縁の部屋。必要最低限の家具しか置かれていないその生活感の希薄な寝室、その精子と血で汚れたベッドの上に俺は転がされていた。 「は、ぁ゛……ッ、ふ、ぅ゛、ぐ」 口の中に溜まった血が混ざった唾液を吐き出す。ぎちぎちと手首を拘束するバンドが邪魔で、ただされるがままに腰を打ち付けられる度に頭の奥を太い鉄杭で刺されるような刺激に視界が揺れた。 「はー……っ、本当に締まりいいね、齋藤君。ちょっと感度悪くなったかなって心配してたけど、この薬の効き目すごいねえ。ほら、もうカウパーでどろっどろ」 「ねえ見てこれ、お漏らしみたいになってるよ?」と滴り落ちる精液を塗り込むように破裂しそうなほど膨張した性器を握りこまれれば、それだけで腰が砕けそうになる。 気持ちいわけなんかがない。不快でしかないはずなのに、意識と肉体が無理やり切り離されたように言うことを聞かない。絶妙な力加減で天を向いた性器を擦られればそれだけで開いた尿道口から勢いよく透明の液体が吹き出すのだ。 それを見て縁は吹き出し、笑った。 「すごいすごい! 齋藤君潮噴いたの? もうこうなったらとうとう女の子だね」 「っ、ぁ゛、あ……ッ」 「ついでにこれも去勢しちゃう? 代わりに子宮つけなよ、子宮。俺がたくさん種付してあげるよ」 嘲るように笑いながら、射精したばかりにも関わらず萎えるどころか更に睾丸を引っ張り上を向いた性器を握り込んだまま縁は亀頭を柔らかく押しつぶしてくるのだ。それだけで全身の毛穴が開き、ぶわりと玉のような汗が吹き出す。 「っ、ふ、ざけ……ッ、ぅ゛、ぐ」 「あー……なに? もしかしておクスリもう切れて来ちゃった? それとも頑張ってる?」 「ま、どっちでもいいけどさ、こんなに勃起させて潮まで噴いて粋がっても可愛いだけだよ」なんて笑いながらやつは俺の胸、ボタンごと引きちぎられ、はだけさせられたシャツの下の胸に手を伸ばすのだ。 「っふ、ぅ゛……ッ、ひ……ッ!」 片方の手で亀頭を捏ねられながら、もう片方の手で乳首を乳輪ごと絞るように引き伸ばされただけでも何も考えることができなくなった。 痛みのあまりに胸をのけぞらせれば、玩具で遊ぶ子供のような無邪気な声で縁は「あ、もしかしてまたイッた?」と笑う。 「っ、ち、が、ぁ゛……ッふ、ぐ……ッ!」 「最初はあんなに嫌そうだったのに、ここも女の子みたいになっちゃったね。ほら、前立腺ゴリゴリ押しつぶされながら乳首引っ張られるの気持ちいいだろ?」 「っ、ぎも、ぢよくな゛……ッ、ぁ゛……ッ!!」 「嘘吐け、ケツ穴締まってんぞ」 「お゛、ぐ……ッ!!」 上体を抱えられたまま、内臓を抉るように深く根本まで一気に亀頭をねじ込まれると同時に乳頭を潰される。食い込む爪に、肩口に食い込む縁の歯。身が裂けるような痛みで頭がどうにかなりそうだった。 息をする隙もなく羽交い締めにされたまま最奥を潰され、眼球がぐるりと回る。入り込む天井とあの青い髪の男の笑う顔が見えて血の気が引いた。 「……っ、気持ちいい? 気持ちいいよね、君さっきから全然萎えないんだもん! ほら、もっと気持ちよくしてあげるね……ッ」 「……ッ、ぉ゛ッ、あ゛」 「ほら、乳首とチンポ、一緒に潰してあげる」 「っひ、ぃ゛ッ! ぁ゛ッ、あ゛……ッ!!」 「うわ、すごい充血してる。その内血も出てくるのかな」 痛い、痛い。この男に触れられ、爪を立てられる箇所全てが火で炙られてるように熱くなってどうにかなりそうだった。 