【総集編版】ジャックからのプレゼントのせいでエース×ロゼッタがわちゃわちゃする話【↑100/9,700文字/媚薬】
Added 2022-01-30 14:45:51 +0000 UTC今日の習い事も終わり、天気もいいので薔薇たちの様子でもみにいこうかと中庭へと向かっている途中のことだった。 「よお、王子様」 後方から馴れ馴れしい声が飛んでくる。そこにいるのが誰なのか、振り返らずとも分かった。 聞こえなかった振りをしてそのまま通り過ぎたかったが、声に反応して立ち止まってしまった今その手は使えないだろう。渋々振り返れば、そこには金髪の男が相変わらずにやついた顔でそこに立っていた。 一応は隊服に袖を通してはいるようだが、真面目に城内の見回りをしているようには見えない。 「……ジャックか。なんの用だ?」 「なんの用でもない、暇そうにしてるから声掛けたんだよ。ママは一緒じゃないのか?」 「マ……女王を愚弄するつもりか!」 「はっ、そうピリピリすんなよ。そもそも、ママ~って女王陛下に泣き付いてたのはお前の方だしな」 「……わざわざそんなくだらないことを言いに来たのか。ならば僕はこれで失礼する」 こんな男に少しでも付き合ってよろうとしたことを後悔した、やはりジャックはジャックだ、煮えくり返りそうになる腸をぐっと堪える。これ以上この男と対峙すること自体が無駄だ、そう判断した僕は早急にその場所を離れようとする。 そして中庭へと向かおうとするが、あろうことかこの男は「待てよ」と人の肩を掴んで引き留めてくるのだ。 「っ、おい……」 「これ、なんだと思う?」 馴れ馴れしく触るな、と肩に置かれたその手を振り払おうとした時だった。 眼前に突きつけられた愛らしい包装の小箱を突きつけられる。手のひら大のそれからは、ふんわりと甘い香りが漂ってきた。 「……? なんだ、その妙な袋は」 「今日町でおもしれーもん見つけたんだ。お前に土産だ」 「……何故僕に?」 「なんだよ、昔は自分から『土産はないのか』ってせびってきていたくせに」 「そんな昔のことは覚えていない」 そう言い返せば、ジャックは「可愛げがねえな」と鼻を鳴らす。そもそもあれはまだこいつが真面目な一般兵だった頃、帰りのたびに土産を買ってくるこいつが原因だ。そんな事をされれば誰だって帰りを待つようになっても仕方ない。幼いころならば余計。 けれど今の僕は子供ではない。分別だってつく。だからこそ、今さら手土産なんてものを用意してきたジャックを疑った。 「面白いものとはなんだ、いい予感がまるでしないんだが」 「おっと、部屋で開けろよ。あと、なるべく一人の方がいいかもな」 「……まさか妙なものじゃないだろうな」 「ま、心配だっていうんなら今ここで開けてもいいけどな」 にやりと笑うジャック。その挑発的な態度が余計癪だった。 「部屋で開ける」と即答すれば、「そうか。ならま、感想待ってるぞ」とジャックは手を振り、そしてそのまま中庭と正反対の通路を歩いていくのだ。 まさか本当に手土産を渡しに来ただけだったのか。 あっさりと立ち去るジャックにホッとする反面、なんだか拍子抜けしてしまう。 このまま日光浴をする気にもなれなくて、僕はジャックからのプレゼントを抱えたまま一度自室へと引き返すことにした。別にやましい気持ちがあるわけではない、母に誰からもらったのか問い質されてしまえば間違いなく燃やされるだろう、なんて考えたから早めに部屋へ持ち帰ろう等としているわけではないのだ、断じて。 ◆ ◆ ◆ ――ハートの城内、自室。 無事、道中母やエースに見つかることなく僕は自室まで戻ってくることに成功した。 なぜプレゼントを貰った側の僕がこんなに神経をすり減らさなければならないのか、これもあいつの日頃の行いが悪いからだ、と口の中で呟きながらもソファーに腰を掛けた僕は改めてジャックからの贈り物を手に取った。 愛らしい包装をそっとペーパーナイフを使って開封すれば、辺りにぶわりと甘い香りが広がる。砂糖菓子の甘さとも、花の香りともまた違う、鼻孔から直接脳へと侵食して内部から全身へと浸透していくような甘ったるさだった。 