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田原摩耶
田原摩耶

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政尾キス我慢選手権【300↑/4,800文字/政岡×尾張/わちゃ】

「尾張、俺を縛ってくれないか」  そう、人の手を握りしめたまま目の前の男――政岡零児はやや頬を赤らめて迫ってくる。その鼻息は荒く、どう見ても正気でないことは一目瞭然であった。  休日の午後、梅雨明けの爽やかな陽気が窓から差し込んでくる生徒会室内。相変わらずゴミ溜めのようなそこには幸か不幸か目の前のSM趣味の赤茶髪の男と俺の二人きりだ。いや本当こんな場面誰かに見られていたらなんと誤解されるか。 「……政岡、えーっと、そのだな。……取り敢えず、なんでそんなことになったのか聞いてもいいか」  お前の脳味噌が、と口の中で続ける。政岡は俺が引いていることに気付いてくれたらしい、ハッとし、俺の手を握り潰さんとしていたその手は「あ、ワリ」と慌てて離れた。  そして、少しは冷静になってくれたらしい。おずおずと客人用ソファーに腰を落とす政岡は今度はなんか反省タイムに入りだした。 「悪い尾張、ちげえんだ。変な意味じゃなくてだな……」 「真っ当な理由で俺に縛ってほしいと?」  自分でも何言ってんだと思いつつ尋ねれば、政岡はコクコクと頭をぶんぶん縦に振った。 「それは俺じゃないとダメなのか? 例えばほら、お前のとこには縛るのが得意な奴がいるだろ」  今この場にいない生徒会副会長様の顔を思い浮かべる。すると、政岡は「綺麗に縛ってほしいとかじゃねえんだよ」と慌てて否定してくるのだ。なんだ、SだとかMだとかにも色々あるってことか? 「そのだな……」 「ああ」 「今とか……お、お前と二人っきりだろ?」 「まあ、そうだな」  正確には、さっきまで俺をここにまで連れてきた張本人である神楽がいたのだが、やってきた能義に仕事をサボっただとかサボってないだとか揉めながらも半ば強制連行という形で退室したのだ。  本来ならばこれ以上ここに居座る理由もないが、政岡が必死におやつやジュースやなんやらとおもてなししてくるのでついつい絆されて残ってはいいるものの、ごにょごにょと口ごもる政岡の表情からいわんとしていることが分かってしまい、自分の選択が間違っていたということを理解する。 「だから、その……」 「あー、わかった。それなら俺がお邪魔するわ」 「っておまっダメだ、なんでそうなるんだよ!」  ――お前が縛れとか言い出すからだよ。  どさくさに紛れてヒシっと抱きついてくる政岡に思わず突っ込まずにはいられなかった。 「政岡、お前言ってること滅茶苦茶だぞ? わかってるか?」 「わ……わかってる、俺だってこんなのはちょっとどうかと思うけど、お前といると訳わかんねーんだよ」  その自覚はあったのか。  がっくしと項垂れ、叱られた犬みたいに無駄にデケー図体を丸ませる政岡。うーんデジャヴ。  毎度この政岡のシュンとした顔についつい絆されていたが、いい加減俺も学習していた。こういう時に政岡を甘やかすのは逆に悪手だと。  飴と鞭は使い分けてナンボだ。ここにはいないご主人様の顔を浮かべつつ、俺は「わかった」と頷いた。 「そんなこと言わないでくれ……って、え」 「縛るってのは縄がいいのか? それともそれ専用のやつがあんのか?」 「え、え」 「……なんでお前が驚いてんだよ、縛ってくれって言ったのは政岡だろ?」  目を丸くさせ、硬直する政岡の手を握り返せば、掌越しにびくりと政岡の手が震えるのが分かった。咄嗟に逃げようとしていたその手首を捉え、自分の方へ向けて引く。 「お、尾張……」 「男に二言はないんじゃないのか?」  なあ、政岡。  ネクタイを引き抜き、政岡の顔を覗き込めば首筋に浮かんだ喉仏がごくりと音を立てて上下するのを俺は見た。  ◆ ◆ ◆ 「痛くないか? 