メイジ×村人がデートする話【↑100/8,700文字/魔導士×村人/平和】
Added 2021-07-03 11:54:50 +0000 UTCパーティーメンバーから外され雑用係へと降格し、自分の時間が増えたことは間違いない。とはいえ、ただ怠けるつもりもなかった。 暇なときは資金稼ぎに軽いお使いクエストを熟す。微々たるものだが、それでも部屋に籠もって腐ってるよりかはましだ。それに自己研鑽にもなる。 その日も他の連中がクエストに出てる間、短時間で済みそうな薬草集めや木のみ集めをし、それらをギルド協会へと納品した。 日も暮れた頃。 イロアスたちが戻ってくる前にギルド協会を戻ろうとすれば扉の前、立ち塞がる影にぶつかる。 「……っ、おわ」 ぼふんとぶつかりそうになり、慌てて体勢を整えようとすればそのまま体を支えられる。あまりにも馴れ馴れしく触れてくる手に顔をあげれば、そこには見慣れた顔――腹立たしい笑みを浮かべたメイジがいた。 「おっと……危ないな、猪でも周りを見るぞ」 「っ、悪かったな。……おい、離せ」 「なんでお前がここに居る? スレイヴちゃんにはもう関係ない場所だろ」 本当に、いちいち癪に障る物言いをする男だと思った。 「俺レベルでも受けれるクエストはある」とむっとなり言い返せば、メイジは言うよりも早く俺の手を取るのだ。 「……っ、おい……」 「土臭いな。……なんだお前、山に遊びにでも言ってたのか」 「……ほっとけ、お前に関係ないだろ」 「関係はないが、土いじりするお前には興味がある。野山で駆け回るスレイヴちゃんにもな」 「馬鹿にしてるのか?」 「スレイヴちゃんらしい、と言ってるんだ」 やっぱりお前馬鹿にしてるだろう。 口元を歪め、声もあげずに笑うメイジがただただ腹立たしい。 「……お前がいるってことは、イロアスたちも戻ってきてるんだろ。もういい、戻るからお前もさっさと納品でも行ってきたらどうだ」 「ああ。そのつもりだ」 「じゃあ早く離せ」 「離したら逃げるだろ」 「そもそも俺は帰るところだったんだよ、お前が邪魔するから……」 「抱き着いてきたのはお前の方だろ。まあいい、じゃあそこで待ってろ」 なんて、当たり前のように命じてくる目の前の魔道士に思わず「は?」と声が漏れる。 「なんで俺が……」と言い終わるよりも先に、メイジは「じゃあな」と俺の肩を叩きそのまま受付へとすたすたと歩いていく。 あんな一方的な言い分で俺が素直に聞くと思ってるのなら本当に腹立たしい。 俺はそれを無視してさっさと出入り口から出ていこうとするが、靴裏が地面と縫い付いたように動かない。 間違いない、あの男の魔法だ。 最初から逃がすつもりはなかったんじゃないか。腹立たしかったが、それでも靴を脱いででも動いてやろうとすれば上半身のバランスが傾き、そのまま尻もちをつくように転倒してしまう。 ざわざわと冒険者たちに注目される最中も足だけはしっかりと地面についてて、「大丈夫か?」と声をかけられる度に酷く惨めな気持ちになる。 ――そして数分後。 「そんなところで座ってると腰を冷やすぞ」 なに食わぬ顔をして戻ってきたメイジに俺は飛びかかろうとするが、まだ足の裏が縫い付いたままだ。転びそうになるところをメイジに腕と腰を抱き支えられる。 「お前……大人気ないぞ……ッ!」 「素直に俺の言うことを聞いていればよかったものを。……まあ、観衆の前で股かっ開いてるスレイヴちゃんはなかなか悪くなかったがな」 「……ッ!」 こいつ、と一発くらい殴ってやろうとすればメイジはそれをひょいと避ける。 瞬間、拘束魔法も解かれ、急に自由が利くようになった体がバランスを崩しかけたところでそのままメイジに捕まった。 「っ、くそ、離せ……ッ」 「離したら逃げるだろ」 「…………」 「否定しないのはお前らしいな」 そう言って、人を小脇に抱えたままメイジは歩き出す。人目なんかどうでもいい、とにかくこの男から逃げたい一心でその腕を抜け出そうとするが敵わない。