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田原摩耶
田原摩耶

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原田兄弟のその後の話【↑100/5,900文字/未奈人×原田/キス】

「おい佳那汰、佳那汰!いつまで寝てるんだ!」  それはとある休日のことだった。  心地良い眠りを妨げるほどのクソでかい声に鼓膜ごと揺さぶられる。昨夜飲み過ぎたようだ、二日酔いの頭にはきつい。 「う゛……るせえな……」と寝返りを打とうとした矢先、布団を剥ぎ取られる。寒さに耐えられず飛び起きれば、そこにはスーツ姿の男――原田未奈人がいた。シワ一つない黒スーツ、見下ろす目はどこまでも冷たい。夢ではない、本物だ。 「な、なんでおに……兄貴がここに……!!」 「兄貴ではなくお兄ちゃんと呼べと何度も言ってるだろうが、それになんだその格好は……お兄ちゃんがプレゼントしたパジャマはどうした?」 「あんな可愛い柄着れるかよっ、て、おい翔太!翔太!不法侵入者がいるんだけど翔太!アル○ック……っ!!」 「中谷君なら出掛けたぞ。……お前と違って彼は忙しい身だからな」 「う゛……っ」  ということは、兄をマンションに上げたのも翔太か……!  翔太が兄に逆らえないのはわかってる、というか誰だってこの男に脅されたら従わざるを得ないのもわかっていた。翔太を責めるのはお角違いだ。 「……っていうか、なんの用だよ。俺、今日は休みなんだけど?」 「ああ、井上君に確認した。だからこうして来たんだろ」 「……だから、用は……」  なんだよ、と言いかけたとき。 「それよりも佳那汰、早く顔を洗ってこい。朝食の用意は済ませてある。……さっさとしろ、時間は有限だからな」 「は?」 「いつまでもその格好でいるつもりか?それとも、お兄ちゃんに甘えてるのか?」  ずい、とベッドに乗り上げてくる兄貴にたまらずひ、と喉奥から悲鳴が漏れる。 「あ、あんたがいるから着替えられねーんだって!は、早く出てけよ……っ!」 「久し振りに会った兄に対してなんだその口の利き方は!お兄ちゃんはお前のことをだな……」 「わかった、わかったからさっさと飯の用意してこいよ!」  むぎゅむぎゅと部屋から兄を押し出し、慌てて扉を締める。暫く扉の外で「コラ!佳那汰!」と恐ろしい兄の声とともにドンドン扉が叩かれていたがようやく諦めたようだ、静かになるのを確認してふうと息を吐く。 「なんなんだよ、一体」  兄が強引なのは昔からだ。それでも、数年ぶりの兄弟喧嘩の末ようやく落ち着いたのだと思った矢先これだ。  ……取り敢えず、着替えるか。  朝からどっと疲れながらも俺は服を寝間着から着替え、そのまま洗面所へと向かった。  身支度を整え、リビングへと顔を出せばいい匂いがリビングには充満していた。 「遅いぞ佳那汰。……ほら、席に着け」 「……これ、兄貴が作ったのか?」 「ああ、そうだが」 「へえ」  正直、美味そうだ。それよりも俺の中の記憶の兄貴は料理なんてするようなやつではない。どういう風の吹き回しなのだろうか。  テーブルに置かれた料理はどれも俺の好物ばかりだ。 「……兄貴、自炊できたんだな」  そう呟いたとき、わずかに兄の背中が反応する。 「したくて覚えたわけではない。せざるを得なかっただけだ」 「……?それって……」 「他人が作った料理には何が仕込まれているかわからないからな、安全性が保証されない」 「いやそれは……」  そんな大げさな、と思ったが心当たりがありすぎた。兄に異常な程の愛情を向け俺に殺意を向ける婚約者に、敵が多いというか自分から敵を作りに行くような兄のことは知っていたが……俺がいない間に色々あったようだ。  箸を手に取りぱくりと一口食べてみる。……うまい。兄は着ていたエプロンを外し、そのまま向かい側の席に腰を下ろす。「うまいか?」と聞かれ、俺はこくこくと頷いた。 「俺と暮せば毎日作ってやるぞ、お前の好きなもの」 「っそ、れは……駄目だって言っただろ」 「言っただけだ。お前が頑固なのは誰に似たんだろうな」  それはあんたもだろう、と言い掛けてやめた。  最初こそは強引だったが、久し振りに会えた兄とまた喧嘩はしたくない。 「それで、なんだよ。わざわざこっちまで来たっていうのは……」 「家族に会いに来るのに理由が必要なのか?」 「そーいうわけじゃねえけど……けど、せめて連絡くらいくれたら俺だって……」 「お前はメッセージ送っても返信しないだろ」 「う゛……それは内容が内容だからだ、あんなストーカーみたいな量……ってか、普通に会えるかって聞いてくれたら……」 「俺も仕事の関係でたまたまこっちに来る機会があっただけだ」 「……たまたま?」 「ああ、たまたまだな」  直感で兄がなにか隠してることに気付いた。