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田原摩耶
田原摩耶

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志摩兄弟と齋藤がわちゃわちゃしてるSSS【↑100/6,400文字/志摩×齋藤/裕斗×齋藤】

「ちょっと、なんでお前がここにいるわけ」 「お兄ちゃんに向かってお前って言い方はないだろ。なあ、そう思わないか? 齋藤」 「え、ええと……はは……」  この展開はなんなんだろうか。  今日は休みなので朝から出かけよう、そう志摩と約束をしたのが昨日。お陰様で朝から待ち伏せしていた志摩もやや機嫌はよく、このままなら今日来一日平和に過ごせるのではないだろうか。そんな淡い期待をし、なるべく穏便な受け答えをして志摩を接待していたのだが……。  ――学生寮一階ロビー、エレベーターホール。  エレベーターから降りたばかりの俺たちの前に現れたのは、丁度朝飯を食べてきたばかりらしい裕斗と志木村だ。  正直、最悪のタイミングである。  ……タイミングだけの問題でもないが。 「なんだ、今から二人で食事か?」 「そうだよ、だからそこに要られちゃ邪魔なんだけど?」 「裕斗さん、亮太君もそう言ってますし僕たちも戻りますよ」  志摩と志木村の言葉を無視して、裕斗は「俺も着いていこうかな」なんて笑う。  どうしてこの人は。いや、これがこの人のいいところでもあるのだ。俺は知ってる。それでも、流石に火に油をぶっかけてるようなものだ。 「は? 絶ッ対にやめて、有り得ない。っていうかなんで? 空気読むって意味わからないの?」 「なんだよ、食事は大人数でした方が楽しいだろ? なあ、齋藤」 「えっ? え、えーと……」 「齋藤に振らないでくれる? あと近いし、馴れ馴れしいし」 「裕斗さん、そもそも僕たち今食べてきたばかりのはずなんですけどねえ。もしかしてその胃に収まったチーズインハンバーグランチをお忘れですか」 「デザートくらいなら入るだろ」 「まあ裕斗さんの馬鹿胃なら入りそうですけど」 「だってよ。志木村もこういってるし、じゃ、行くか!」 「人の話聞いて……っちょっと、齋藤にくっつかないでってば暑苦しいから!」  別に、裕斗の言うとおりなのだ。大人数で食べる食事の賑やかさを知ってからは悪くないと思うようになったのも事実だ。  けれどもだ。肩に回された裕斗の手に驚いて顔を上げれば、裕斗はにこっと爽やかに笑った。  ……つくづく、恐ろしい人だと思う。  志摩裕斗と俺は、先輩と後輩だ。それもただの先輩後輩ではない。裕斗には告白をされていて、それ以前に俺達は何度かそういう行為をした仲で……つまり、恋人以上というやつだった。  それでも、恋人ではないというのはこの志摩の存在があったからだ。俺と裕斗が付き合いでもしたらきっと志摩が暴れると知ってて、俺達は隠れて会うような関係を続けていた。  そして、そんな状況でも裕斗は普段と変わらない態度で話しかけてくるので戸惑う。誰に対しても距離の近い人だとは知っていたが、それでもひやりとする。  というわけで、学生寮食堂。  向かい側には志摩と裕斗が座っていて、この構図はなんなんだろうかと思いながら俺は取り敢えず頼んだ定食を食べていた。因みに志木村は「僕は暇じゃありませんので」とそのまま帰っていった。  ……というか、見すぎだ二人とも。 「あ、あの……裕斗先輩はともかく、志摩はなんで朝ご飯食べないの?」 「こいつが余計なことしないか見張るのでいっぱいいっぱいだからだよ」 「そんなに心配してくれなくても大丈夫だ。ほら、亮太お前この草乗ってるやつ好きだったろ? お兄ちゃんが頼んできてやるよ」 「ちょっといいから余計なことしなくて、あとそれ草じゃなくてバジルだし」 「いいからいいから」と席を立つ裕斗。