それでもメイジの腰を掴んでぐいぐいと引き離そうとすれば、メイジの腕から力が抜けた。 そして、そのまま勢い余って地面の上に落ちそうになる俺の首根っこをメイジは掴むのだ。 「っ、な、おい……ッ! メイジ……っ!」 「お前にはこれで十分だな」 人を猫かなにかのように掴み上げられる。ふざけるな、と言い終わるよりも先にメイジはさっさと協会を出ていくのだ。 それから暴れること暫く、結局メイジに捕まったまま俺が連れてこられた先は魔道具屋だ。 古臭く、こじんまりとした店の扉を開けばまるで異空間のような広さと壁や天井、床の上、ありとあらゆる魔道具で溢れていた。 きらびやかな魔石が並ぶショーケースが目に入り、思わずはた、と動きを止めればメイジは俺から手を離した。 「ここは……」 「暴れない方がいい、この店のモノ壊したらお前の小遣い一瞬で吹き飛ぶからな」 そんなの、言われなくともみりゃ分かる。そもそもこっちが抵抗してたのはお前のその態度と強引な真似をするからだ、と言ってやりたかったが言葉を飲み込んだ。 まるで外の喧騒から隔離されたかのような静けさと異質感に圧倒されてしまう。店主らしき姿は見当たらない。 「……買い物なら、一人ですりゃいいだろ」 そう声を潜めれば、メイジは「ああ、そうだな」とただ静かにこちらを見て笑うのだ。 含んだようなその笑顔と言葉にムカつくが、辺りの魔道具たちが気になってつい怒りよりも興味が勝ってしまう。 なんだよそうだなって、と心の中で毒づきながらも俺はショーケースにそっと近寄る。なるべく辺りのものにぶつかってしまわないよう、そっと。 「……」 「ほしいのか? 魔石なんて使わないくせに」 「……っ、違う、見てただけだ……キラキラしてたから」 「光ってるものが好きなのか」 「……好きってわけじゃない、けど、目を惹かれるだけだ」 悪いかよ、とメイジから顔を逸らせば、背後にメイジが立つ気配を感じた。 「……いや。誰しも輝いている物には目を奪われる、それは自然なことだ」 すぐ耳元、背後から囁きかけられぎょっとする。「近い」とメイジを押し返そうとしたとき、そのまま手首を掴まれた。 そしてメイジは、「それ、見てみろ」とショーケースの中を指した。 「その魔石、スレイヴちゃんには何色に見える?」 そう指された魔石は他のものよりも豪華なケースに入った石だった。角度によってはキラキラと光るそれは布地の紅色をそのまま透過させている。 「色……って、なんだよ。透明じゃないのか?」 そう、メイジの方を振り返ればやつは「なるほどな」とだけ頷いた。そして、俺から手を離す。 「なんだよ、なるほどなって」 「俺にはこの石は黒く見える」 「……黒?」 「ああ、光を反射することすらもできない黒い石ころだ」 「…………」 見るものによって色を変える石、ということなのだろうか。そう口にするメイジの表情がなんだか妙に引っかかり、じっとその横顔を睨んでいるとメイジがこちらへと目を向ける。 「けど、ああ……お前の顔だけはよく映ってる」 「反射しないのに俺の顔だけ映るのはおかしいだろ」 「おかしくはない。こいつは人の心を映し出す石だからな」 そう言われて、俺はつい目の前の石を覗き込む。そこには俺と、その背後からこちらを見つめるメイジの顔がきらりと反射した。 「お前の見る魔石に俺の顔は映ってたか?」 「……っ、お前……」 睨み返せば、メイジはただ笑いながら俺から離れていく。結局、肯定も否定もできなかった。 そのまま店内の奥へと向かうメイジ。一人残された俺は再び魔石を覗き込んだ。……メイジの姿はもう映っていない。 あとになってお店の人に教えてもらったが、この魔石は元から透明の魔石らしい。それを知っててわざとからかってきたメイジに頭にきたが、メイジは涼しい顔して「宝石の輝きは見た者によってその真価は変わる。嘘ではないだろ」なんてあっけらかんと答えるのだ。 魔道具屋を出たとき、外はすっかり暗くなっていた。 