兄は何かを隠すとき決まって目を伏せるのだ。  ……バレないと思ってるのだろうか。 「……兄ちゃん……」 「……佳那汰、口が汚れてるぞ」 「ん……っ、ちょ、いいって、自分で拭くから……っ!」 「いいからじっとしろ」  伸びてきた指で唇を拭われてぎょっとする。  昔からだ、きっと兄にとって俺はずっと子供のままなのだろう。  ◆ ◆ ◆  ……結局、完食してしまった。 「もう動けねえ……」 「お前はまた……そうやって食べてすぐ横になるのはよくないぞ」 「う゛ぷ……兄ちゃん……」  ソファーの横に腰を掛ける兄に肩を掴まれ抱きあげられる。こんな風に兄と二人きりでゆっくりするのも久しぶりだ。……見れば見るほど、似てないな。思いながらじっと目の前の仏頂面を見上げた。 「……なんだ」 「なんか……変な感じだなって思って」 「変?」  あんなに怖かったのに。ずっと逃げ回っていた相手が目の前にいる。……本来ならば家族なのだからと分かってたけど、それでもこうやって恐怖も畏怖もなく兄と並んでる現状が不思議で、なんだかおかしかった。 「……なんか俺に話があったんだろ?」  単刀直入に尋ねれば、目の前の兄の目が僅かに揺れた……気がした。 「……佳那汰」 「ん?なんだよ」 「……っ、……」  あの兄が言い淀んでいる。  何かを言いかけては顔を歪め、言葉を飲む兄。……そんな兄を見たことなんてなかった。  けれど、あのとき、喧嘩したときから分かっていた。兄も一人の人間だと。 「俺、もう子供じゃないんだぞ。遠慮しなくていいんだからな」  そう、兄ちゃん、と続けたとき。いきなり身体を抱き締められる。軋むスプリング。驚いたが、強く抱き締められた腕は硬く離れない。そしてそのまま俺の頭に鼻を埋めた兄は深く息を吐いた。 「兄ちゃ……」 「仕事の関係で、暫く日本を離れることになった」 「――……え」 「……だから、離れる前にお前の顔を見ておこうと思ったんだ」  頬に触れる指先。顎を掴まれ、顔をあげさせられる。目の前には辛そうな顔をした兄がいた。 「……そっか、でも……仕事なら仕方ないだろ」 「な?」と宥めるが、兄の顔は変わらない。 「……そうだな、お前は……俺がいなくても大丈夫なのかもしれないが……俺は、嫌だ」 「に、兄ちゃん……」 「お前も一緒に来い、部屋も全部俺が用意する。だから……」 「兄ちゃん……っ、またそんなことばっかり言って……」 「波瑠香、あいつもだ。あいつも俺がいなくても平気だと言うし、使用人たちも任せてくださいと抜かしやがる」  ああ、なるほど。と思った。拗ねているのだ、この人は。誰一人寂しがらない、引き留められない。……だから、俺に会いに来たってことか。  人の肩口に顔を埋めたままずるずると落ちていく兄の背中に手を回す。……シャツの上からでも分かる、無駄のない鍛えた身体。あんなに大きな背中も今は小さく見えた。 「アイツらはそう言うだろうな、じゃないと、あんたが怒るだろ。俺がいないと何もできないのかって。しっかりしたところ見せて褒めてもらいたんだよ、あんたに」 「……佳那汰」 「っ、まあ、そうだな、俺だってそうだよ。じゃないと本当にあんたに連れて行かれかねないし」 「…………っ、佳那汰は……お前は、俺と一緒にいるのはそんなに嫌なのか?」  そんな言い方はずるいのではないか。  縋りつくように肩を掴まれる。嫌だ、といえば嫌だが、具体的にどこがと言われたら色々あるが一番はやはり……――。 「嫌じゃないって言ったら……兄ちゃん、一生結婚できなくなりそうだしな」 「俺は結婚願望はない」 「……兄ちゃんはな」  けど、それ以外はまた別の話だ。うちの家は古臭いし、長男でありたくさんの部下を従える大黒柱の兄の立場はまた俺とは違う。……それに、婚約者だっているのに。……まああのドキツイ女の人と結婚したくない気持ちは分かるが。 「……佳那汰、俺はお前が望むなら……」 「待って、ストップ……兄ちゃん、俺は行かないって。それに、もう決まったことなんだろ?」 「……ああ」 「……見送りくらいはするし、別に死ぬまで会えなくなるわけじゃないんだろ?電話だってできるだろ」 「……そうだ。けど、お前は俺からの電話を全部着信拒否してるようだしな」 「う゛……っ!そ、それはそうだけど……」 「なら毎晩お兄ちゃんとビデオチャットしてくれるか?」 「え、ええ……?毎晩……?」 「ああ、毎晩だ。……そうじゃないと、お前が無事か気が気でない」  ……本当に、ブラコンもここまで行けばなにか別のものになるんじゃないか?  呆れるが、それでも以前のように強引ではなくこちらを伺う兄がなんだか少し、ほんのすこーしだけ……可愛く見えた。 「ああ、わかったよ。……けど、毎晩じゃなくて週4くらいにしてくれ」 「……なんでだ?何か都合が悪いのか?」 