なんだかんだやはり志摩のお兄さんなだけあるな、志摩の扱いになれてる。……雑すぎてこっちのがヒヤヒヤするが。  裕斗が離席することにより、志摩もようやく落ち着いたようだ。ふう、と露骨に大きなため息を吐く。 「本当なんなのあいつ、せっかくの気分が台無しなんだけど」 「ま……まあまあ、志摩と一緒にいれて裕斗先輩も嬉しい……とか?」 「んな気持ち悪いこと言わないでくれる? あいつの場合そんなんじゃないでしょ、見てた?  齋藤のことばっかニヤニヤニヤニヤ見やがってあいつ、色目使ってんだって」 「い、いろめ……」  勘が鋭いのは相変わらずのようだ。間違いではないだけに内心ギクリとしてしまう。  そんな俺を知ってか知らずか、志摩は「そうだよ」とますます顔を険しくした。 「そもそも齋藤も齋藤だからね、あんなやつにいちいち優しくしなくてもいいから。じゃないと、勘違いして調子に乗るから」  そもそも、血の繋がった兄弟だというのに何故ここまで裕斗のことを邪険にするのだろうか。いや、志摩の場合はほとんどの人間に対して“そう”なのだが、それでもそこまで言わなくてもと思わずにはいられない。そんなこと、絶対に口にはできないが。  なんて話している内に裕斗が戻ってきた。 「ほら亮太、食えよ。飲み物はお茶で良かったか?」 「ちょっと、要らないって言ったじゃん。余計なことしなくていいから」 「齋藤には俺のおすすめのデザートだ! ゆっくり食えよ」 「あ、ありがとうございます……」 「本当何してんの? てか人のこと無視するなよ」  色々乗ったトレーを手にした裕斗が戻ってくるなりいつもの志摩に戻る。一周回ってもしかしてこの二人仲いいんじゃないかとも思えてきた。  俺は裕斗から受け取ったプリンを食べようとすれば、「齋藤もなに呑気に食べてるの」と志摩に怒られてしまう。理不尽だ。 「齋藤に餌付けして付け入ろうとしても無駄だから諦めなよ。あとなんで自分の分の飯も頼んでんの? チーズインハンバーグ食べたとか言ってたじゃん」 「齋藤が美味そうに食うから腹減ってきたんだよな」 「…………もういいや、勝手にしなよ」  そして志摩が裕斗相手に折れていた。まさかあの志摩が折れるなんて。  やはり裕斗は恐ろしい人だ。  ◆ ◆ ◆  食後。 「いやー腹いっぱいになったな」 「……」  志摩が突っ込みを放棄してる。あの顔は『そりゃあんだけ食べればな』という顔だ。 「それで? お前ら今から出かけ……」 「絶対に着いてこないでよ」 「おい、まだ何も言ってないだろ」 「絶対に言うと思ったから先に言ってるんでしょ。絶ッッ対に着いてこないでよ」 「大丈夫だ、二回も言わなくても聞こえてるぞ」  どれだけ志摩に露骨に疎まれようが、裕斗はにこっといつもと変わらぬ笑顔を浮かべるのだ。なんというメンタルの強さだろうか。  と、思いながらもバチバチとにらみ合う……というよりも一方的に噛み付く志摩と裕斗を見守っていると、ふと裕斗がこちらを見た。内心どきっとしたときだ、俺へ向ける裕斗の視線を遮るようにして志摩が「ねえ!」とやや大声を上げながら割り込んでくる。 「分かった……分かったから、そんなに心配しなくてもお前の齋藤君は取らないぞ」  そして、今度は裕斗が折れる番だった。  流石にこれ以上は志摩の我慢の限界を察したようだ、そう苦笑する裕斗。志摩は相変わらずだが、裕斗がそんな顔をするなんて、ましてや折れるのは意外だった。  かくいう俺も、『もしかしたらこのまま出先まで着いてくるのではないか』と志摩と同じようなことを考えていたからだ。強引でマイペースな裕斗のことを知ってるからこそ、余計。 