阿賀松+αに勉強見てもらう齋藤SSS【↑100/3,400文字/阿賀松×齋藤/平和】
Added 2020-12-28 11:47:02 +0000 UTCなんでこんなことになったのだろうか。 「ユウキ君、終わったぁ?」 「……ま、まだです……」 「どんだけ時間かかってんだよ、一問十秒で終わらせて次行け次」 また無茶苦茶なこと言い出した……。 背後、すっかり飽きたのかイライラし始めてる阿賀松から座っている椅子を蹴られ、先程までとは別の緊張感を覚える。 俺の勉強を見てやると言い出したのは阿賀松の方からだった。 あまりにも酷い点数の回答用紙をうっかり阿賀松に見られたところから事件は始まる。 『お前は俺の恋人だろうが、俺に恥かかせるような真似してんじゃねえよ。三桁以外の点数は許さねえからな』等と無茶なことを言われ、そして現在に至る。 「なんでここが分かんねえんだよ」 「す、すみません……」 「ヤりすぎて馬鹿になってんじゃねえのか?」 「……、……」 あんまりな言いがかりだが、正直その節はある。とはいえどれもこれも阿賀松のせいだ、阿賀松に時間を拘束されるせいで勉強も手につかない……なんて言えば阿賀松は怒るだろう。 「おい、貸せ」 背もたれに阿賀松の手が置かれる。「へ?」と顔を上げればすぐ顔の側に阿賀松の横顔があって息が止まりそうになった。 「さっきから見てりゃそもそもが間違えてんだよ、おい……聞いてんのか?」 「は、は、はい……ご、ごめんなさい……っ」 「ごめんなさいじゃねえよ、ここはこのまま数字を公式に当てはめりゃいいんだよ」 「…………」 ち、近い。近い。背後から伸びてきた手にペンを握る手ごと掴まれたときは何事かと思ったが、そのままサラサラと解答用紙に書かれる公式に俺は固まった。わざとなのか、いやわざとではないのかもしれない。元々阿賀松はこうなのだ。本人は至って普通の顔をして人の手を使って問題を解いていく。思いの外丁寧な文字に驚く余裕すらない。あまりの近さに息を止めていれば、「おい」と阿賀松に声を掛けられる。 「お前、人の話聞いてんのか?」 「は、はい……っ!」 「じゃあそれ解いてみろ」 「……え」 「間違えたら罰な」 やばい、全然聞いてなかった。 阿賀松の冷たい目線の元、とにかく問題を解かなければと問題集に向かい合う。 「……」 「残り三十秒」 時間制限あり、しかもめちゃくちゃ短い。 焦れば焦るほど頭の中は真っ白になってしまい、とにかく何書かなければ阿賀松にしばかれると俺はノートに自分なりの答えを書いた。が、俺がシャーペンを走らせた矢先に阿賀松の表情から笑みが消えるのを見て確実に自分がミスしていることに気付く。 「ユウキ君お前なあ……それ、わざとやってんのか?」 三十秒経ったのか、阿賀松は勉強机を叩いた。その音と振動に思わず飛び上がりそうになったとき。 「……テメェには罰が必要だな」 そう阿賀松が低く吐き捨てた。 何をされるのか、あまりの恐怖に硬直する。全裸で校庭を走らされるのか、それとも屋上から紐無しバンジージャンプでもさせられるのか、はたまた言葉にはできないようなことをさせられるかもしれない。そうさながら死刑囚の気持ちで阿賀松の言葉を待っていたとき。 目の前にドサドサと置かれるのは阿佐美の本棚から持ってきたらしい数学の本だった。俺には凡そ理解できないであろう分厚いそれらに目を白黒させていると、いつの間にかに隣に椅子を持ってきていた阿賀松はそれに腰を掛け、その長い足を組むのだ。 「……詩織ちゃんの本棚から猿でも読めそうなやつ選んできてやった。まずテメェはそれを読め、黙って読め。苦手意識を取っ払うところからだ」 「……へ……」 「へ、じゃねえよ。……罰だって言っただろうが、『それ』全部読み終わるまで寝かせねえからな」 阿賀松のくせにまともな要求だと思った矢先これだ。 冗談じゃない。こんな分厚い本の山、読み終わるのにどんだけかかるんだ。 気の遠くなりそうな俺の隣、阿賀松の手が頭部に伸び、思わず凍り付く。