「俺にも俺の都合があるんだって。……じゃなきゃ通話しねーから」 「……佳那汰、お前……」  何か言いかけたが、ぐ、と兄は言葉を飲む。  そして今にも死にそうな声で「譲歩しよう」と唸るのだ。そこまでか。  けど、てっきり断られると思っていただけに驚いた。……同時に嬉しくもあった。 「兄ちゃん……っ」 「お前にまで捨てられたら……俺は生きていけん」 「そ、そこまでかよ……」 「ああ、俺にとっては家族しかない。お前たちが俺の宝物だ」  この人酔ってんのか?と思わず目を覗き込んだがシラフだ。兄がそんな風に思ってるなんて思わなかった……わけではない、確かにそんな風に思ってないとあの量のアルバムを残さないか。けれど、直接こうして言葉にされるとくすぐったくて。 「……っに、兄ちゃん……」  それでも小さい頃とは違うんだぞ、と言いかけたとき。頬に唇を押し付けられぎょっとする。ちゅう、と小さなリップ音を立てキスをされる。 「待っ、なに……」 「……お前は、大きくなったな。……佳那汰」 「そりゃ、当たり前だ……っ、ん、待って、兄ちゃん……」 「なんだ?……小さい頃はよくしてただろ」  確かにされてた記憶はある。全身至るところ兄にキスされてヒリヒリしてた記憶もある。  けれど、今は違うだろ。色々。額に、瞼にとキスをされ耐えられずに兄の唇を手で塞ごうとすれば掌にキスをされる。 「……っ、ん、ちょ……兄ちゃん……」 「……最後になるかもしれんだろ、もう少しだけ……お前に触れさせてくれ」 「ぅ……」  その顔は、ずるい。普段の兄なら絶対見せない顔。……そんな顔をされたら、断れるはずがない。  子供のように扱われて恥ずかしいのに、嫌じゃない。 「……少し、だけ……なら……っ、ん、ぅ……!」  言い終わるよりも先に唇を塞がれる。唇を重ねられ、薄皮ごと舌で丹念に舐められ、捲られる。口内から歯列まで隈なく舌で舐め回され、気付けば唾液が溢れていた。 「っ、に、いちゃ……ん、っ、んぅ」  濡れた音が響く。浅くなった呼吸ごと吸われ、頭の奥がぼうっとしてくるのだ。そして侵入してきた舌を絡め取られたとき、びくりと全身が震えた。 「……っ、佳那汰……」 「っ、……兄ちゃん、も、……い……っん、ぅ……っ!」  ようやく開放されたと思ったら角度を変えて深く唇を重ねられる。  確かに、確かに幼少期はキスされることなど当たり前だった。けれど、このキスは違う。おかしい。頭でわかってるのに、拒めない。  兄の吐息と口内で混ざり合い、何も考えられなくなるのだ。シャツがシワになるのも気にする余裕なかった、その腕にしがみつき、ただ受け入れる。 「兄ちゃん……っ」 「……佳那汰、お前は……」  ぼんやりとした頭の中、兄の舌が引き抜かれる。ずるずると力が抜ける手を握られ、指を絡められた。  ……兄ちゃん、それ、恋人同士がやるやつだぞ。  ぼんやりと思いながら俺は恐る恐る手を握り締め返した。  ◆ ◆ ◆  兄が海外に行った。どこへ行くのかは一応聞いたがどこか忘れてしまった。一年間向こうにいるだとか。  一年間……兄にとっては長い時間なのだろう。思いながらぼんやりと今日も俺は特にやることもなくオナニーでもするかとスマホ片手にベッドに横になっていた。  瞬間、 「おい、日曜だというのにいつまで寝てるんだ!」 「うおっ!!」  いきなり布団を剥ぎ取られ、飛び起きる。  ……って待て、この声は、このデジャヴ感は。 「おに……兄貴?!」 「またお前は兄貴呼びに……っ!」 「いや、いやいやいやなんでここにいるんだよ!」  まさか夢か?と頬を抓る。痛い。 「なんでだと?決まってるだろ、お前に会いに帰ってきたんだ」 「い、いや……仕事……」 「仕事は全て片付けた。今日から暫く休暇を貰ったんだ。だからこうして日本に帰ってきたんだが……お前は相変わらずだな」 「へ……だ、だって昨日話したときは何も……」 「言ったらお前は部屋から逃げ出してただろうからな」  ……バレてる。 「ほらいつまで寝てるんだ、さっさと顔を洗え、服を着替えろ」 「わかった、わかったよ……!すぐに行くから、そこにいられたら着替えらんねーってば!」 「ああ、さっさとしろよ。……時間は有限だからな」  ……以前の弱気な兄はどこへいったのか、なんだか最後に会ったときよりもフットワークの軽さに磨きがかかってないか?  思ったが、……正直今の兄の方が兄らしいというか……元気そうな兄に嬉しいやらなんやら複雑な気持ちになりながらも俺は兄が待つリビングへと向かうことにした。  ……暫く嫌でも騒がし……いや、賑やかになりそうだな。なんて思いながら。  おしまい

原田兄弟のその後の話【↑100/5,900文字/未奈人×原田/キス】

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