XaiJu
田原摩耶
田原摩耶

fanbox


齋藤生誕祭withアンチ【↑100/5,600文字/齋藤総受け/わちゃわちゃ】

 なぜ、こんなことになってるのか。 「齋藤君、グラス空いてるね。ほらおかわり自由だよ、俺が注いであげるね」 「あ……ありがとうございます……」 「ちょっと、方人さん。それジュースじゃないですよね、今なんか変な薬入れませんでした?」 「はあ?入れてねえよ、試しに飲んでみるか?」 「絶対嫌だ、ねえ安久試し飲みしてよ」 「な、なんで僕が……!っていうかおい!志摩亮太!なんであんたがここにいるんだよ!」  そう、それだ。そもそもことの発端といえば、俺の誕生日を縁が祝ってくれるという流れになり二人きりはちょっと……ということで仁科が巻き込まれ、飯に釣られた安久もきて、それから案の定阿賀松にバレて『どうせ祝うんならちゃんと祝えばいいだろ』ということで食堂の二階席、本来ならば生徒会専用のボックス席を貸し切り状態でアンチの連中と食事することになったのだが……そこになぜか志摩もいた。 「なんでって、そりゃあ齋藤の誕生日なんだから当たり前でしょ。ほら、齋藤誕生日プレゼント」  「え、あ……ありがとう」  言いながら流れるような動作でプレゼントを渡される。掌サイズの小さな箱になんだか嫌な予感が過ぎった。 「志摩、これまさか……」 「ねえ、開けてよ」 「じゃあ俺は名前入りリングに百円〜」 「じゃあ僕はペアリング」 「ちょっと外野は黙ってて」  え、ええ……。  というか見るからに指輪な気しかしないのでそもそも賭けになるのか。思いながらそっとリボンを解いていく。  その中からは案の定リングケースが出てきた。 「うわ」と人の肩に伸しかかって覗いていた縁と安久が声を合わせる。重い。 「ほら、開けてみてよ」 「う、うん……」  そう恐る恐る開けたとき。  ……指輪が出てきた。シンプルなシルバーリングが二つ。 「お互いどこに行ってもいつでも会えるためのGPS付き指輪だよ、これを交換してつけるんだ。そうすればお互いの居場所がいつでも分かって不安にならないで済むでしょ?」 「この場合はどうなの?」「ペアリングだから僕の勝ちでしょ」と人の背中の上で揉めてる縁と安久はさておき、いや、そもそもなんで誰も突っ込まないのか。 「ねえ、俺の指に嵌めてよ」と半ば強引にぐいぐいとリングケース押し付けてくる志摩。選択肢はないらしい。 「わ、わかったから……ほら、座って」  そう促せば、「ん」と志摩が掌を差し出してくる。ちゃんと左手を差し出してくる。中指に嵌めようとしたら「ん゛!!」と薬指で頬をぐりぐりされた。痛い。  気を取り直して薬指に嵌める。……ぴったしだ。 「……じゃあ、次は齋藤の番ね。ほら、左手出して」  なんとか右手を出して流せないだろうかと思ったが逃げ道は潰されてしまった。仕方なく俺は左手を出す。  リングケースから指輪を抜いた志摩はそのままそっと俺の手を取る。そしてゆっくりと指輪を嵌めるのだ。ゆるすぎず、きつすぎない。丁度いいサイズのその指輪がハマった俺の手を見て嬉しそうに目を細めた志摩はそのまま指輪に口付けた。 「やっぱり、俺の見立ては正しかったね。齋藤にはごちゃごちゃしたのよりも、こうやってシンプルなもののが似合うと思ったんだ」 「……あ、ありがとう……」  なんだか恥ずかしくなってくる。これにGPSが仕込まれてなければもっと素直に喜べたのだろうけど。  志摩と分かれたあと外しておくか、と思いながら俺はもう一度志摩にお礼をした。  瞬間、目が合う。あ、やばい。と直感したとき。 「齋藤……」  そう、キスをされそうになった矢先だった。 「じゃあ次は俺の番だね〜!」  そう、俺と志摩の間に強引に座ってきた縁に志摩が押し潰されていた。 「ちょっと方人さん!!」 「もう亮太は十分楽しんだろ?今夜は齋藤君の誕生日だよ?主役は齋藤君なんだから、ほら亮太は下がってろって」 「何を無茶苦茶なことを……っ!くそ、重いし……っ!!」 「失礼だな、重くねえよ」  いや重い、あとどさくさに紛れて太腿を撫でないでくれ。とそんな問答を繰り返すも縁は騒ぐ志摩を無視して「それじゃ、奎吾よろしく〜」と指を鳴らした。  そのときだった。  先程から姿が見えないと思いきや、疲弊しきった仁科がふらふらとなにかを抱えて現れた。