魔道具屋で目的の買い物を済ませたメイジは使役する使い魔に荷物を宿へと送り届けさせる。 そして、「さあ行くか」なんて言い出すのだ。 「行くかってなんだよ、俺はもう帰るからな」 「腹減ってるだろ」 「別に、減ってな……」 ない、と言いかけた矢先、きゅるると情けない音が辺りに響く。 メイジが妙なことを言うせいだ、空腹を意識してしまった途端体が悲鳴をあげ始めた。 押し黙る俺に、メイジは「体の方がよっぽど素直らしい」と嘲笑うのだ。 「この辺りの店はシーフと調査済みだ。……お前の好きそうな店に連れて行ってやる」 「……行かない」 「無理するな、涎垂れてるぞ」 「……っ、垂らしてない」 「俺と二人きりが嫌ならナイトでも呼ぶか?」 そう視線をこちらへと向けるメイジ。 俺一人では自分には敵わないとメイジに暗に言われてるようで腹が立ち、「いい」と思わず言い返してしまう。口にしてからハッとした。そしてメイジはふ、と微笑むのだ。 「じゃあ決まりだな」 「もし口に合わなかったら、お前とはもう二度と飯を食いに行かない」 「好きにすればいい。そのときはまた抱き抱えてやる」 「…………」 冗談に聞こえないのが厄介だ。 このままでは埒も明かなければ腹も膨れない。 そして、渋々俺はメイジについていくことになる。 どうせこいつのことだから気取った貴族向けの店に連れて行くつもりなのではないかと思ったが、メイジが連れてきたのは大衆向けの飯屋だ。 老若男女、様々な客層で賑わうその店内にあまりにもメイジのような男は浮いていた。 二人用の席に腰を掛け、俺は取り敢えず食いたいのを頼んだ。どうせメイジの奢りだと思って大盛りを頼めば「それだけでいいのか?」などと透かしたことを言うのでデザートも付けてもらう。 そしてメイジは果実酒を頼んでいた。 「……あんたは食わないのか?」 「大抵の人間はスレイヴちゃんみたいにばかすか食べないぞ」 「それはあんたが年寄りだからだろ」 「それは……聞き捨てならないな」 ぎゅっと伸びてきた指に鼻を摘まれる。やめろ、と慌てて手を振り払えばメイジは笑った。いつもの腹立つ笑顔とはまた違う、妙な笑顔だ。 「俺は酒で腹を膨らませることができる人間だからな」 「そのうちどこかしら悪くするぞ」 「そのときのため、俺は治癒魔法はしっかりと学んでるんだ」 「………………」 これだから魔道士というやつは嫌なんだ。魔法でなんでもなると思ってやがる。 けれど、これ以上こいつの健康についてとやかく言って変な風に思われるのも癪だった俺は先に届けられた水に口をつけた。ごくごくと半分以上一気に流しこめば、ふと向かい側に座るメイジがこちらを見てることに気付いた。 「……おい、人の顔をジロジロ見るな」 「金は払うんだ、問題ないだろう」 「そういうことじゃない」 「スレイヴちゃんは酒は飲まないのか」 「……イロアスにあまり飲むなと止められてる」 「へえ、勇者サマがねえ……。ま、この場には勇者サマはいない。呑みたかったら遠慮しなくてもいい」 そんな会話をしてるうちに届けられる料理と酒。 なにを企んでるんだ、この男は。俺が飲酒したのをイロアスにでも言いふらすのではないかと疑ってみるが、目の前であまりにも美味そうに酒を呑むメイジに思わず視線が向いてしまう。目が合えば「一口飲むか?」などとジョッキを向けてくるメイジ。 「いい、お前の飲みかけ飲むくらいならちゃんとしたものを頼む」 「なにが好きなんだ?」 「……ラガー」 「そうか、じゃあそれを頼もう」 いい、余計なことするな。というよりも先にメイジが通りかかった店員に声を掛ける。くそ、やられた。最初から飲ませる気だったのだ。 やつの掌の上に転がされてるようで癪だったが、どうせタダ酒だ。と開き直る自分もいた。 ……この店の賑やかな雰囲気のせいだろう、楽しそうな客たちに囲まれて美味い飯を食ってると、なんだかその場の空気に宛てられ浮かされてしまうのだ。 それからすぐ酒は届けられた。