勇者×村人SSS
Added 2021-08-08 12:47:07 +0000 UTC「スレイヴ、これも頼む」 「ああ、そっちの袋も預かるぞ」 「いや、こっちは重いから俺が持つ」 「……」 クエスト帰り。 その途中の洞窟の中、街の人間に頼まれていた鉱石や魔石を採集しては雑用係である俺が預かるようにしていた。のにだ。 「おい、イロアス……」 「……っと、これで個数は足りてるな。よし、じゃあメイジ頼めるか」 「ああ、ギルドまで戻すぞ」 人が言葉を続けるよりも先にメイジの転移魔法が発動する。洞窟の中が暖かな光に包まれたと同時に、瞬きをした瞬間に目の前には見覚えのある建物が聳えていた。 「それじゃあ、俺は納品してくるからお前は好きにしていいぞ」 「はーい」とメイジとシーフ。ナイトは「ああ、わかった」とだけ応えていた。その場で解散し、残されたイロアスはそのままギルド協会へと歩いていく。 別に珍しいことではない、いつもの流れだ。 なんとなくもやもやしたものが胸の奥に残り、いても立ってもいられず俺はイロアスの背中を追い掛けた。 ――ギルド協会、内部。 「イロアス」とその背中に声をかければ、丁度受付をしようとしていたイロアスがこちらを振り返る。 「どうした。何か忘れ物でも……」 「……別に。俺がいちゃ駄目ってわけじゃないだろ」 「ま、まあ……そうだけど」 妙に歯切れが悪いイロアスだが、それでも何か感じたのだろう。それ以上なにも言わずに受付嬢との会話を続ける。俺はそんなイロアスの横顔を見ていた。 それから納品を済ませ、お礼の品を受け取る。中には装備品を強化するための道具や素材がごろごろと入っていた。それを軽々と手にしたイロアスは「待たせたな」とこちらを見る。 「……それで、何か話があったんだろ?」 「ああ。……ん」 そうイロアスに向かって手を差し出せば、イロアスは目を丸くした。 「なんだ、ほしいものでもあるのか?」 「違う、小遣いじゃない。……それ、持つ。宿に持って帰っておく」 「まさか、それでわざわざ待ってたのか?」 「わざわざってなんだよ」 「いや……取り敢えず、外に出ようか。小腹が減ったんじゃないか?」 尋ねられ、微かに腹が鳴る。が、ここで頷いたらまた流されてしまいそうな気がして首を横に振る。 「別に、まだお腹減ってないぞ」 「……そうか? 別に無理しなくてもいいんだぞ、俺と二人きりのときくらい」 「……少し減った」 「じゃあ、外の屋台で軽食を取ろう」 無理しなくてもいいと言ったくせになんで少し笑ってるんだ。 むっとしそうになるが、「ほら、行くぞ」とイロアスに背中を押されれば仕方ないなという気分になる。 ――大通り、広場前。 露店や屋台が並ぶその通りは多くの行商人行き交っている。 そしてその一角、俺達は木製の長椅子に並んで腰を降ろしていた。そこで俺達は凍らせたベリーを削った氷菓子を食べていた。 「……なんだか、久し振りだな」 「これ食うのかがか? 似たようなもんならあるだろ」 「違う、いや……それもそうだけど、こうしてスレイヴとゆっくりするのがだ」 「……そうだったか?」 「ああ、俺だけかもしれないけど。……なんだか久しぶりな気がしてな」 言われてみれば、二人きりになることはあれどすぐに別の用事が入ったりとでバタバタしていた気がする。それはここ最近の話ではない。 「そりゃあ、お前は勇者だからな。お前を必要とする人間は多いだろ」 「……そうだな」 ほんの僅かにイロアスの声のトーンが落ちた気がする。なんとなく気になって顔を上げれば、丁度こちらを見ていたイロアスと視線がぶつかる。 「……美味いか?」 スプーンで掬った氷菓子を咀嚼する。しゃくりと音を立て、咥内の熱に溶けていく果実。 うまい、と答える代わりに頷けば、イロアスは目を細めるようにそうかと微笑んだ。なんだかその笑顔が妙に寂しそうで小骨のような違和感を覚える。 「イロアス、お前は食わないのか?」 「ん、ああ……食べるよ。スレイヴがあまりにも美味そうに食べるからな」 「俺のせいか?」 「違う。……そうじゃなくて……」 「なんだよ、言いかけてやめるなよ」 「……手厳しいな」 しゃくりと一掬い。氷菓子がのったスプーンを眺めてると、イロアスはそのままそれを口に含める。 「……うまいか?」 「ああ、……少し酸っぱいな」 「はは、本当だ。顔がシワだらけになったぞ」 冷たいのもあって余計そう感じたのかもしれない。それでも、その一口を口に含んだ途端イロアスの顔がぎゅっとなるのが面白くてつい吹き出してしまう。 そんな俺を見て、イロアスは口元を手で覆う。そして目を反らすのだ。 