「あんま危ないことするなよ、変な人がいても話しかけないこと」 「かけないし、余計なお世話だよ。俺たちのことを何歳だと思ってるの?」  不機嫌を隠そうともしない志摩に言われ、「はは、そうだったな」と裕斗は朗らかに笑った。 「……本当は着いていきたいが、本気で嫌われそうだからな。またな、齋藤」 「あ、は……はい、行ってきます」 「齋藤、いいからいちいちそいつにそんなこと言わなくても」 「え、あっちょ……志摩……っ」  いきなり志摩に手を握られたかと思うと、そのまま強引に歩き出す志摩。そんな志摩に引っ張られる形で、俺は食堂前の裕斗にぺこりと頭だけ下げておく。裕斗は相変わらず楽しげな笑顔のまま、「信号見て歩けよな!」と声をかけてきた。  きっと、いや十中八九裕斗には俺達は余程子供に写ってるのかもしれない。志摩はそんな裕斗を振り返ろうともせず、「無視していいよ、あいつのことは」なんて言うのだ。ぎゅっと握り締められた手が痛いなと思いながらも、ひとまず俺は志摩と休日を楽しむことにする。  なんだかんだ、志摩と裕斗は仲がいいのだろう。  俺は一人っ子なので一般的な男兄弟が如何なるものか想像つかない。  けれど、笑顔の裕斗と我が強い志摩が諦めてるのを見てるとなんだかんだ……なんだかんだもしかしたらいい関係を築いてるのかもしれないなんて思うのだ。 「本っ当、なんなのあいつ。自分も齋藤と仲良くなってるつもりなわけ?」  今日は一日志摩はこの調子だった。  朝起きたときは機嫌良かったが、すっかり裕斗に調子狂わされて引きずってるようだ。せっかく志摩の行きたいといってた店を練り歩くことになったが、朝方のことを思い出してはむくれている。 「まあ……きっと、裕斗先輩も志摩と出掛けたかったんじゃないかな?」 「齋藤、目ちゃんとついてる? あれのどこがそう思えるわけ? どう考えても齋藤狙いだよ。あの男、毎回毎回魂胆がわかりやすすぎるんだよ」 「え、い、いや……そんなわけ……」 「あるでしょ、実際俺一人だったらあそこまで着いてこようとしないし」 「そ、それは……」 「なんでちょっと赤くなってんの?」 「な、なってないよ……っ」  じーっとこちらを見てくる志摩。その突き刺さる視線から逃れるように俺は咳払いをし、誤魔化す。 「……けど、兄弟仲いいのって羨ましいな。俺、一人っ子だったから」  そう話題を変えようとすれば、今度は先程よりも大きな「はあ?」という反応が返ってきた。 「仲がいい? どこが?」 「え、だ、だって……」 「前から思ってたけど齋藤って本当人を見る目がないね、俺ちょっと心配になってきちゃった」 「まあ、そんなだから俺と付き合ってくれるのかな」なんて呆れたように、皮肉げに笑う志摩の一言一言が鋭いナイフとなってぐさりと突き刺さる。 「ち、違うの……?」 「違うよ。あいつのあれは兄弟とか関係ないし、齋藤にだってそうでしょ? 俺のこと、その他大勢の一人としか捉えてないんだよ」 「それは……」  そんなことないんじゃないだろうか。そう言い掛けて俺は口を閉じる。分け隔てがない、といえば聞こえはいいがその他大勢と一緒くたにされていると言われれば何も言えない。 「……ごめんね」 「なんで齋藤が謝ってんの」 「なんか、その……よくも知らないのに口出しして……」 「ちょっと、そんなに深刻な顔するような話じゃないでしょ。俺としては、こんなことよりも自分の心配してほしいんだけどね」  怒ってる、というよりは呆れの色が強く感じた。言いながらも、志摩の言葉は先程よりかは幾分和らいで見えた。 「……それに、俺には齋藤がいるしね」  ね、とこちらを横目に微笑む志摩。笑った顔はやはり裕斗とよく似ている。目元や、笑い方が。  それでもやはり、その一言だけで胸の奥がぽかぽかと熱くなってくる。