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田原摩耶
田原摩耶

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【↑100】痛定思痛③END※【5,300文字/サダ×美甘/本編後日談】

一話 https://t589423.fanbox.cc/posts/9397799 二話 https://t589423.fanbox.cc/posts/9433486  脳と体が噛み合っていない。それでもギリギリの理性を保ち、サダは俺に求めている。  嫌と言うほどその感覚は身に覚えはあった。  快感に理屈など通用しない。どれだけ建前を並べたところで全て形無しになってしまうということも。  サダが求めているのは許可だ。免罪符、それがあればサダを楽にしてやれるのか?  けど、それを越えた先になにがあるのか。 「ぁ、あ……っ」 「美甘」 「……っ、……っ」  あいつらは俺の許可なんて一度足りとも求めようとしてこなかった。だから、俺もあいつらを認めずに済んだのだ。  けど、サダは違う。これを許せば、逃れることはできないのだ。 『また逃げるのか?美甘』といつの間にかにソファーの傍に立っていた燕斗が背もたれ越しにこちらを見下ろしていた。肘をつき、憐れむような目で。 『可哀想だと思わないのか、都合のいいところだけ利用して。甘い蜜だけを吸って自分は身を削りたくない、と。……本当にいい性格だな、美甘』 「……っ、ぁ、あ……っ」 『今のお前になんの価値があるんだ? 俺たちが大切に大切に育ててやったそこを使ってサダを救ってやることくらいしか出来ないだろ、お前には』 「は、……っ、う、ぁ……っ」  警笛が頭の中で鳴り響く。  ゆっくりと頭を埋めてくる亀頭を逃れることなんて、出来なかった。  燕斗の笑い声が大きく響き、天井がぐるりと回った。  ――燕斗は勘違いしている。サダを救うだけではない、それは自分を許容することにも繋がるのだと。  サダの腰に脚を回した瞬間、腰が更に深く沈む。目を細めたサダは俺をまっすぐに見つめた。 「……っ、み、かも?」  いいのか?と見つめてくるサダに応える代わりにその胸に顔を埋める。 「お前の、好きにして……いいから」  お前に大事にされる程の価値が分からなかった。  善良な男の――自慢の大切な親友の人生を狂わせてしまったのではないのか。  そんな不安が付き纏っていた。それから目を逸らして誤魔化してきたけど、潮時だ。  引き返せるわけなんてなかったのだ、最初から。  息を呑むのが聞こえた次の瞬間、大きく股の上のものが呼応するかのように震えた。  柔らかくなった肉を掻き分けるように、体重をかけるように更に奥まで頭を埋めてくるそれに俺は声を上げる暇もなくサダの背中に手を伸ばした。  お前は悪くないって、お前のせいじゃないって言う代わりに何度もその背中を撫でて、しがみついて、サダのものを受け入れる。  暴力とは程遠い、それでも耐えきれずに漏れるカウパーで更に濡らされたそこを何度も形を変えるように腰を動かされる度に脳が痺れ、喉の奥からは声が漏れた。  苦しいというよりも、充足感。自己嫌悪も不安も全部溶かすほどの恐ろしいほどの熱に充てられ、余計なことも考えられないほど優しく奥までみっちりと犯される。 「っ、さ、だ、さだ……っ、さだぁ……っ、」 「美甘……苦しいか?」 「……っ、し、心臓が……お、おかしくなる……っ」 「え?」  ひくり、と目の前の喉仏が上下し、慌ててサダが抜こうとしたのを足で止めた。そのまま根元まで嵌まったそれを締め上げれば、今度はサダが呻く番だった。 「っ、美甘……」 「ぬ、抜かないで……っ、もっと、……っお、俺のことを、気にしなくていいから……っ」  お前の好きにして欲しい。  サダの心地よさそうな、蕩けたような表情を見るとホッとする。俺でも役に立ててるような気がして安心するのだ。  サダは何も答えなかった。けど、代わりに中に収まっていたそれがドクドクと激しく脈打ち出して、胸がぎゅっと締め付けられる。  深く息を吐いたサダは再び腰を動かし始めた。トントンと奥を突かれる度に喉の奥から声が漏れた。それを我慢するという頭すら今の俺にはなかった。  こいつに大事にされる価値が自分にあるのかずっと不安だった。もしかしたらこの先、普通に彼女作って結婚して、子供産んで家族みんなで幸せに暮らしてるこいつの未来を邪魔したんじゃないかって。  だけど、気持ちよさそうに腰を振って、腹の奥がパンパンになる程俺で興奮してくれてるサダを見てると――安心する。  