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田原摩耶
田原摩耶

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ジャックからのプレゼントのせいでエース×ロゼッタがわちゃわちゃする話【後編】

 自分の身に異変が起きてるのは明らかだった。  そして、エースの話を聞いて余計具合が悪くなっている自覚もあった。 「……っ、エース」  エースに助けを求めたところでエースも分野外であることは分かっていた。  けれど、藁にも縋りたい。そんな不安を自分が抱えていたということなのだろうか。  子供還りしたようなことを口にしても、エースは笑うわけでも馬鹿にするわけでもなくただじっと真剣な目でこちらを見るのだ。  そしてなにかを決心したようだ、エースは息を吐く。 「……っ王子、御無礼をお許し下さい」  そして、そのまま握った手とは逆の指先がそっと首元に触れる。「失礼します」とエースは首元を締め付けていた襟の釦を外し、緩めていくのだ。  丁寧に、僕の肌が傷つかないように外されていく。その都度エースの指先が触れ、その冷たさに思わず身を捩った。 「……お前の手、冷たいな」 「王子の体温が上がっているからです」 「そうかもしれないな」 「王子、あまり無理して話さないでください。喉に負担が……」 「……こうでもしていないと」  ――こうでもしていないと、この空気に耐えられそうにないのだ。  そう言いかけて、その先の言葉は飲み込んだ。  エース相手に変な気を起こす訳などないと分かっている。それでも、普段ならばなんの変哲のないやり取りだ。エースに着替えを手伝ってもらうことなどあるのに。 「……悪い、お前の言うとおりやっぱり今日の僕はおかしいみたいだ。聞かなかったことにしてくれ」  激しい後悔の念に襲われ、耐えきれずに謝罪を口にする。  こんなの僕らしくない。後から取り繕おうとすればするほど縺れた糸に雁字搦めにされていくような、そんな醜態。  襟首を緩めたエースの指が、胸元の釦に触れる。 「……王子」  そう、こちらを覗き込んでくるエースに見つめられたときだった。  いきなり寝室の扉が開いた。 「エース、言われたもの用意してきたよ! ……って」  ノックも無しに開いた扉に驚いたが、それよりも扉の向こうにいたダムもベッドの上の僕たちを見て固まった。  そして自分たちの体勢に気付いた。瞬間、エースは物凄い速さで僕をベッドに寝かせて離れた。  俊敏ながらも、その寝かせ方も労るものなのだから流石エースだ。 「……っ、待て、違う! 断じて誤解だからな!」 「ま、まだ俺なにも言ってないけど……あっ、お、王子……これを……っ!」 「ああ……すまない……」 「それと、解熱剤ももらってきました。飲めそうですか?」 「問題ない」と短く応え、僕はゆっくりと起き上がった。その間もベッドの周りでエースがわたわたとしていたが、放っておいたら冷静になったようだ。  そんなエースを尻目に、僕はダムから受け取った粉薬を混ぜた容器にそのまま口を着けた。  相変わらず苦いが、息を止めてそれを喉奥へと流し込んだ。口直し用の水の入ったカップを受け取り、すぐに口の中へと押し流す。  そして、そこでようやく一息吐いた。  やはり体温が上昇していたようだ。体に籠もってる熱を冷まそうとしているのだろう、全身にじんわりと汗が滲む。  鬱陶しいが、これを乗り越えれば恐らく熱は収まるだろう。いつもの傾向を思い出しながら、僕は再びベッドに横たわった。 「王子、服のお着替えも持ってきたんですが、如何なさいますか?」 「……ああ」  頼む、と言いかけた矢先だった。  着替えを手にしたダムの手を「待て」とエースが止める。 「ダム、俺が着替えさせる」 「え? エース、お前城内の見廻りの途中じゃ……」 「いいからそれを渡せ」 「な……なんで怒ってるんだよ、これは俺の仕事だ。お前こそもう持ち場に戻れよ」  人が横になっている横で、いきなり揉め出すエースとダムに頭が痛くなってきた。  確かに、先程助けを求めたのはエースだったけども、こいつの頭の堅さは誰に似たのだろうか。  僕は起き上がり、二人を見上げた。 「……もういい、自分で着替える」  ◆ ◆ ◆   二人を寝室の外へと追い出し、ダムから受け取った寝間着へと着替える。  体に怠さはあるものの動けなくなるほどではない。指の先など末端の感覚が過敏になっている。  それでも薬が効いてきたのだろうか、大分楽になっていた。  そうしている間にもまだ外ではエースたちが揉めているようだ。  なにをやっているんだ、あいつらは。  わざわざ止めに行く気にもなれず、そのままベッドの上に横になる。  ――それにしてもジャックの奴、どういうつもりなんだ。  まさか本気で僕を謀殺するつもりではないだろうが、いくらなんでもこんな身体に影響があるものを僕に寄越すというその神経が信じられなかった。  今度は沸々と怒りがこみあげてきた。  少しでもたまには気が利くではないかと思ってしまった数時間前の間抜けな自分にも腹が立ってくる。  