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田原摩耶
田原摩耶

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スキャンダル【↑100/4,600文字/栫井×齋藤+α】

「おい、どういうつもりだ」 「え?」 「え、じゃねえよ。……これ、お前の仕業だろ」  いきなりうちのクラスまでやってきたと思えば、そう栫井が突きつけてきた新聞記事を見てトラウマが過る。  もしかしてまたデタラメな記事を書かれているのだろうか、そう薄目で突きつけられたそれに目を通す。そして、そこに大々的に書かれたトップニュースを見て吹き出しそうになる。 「ふ……『副委員長、ご執心?!お相手はあの転校生か?』……って、この写真」 「この前お前が人の部屋押しかけたときに撮られたやつだろ、これ」  そう再び俺から新聞記事を奪った栫井はぐしゃぐしゃに丸め、そのまま教室のゴミ箱に放り投げる。一瞬だったが、確かにあの写真は俺が栫井の部屋に忘れ物取りに行ったときのものだ。  栫井に胸ぐら掴まれて「勝手に上がんな」と怒られたので玄関前で待たされてたのだが、そのとき栫井の写真がいい感じの角度で撮られていた。  いつぞやの嫌な思い出が過ぎった。 「ま、また阿賀松の仕業……?」 「あいつが俺に構うわけねえだろ。……お前がいいネタにされてんだよ、付き回されてんだろ」 「え……」 「クソ、余計なことばっかしやがって……」  俺をネタにするくらいなら阿賀松の悪行を新聞記事にして告発してほしいが、今はそんなことばっか言ってられない。  苛ついたような栫井の顔に、まさかなにかあったのかと不安になる。 「か、栫井……もしかしてなにか会長に言われたの?」 「ねえよ。……それより」 「それより?」 「………………やっぱ言わねえ」  なんだその間は。  けどなにかがあったのは間違いないはずだ。 「か、栫井、待って……っ!」 「……っ、おい、人前でくっついてくんじゃねえ……!」 「あ、ご、ごめん……でもなんか嫌なことあったんじゃないかって思って」  そう、小声で尋ねれば栫井は視線を外す。そして苛ついたように舌打ちする。 「ああ、あったよ」 「え……」 「……あのデタラメな記事を信じる馬鹿がいるんだよ」  え、と思ったときだった。 「――あれ、栫井?」  廊下の奥から聞き慣れた声が聞こえてくる。  驚いて顔を上げれば、そこには十勝と灘がいた。どうやら生徒会室へと向かう途中だったらしい、栫井の奥に俺がいるのを見つけるとにま〜っと嫌な笑顔を受ける。 「なんだ、佑樹も一緒かよ〜。あれ、もしかして邪魔だったか?」 「チッ……うぜえな」 「んだよ、『猛烈片思い』だっけか? ははっ、まじでウケるよな」  そう笑う十勝。その言葉で、先程からの十勝の態度の理由に気づく。  なるほど、どうやら十勝も件の記事を見たようだ。そしてそれをいじられてるということか、栫井は。 「あ、あの……十勝君、あの記事は……」 「あーあー分かってる分かってる、佑樹は会長の恋人なんだしな。……それにしても、それにしてもだよな。よりによってそこ三角関係設定にすんのかよって笑ったけどな」 「こいつ……」 「か、栫井っ! 暴力は駄目だよ……っ!」  わなわなと静かな怒りに震える栫井を止める。  どうやらあの記事のせいで栫井は十勝にイジられてるらしい、それでここまで文句言いに来たのだと思うと申し訳なくなる。 「ど、どうしよう……ちゃんと撤回してもらった方がいいのかな」 「当たり前だ、今すぐ土下座して出回ってる記事全部回収させてこいよ」 「え、ぜ、全部……?!」  さらっととんでもないことを言ってくる栫井に驚いてると、栫井は「当たり前だろ」と眉間に皺を寄せる。ここまで不機嫌な栫井もなかなか見ない。そこまで嫌だったのだろうかと内心傷ついていると、それまで俺達のやり取りを静観していた灘が「ご心配なく」と口を開く。 「会長からの命令で既に全て回収済です。今日中に謝罪文を掲載した記事が発行されることになっています」 「………………」 「か、会長が……?」 「はい」  灘の言葉に完全に意気消沈し、押し黙る栫井。  まさか会長が動いていたということは、会長も見たのか、あれを。 「…………」  ふらり、と俺達に背中を向けた栫井はそのまま歩き出す。 「あ、か、栫井……っ」 「会長ああ見えて嫉妬深そうだからな、栫井気を付けろよ〜!」 「と、十勝君……」  割りとそれは洒落にならないんだよな、と思いつつ、俺は二人に別れを告げてそのままふらふらと歩く栫井の後を追いかけた。  ◆ ◆ ◆  ――学園内、中庭。  栫井を追いかけてる内にこんなところまで来てしまった。  暖かな陽気の下、中庭のベンチに座って項垂れてる栫井を見つける。 「か、栫井……っ」 「……」  ……完全に落ち込んでいる。  原因はわかっている。会長に何か言われるだろうと心配しているのだろう。  栫井が会長のことを慕っている、というよりも逆らえないということは知っていたし、見ていた。  なんて言葉をかければいいのか分からず、俺はそっと栫井の隣に腰をかけた。栫井はこちらを見ようともせず、自分の足元を見つめている。  ……ここまで落ち込んでいる栫井を見るのも初めてかもしれない。 「栫井、会長には俺から適当に言っておくから……その、あんまり気にしないで」 「……別に、気にしてねえよ」  嘘だ。まるっきり嘘だ。