こいつも俺と同じ人間だ、なんて。  そう思うと後ろめたさも罪悪感も薄れ、ただサダを受け入れることができた。ただ考えるほどの余裕がなくなっていたのかもしれないが、それでも俺にとっては忘れることのない時間になったことは間違いないだろう。  何度中に出しても留まらず、時間が許す限りひたすらサダとの時間を過ごす。  今まで我慢していた全てをぶち撒けられたのではないかと思うほど腹の中に溜まったサダのそれを受け止めたまま更に上塗りされていく。  一度一線を越えたその日から、俺たちの関係は再び変化した。  お互い手探りだった距離感がなくなった、と言うのだろうか。傍から見たら今まで通りに戻ったと思われるのかもしれないが、それは明確に変化だった。  サダはわざわざ口にして言わないけど、初めてサダに抱かれた時のことを思い出しては反芻する。  多分俺はあいつを不安にさせていた。自分が思ってるよりもずっと、恋人になったというのによそよそしくなってしまっていたのだろう。  比べるつもりもなかったのに、あいつと話しているときに燕斗を重ねている自分もいた。  後ろめたさから逃げたくなかった。真面目なサダをこれ以上振り回したくなかった。  サダと向き合えば向き合うほど自分が嫌なやつになっていくようで、その重圧に耐えきれず、とうとう俺は逃げ出した。 「……サダ」 「どうした?」 「俺と一緒にいて楽しいか?」  冬が明け、ほんのりと暖かくなってきた春先。  決まりのように遊びにやってきたサダの部屋の中。ベッドに並んで腰をかけていたサダは、何を言い出すのかと俺を見た。 「何かあったのか?」 「そ……そういうんじゃねーけどさ、その、俺……」 「……美甘は俺といるのは楽しくないのか?」  普段よりも少し低い、子供を諭すような声だった。  先程まで柔らかかったサダの周囲の空気が重たくなるのを感じた。無理もない。けど、これ以上見て見ぬフリすることもできなかった。 「た、楽しい……お前といるの、俺のどうでもいい話に何時間も付き合ってくれるし、サダ、優しいし……」 「……うん」 「け、けど……サダ、俺、お前に酷いことしてる」 「……」 「だ、だから……ずっと、考えてた。色々、寝る前とか……」 「だから今日も寝不足気味だったのか?」 「ん、む……わ、悪い……」  伸びてきた手に叩かれるのだろうかと思わず両目を瞑ったが、そんなことはなかった。それどころか両の頬を手で挟まれ、むにむにと頬を撫でられる。 「さ、さだっ! なにすんだよっ!」 「美甘、聞いたよな。『俺と一緒にいるのは楽しいか』って」  声が落ちてくる。優しい声が。 「そりゃ、楽しくねえよ」  その言葉に心臓が停止する。「ぇ」と喉の奥から空気が漏れそうになる俺を優しく見つめたまま、サダは目を伏せる。 「お前が悩んでたりすんの、そういうの……すげー分かりやすいから、こっちも辛い。けど、無理してんの見るのはもっと……嫌かも」 「さ、だ……」 「って、おい……泣いてるのか?」  泣いてない、とも、そんな思いをさせて悪かった、とも言葉を続けることはできなかった。  サダの口から飛び出してきたその言葉に今までの記憶が一気に蘇り、鼻の奥がツンと痛む。歪む視界の中、俺を覗き込むサダは「美甘、最後まで聞いてくれ」と真面目な顔で逃げ出そうとしていた俺の肩を掴んだ。そして再びベッドに座らせる。 「ご、ごめ……俺、やっぱりサダに無理させて……」 「だから、美甘止まれ。ストップ。ほら、……ティッシュ」 「んぐ……」  そっとくしゃくしゃになったティッシュで目尻に溜まった涙を拭っていくサダ。それでも涙は止まらない。  優しくされればされるほど、あいつのことを思い出してしまう。そんな自分が嫌でまた涙が心の奥から滲み出してくるのだ。  そんの俺を見て、サダは微笑んだ。哀しそうな目で。 「俺は好きでお前といるんだよ。……別に、楽しい思いしたいって理由だけでいるわけじゃないって」 「さ、だ」 「美甘は俺のこと、嫌になったのか?」 「う゛う゛んッ!」 「……そうか」  小さく笑って、サダは乱れていた俺の髪に触れた。 「俺も同じだ。辛いから一緒にいたくないってなんねーよ、今更。……寧ろ、俺に遠慮しないでくれ」 「だっ、で、でも、……サダに無理させてる」  そう声を絞り出せば、前髪を撫で付けていたサダの手が動きを止めた。僅かにその目が開かれる。それも一瞬、サダは自嘲した。 「……ああ、そうか。俺が無理してるように見えたのか。……そうか」 「そうかもな」と肺に溜まった息を吐き出すようにサダは言葉を絞り出した。  やっぱり、そうだったのだ。  肌で感じていたが、本人の口から聞かされるのとでは意味合いも変わってくる。  