってしまう。先端の鈴口から玉が浮かび上がり、蔦にそってツーッと流れていく。 「あんまり、じろじろみんなよ……こっちだってな、恥ずかしいんだぞ」 ふてくされた君がむくれているのに、貴方は何も言葉を紡げない。あれだけきれいだと言ったのに、こうして肉塔を立たせる君のなんとあでやかだろう。妖艶な桜の化身が、世俗的な欲を纏うとこうも人をそそるのか。 何と言ったらいいものか。きれいとは程遠く、だけど吸い込まれるほどに美しい。 人としての欲を発露させつつも魅力へと昇華されている。 だとしたらやはり、こう言うしかない。 ――――きれいだと。