天国地獄人狼『豪華客船七日間の旅』第十四話
Added 2020-12-18 15:20:25 +0000 UTC「ああ、いい感じですよ五味君。あ、……待って。もっと右側にお願いします」 「お……お前な、人遣いが荒いんだよ」 デッキ3、二等客室前通路。 誰かいないだろうかと思い、探索していると通路の先からなにやら声が聞こえてきた。こっそりと覗いてみれば、そこには大きな荷物を運ぶ五味とそれを見てる志木村がいた。 「……おや、齋藤君じゃないですか。おはよう……って時間でもないですね」 「こんにちは」と軽く手を振ってくる志木村。俺は慌てて頭を下げ、二人の元へと向かう。 「こんにちは……あの、どうしたんですか?その荷物……」 「ええ実は少し買い物をしてて、偶然居合わせた五味君が手伝いを申し出てくれたんですよ」 「何が申し出だ、最初から任せる気満々だったろ」 「はい、僕は感謝してますよ。……とっても」 「あーはいはいそりゃ良かった」 仲がいいのか悪いのか……こうして二人だけでいるのを見るのは新鮮だが、五味の様子からして険悪というわけではなさそうだ。……完全に利用されて入るが。 「いつこの船を降りろなんて言われるかわかんないですからね、用意できるものはしておこうかと思いまして」 「……って、これもしかして……」 「サバイバルキットですね」 「サバ……」 「あと非常用の食料とついでに水着を新調しました。そしてこれはバナナボートです」 「……お前は漂流するつもりなのか遊ぶつもりなのかどっちなんだよ」 「念には念を、というではありませんか。あ、これはここまで荷物運んでいただいたお礼に五味君にあげますよ」 言いながら、抱えていた紙袋からガサガサと何かを取り出した志木村。その手には縄が握られてる。そして志木村は「ついでに齋藤君もどうぞ」と紙袋ごと渡してくれた。 「マルチツールです」 「あ、ありがとう……ございます……」 「なんで齋藤の方がいいもん貰ってんだよ」 「なんでって……五味君は縄あればなんでもできそうですし」 「褒められてる気がしねえ……」 「僕としては齋藤君の方が色々心配ですからね。……それに男の子は皆好きでしょう、こういうの」 所謂これ一本だけでナイフにもドライバーやピンセットその他もろもろになるという優れ物だ。……正直すごいワクワクする自分がいるが、それを見抜かれてしまうと少し恥ずかしい。 「ま、確かにな……。とはいえ流石にお前が心配してるようなことは起きねえと思うけどな」 「そうですね。……漂流させられるのなら芳川君だけでしょうし」 その言葉に内心ぎくりとする。 「漂流って……もしかして……」 「ゲームで敗退した人たちの話ですよ。ここ数日様子見てましたけど、この船はどこにも漂着していませんしね。……ま、夜の海に捨てられたりでもしたら流石にわかりませんが」 冗談のつもりなのか、志木村の言葉は笑えない。「おい」と五味に小突かれ、志木村は「半分冗談ですよ」と微笑んだ。 「まあ、念には念をといいますか。僕たちもいつ噛まれたり吊られされるかわかりませんからね、自衛するのも手でしょう」 「……そう、ですね」 志木村の言葉を聞いていると、あながちサバイバルキットもやりすぎだとは思えなくなってきた。 俺たちの間に沈黙が流れる。やや重ための沈黙だ。 「……だーっ、やめやめ。まだゲーム始まってねえのにこんな辛気臭くなってどうすんだよ」 「なってたのは君だけではないですか?五味君」 「ぐ……っ!それはまあ……」 「確かに十勝君に芳川君もいなくなってしまって、残ったのは栫井君くらいでしょうからね……生徒会は。寂しいのなら食事くらいには付き合ってあげますよ、ね、齋藤君」 「へ、え、お、俺も……ですか?」 「あれれ?もしかして先約がおありで?」 にっこりと笑う志木村の言葉は少しだけ意地悪だ。しかし元より断る理由もない。 「いえ、お邪魔でなければ……その……誘ってもらえて嬉しいです」 「齋藤君は素直で可愛いですね」 「お前が言わせたんだろうが……おい齋藤、嫌なら無理するなよ」 「い、いえ……っ無理だなんて……」 「そうですよ五味君、嫌なら別にいいんですよ君は来なくても。僕たちだけで楽しんできますので」 「……わかった、わかったから齋藤離してやれよ。……悪いな、齋藤」 五味に憐れまれれば憐れまれるほどどう反応していいのかわからなくなってしまう。というわけで俺たちは軽食を取ることにした。 ……それにしても、負けたときの可能性か。 俺が勝つためには必然的にこの二人を負けさせなければならないのだけど、二人の様子からしてやはり俺のことは疑っていないようだ。 誰が怪しいか聞き出そうかとも思ったが俺はそこまで口が回るタイプではない。余計な失態を犯すのを回避するため、俺は志木村たちと甘味を突くことにした。 ◆ ◆ ◆ 午後六時四十五分。 志木村たちと分かれ、やることもなくなってしまった俺は落ち着かない気持ちのままいつもよりも早くゲーム会場へとやってきていた。 開かれた扉の奥、見覚えのある背中が見える。 血のように赤い髪。そして耳にぶら下がったピアス。――阿賀松だ。 阿賀松と二人きりになるのは避けたい。 見なかったふりをして通り過ぎようとするが、爪先が近くの棚にぶつかってしまう。そのとき、阿賀松はこちらを振り返った。 「よお、なにこそこそしてんだ」 「……あ、あの……すみません、俺は……」 「こっちに来い」 「……は……はい」 ただ通りすがっただけで、なんて言い訳阿賀松には通用しない。こっちに来いと言われてしまえば拒否権など俺には存在しないわけで、渋々俺は阿賀松の座るテーブルに近付いた。 初日ならばこのテーブルの席は全て埋まっていたはずなのに、今ここにいるのは俺と阿賀松だけだ。 阿賀松は「座れ」と目の前の椅子を蹴る。……怒ってる、わけではなさそうだ。寧ろ上機嫌にすら見える。恐る恐る椅子に腰を掛けた。 「どうだ?調子は」 なんの調子について聞かれているのかわからなくて、思わず阿賀松を見れば「俺はいいぞ」と笑いながら手元のカップに口を付ける。中に入ってるのは珈琲だろうか。薄く笑うその表情から、ゲームのことだろうなと直感した。 「……わ、わかりません……俺は……」 「こうしてここにいるってのは良い証拠だろ」 「……でも、それは……他の皆のお陰なので……」 「詩織ちゃんが死んだら一人ぼっちになっちまうもんな」 阿賀松の言葉にぎょっとする。辺りを咄嗟に見回すが、幸い人はいない。誰かに聞かれたらどうするつもりなのかと見上げれば、阿賀松は笑って俺の顎の下を撫でるのだ。 「っ、せ……んぱい……」 「この調子で頑張れよ、俺は結構お前のこと買ってやってんだからな」 「……っ、……」 すり、と乾いた指先に唇を柔らかく揉まれる。顔が、睫毛が近付いて、キスをされるのだろうかと身構えたが、予想していた感触は来なかった。恐る恐る目を開けば、至近距離で視線がぶつかった。緊張するのに、怖いのに、目が反らせない。 「早めに考えとけよ、俺へのお願い」 「……ど、努力……します……」 「願望絞り出すのにも一苦労かよ、大変だなそこまでくると」 誰のせいだと思ってるのか。喉元まで出かけたとき、触れるだけのキスをされる。阿賀松のくせに珍しい、なんて思ったのもつかの間。唇を舐められ、甘皮を噛むように下唇を啄まれ、舌で撫でられる。次第に触れるだけではなくなっていくキスに、流石にそろそろ人が来るのではと阿賀松の胸を押し返そうとしたとき、伸ばしかけた手首を掴まれた。 「……今日やっぱ中止にすっか?」 「な、に……言って……」 自分勝手にも程がある。けど、元よりこの男はそういう人間だ。 廊下の方から人の声や足音が聞こえてくる。どうやら他の皆が集まってきたらしい。俺は慌てて唇を拭った。 そんな俺の頭を撫でた阿賀松は、そのままそっと耳打ちをする。 「このあとゲームが終わったら俺の部屋に来い」 ……今夜吊るされて強制退室された方がいいのではないだろうか。微笑む阿賀松に先程までとは違う緊張を覚える俺は何も言えないまま、自分の定位置である椅子へと戻った。それから間もなくして八木と安久が入室してくる。人数が減ったからかすぐにメンバーは全員集まった。 阿賀松はというといつも通りの阿賀松に戻っていた。 「今夜は予定があるからさっさと済ませんぞ」 ……また勝手なことを言ってる。 俺は阿賀松の視線に気付かないふりをしながら、とにかく平静を保つことを心がけた。……公私混同するゲームマスターってなんなんだよ。 そして、五日目の夜が始まる。
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天国と地獄が好きで支援させて頂きました。伊織&詩織ちゃん兄弟が好きなのでこちらの人狼パロの続きも待っています!
蘭藍
2022-08-06 03:49:16 +0000 UTC