殴られた時よりも胸が痛くなって、頭の奥が重たくなっていく。ああ俺、今サダのことを傷つけているんだ、と。 「そうだな。俺は……早くあいつらのこと、追い越したかった」 「もう追い抜いてる、お前は俺の……」 「美甘、そういうことじゃないんだ」 「……ッ、サダ……」 「分かってるだろ? お前だって。……そういうのが、一番クる」 「サダ」 「簡単に忘れさせられるわけないってのは知ってるよ。……分かってる。生まれた時から一緒にいたようなやつらだもんな、お前にとったらさ」 「それに、あいつは」腹の奥底に溜まったものを吐き出すような暗い声。それに耐えられず、俺はサダを抱き締めた。  違う、そんなつもりはない。とは言い切れない。きっと見透かされている。だってこんな俺とでも仲良くなれるくらいサダは人のことをよく見てる。  だから、代わりに抱き締めた。というよりもしがみついたという方が近いのかもしれない。  みっともなくしがみつくことしかできない俺に、サダは目を伏せる。その口元が小さく歪んだ。  髪を撫でていた手が、今度は俺の頭部に回される。丸みを確認するみたいに何度も優しくサダの手が俺の頭を撫でた。 「ご、めん、俺……」 「……美甘、干からびるぞ」 「ご、ごめん、サダ」 「……」 「サダ――俺、燕斗のこと、忘れるなんて無理だ」  それは自分に向けた言葉でもあった。  サダは何も言わずに俺を見つめていた。涙を拭っていた手は離れ、それから――。 「ん、む……っ」  唇を塞がれる。サダらしからぬ強引な、一方的なキスだった。それでも俺はサダの胸にしがみつき、必死にそれを受け止めようとした。  二人分の呼吸が混ざって、胸の奥でぐちゃぐちゃになっていた感触が熱で溶かされていく。  こんな風に無理矢理キス、普段しないのに。  肩を掴むサダの指が食い込み、逃れられない。それなのに、舌先から伝わってくるサダの体温の高さに驚いてまた全身が緊張する。心臓が、痛い。  たった数秒、それでも長い間のように思えた。 「ん、ふ、ぅ……っ、ぷぁ……っ!」  呼吸の仕方を忘れ、俺の呼吸が止まってることに気づいたサダは唇を離す。それから、咳き込む俺の背中を撫でるのだ。 「……さ、だ……っ」 「知ってる」 「……っ、……」 「知ってるよ、……俺もお前のこと見てきたから」  サダの声が落ちてくる。諦めたような、そんな声だった。  サダの肩口に顔を埋めたまま顔を上げることもできなかった。シャツに涙が滲んでしまおうがお構いなしにサダは俺を抱き締める。 「……っ、ぅ、……サダ……ごめん、俺……最低だ……っ」 「謝らなくていい。……美甘、すぐ顔に出るからな。それに……お互い様だ」 「腹立つし悔しいけど……あいつらがいたからお前とこういう関係になったんだ」俺も人のことは言えない、そう吐き出すサダの声が苦しそうで、俺は思わず顔を上げる。 「サダ、ちがう、お前とはあいつらがいなくても……」 「セックスなんてしなかっただろ、俺と」 「――……っ」 「……そういうことなんだよ、美甘」  全てが事故のようなものだった。  あの時、燕斗に抱かれているのをサダに見られることがなければ俺たちは何も知らないまま、友達のまま一緒にいたかもしれない。  たられば話ほど不毛なものはない。  けれどどうやっても、どう頑張ったって見て見ぬふりをするにはあまりにもあいつらは、あいつは俺たちに傷を付けていった。  お互いに死ぬまで消えないであろう傷口を。 「……っ、さ、だ……」  違う、と言い切れない。俺もサダと同じだから。  だからこそ俺を許してくれたサダの笑顔を直視することができなかった。歪む視界の中、言葉に詰まる俺の肩を撫でてサダは息を吐いた。 「待ってる。ずっと……急がなくていい、俺のこと、ちゃんと好きになってくれるの」 「……っ、……」 「……待たせてくれ、お前の側で」 「サダ、お、俺……」  ――お前のこと、好きだよ。ちゃんと。  お前のこと必要だし、お前に救われた。  けど、きっとこれはサダが求めてるものとは違う。  そういうことじゃないんだと思う。  難しいことも分からない。  他人から逃げてきた俺にとっめ人と向き合うことなんて最大難関でしかないのに、それでも、痛みを伴ってでもサダに応えたいという気持ちは本心だった。  言葉の代わりに俺はサダを抱き締める腕に一層力を込める。離れないように、振り落とされないように、ほんの少しでも俺の気持ちが伝わるように――ただサダを抱き締め、震える背中にしがみついた。  END

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