思わず噎せ返りそうになりながらも僕は一度封を閉じ、呼吸を整えてから再び恐る恐る中を覗いた。 中には小箱が入っていた。その箱を開けると、中には繊細な細工が施された硝子瓶が入っている。 「これは……香油か?」 蓋を開けて恐る恐る鼻先を近づける。瞬間、その甘ったるさに思わず手から小瓶を落としそうになるのを耐えた。 そしてそのまま寝台横の棚の上に置いた。 好みの匂いではないが、瓶の細工は嫌いではない。使うことはないだろうが、捨てるのもなんだ。 ……飾っておくくらいはしておいてやるか。 それにしてもあの男、僕に香油を贈るなんて何を考えてるんだ。まあいい、考えたところであの男の思考が読めるはずなんてないんだ。 考えるのを止めて、僕は暫く部屋の換気をしてから眠ることにした。 ◆ ◆ ◆ 寝台に横になり、シーツを被る。 そしていつものように目を瞑り、眠りについた。眠りについてしまえば、あの鼻につく甘ったるい匂いも気になることはなかった。 だから、油断していたのかもしれない。 「……っ、ん、ぅ……」 浅い眠りについていたが、それも暫くのことだった。 寝苦しさに何度か寝返りを打つ内に意識が覚醒してしまう。 「……っ、なんだ……熱が……」 まるで発熱しているかのように自分の身体が火照っていることに気付いた。首の辺りが特に熱く、咄嗟に触れてみる。 幼い頃から熱が出ることは多々あったが、なんとなく今回の熱はそれらとは違う気がした。 体調不良では気だるさの他に頭痛等も併発していたが、今回はそれがない。ただ身体が熱く、それでいてまるでまだ夢を見ているように意識がふわふわとしていた。 体調を崩す前触れか。 白ウサギに助けを求めることも考えたが、取り敢えず水分がほしかった。酷く喉が乾いていたのだ。 身体を起こし、寝台を降りる。そしてそのまま鉛のように重い身体を引きずって部屋を出た。 食堂にでも行けば水を貰えるだろう。適当な使用人を呼びつけることもできたが、女王や王に余計な心配をさせたくなかった。 だから、なるべく人目に着かない静かな通路を選んで食堂まで降りていたのだが――。 ――ハートの城内・通路。 「王子?」 赤と黒を基調にした通路を歩いていると、ふと背後から声を掛けられ驚いた。 聞き慣れたその声に振り返れば、そこには屯所へ戻る途中なのだろうか。隊服姿のエースがそこに立っていた。 エースもエースで僕と出会うと思っていなかったようだ。「いかがなされましたか、このような夜更けに」と目を丸くする。 「……エースか。僕はただ水を……」 「それなら俺がすぐに用意しましょう。それに、こんなところにいては身体を冷やしてしまいます、お部屋までご一緒に……」 そう、エースが近付いてきたとき。 大丈夫だ、と応えようとしたがそれは叶わなかった。 目の前が真っ白になるような強い目眩を覚え、平衡感覚が一瞬麻痺する。ぐらりと揺れる視界。自分の身体を支える事ができず、思わずふらついてしまう僕にエースは「王子!」と駆け寄る。 間一髪、エースの腕に支えられたお陰で転倒するには至らなかったがそれでも不覚だった。 「エース、悪い……」 「お、王子……っ、熱が……」 「ん……問題ない、大丈夫だ。少し足元がふらついただけで……」 「大丈夫ではありません」 即答だった。僕を立たせたエースは「王子、少し待っててください」とそっと手を離す。 そんなときだった。通路の奥から執事服の男がやってきた。 ――ダムだ。 「あれ? 王子とエース? どうしたんすか?」 「ダム、丁度いいところに。今すぐ王子の部屋に水と、それから解熱剤を手配してくれ」 端的に指示を出すエース。余程僕は酷い顔をしていたのかもしれない。僕たちを交互に見たダムは「え、わ、わかりましたっ」と慌てて通路を戻っていく。 「おい、エース……あまり大袈裟にするな。おい、エース……っ!」 去っていったダムに申し訳なくなってくる。元々水は自分で用意するつもりだったのだ。 エースに視線を向けるが、エースはそれに構わず「失礼します」と人の身体を抱きかかえるのだ。 足元が床から離れ、ふわりと全身が浮く。