目の前に置かれたジョッキになみなみと注がれた酒を見て喉が乾く。 「乾杯でもするか」 「……お前はもう飲んだろ」 「細かいことは気にするな」 「…………今日だけだからな」 癪だが、非常に癪だけど、つい俺はメイジに促されるがままやつの手にしたグラスに軽くぶつける。やつは俺を見つめたまま、そしてただ笑っていた。 ……なにを考えてるのかわからないやつだ。気まぐれで、善人ではないと分かっているし何度もムカつくこともあった。 それでもまあ、今夜だけだ。……今夜だけは美味い飯と酒に免じて許してやる。そんな気持ちで俺はジョッキに口を付けた。 場酔い、なんて言葉がある。 この男の前で醜態を晒したくなくて酒はセーブしたつもりだったが、つい手が進んでしまった。体内に蓄積されたアルコールと満たされた腹、そして居心地の良さに気が緩んでいたのも原因なのだろう。だいぶ酔いが回っていると自覚できるほどだった。 食欲を満たせば次にくるのは睡眠欲だ。うつらうつらとしていた俺を見て、メイジは「まるで赤ん坊だな」と笑う。 「う……るさい」 「眠るならベッドで眠れ。……帰るぞ」 「っ、さわるな……一人で歩ける」 「そうか。なら歩いてみろ」 売り言葉に買い言葉、言われるがまま立ち上がろうとして思いっきり重心が傾く。がくんと転びそうになったとき、伸びてきた腕に肩を支えられた。 「備品を壊されちゃ店が迷惑だ。大人しく甘えてろ」 「っ…………」 お前だって俺より飲んでたくせに、なに涼しい顔してんだ。 メイジにリードされることも癪だったが、店に迷惑をかけるのはもっと嫌だった。 「その……触り方はやめろ」 「なんだったらいいんだ?」 「俺が、お前を掴む……」 「………………好きにしたらいい」 なんだその間は。 「ほら」と手を伸ばしてくるメイジを無視して俺はメイジの背中、服の裾を掴んだ。 「なるほど。掴むってそういうことか」 「……ほら、歩けよ」 「はいはい、足元気をつけろよ」 服を皺になる、とか、そんなことを言われるかと思ったが案外メイジはなにも言わず、寧ろ楽しげに笑うばかりだった。 既に支払いは済ませてたらしい、記憶もあやふやなまま俺はメイジとともに店を出る。 外はすっかり日が落ち、街は昼間とは違う顔を見せていた。賑わう通りを抜け、メイジと俺は特に会話もなく歩いていた。 本当に、俺はなにをしてるのだろうか。 ぐわんぐわんと回る目の奥、目の前を歩くメイジの背中を眺めていた。そのとき、ふとメイジが立ち止まる。足を止めようとするが間に合わず、俺はそのままメイジの背中にぶつかった。 「おい」と顔をあげようとして、そのまま手を握られた。ひんやりとした、見た目よりもがっしりとした骨っぽい手。柔らかそうに見えてその指は固く、躊躇いもなく絡めてくるその指にぎょっとする。 「おい……」 「そのままだと眠りそうだったからな。……これなら逸れなくて済むだろ」 「……俺は、子供じゃない」 「大人は自制できるものだ」 「お……まえだって、呑んだくせに……」 「俺は大人だからセーブくらいできる」 「……そんなの、言ったもん勝ちだ」 そう吐き捨てれば、メイジは何も言わずただこちらを見て目を細めるのだ。そしてそのまま歩き出す。 手を振り払うこともできたが、メイジの言うとおりこの手がなければおそらく俺は一人で歩くことも困難だっただろう。 「……妙な真似、するなよ」 「それはしろっていうことか?」 「ち、がう」 「しない。……このままみっともなく酔ったスレイヴちゃんの世話をしてやった方がお前は嫌がるだろうからな」 「…………」 やっぱりこいつ、性根がひん曲がっている。 妙に優しいのも腹立つが、この酔いが醒めたときのことを思うとただなんとも言えない気持ちになった。 「……やっぱり、アンタは性格が悪いな」 なら手を振払えばいい。そう言いたげな目と余裕な笑顔に腹立って、俺はメイジの手を握った。 ほんの一瞬、メイジが目を開く。 「アンタは……こういうのが嫌いなんだろ」 俺の嫌がる顔が見たいような男だ。