幸喜×準一と藤也がわちゃわちゃしてる話。【↑100/5,800文字/幸喜×準一/わちゃ】
Added 2021-11-25 11:42:23 +0000 UTCそっと扉を開いてみるものの、無駄だったようだ。談話室には人の気配すらない。 どうしようか、待ってたら誰か来るだろうか。なんて思いながら談話室の扉を閉めようとした矢先のことだった。 「あれ? 準一こんなところでなにしてんの?」 すぐ背後から聞こえてきた声に全身が凍り付く。そして寒気。恐る恐る振り返れば、猫目がちな大きな目が二つこちらを至近距離で見上げてくるではないか。その近さに更に驚く俺に、そいつ――幸喜は「あ、わかった。一人じゃ寂しくなったんだろ?」なんて得意げな顔をして言い当ててくる。 「……っ、ちが、……わないけど、おい! 近い……ッ!」 「仕方ないなあ、お兄さんの俺が寂しがり屋な準一の相手してやるよ」 「いい、いらない……」 「えー? なんで? いいじゃん、ほら、部屋でしこしこエロ本なんか読まないで俺と遊ぼうよ!」 「おい、その言い方やめろって……!」 初手斧振り回されるよかましだが、それでも面倒なやつに捕まってしまったと思わずにはいられない。大体こういうときは花鶏や奈都、藤也が周りにいて仲裁に入ってくれるのだが、今はそれらしきブレーキ役もいない状態だ。 「なんだよ、隠さなくてもいいのに。てか花鶏さんからもエロ本貰ってたじゃん、相当溜まってんの?」 「貰ってない、なんのことを言って……」 「隠すなよ、藤也のやつも持って帰ってたんだし」 「……え、藤也が?」 なんだかサラッととんでもないこと聞いてしまった気がする。 藤也も男なのだから別におかしなことではない……じゃない、そもそもあの書庫にそんな本が並んでた記憶ない。 「そーそー、布巻いた裸の女の絵がいっぱい描かれたでっかい本! ま、俺の好みじゃないけどな」 「……」 それは裸婦画ではないのかと喉元まで出かかったが、これ以上幸喜にツッコミを入れても無駄だと判断した俺は「ちゃんとそれ藤也に返してやっとけよ」とだけ言っとく。 「準一もなんかもらったんだろ? あ、そーだ。これから準一の部屋遊びいかない? 準一の部屋で遊びたいな〜俺」 俺の部屋は遊び場ではないし、こいつが来たりでもしたら部屋を滅茶苦茶にされることは間違いないだろう。 「勘弁してくれ」と思わず情けない声が出てしまう俺に、幸喜は「は?」と目を見開いた。その口元から一瞬にして笑みが抜け落ちるのを見てしまい、息がひゅうと空気が漏れてしまう。 「準一は優しいからそんなこと言わないよね、俺の聞き間違いかなあ?」 胸倉を掴まれ、首がもげそうなほどの力で頭を下げられる。そのままぺちぺちと頬を手の甲で叩いてくる幸喜に全身が強張った。 やっぱりこいつ、好きになれない。 「幸喜……っ、おい……」 「あれ、あんま血出なくなったね準一。前までだったらちょっと撫でるだけでダラダラ垂れてたのに」 「つまんないな」なんて言いながら、そのまま叩かれていた頬を撫でられる。 緊張がないわけでもない、恐怖心も確かにあるが……それでも幸喜の指摘を受けて自分でも少し意外と思った。 そもそも、あのときだったらこんな風に幸喜に近付かれただけで……。 「……っ、ぅ……」 「あ、鼻血出た!」 「お、まえが……思い出させるからだ……っ」 「あは、そーなの? ごめんごめん。でもなんだ、鼻血だけか。確かに準一もこの身体に慣れてきた頃だしな」 言いながら、当たり前のように顔を寄せてきた幸喜はべろりと鼻から垂れていた血を舐めるのだ。 「な……ッ?!」 冷たい舌の感触に驚き、咄嗟に幸喜を引き剥がせば今度はあっさりとやつは俺から離れる。そして自分の唇に付着した血痕を舐めるのだ。 「あんま」 「……っ、……」 「お、また出てきた。ようやく傷口開いてきた?」 「もっとこじ開けてやろうか」なんて、無邪気な目で幸喜が笑う。 頭の中で警報が響く。殺される、嬲り殺しにされる。そう直感した俺が逃げ出そうとしたときだった。 「おい、逃げんなって準一」 「っ、に、げるに決まってんだろ……っ! なに持ってんだよそれ……ッ!」 「ん? これ? アイスピック」 「っ、……ッ!!」 なんでだ、なんて聞かずとも分かる。「離せ!」と振り払えば、あいつは細っこい手で俺の腕を掴むのだ。 抉られる、と恐怖のあまり咄嗟に目を瞑ったとき、「ぷはっ!」と幸喜は笑い出した。 「大量出血じゃん、準一。……冗談だってば、そんなことするわけねーだろ?」 そして一人ケラケラ笑いながら幸喜は俺から手を離した。 嘘だ、まさかこいつがなにもせずに俺を開放するなんて。