縁の腕の中で少しでも痛みから逃れようと手足をバタつかせるが、腕でがっちりとホールドされてしまえば逃れることはできない。それどころか、「逃げんなよ」と耳の後ろから囁やく縁に腰を揺すられ、全身が震える。 痛みが引いたあとの過敏な体を優しく触れられるだけでより鮮明になる指の感触、その刺激に瞼の裏で色が弾ける。汗が、唾液が、震えが止まらない。乱暴な挿入で腫れ上がった内壁を更に亀頭で内側から擦り上げられれば、開いたまま閉じることも忘れた口から「ぁ、あ゛ッ」と声が溢れた。 「は、かわいー……っ、痛くされたあと優しく撫でられるのクセになんだろ? ほら、可哀想だから乳首も撫でてやるよ」 そう飽きたように引っ張るのをやめた縁は、縦に伸び始めていたそこをすり、と柔らかく撫でるのだ。指の腹でただ表面を触れられただけ、それだけなのに恐ろしく頭の中が熱くなる。電気を流されたみたいに全身の熱がかっと熱くなり、指から逃れようと腰を引くがそれを無視して更に縁は伸びた乳頭の側面に指を這わせるのだ。 そして根本から先端まで硬くツンと尖った乳首を柔らかく撫でてくる指先に慄く。 「っ、ひ、ぅ゛……ッ、や……ッ」 「あれ? なんかさっきよりも声可愛いね、もしかして感じてる? こんなに乱暴されて?」 「っ、……ッ、ぅ、ふ……っ」 「今更声我慢しても遅いって、ほら、ちゃんとコリコリしながら奥も潰してやるよ」 「う、ぐ、うう゛ぅ……ッ!」 「っは、本当に君の体ってわかりやすくて助かるな。ほら、……っ、たくさん気持ちよくしてあげるね」 耳朶に這わされる舌に鼓膜までも犯される。 全身を弄ばれ、快感と激痛を交互に与えられ続けたお陰でイカれ始めた感覚神経。 毎日のようにこの男に犯されてるお陰で体は作り変えられていく。排泄器官はやつの性器を受け入れるために柔らかく口を開くようになり、拒もうとしても背後から抱きかかえられて腰を亀頭を宛がわれればそのまま受け入れようとしていく自分の体がただ歯痒かった。 縁方人を殺す。 そう決めたはずなのに、はずだったのに。現実はなに一つ上手くいくことはなかった。 結果は返り討ちに合い、そして次に目を覚ましたとき俺は縁の部屋に閉じ込められていた。 それからほぼ毎日のようにやつに殴られ、犯され、痛めつけられ、犯され、犯され、犯され――気付けばこのザマだ。 「っ、は、ん、キスしようよ。ねえ、君の大嫌いなキス。恋人みたいに舌を絡めて、君の唾液飲ませてよ」 「……っ、ん゛、む」 「は、おい……なに口閉じてんだよ。また首締められたいの?」 「……ッ、」 覆いかぶさってくる縁に顎を掴まれ、前回縁に首を締められたときの記憶が蘇る。首の骨が折れるのではないかと思うほどの力でネクタイで首を締められ、頭に血が昇って、下半身の感覚もなくなって尿を漏らしながら文字通り飛びそうになるほどの苦しみを。 「……っ、は……」 プライドは、ない。それでもこの男に対する反骨精神は少なからずあったはずなのに、逆らうことよりも保身に走って口を開いてしまった自分に嫌悪感を覚えた。 「舌も出して、絡めるんだよ」 「っ、ふ……ッ」 「……はッ、そーそー……良い子だね」 れろ、と舌の先っぽを絡められる。そのまま薄い唇に舌先ごと咥えられ、愛撫される。 舌を伝う唾液ごと吸い上げられながら、再びゆるゆると腰を動かし始める縁に俺はなにも考えられなくなっていた。 何度中に出されたのかもわからない。抽挿の度に血液混じりのピンク色の精子が拡がった穴から音を立てて漏れ、不快だった。 