政岡」  岩片のやつならいざ知らず、そんな趣味なんてない俺は拘束道具なんて持ち合わせてない。  その場しのぎであるが、ネクタイを縄代わりに後ろ手に回した政岡の手首を束ね、拘束する。  無論、相手に負担のかからない拘束の仕方もわからない俺は取り敢えずちょっとやそっとじゃネクタイが外れないように結ぶのが精一杯だった。 「これで大丈夫そうか」と、軽く政岡の腕を掴んで引っ張ったりしながら緩まないのを確認し、今度は政岡の顔を見た。 「気分はどうだ?」 「……すげえ、変な扉開けそう」  素直か。 「絶対開けるなよ、その扉」と肩を叩き、俺はそのまま政岡の隣に腰をかける。 「お、尾張……」  そのままこちらへと体を向けようとする政岡に、腕のネクタイがぎち、と軋むのを見た。 「言っとくけどそのネクタイちぎるなよ、アンタの力ならやりかねねーけどさ」 「……っ、ああ、分かってる」 「それより、少しはリラックスしたらどうだ? そもそも、アンタのその……自制できないってのは血の気が多すぎるってのもあるかもしれないからな」  さっきから落ち着きなく体をもぞもぞと攀じる政岡の様子を見ればある程度わかる。そもそも縛ったところで根本的な解決にはならないのだ。 「それは、多少血抜きしたほうが良いってことか?」 「お前、思考物騒すぎてこえーよ。……そうじゃなくてもっと穏便に……」  そうだな、と辺りに目を向ける。ごちゃごちゃと汚いばかりで役に立ちそうなものは転がってないな、と思ったとき、はっとした。 「……尾張? なにか思いついたのか?」  政岡とはこれからも利用――いや、いい関係でいたらなにかと役に立つのは間違いないだろう。  こいつの好意を上手く躱しつつ、ブレーキをかけて操縦することができれば。  思いながら、俺は政岡をじっと覗き込む。目があった政岡はどぎまぎしながら、「なんだ?」だとか「どうした?」と不安そうな情けない声を出すのだ。 「……なあ、政岡。このまま少し練習でもするか?」 「練習?」 「ああ、そうだよ。練習」  そう、そっと政岡の胸に触れ、そのまま相手の顔を覗き込むように背筋を伸ばす。瞬間、手のひら越しに政岡の心音と熱が伝わってきた。ドクン、と大きなその音に思わず口元が緩む。 「お、おわっ、おわり……ッ」 「政岡……お前緊張しすぎだろ」 「ま、待て、やばい……っ」  ただ顔を覗き込み、視線を合わせただけだ。それにも関わらず今にも死にそうな声を上げる政岡につられてその下半身に目を向ければ、『ああ』となる。 「……なあ、俺まだなにもしてねーけど?」  なんで勃起してんだ、と視線で政岡を詰れば、ピアスがぶら下がった耳の先まで赤くした政岡は今にも死にそうなうめき声を漏らした。 「尾張……っ」 「これは流石にちょっと、どうにかしねえとな」  政岡の背後でみちみちと俺のネクタイが悲鳴あげているのが聞こえる。目を合わせただけでこれか、初めてではないだろうになんだこれは。  それとも、そういうものなのだろうか。俺にはあまり分からない感覚なのだが、だからこそ少し興味がある。  すり、と政岡の腿に手を置けば、政岡の全身の筋肉がびくりと跳ね上がった。 「っ、待て! お、おい、尾張……」 「……だから、少し慣れろって。ほら」 「……っ、ぅ……」  いつも恥ずかしい目に遭わされる仕返しというわけではないが、あまりにも反応がいい政岡を見てると少し加虐心が煽られる。  俺ってもしかしてそういう趣味あったのか?と自分でも戸惑いつつ、俺は掌の下、ぺたぺたと政岡の腿を触った。 「相変わらず引き締まってんな、本当にもったいねえよな。ちゃんとスポーツやりゃいいのに」 「……っ、ぉ、おわ、おわわ……」  言えてねえし。  鍛えてるのだろう、布越しでも引き締まった筋肉の感触が伝わってくる。おわわと一人ビクビクしてる政岡、やはりどうしても膨らんでる股間が嫌でも目に入ってくるしなんなら触ったお陰で現在進行形でぐぐ、っと大きくなってるのを見てしまった。 