と幸喜を見た時、「なに?」と幸喜は小首傾げる。 「ほ、本当に……?」 「本当本当。ほら、アイスピック消したから」 そうぱっと手のひらを広げた幸喜はそれをこちらに向けてくる。先端の太い金属棒の部分がぐにゃぐにゃに曲がったアイスピックだったものを見せてくるやつ。 そもそもそれは消したとは言わないのではないかとか、どういう意図があるのかとか、こいつの思考を読もうとすればするほど知恵熱が出てしまいそうだった。 「も、もういい……俺は帰る」 「え、なんだよ。消したじゃん!」 「お前といると心臓に悪いんだよ……っ!」 「人間、誰しも刺激は必要だろ?」 こういうときだけ人間ぶるなよ、と言い掛けてやめた。なんもない平和な日常が退屈だという気持ちはわからないでもないが、人を玩具にするな。 ……なんて言ったところで、きっとこいつにはわからないのだろうが。 「……」 「準一、部屋帰るんなら俺もついていっちゃお!」 「なんでだよ、駄目に決まってんだろ」 「なんで?」 「お、お前が……」 「俺が? なに?」 何故こんな見た目が子供のやつ相手にびくびくしなきゃいけないのか。悔しくなるが、もうこれは本能的なものに等しい。 「お、お前が……変なことばっかするからだ……っ」 「変なことって? 例えば?」 「アイスピックだってそうだよ、……ってなんで包丁持ち出すんだよ……っ!」 「あはっ、フリかと思って」 「フリじゃねえよ……っ!!」 思わず全力で突っ込んでしまった。 対する幸喜はこれも俺に構ってもらったという認識のようだ、ニコニコ笑いながら「はーい」と手にしていた包丁をぽいっと捨てる。それが静かに床に突き刺さるのを見てヒヤッとした。 「準一面白」 「っ、ひ、人で遊ぶなって行ってんだろ……っ!」 「あーあ、可哀想に。せっかく止血できたのにまーた血ィ出てきちゃったな。そうだ、お医者さんごっこするか?」 「メスを出すな! やめろ!」 「え〜〜! せっかく譲歩してやってんのにこれも駄目かよ、準一ってすげーワガママだよな。生意気〜」 なんで俺が責められてるんだ。もうわけわからない。 「じゃあ準一はどんなんだったら遊んでくれんの?」 「どんなって……ふ、普通に……話したりだよ」 「ふ〜〜ん、つまんね」 「つまんなくねえって、普通は……」 普通はこうだろ、と言い掛けて言葉に詰まる。 幸喜の産まれたきっかけを考えると、まず俺の考える普通と幸喜の普通が大きくかけ離れていることに気付いたからだ。 「準一?」 「分かった。……今日は俺の部屋に来ていいぞ」 そう口を開ければ、幸喜は大きな目を更に丸くさせるのだ。そして、きょとんとこちらを見上げた。 「さっきまであんなに嫌がってたのにどうした? いいのか?」 「嫌だっつっても来るつもりだったんだろ?」 「まーな」 「……けど、俺の部屋に遊びに来るなら俺の頼みは聞いてもらうからな」 「準一の?」 「お、暴力とか……痛いことはやめろ! あと、変なことも……普通に遊びに来るんなら、いいぞ」 「変なことって?」 絶対に突かれると思ったが、本気で分かってなさそうな顔して聞いてくるからこちらまで調子狂う。 なるべく言葉を選ぶが、どうオブラートを何重に包めようが上手く伝えられる自信はない。 かくなる上は。 「……スキンシップ禁止」 「ええ〜、んだよそれ。じゃなにもできなくね?」 「だから、話すんだよ。あと、しりとりとか……花鶏さんに頼めば囲碁とかボードゲームも出してくれるだろ?」 「だらだら喋ってそれって楽しいのか? 気持ちよくなんねーじゃん」 やっぱ最初からろくな目的なんてなかったのだ、わかっていたことだがここで呆れていてはこいつとコミニュケーションなんて不可能だ。一方的に玩具にされて終わる未来しか見えない。 「楽しいとか、楽しくないとかじゃなくてな……そもそも俺はお前のこともまだ全然知らねえし、お前だって俺のこと全然知らねーだろ。一緒に遊ぶんなら、もっとお互いのこと知らないと楽しめないんじゃないか?」 「ん〜〜? よくわかんねえけど、準一は俺のこと知りたいってこと?」 「……っ、そ、それは……」 指摘され、思わず口ごもる。 確かにこれでは幸喜の言うとおり、俺一人だけ必死になってるようなものだ。これはあくまで生き抜くためだという建前だ。語弊はかなりあるが、間違いではないのだろう。 「……そうだよ」 なんか改めて言うとなると変な感じだ。何故俺がちょっと恥ずかしくなってきてるのかもわからない。 そんな俺に、幸喜は「ふーーん」と興味なさそうにそっぽ向く。 「幸喜?」 「準一ってやっぱ変なの」 「あ、おい。どこに……っ」 「準一の部屋。俺のこと、聞きたいんだろ?」 