そのまま頭を押さえつけるように撫で上げられたとき。 「……日付跨ぐ前に終わったら、そんときはご褒美でもくれてやる」 まるで犬か猫でも可愛がるように頭を撫でていた掌は耳朶に触れ、ふに、と柔らかく揉むように軽く引っ張られた。直接吹き込むように囁きかけられ、息が詰まる。 何がご褒美だ、そんなの罰と同じではないか。そう思うのに、微笑む阿賀松に見つめられると頭の中が真っ白になり、俺は慌てて本を手に取った。期待などするはずがない、この男に騙されてはならない。ご褒美なんてあるはずがない。そう思うのに先程よりもごちゃごちゃしていた頭の中は阿賀松の言葉で一色に染め上げられてしまうのだ。 「おーおー励め励め、テメェの本分はそれだからな」 横から入れられる茶々に集中力ごと掻き乱されながら、俺はとにかく俺は目の前の文字列と格闘させられる羽目になるのだった……。 数時間後。 「え、なんであっちゃんがいるの?」 阿佐美が帰ってきた。 色んな意味でも救世主である阿佐美の帰還に思わず「詩織」と椅子から立ち上がって迎えに行こうとしたが阿賀松に椅子に座らせられた俺を見て、阿佐美は驚いたような声をあげる。 「あ?見てわかんねえのかよ」 「分からないよ……って、ゆうき君が持ってるのって……」 「見てやってんだよ、勉強」 「あっちゃんが?」 「信じてねえだろ、お前。ユウキ君言ってやれよ、伊織さんの教え方は世界一ですって」 「え、えと……」 「……珍しいね、あっちゃんが人に教えるなんて」 そう脱いだ上着をソファーの背もたれに雑に掛ける阿佐美はそのまま俺の隣にやってくる。……近い。 「でもこの本……高二の数学出てこなかったはずだけど」 「え」 「関係ねえよ。数学は仕組みさえ理解出来りゃどの問題も同じだ」 「……まあ、そうだけど。……あっちゃんはそうかもしれないけどゆうき君にはゆうき君のレベルがあるんだから……」 「甘やかすな詩織、こいつのレベルに合わせてたら算数からになんぞ」 「う゛……」 否定はできないのがなによりも悲しい。言葉に詰まる俺を見て、阿佐美は「言い過ぎだよ」とやんわりと阿賀松を宥める。 「……それで?ゆうき君はその本読んで分かったの?」 優しく尋ねられ、思わず首を横に振りそうになって阿賀松の目に気付いた。殺意である。 「……す、少しだけ……」 「ああ?少しだけだと?」 「ぁ、あの、阿賀松先輩がいるからその……緊張して頭に入ってこなくて……」 「人のせいにしてんじゃねえよ、テメェが集中力ねえからだろうが。俺がいようが目の前の問題に集中しろ」 「ご、ごめんなひゃ……」 怒った阿賀松によって両の頬の肉を餅かなにかのように引っ張られる。見兼ねた阿佐美によって「あっちゃん」と助けられるが頬の肉が伸びた気がしてならない。 「取り敢えず、この本もだけど俺がゆうき君にも理解できそうな本用意してくるから待ってて」 「お優しいこった、涙が出てきそうだよなぁ?ユウキ君」 「し、詩織……」 「……っ、と、あった……ほら、これとかどうかな……?」 そう、本の山の下の方から取り出した本を手にした阿佐美は俺の目の前でそれを広げる。それを見た俺、そして阿賀松はやや静止した。――それは明らかに幼児向けの絵本だった。 「……お前、ユウキ君をなんだと思ってんだよ」 「でも基礎させしっかり理解できれば大抵の問題は解けるようになるよ」 「せめて小学生高学年向けにしてあげろ、ユウキ君が震えて泣きそうになってんだろうが」 「え、え……」 ……それから、俺は阿佐美と阿賀松に挟まれたまま半泣きになりながら数学本と絵本を朝まで読む羽目になった。今日中までには間に合わなかったが、途中腹が減ったと言い出した阿賀松が縁叩き起こして作らせた夜食が美味しかったのでこれを俺の中ではご褒美とすることにした。 そして翌日の数学のテストはというと、朝方まで徹夜したせいで朝まで阿賀松たちと爆睡してしまい、結局テストを受けることを忘れてしまったがこれは阿賀松には言わずに墓まで持っていこうと思う。 おしまい