「……政岡、俺が言うのもなんだけどさ、他のやつにはこんな風になんねえの?」  これ、と触れるか触れないかぎりぎりのところで膨らんだそこの山の部分をつうっと指で撫でれば、それだけで政岡の腰が震える。 「……っ、なる、わけねえだろ……お前だけだ、こんな……ッ」 「……ふーん? 確かにまあ、お前って意外と一途だよな」  それは強烈に伝わってくる。そりゃあもう痛いほどだ。そんなことを思ってると、俺の指に触れようと更に大きくなったそれが指先の皮膚にあたった。「はは、すげえな」と感心すらする。 「……尾張、頼む、許してくれ……ッ」 「許す? ……別に虐めてるわけじゃねーんだけどな」 「っ、ぅ、く」  前かがみになったまま、腰を引こうとする政岡の下腹部に手を突っ込んだまま小指で擽れば、その肩がびくりと震えるのだ。 「……っ、は、尾張……ッ」 「お前、すげー顔してるって。……縛ってて正解だったな」  普段からこのデカさのブツ突っ込まれてんのかと思うと正直そこらのホラーよりもよっぽど恐ろしい。  なるべく意識しないようにはしながらも、今にも拘束をぶち破りそうな気配すらある政岡の片腿に跨る。「尾張」と、普段のこいつからは想像できないほどの弱弱しい声につい笑ってしまった。興奮しすぎだっての。潤む目がこちらを向く。目で犯されるってこんな感覚なんだろうな、などと考えながら俺は政岡の頬に触れた。 「泣くなよ、俺より先輩の癖に」 「……尾張……っ」 「……わり、やりすぎたか?」  応える代わりに政岡は俺の手のひらにぐいぐいと頬を摺り寄せてくる。懇願するかのように手のひら、その皺をなぞるようにぴちゃりと舌を這わせるのだ。これには俺も思わずおどろいた。 「おい」と制止するのも構わず、政岡は飼い主に褒美を強請る犬のように手のひら、指の付け根、水掻きの部分まで丹念に舌を這わせていく。蠢く舌、熱い吐息が吹きかかった。  指の隙間越しにこちらを見下ろす政岡と目が合い、ずくりと腹の奥が熱く痺れだす。 「っ、政岡、お前な……」 「尾張、これ、外してくれ」 「それじゃ練習の意味……ねえから……ん、く……っ」  尾張、と更に囁かれる。  こんな状態で拘束を解いてみろ。必死に触れようとしてくる政岡から手を離せば、今度はキスをしてこようとする政岡の唇から逃れるように背筋を伸ばした。興奮しきった顔で犬のように舌を伸ばす政岡に「おい」と呆れずにはいられない。 「ダメだって、我慢しろ。政岡」 「う、うう……なんで、尾張」 「縛ってんて頼んできてまで自制しようとしたのはお前だろ? 政岡。……ここで我慢できなかったら一生一人で縛られてるつもりか?」 「それでもいい、今すぐお前とキスしてえんだよ……っ!」  おっかねえ。青筋浮かべ、「これ外せ、尾張」と唸る政岡に笑いすらでなかった。  これ、拘束外したらキスどころじゃ済まねえだろ絶対。一周回ってイラつきだしてる政岡に溜息を吐いた。  飴と鞭はちゃんと駆使しねえとな、と俺は政岡の顎を掴んだ。そして、そのままその唇にチュッと音を立て自分の唇を押し付けた。瞬間、なにされたのか理解できていないようだ。石になってそのまま固まる政岡。そしてややあって理解したようだ。その顔が更にじわじわと赤くなっていくのを見て俺はぱっと顔を離した。 「今のお前の自制レベルじゃ精々ここまでだな」  そう、政岡に笑いかけるとブチっと鈍い音とともに何かがちぎれるような音がしたのはほぼ同時だった。 「え」  伸びてきた腕に腰を掴まれたと思った瞬間、視界が暗くなる。そして視界の隅、政岡の傍に落ちている紐状のそれは間違いない、俺のネクタイ――だったものだ。  こいつ、やりやがった。噛みつくようなキスとともに政岡の膝の上にさらに深く座らせられながら俺は今度からはもっとちゃんとした政岡専用拘束具を用意しようと心に誓った。  おしまい


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