屈辱だったが、これはこの男の隙きを探すためだ。射精直後のやつは隙きだらけのはずだ。だからその時まで反撃のタイミングを待て。 そのはずだったのに。 「っは、んむ゛、う゛……ッ、ふ、……ッ」 執拗に舌を絡め取られ、口の外まで引きずり出されたまま深く口づけをされる。その間も腰の動きは止まらず、粘着質な精液が腹の中で掻き回され泡立てて音を立てるのを聞きながら俺はやつの腕の中で何度目かの絶頂を迎えた。 「またイッちゃったね。やっぱり、俺たち相性最高だよ、齋藤君」 「……っ、ふ、う……ッ」 ビクビクと余韻で痙攣する腰に回された腕は、そのまま腹部を撫でる。中に出された精液を掻き出す隙も与えられずに溜り、膨らんだそこは軽く押されるだけでも気持ち悪い。ぐっと掌で押さえつけられれば、喉から胃液が這い上がってくるような感覚に堪らず嗚咽を漏らした。「お゛え゛ッ」と空気を吐き出せば、代わりに下腹部からぶぴっ!と勢いよく精液が溢れるのだ。それを無視し、縁は更に腰を打ち付ける。最早下半身に感覚はなかった。 「良い子良い子、そうやってどんどん馬鹿になっていってね。レイプされて何度もメスイキしちゃうような馬鹿にね……ッ」 「ふ、ぉ゛ッ、ひ……ッ」 薄い粘膜が隔てるものがなんなのか分からない。自分がなにをされてるのかもわからない。化膿した傷に薬を塗ることも許されぬまま、痛みと快感がまぜこぜになる薬を注射器で打たれ、ハメ殺される。 髪を掴まれ、唇を噛まれて唾液と血を舐められ、乾くことをしらないやつの性器専用に体を使い潰され、感度がバグってきたら追い打ちをかけるように殴られ、痛みで感覚を呼び起こされるのを繰り返すのだ。馬鹿にならない方がおかしい。 最早体力など残されていなかった。どろりと溶けていく意識の中、ベッドの上に落ちそうになる体を腕で支えられる。その先により深く突き刺さる性器に全身が凍り付いた。 「……ッ、ねえ齋藤君、俺は君とこれからも仲良くしていきたいんだ。 ――ちょっとやそっとじゃ壊れてくれるなよ」 「死んでも俺を楽しませるんだよ」がっちりと腰を掴まれたまま耳元、吹きかけられる吐息とその呪詛のような言葉を最後にぷつりと意識は途切れた。 ◆ ◆ ◆ 「や、いい夢は見れたかな」 頭上から落ちてくるその声に返す気力すらなかった。ベッドの上、仰向けに転がったこちらを覗き込んでくる縁は目が合えば笑うのだ。シャワーを浴びてきたらしい、自分一人さっぱりと小綺麗になった青髪の男は「それとも眠れなかったのかな」と一人続ける。 「ま、その方がいいよ。俺たちに残された時間は少ないんだし、せっかくなら二人でいっぱい気持ちよくなって楽しまなきゃね」 拘束されたままの腕は抵抗した痕が瘡蓋になっており、身動きを取ろうとする度に痛みが走る。 伸びてきたやつの手を振り払うこともできないまま、俺はなんの躊躇いもなく重ねられる唇に噛み付いた。 硬い歯で薄皮が裂け、赤く染まっていく縁の唇。縁は痛みに笑い、そして仕返しと言わんばかりに俺の唇に噛み付いたのだ。 タイムリミットがいつなのかはわからないが、どうでもいいから今すぐにでも天変地異が起きてこの男だけを消してほしかった。 摩耗しきった心身は倦怠感のあまり痛みに鈍感になっていて、血と体液で汚れた体をなんとも思わなくなってきた頃。俺はいつかやってくるだろう終わりに期待を寄せ、今このときこの男の恋人になっていた。 「最後まで一緒だよ」 願わくば、最高の罰を。 現実に勝てず逃げた俺と、この男に。 おしまい