そんなときだった、寝室の扉が控えめにノックされる。  このノックはエースのノックだ。いつの間にかに扉の外での喧嘩は収まっていた。 「入れ」と扉に向かって声を掛ければ、「失礼します」とエースが寝室へと入ってきた。 「王子、お着替えは……」 「ああ、見ての通りだ。……ダムは?」 「あいつはもう仕事に戻らせました」 「そうか。じゃあお前ももう戻っていいぞ、エース。僕ももう少し休む」  そう伝えれば、「ですが王子」とエースが口を開いた。  余程僕が危なっかしく見えるのだろうか。 「なんだ?まだなにかあるのか?」と聞き返せば、エースは口を閉じる。 「いえ、王子がそう仰るのならば」 「言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうだ」 「俺は王子に従うまでです」  人の部屋の前で使用人と大揉めしていたやつが何を言っているんだ。  呆れたが、エースは口を開くつもりはないようだ。これ以上突いても無駄だろう。  ならば、と「それと、ジャックについてだが」と話題を変えようとすれば、「王子、よろしいでしょうか」とまたもやエースが口を挟んできた。今回の元凶である男のことだ、必ずエースは口を挟んでくるだろうと予想はできていた。  ――そして、その内容も。 「あの男に関しては俺に委ねていただくことはできませんか?」 「お前にか?」 「ええ、王子の手を煩わせることなく厳しく処罰させていただきます」  この場にはいないジャックへの怒りがその顔にはありありと滲んでいた。冷静を装うとしているらしいが、僕でなくともその殺意には気付くだろう。  とはいえ、こう言ったことはエースに任せるのが手っ取り早いのも事実だ。  僕が動くと良くも悪くも物事が大きくなりすぎてしまうのだ。母様に内緒でジャックからの贈り物を受け取ってしまった僕にも非はある。  母様に知れれたら、きっと尻叩きだけでは済まないだろう。想像して背筋が冷たくなっていく。 「……ああ、この件に関してはお前に一任しよう。――くれぐれも、内密に」  そう念を押せば、エースは「仰せのままに」と恭しく頭を下げるのだ。  ◆ ◆ ◆  数日後。  あれからジャックは暫く謹慎となっていた。その内容は機密情報として扱われていたが僕はその理由を知っていた。  エースがジャックと裏でどんなやり取りを交わしたのかは不明ではあるが、ちゃんとジャックの奴に処分が下されたのならまあいい。  体調の方というと、一晩でも眠ればあっという間にいつもの調子に戻っていた。  予めエースからはそんなに長い効能はないはずだと聞いていたが、どうやらその通りだったようだ。万が一に備えて暫くは安静にしていたのだが、それも昨日までの話だ。  いい加減部屋に籠りっぱなしでいることにも飽きた僕は久しぶりに城内の散歩をしていた。  ――ハートの城・庭園。  薔薇たちの様子でも見に行くか、と覗いた庭園には真っ赤な先客がいた。 「よお、王子様」 「ジャック、お前謹慎はもう解けたのか」 「ああ、お陰様でいい禁酒になったぜ」  どうやら薔薇を楽しみに来たというわけだはないようだ、皮肉気に笑うジャックは僕の前に立つ。  何が禁酒だ、僕に対して他に言うことがあるだろう。奴を睨み上げれば、ジャックは笑うのだ。 「お前エースのやつに言っただろ、あれのこと」 「元はといえば妙なものを寄越したお前が悪い。というか、お前やっぱりわかってて渡してきたのか?」 「ってことは、エースのやつと使ったのか?」 「おい、人の質問に……」 「あの媚薬入りの香油、匂いが充満した締め切った部屋で使うと最高らしいからな。さぞ楽しめただろうよ」 「ま、俺は使ったことねえけど」人の質問にちゃんと答えろ、と言いかけて、とんでもないことをさらりと被せてくるジャックに静止する。 「……び、やく……?」  恐る恐るその言葉を繰り返す。  媚薬って、まさか――。  詳しいことは知らないが、それでもそれが「いかがわしいモノ」ということだけは知っていた。  そして、この男はそんなものを僕に渡し、あまつさえエースとのなにかしらを期待しているのか。  理解すればするほど頭に血が上りそうだった。顔面に熱がたまっていく。 「ふ、ふざけるな、貴様なんてものを人に……ッ!」 「少量だけならリラックス効果もあんだから立派な貢物だろ? エースの野郎といいお前といい、頭お堅いやつの方が普段抑制してる分効果覿面だというしな、今度は見せてくれよ」 「っ、……ッ! し、死刑だ……ッ! お前は死刑だ! 母様に言いつけてやる!」 「おーおー、真っ赤になっちゃって」  なんのための謹慎だと思ってるのだ、この男は。まるで反省した素振りなどない。  それどころか。 「僕もエースもあんなものでどうにかなるほど軟弱ではない、覚えておけ!」 「って、え……まじ? ははっ、じゃあ次はもっとイイもん用意しといてやる」  なんてニタァと嫌な笑みを浮かべるジャック。  昼下がりの庭園に「余計なお世話だッ!」という僕の声が木霊した。  おしまい


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