膝の裏側に差し込まれた腕にしっかりと身体を抱えられたまま、僕は驚きのあまり固まった。 「部屋まで送ります。水もすぐに来るはずです」 「……う、お……お前……」 ふざけるな、今すぐ降ろせ。そう言いたかったが、乾いた喉がそれを阻害する。 「…………もう勝手にしろ」 「ええ、そうします」 頭もくらくらする中、開き直るエースに腹が立ったがそれ以上に全身に感じるエースの体温に安堵している自分がいて可笑しかった。 ◆ ◆ ◆ 大事に、それでも大股でエースの手により部屋へと強制送還される。 そして、目の前の僕の部屋の扉を開いたエースは開くなりふわりと広がるその匂いに顔を顰めた。 「……っ王子、この匂いは……」 「……ああ、それは新調した香油だろう」 「香油?」 エースに下ろしてもらった僕はそのまま寝室の奥、置物になっていた小瓶を手に取り「これだ」とエースに見せる。 瞬間、エースの顔はぎょっと引きつるのだ。 「何故王子がこの香油を……っ?」 「そんなに有名なのか?」 「まさか王子、ご存知ないのですか」 驚愕するエース。そんなに有名なところなのか? 確かに白ウサギからあまり身体や器官に刺激を与えない方がいいと言われ、香油とは縁遠い生活をしていた。あっても女王が認めた良質な精油くらいしか身につけることもなかったが、なんとなくエースの物言いが引っかかる。 「なんだ?」と促せば、「い、いえ……その」と露骨にエースは動揺し始めるのだ。 その顔はうっすらと赤く、汗が滲んでる。先程までは涼しい顔をしていたはずだ。 ――なにか隠している。 「と、とにかく……とにかくこの薫りには人体に害を及ぼす物質が含まれております。なのでこれは俺が回収、処分しておきます」 「……待て、エース。まだ僕の話は終わっていないぞ」 「それよりも、なにもご存知ない王子がこのような代物を持っていることの方が俺にとっては問題です。一体どこで入手したのですか」 何故僕が責められるのだろうか。不服だったが、わざわざ隠す気にもならなかった。 そうだ、元はといえばあの男のせいということになるのだ。 「ジャックに貰った」 「な゛……ッ!!」 「昼間会った時土産だと渡されたんだ。……まさかそんな大層なものだとは思わなかったがな」 答えれば、みるみるうちにエースの顔が怒り一色に染まっていく。 「あの男……ッ!! 王子になんてものを贈り付けるんだ恥知らずが……ッ!!」 「……おい、エース?」 「ハ……っ! し……失礼しました。それよりも、部屋の換気をいたしましょう。お体が少々冷えるかもしれませんがお許し下さい」 「……ああ」 何を一人で百面相をしているのかと思ったが、エースの場合は別段珍しいことでもない。 寝室の奥、取り付けられた窓を開くエース。キイ、と小さな音を立て窓枠からは新鮮な風が流れ込んでくる。 少し、楽になったかもしれない。 ということはやはり、エースの言うとおりあの香油が原因だったのかもしれない。 気怠い身体を動かし、僕はそのまま寝台に横になった。すると、心配そうな顔をしたエースがこちらを覗き込んでくる。 「気分に問題はありませんか? 念の為、白ウサギ様に見ていただくのが一番なのですが……」 「……そんなに危険なものなのか?」 「危険というか、その……まあ、相違ないですが……」 先程からエースの歯切れが悪いのが引っ掛かったが、もしかしたらそれほど良くない効能があったのかもしれない。そんなものを王子である僕に渡してくるなんて余計頭に来たが、怒るという行為すらも今はエネルギーを消費してしまうようだ。 再び強い目眩を覚え、僕は耐えられずにそのまま寝台の上で寝返りをあった。 「少し……目眩がする」 「……っ、王子……」 「……あ、熱い……」 「……ッ」 寝台の傍、こちらを見下ろしていたエースの手が伸びてくる。 その手を握り返したとき、ひんやりとした指先がぴくりと緊張するのが分かった。 「王子」と、覗き込んでくるエースのその喉仏が大きく上下するのが見えた。 「……熱いんだ、エース」 熱は全身へと広がり、発散する場所がなく腹の中でぐるぐると渦巻いている。そんな感覚に耐えきれずに僕はその手を握った。 続く