そう、こちらを振り返る幸喜に手を取られる。冷たい手の感触にぎょっとすれば、幸喜は笑った。 「いいよ、俺のこと教えてやるよ。あ、そうだ藤也のやつも呼ぼうぜ。あいつも俺に詳しいから。どうせあいつ暇だから応接室に入り浸ってるだろ」 「こ、幸喜……」 「ん?」 「いいのか?」 「いいのかって、まさか俺が断ると思って提案したわけ?」 指摘され、ぶんぶんと首を横に振る。けれど、まさかこんなに素直に提案を受け入れてもらえると思わなかったのだ。 だって刺激を求める幸喜にとっては退屈な時間になるだろうと思っていたからだ。 「なんでだろうな、ま、たまには準一に付き合ってやるのも悪くないかなって思っただけだよ」 「……幸喜」 「ま、無駄だって思ったら準一で遊ぶに切り替えるけど」 「…………」 前言撤回。相変わらず幸喜は幸喜だ。 「そうと決まれば、花鶏さんにお茶と菓子用意してもらいに行こ! つまみも欲しいから南波さんの隠しストックも貰うか」 「お、お前……それは怒られるだろ……っ!」 「大丈夫大丈夫、あの人準一の名前出せば快く許してくれるから!」 本当にそうなのだろうか。せめてお菓子だけに留めておこうと幸喜を止めつつ、俺たちは途中会った藤也とも合流し、花鶏に茶菓子を貰いに行くことになる。 なんとも奇妙な会合にはなったが、花鶏に借りたティーワゴンにお菓子と湯呑とティーカップ、そして南波からもらったつまみを乗せ部屋へと戻ることとなったのだ。 ◆ ◆ ◆ どれほど時間が経過したのだろうか。 てっきりすぐに幸喜がつまらないと暴れだすのではないかという覚悟はしていたものの、気付けば外は日が沈み、そして昇ろうとしていた。 幸喜は俺の部屋の隅、猫のように丸まって目を瞑っていた。気絶とも違う、亡霊は眠らない。精神力を回復させるためのスリープモードのような状態だ。 「……あんたが幸喜を手懐けるなんて思わなかったけど」 壁を背にした藤也は、すぴすぴと寝息を立てる幸喜を後目にぽつりと呟いた。 「手懐けるって……。けどまあ、喋り疲れて眠るなんてのは驚いたけどな」 「こいつの場合、普段使わないところを使ったお陰で余計摩耗したんだろ」 「使わないところ?」 「頭」 「……おい、怒られるぞ」 「本当のこと言ってる」 ぷい、とそっぽ向く藤也。けれど、確かにまあいつも脊髄反射で言いたいことを言いまくってる幸喜と会話が成り立つなんて思わなかった。 自然体ではないということが幸喜の負担になるというのか、つくづく俺とは正反対だと思った。こいつにとって、動物のように生きる方が何倍も楽なのだろう。 ――そのために、義人が作り出した存在だから。 「……俺、結構酷いことしたのかもしれない」 「は? ……なんで?」 「だって、こいつにとっては負担になるってことだろ。だからこんなに疲れて……」 「……あんたって、本当にお人好し。ってか、気にしすぎ」 また怒られた、と思ってると、藤也は乾いた煎餅を一口齧る。バリバリとそれを咀嚼したあと、こちらへと視線を向けた。 「アンタだって同じだろ」 「俺?」 「……最初は誰だってそう。アンタだって、今ではもう大分ここに順応してる」 「少なくとも、こいつと向き合うなんて馬鹿なこと考えるくらいにはな」そう続ける藤也に、言葉を返すこともできなかった。 「……それに、俺も初めて見た。こいつが誰かの言うことを素直に聞くなんて」 「そ、そうなのか?」 「そう。アンタのせいかもな」 「俺の?」 「……そ、アンタのせい」 俺のせい、そう言う藤也だが責めるような声音ではなかった。 順応できないやつから淘汰されていく。そう、藤也は目を伏せる。それと同時にびくりと幸喜の体が跳ねた。どうやら充電が溜まったようだ、幸喜は「んぁあ〜〜っ!」と大きな声をあげながら伸びをした。 「あ、藤也なに煎餅食ってんだよ。ずるいぞ!」 「……声うるさ」 「うるさくねえし、てか、なに? 俺の残してた麩菓子は?」 「それさっき自分で食ってただろ」 「あ? 食ってねーし、藤也お前盗み食いしたろ。正直に吐けっての」 一気に元気になったようだ、ちょろちょろ藤也の回りを纏わりつく幸喜。今にも藤也が幸喜に掴みかかって窓から放り投げそうだったので「藤也!」と伸びかけたその手を掴む。 「お、俺の部屋では仲良くしろ……っ!」 「………………」 「はは、藤也お前怒られてやんの!」 ゲラゲラと笑う幸喜を振り払い「後で覚えてろよ」とぼそりと呟く藤也に、ひっと息を飲む。 けれど一応は俺の言葉聞いてくれるんだな。そう考えると、変わったのは俺や幸喜だけではないんじゃないのか。そう思ったが、言葉には出さずにおくことにした。 おしまい