いつもの意地悪ではない、志摩の本心の声が聞けたような気がしたからだ。 「齋藤、もしかして照れてる?」 「……志摩は、あまり顔に出ないよね」 「そう? 俺は結構素直な方だと思ってたけど」  それはまあ、言われれば誰よりも素直ではあるけれども。なんて思いながらも敢えて深く突っ込まないでおくことにした。  ◆ ◆ ◆  それからは、比較的穏やかな午後を過ごすこととなる。とはいえ志摩に振り回されるのはいつものことだが、それでも午前中に比べると志摩の機嫌も戻っていた。  戻っていたのだが……。 「よっ、ちゃんと帰ってこれたんだな」  学生寮ロビー、エレベーターホール。  今度は晩飯を食べてきたばかりらしい裕斗と鉢合わせするはめになる。  ……デジャヴ。 「ねえ、もしかして後つけてた? それとも待ち伏せ? GPS仕込んでる? 盗聴?」 「おいおいそんなことするわけないだろ、たまたまだって。な、齋藤」 「齋藤に勝手に話しかけないでくれる?」  そしてこのやり取りも今朝と同じだ。 「けどまあ、楽しかったみたいでよかったな」 「そうだけど、何あんたが勝手なこと言ってるの?」 「勝手なこともなにも、お前らの顔見てたら分かるよ。亮太は特に素直だからな」  そう、志摩の頭を撫でようとする裕斗の手をするりと避ける志摩。 「それ思い込みじゃない?」なんて憎まれ口を叩く志摩だが、俺は今日、道中志摩と交わしたやり取りを思い出しては少しだけほんわかした。  なんだかんだ言って裕斗も志摩のことを理解してるのだろう。 「ちょっと、何ニヤニヤしてるの齋藤」  そして志摩はそんな俺の視線に気付いたらしい。  慌てて「ニヤニヤしてないよ」と口元を手で覆う。……少ししてた。 「じゃ、俺達疲れてるからじゃあね。一人で寂しく部屋に帰りなよ」 「そうか、ゆっくり風呂に入って休めよ。夜ふかしもほどほどにな」 「だからあんたなに? 母親なの?」  なんてやり取りをしつつエレベーターを待っていると、どうやら着いたようだ。俺達は裕斗と別れ、エレベーターに乗り込むことにした。 「それじゃ、齋藤今夜はもちろん俺の部屋泊まりに来るんでしょ?」  ――エレベーター機内。  二人きりになった途端、そんなことを言い出す志摩に思わず「え」とアホみたいな声が出てしまう。それはそうだ。そもそもそんな約束はしていなかったからだ。俺はこのまままっすぐに自室へと帰るつもりでいた。 「で、でも……裕斗先輩に夜ふかしはするなって……」 「あんなの真に受ける方がおかしいでしょ。それともなに? なにか都合でも悪いわけ?」 「そういうわけじゃないけど……着替えとかも準備できてないし……」 「俺の貸すよ」 「そんなにすぐ?」 「そうだよ。だって、あれだけで満足すると思ったの?」  言われて『まあ確かに』と納得してしまいそうになる。……とはいえ、志摩の思いつきや無茶振りもいつものことだ。本当はこのあと裕斗と会う約束をしていたのだが、念の為連絡しないといけないな。なんて思いながら「わかったよ」と志摩に頷き返した。  今夜は早寝はできなさそうだ。そんなことを思いながら、俺は志摩の部屋で過ごすことになった。幸か不幸か、外泊予定だった同室者の十勝が途中帰宅したおかげで一度は修羅場になりかけたが、途中から十勝を交えてお笑い番組を鑑賞することとなった。志摩はまた不機嫌になっていたが、途中から笑顔が戻っていたのでそれなりには楽しかったのだろう。  そして、俺は久しぶりに賑やかな週末を過ごすこととなったのだ。 『亮太と仲良くな』という裕斗からの返事には、無料でもらったよくわからないキャラがお辞儀してるスタンプで返しておく。  おしまい


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