そしてそれをテーブルの上に乗せ、覆い隠していた布を外したとき。 「わ……っ!!」 「「うっわ……」」  俺と志摩、安久の声が重なった。  目の前には『齋藤君Happy Birthday♡』と書かれたチョコレートのプレートに、俺の顔の絵が書かれた大きなケーキ。 「引くわ……」 「今更何齋藤の好感度あげようとしてるんですか?もっと露骨なやつとか渡せよ」 「ちょっとそこの二人?君たちにはプレゼントは用意してやんないからな、覚えとけよ。……これは齋藤君へのプレゼントだからね、もちろん味は保証するよ」 「あ……ありがとうございます……でも、流石にこの量は……」  一人で食べきるのは難しいだろう。そうちらりと志摩の方を見れば志摩も俺の意図を汲み取ったようだ。こくりと小さく頷き、微笑む。 「よかった、じゃあ皆で食べ……」 「安久、毒味しなよ」 「……え?!」 「は、はあ?!なんで僕が……!!」 「方人さんの手料理なんて危険物、そのまま齋藤の口に入れさせられるわけないでしょ。俺は甘いの嫌いだし……ほら安久しかいないじゃん、あと個人的に齋藤と大して仲良くもないくせにこの場に居座ってるのが腹立つから」 「私怨じゃんか!!」  それも恐らく、後半が大部分を占めてるのだろうが。 「おい、黙ってれば失礼なやつだな。俺が愛情込めて作ったのに」 「それが問題なんですよ」 「そ、それは流石に縁先輩に失礼だよ……それに、俺はただ皆で食べれたらなって言いたかったんだよ」  わざわざこんな豪華なケーキを用意してもらったのは素直に嬉しい。志摩の言いたいこともわかるけどもだ。  そう訂正すれば、「さ、齋藤君……」と隣の縁は目をうるうると潤ませた。 「やっぱり俺の見込んだ子だよ、亮太や安久ちゃんと違っていい子に育ってくれて嬉しいなあ」 「あんたに育てられた覚えはないけど」 「はいはい、じゃあ取皿用意してくるから待っててね。あ、奎吾ももう座ってていいよ」 「あ、はい……」  そして仁科と入れ違うように階段を降りていく縁。  それを心配そうに見つめていた仁科だったが、ようやく一息つけたといった様子で近くの椅子を引いてくる。 「……そういや誕生日おめでとう、齋藤。悪いな、誕生日知らなくて何も用意できなくて……」  そして座るなりそんなことを言い出す仁科。誕生日は公言していない、知ってる縁たちの方に驚いたくらいだ。  俺は慌てて「いえ、そんな」と首を横に振った。 「寧ろ祝ってもらえるだけでも……その、嬉しいです」 「そうか、いや……ちょっと待ってろ。なにか良さそうなものないか探すから」  言いながらゴソゴソと上着のポケットの中を探る仁科。そして出てきたのは絆創膏だ。 「そうだ、これ……買ってばかりで使ってないんだが良かったらもらってくれ。ラッピングもなしで悪いけど……」 「あ……」 「ありがとうございます、仁科先輩。これは俺が齋藤になにかあったときのために責任取って使わせてもらいますから」  ありがとうございます、と受け取ろうとした矢先だ。横から伸びてきた志摩に先に取り上げられる。保護者か、と思わず呆れるが確かにこの手の手当は志摩の方が得意なのも事実だ。事実だが……。 「志摩……絆創膏くらい俺自分で貼れるから」 「どうだろうね、肝心なときに部屋に置きっぱなしにしてるでしょ齋藤は」 「う……」 「お、おい……喧嘩するなよ。ほら、もう一個出てきたからこっちもやる」  そう同じメーカーの絆創膏の箱を今度は俺に直接手渡してくれる。別に取り合いをしてるわけではないのだが、つい「ありがとうございます」とそれを受け取れば仁科はほっとした顔をしたあと「ああ」と小さく笑ってくれた。  そして暫くもしない内に「お待たせ〜」と数枚の皿とカトラリーを乗せたトレーを手にした縁が戻ってきた。慣れた手付きでそれぞれの前に置いていく縁。そして、二枚多く皿が余ってることに気付いた。 「方人さん、皿多くない?」  俺と同じ疑問を抱いたようだ。志摩の言葉に、「ああそれは」と縁が口を開いたときだった。 「そりゃあ、俺達の分に決まってんだろうが」  今はもう聞き慣れてしまったその声に思わずぎくりとした。それは志摩や仁科も同じだった、ただ一人安久だけが「伊織さん!」と慌てて腰を浮かせていた。  恐る恐る顔をあげれば、そこには真っ赤な………………薔薇?