意趣返しのつもりでその手を更に強く握れば、メイジは呆れたように笑った。 「……スレイヴちゃん、やっぱお前は俺の喜ばせ方をよく分かってるな」 「……っ、うるさい……」 「自分で恥ずかしくなるなら慣れないことはしない方が懸命だと思うぞ」 「……やっぱり、いい……っ、一人で歩け……」 酔とはまた違う熱が顔や耳に集まり、咄嗟にメイジの手を振払おうと立ち止まるがあいつの指にさらに絡め取られた手のひらはがっちりと離れない。 なんなんだこいつは、蛇かなにかなのか。と、呆れる俺に「駄目だ」と低く耳打ちするのだ。 「このままだ。……このまま帰るぞ」 「っ、おい……メイジ……」 「どうせ誰も見ちゃいない。それとも見られる方がお好みか?」 「……んなわけ、ないだろ」 「じゃあ問題ないな」 問題しかないだろ、こいつ。 言い終わるよりも先にメイジに手を引かれる。それでも俺が転ばないように歩幅を調整してくるこいつがただ腹立たしくて、宿屋までの帰路がやけに長く感じたことだけは覚えてる。 まるで長い夢を見ていたような、そんな感覚だった。喧騒が遠くて、掌に熱が集まっていく。 それから、どうやって部屋まで戻ってきたか覚えてない。ぐっすりと眠り、目を覚ませば目の前には見慣れた男の顔があった。 「っ、な゛……ッ」 メイジだ。何故こいつが俺のベッドに、と咄嗟に起き上がろうとして、手を握られていることに気付く。がっちりとやつの手に絡められた指に青褪め、慌ててその手を離そうとしたとき。 「……ようやく目を覚ましたか」 「っ、お前、なんで人の部屋に……」 「なんだ、覚えてないのか? ……散々人の金で飯食って酒呑んで、一人で歩けねえっていうからこうして送り届けやったこと」 「……………………」 言われて、次々と脳裏に浮かぶのは断片的なメイジとの記憶だ。そうだ、こいつに部屋まで送ると言われて……それで。 ……それで? 「一人で寝るのは寂しいって言うからこうして添い寝してやってたんだ」 「っ、嘘つけそんなわけ……」 「ああ、これは冗談だ。実際はお前が人の手を握ったまま眠りこけるから俺は帰れなくなったんだ」 「……っ、……」 嘘だ、そんなわけないだろ。と言いたいがなによりも自分から指を絡めるような繋ぎ方になっていたことに気付いてしまう。俺は慌ててメイジから手を離した。 「なんだ、もういいのか」 「っ、昨夜のことは……忘れろ、いいな?」 「それは俺ではなく俺の脳に直接頼んでくれ。……まあ、無理な話だろうがな」 一人楽しげに笑うメイジにムカついて、「いいから忘れろっ」と枕を投げればメイジはそれをひょいと避けるのだ。そのまま空中に浮いたまま停止した枕はぼとりとベッドに落ちた。 「でもまあ、勇者サマの気持ちはわからんでもないな」 「……っ、なんでここであいつの名前が出てくるんだよ」 「さあな」 「さあなってなんだよ、こういうときだけしらばっくれるなよ……っ!」 「スレイヴちゃんはそのままでいいってことだ」 またこいつは適当なことばかりを言いやがって。ムカついたが、腹が経てば脳も醒めてきたらしい。今度は腹が減ってきた。 きゅるると音を立てる腹部にはっとすれば、メイジは呆れたように肩を竦めて笑った。 「食って呑んで寝て、そんで起きたらまた腹が減った、か。健康でなによりだな」 「っ、だ、黙れ……ッ」 「朝食を食いに行くか。……今度は酒は呑むなよ」 「朝から呑むわけないだろ、お前らじゃあるまいし」 「俺だって朝からは呑まない。シーフだけだ。……いいから早く顔を洗って着替えるんだな。それとも、俺に手伝ってほしいのか?」 「んなわけないだろこの……ッ、アンタだってその朝から鬱陶しいニヤケ面やめろ」 「これは元からだ」 なんて会話を交わしながら俺はメイジに急かされるまま朝支度をする羽目になる。 何故当たり前のようにこいつと朝食取ることになってるのか気づいたときには遅かった。 ……本当に、何から何まで食えない男だ。