なんならそう言ってる声からも魂が抜けかかっている。  怒られるのが怖いのか、その気持ちは分かるような気がした。 「……栫井」 「つか、隣に座んじゃねえよ」 「ご、ごめん」  じゃあ立つか、と腰を浮かそうとすれば、制服の裾を掴まれる。  ……言ってることとやってることが無茶苦茶だ。  頭をあげず、きゅっと掴まれる裾に俺はどうすればいいのかわからず、取り敢えずまたベンチに腰を落とした。今度は栫井はなにも言わなかった。 「それにしても、生徒会って大変だね。……前も、会長もスキャンダルに狙われることあったし」 「……あいつらは、阿賀松に逆らえないからな。粗探しに必死なんだよ」  ……喋った。  ぽつりぽつりと言葉を口にする栫井。少しは落ち着いたのだろうか、応えてくれる栫井に少しだけほっとする。 「そうなんだ。……でも、栫井の印象操作したって阿賀松……先輩は得しないんじゃないの?」 「生徒会全体のイメージを陥れられれば御の字なんだろ、あいつらそれしか頭にないからな」 「……そっか、なんか大変だね」  もう少し尤もらしいフォローでもできたらいいのだがそれしか言えない自分が歯がゆい。項垂れていた栫井は頭を軽く上げ、じとりとこちらを見る。長い前髪の下、細められた目がこちらを捉えるのだ。 「大変なのはお前もだろ」  てっきりなにか失言してしまって怒られるのだろうか、と思ったが、ぽつりと栫井の口から出た言葉に思わず耳を疑った。  そして栫井も自分自身の発言に驚いたようだ。ばつが悪そうに目を伏せる。 「……栫井、」 「うるせえ」 「ま、まだなにも言ってないよ」 「うるせえんだよ、お前」  そんな無茶苦茶な。  けど、栫井がそんな風に思っていたなんて。ついさっきまで人に土下座までさせようとしていたが。 「栫井……やっぱり、栫井って優しいよね」 「お前、頭おかしいのか?」 「会長は多分、それほど気にしてないと思うよ。新聞のことも、落ち着けばすぐに忘れると思うし」 「……お前に何が分かるんだよ」 「つか、だから気にしてねえ」と小さく付け足す栫井。確かに栫井の言う通りだ、俺と会長よりも栫井の方が生徒会ある分長い付き合いだろうが、それでもだ。  ――多分、芳川会長はそれほど俺のことを好きではない。  栫井と俺の噂が立とうが、会長はそれに目くじら立てるような人ではない。それだけは分かる。  栫井だって、いや栫井の方が知ってるはずだ。会長の合理的な性格のことを。  それでも栫井が芳川会長のことを気にするのは、やはり少なからず思いやりのようなものを感じてしまうのだ。 「お前は本当、お気楽だよな」 「え? そんなことは……」 「あるだろ。……こんなところまで着いてきて、また並んでベンチに座ってるところでも撮られてみろよ」 「……あ」 「気付いてなかったのかよ」  そういうわけではないけども、栫井はそこまで考えてくれてたのだと思うと少しだけ頬が緩んだ。  俺が「別に撮られてもいいよ」と答えれば栫井はどんな顔をするのだろうか。気になったが、やめておく。 「……じゃあ、俺は戻るね」  代わりに立ち上がり、声をかける。去り際、栫井はちらりとだけこちらを見て「さっさと消えろ」とそっぽ向くのだ。  今度はもう引き止めてくれないのか、と少し寂しくなりながらも俺は中庭を後にした。  ◆ ◆ ◆  ――生徒会室。  栫井と別れた俺は、芳川会長のいる生徒会室へとやってきていた。 「珍しいな、君の方から来るなんて」  椅子に腰を掛けたまま、芳川会長は俺を迎えてくれる。 「はい。……少し、会長に伝えたいことがあって」 「新聞記事のことか?」  会長の耳に入ってるということは既に灘から聞いていたので然程動揺はしなかった。 「はい」と応えれば、芳川会長は無言でこちらを見る。 「新聞のことなら気にしなくてもいい。……すぐに撤回されるはずだ」 「……ですが、」 「それとも、君が言ってるのは『内容』の方か?」  その指摘に少しだけ緊張する。  心でも読まれているのだろうか、触れられたくないところを会長自ら直接触れてくるのだ。 「その、すみません……」 「それはなんに対する謝罪だ? ……君はただあいつの部屋に行っただけだろ、別に後ろめたいことなどないはずだ」 「……はい」 「それともなにか他にあるのか」  静かな声が響く中、心臓がびくりと跳ねるのを感じた。どくんどくんと脈打つ鼓動が会長にまで聞こえてるのではないか、そんな恐怖がまとわりついてくる。 「――……いえ、ありません」  嘘を吐くのはやはり慣れない。会長は「なら問題ない」と口にした。それから「授業が始まる前に教室に戻れ」という会長に生徒会室を追い出された俺はそのまま一人で教室へと帰った。  中庭に繋がる廊下から中の様子を眺めてみると、遠くに栫井の姿を見つけた。相変わらずベンチで落ち込んでいるようだ。  俺もだけど、そんな俺よりも栫井はもっと気にしすぎだと思う。  会長は栫井のことも、俺のこともきっと気にしていない。  ――なんて言ったらきっと栫井は傷つくのだろう。  なら、このままにしておいた方がいいのだろう。  とっくに冷めきった関係だ。どうなろうがきっと会長は気にしない。  さっき栫井が捨てた新聞記事、記念に手元に残しておけばよかったかな。なんて思いながら俺は教室へと戻った。  おしまい

スキャンダル【↑100/4,600文字/栫井×齋藤+α】

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