「……笑うなよ」 「なんだよ、そんなに酸っぱかったか」 「少しだけ」 「……ふ、」 「おい、スレイヴ……」 「怒るなよ。……あの勇者様も酸味に弱いんだと思うとな」 イロアスの顔が引き締まる。これは少し怒ってる顔だ。 それでも俺は知ってるし、現在進行形で見てしまった。 「お前、昔からあまり好きじゃなかっただろ。もっと甘いやつにしとけばよかったんじゃないか?」 「……たまにはいいかと思ったんだよ。それに、スレイヴが……」 「また俺のせいか」 「違う。……いや、違わないな」 「なんだと」とスプーンで氷菓子を掬う。そのままイロアスの口元へと持っていけば、少しだけイロアスは目を丸くした。やや躊躇ったあと、小さく口を開いてそれを口にする。 瞬間。 「……ッ」 「ふ、……はは、またぎゅってなったな」 「……っ、スレイヴ……それは卑怯だろ……」 「釣られるお前が悪い」 「…………っ」 口の中の氷菓子がなくなったらしい。手にした皿の上の氷菓子を掬ったイロアスは、今度は俺にそれを差し出してくるのだ。つい口を開け、そのままぱくりと氷菓子を食べる。それからはっとした。 「……いや、俺に食わせても意味ないだろ」 「美味いか?」 「美味い」 「……そうか。もう一口食うか?」 こいつ、自分で食うのをやめて俺に食わせる気なのだ。 イロアスの意図は分かったが、それはそれだ。 「食う」とだけ応えれば、イロアスは笑った。そしてそのまま俺はイロアスと自分の分の氷菓子を手に食べることとなった。その間イロアスは自分で食うときよりも嬉しそうにこちらを見ていた。 今に始まったことではない。昔から、自分が満たされることよりも他人を幸せにすることに重きを置くようなやつだ。……だからこそ、勇者に相応しいのだろうけど。 「イロアス」と名前を呼べば、イロアスは「どうした?」とこちらを見たまま即答する。 「……お前、少し俺のことを甘やかしすぎじゃないか?」 そうだ、氷菓子のお陰で逸れていたが元々はそれを言うためにイロアスを待っていたのだ。 すると、イロアスは豆鉄砲を食らった鳩のような顔をするのだ。 「俺が? ……そうか?」 「そうだよ。今日だって……俺は雑用係なんだから荷物持ちくらいはするし、元々そう言い出したのはイロアスだろ」 「それは……言っただろ、本気で雑用係にするんじゃなくてあくまで建前だって」 じゃあ本業はなんなのか、その言葉の裏がなにを指してるのか考えたくなかった。顔が熱くなるが、ここで退いてはいけない。 「……だとしてもだ、お前はあからさますぎるんだよ。もっと俺のことをコキ使えよ。……じゃなきゃ、他のやつらにも怪しまれるだろ」 「スレイヴ……」 「それが言いたかった。それに、お前は変なところで気を遣うし……そういうの、俺にまでする必要はないからな。もう、雑用係なんだから」 そういうつもりではなかったが、口にしてしまうと卑屈っぽくなってしまうが言葉を選ぶことはできなかった。 イロアスは何かを言いかけては言葉を呑み、口を閉じる。そして、「やっぱり、お前は強いな」と笑うのだ。 「イロアス」 「けど、俺はお前を気遣ってるわけじゃない。……俺がそうしたかっただけだ、それだけは分かってくれないか」 不意に伸びてきた手に頬を撫でられ、驚きそうになる。流石に人前で妙な真似はしないだろうが、それでも、すり、と目尻を指先で擦られればどうしても昨夜の情事を想起させられるのだ。 やめろ、と手を押し退ければイロアスは少し寂しそうに笑った。 「悪い、嫌だったか?」 「……そういうのは、後からにしろ」 お前の言いたいことは分かったから、と続けようとした矢先だった。空になった器を取り上げられる。 「あ、おい……っ」 「帰るぞ」 「はあ? ……って、おい、イロアス……ッ!」 そのまま器を回収用のダストボックスに突っ込めば、イロアスは人の手を掴んだまま歩き出すのだ。俺は荷物を慌てて抱え直し、そのあとに着いていく。手首を掴むイロアスの掌がやけに熱かったことだけは分かった。 何度も抱かれれば嫌でもイロアスの癖が分かるようになってくる。そして、スイッチが入る瞬間も。 コキ使えって、そういう意味じゃないからな。 そう喉元まで出かかり、言葉を飲んだ。 イロアスが無理していないのならそれでいい。 そんな風にほんの少しだけ思ってしまったからだ。 結局その明朝、昼間食った二人分の氷菓子とイロアスのせいで腹を下し、流石に罪悪感を覚えたらしいイロアスに一日付きっきりで看病されることになった。 おしまい
Comments
甘くて最高です。
パイ生地製作委員会
2023-08-01 07:57:49 +0000 UTC