目の前に広がる真っ赤な花弁の束、その薫りと鮮やかさに息を飲む。 「……よお、誕生日だってな。取り敢えずそれやる、虫除けにはなるだろ」 「っ、ぁ、あ……ありがとうございます」  ば、薔薇……?!あの阿賀松が薔薇……?!  思わず思考停止しそうになるのを慌てて脳をフル回転させ、それを受け取る。なかなか大きい。「今どき薔薇って」と吐き捨てる志摩に「お前!!失礼なことを言うな!!」と安久が殴りかかってる。俺を間に挟んで揉めないでくれ。  ……というか、達って……。 「……っ、は……ここ、階段長いよ……」  阿賀松の後ろ、階段の手摺を掴んだまま上がってきたのは阿佐美だった。その手にはプレゼントの箱を抱えており、俺の顔を見るとその口元をぱっと緩める。  そして。 「……ゆうき君、誕生日おめでとう……その、これ……何がゆうき君喜ぶのか考えてたらわからなくなって」 「え、い、いいの……?」 「……うん、その……気に入らなかったら捨てても大丈夫だから」  もう一度おめでとう、と言って阿佐美は俺にプレゼントを渡してくれた。 「待って齋藤、爆弾が入ってるかもしれないから俺が貰うよ」と志摩が間に挟まろうとしてたが阿賀松に首根っこ掴まれてそのまま引き剥がされていた。 「つうかケーキしか食いもんねえのかよ。おい奎吾、他の飯用意させろ。なんでもいい」 「えっ?!い、今からっすか……」 「今からに決まってんだろ、ほらさっさとしろ」 「は、はい……っ!!」 「伊織は甘いのあんま食えねえもんな。亮太も駄目だっけか?ほら、じゃあ今から切り分けてやるから」 「僕のは別に小さくなくていいからな」 「そこは素直に食べたいですって言えよ」  阿賀松たちが加わることにより良くも悪くも一気に賑やかになるテーブル席。向かい側の大きなソファーに凭れる阿賀松と阿佐美。阿賀松は目が合うと、「お前はここだろ」と二人の間をぽんぽんと叩く。……ここに座れという意味だ。 「はあ?齋藤座ってるでしょ、齋藤は俺の隣のままでいいの」 「亮太の隣なんざ煩くて飯食えねえだろ。ほらこっちに来い」 「はあ?」 「あっちゃん、食べ物もあるんだし強引なのはよくないよ」 「お前が一番ユウキ君に膝乗ってほしいくせになに言ってんだ」 「え……」 「い、言ってない……言ってないから……っ!!それはあっちゃんでしょ……っ!」 「行かなくていいからね、齋藤。あとそのプレゼント邪魔だったら俺が預かっておくから」 「いや、大丈夫だよ……」  ど、どうすればいいんだ。と狼狽えてる内に続々と運ばれてくるドリンクたち。そして縁も切り取り終えたようだ。目の前に、プレートが乗った自分の顔の欠片ケーキが置かれる。絵面もなかなかだが、少し美味しそうだった。 「齋藤君の好きにしたらいいよ、だって今日の王様は伊織じゃなくて齋藤君なんだから」 「お前が言うと腹立つが……まあ、今日くらいは多目に見てやるよ、ユウキ君。お前の好きにすりゃいい」 「……せ、先輩……」  明日は嵐か。あまりにも殊勝な阿賀松がただ恐ろしくもあるが……素直に、こんな風に家族以外の人間に誕生日を祝ってもらえたのは嬉しかった。顔が熱くなる。 「あはは、齋藤君照れてる?かわいいねえ」 「おい方人、ユウキ君には好きにしろとは言ったがテメェは別だからな」 「うっわ、圧怖……ガチじゃん……」  それから間もなくしてどんどん届く料理たち。  その日は結局夜遅くまで騒いでいたが、いつもとは違う賑やかさにほんの少し、ほんの少し、居心地のよさを覚え始めている自分がいた。ついでに安久には魚料理をプレゼントという体で押し付けられたのでありがたく頂戴した。  誕生日は終わり、そして夜も更け朝が近付く。俺は阿佐美とともにプレゼントを抱えて部屋へと戻ってきた。  本当に俺を送り届けてくれただけだったようで、阿佐美は食堂の様子を見てくると戻っていく。  一人になった部屋の中、阿佐美からもらったプレゼントの箱をそっと開けばそこにはぬいぐるみ型の抱き枕が入ってた。安眠効果があるらしい。阿佐美らしいな、と思いながら俺はそれをそっと抱える。  束の間の一日だとしても、今日みたいな日が続けばいいのにな。そんな風に思いながら、俺はその枕を抱えて眠った。志摩のGPSは切っておいた。  おしまい


More Creators