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田原摩耶
田原摩耶

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★尾張ハラスメント②※END

「嫌なら大人しく自分の部屋の小せえ風呂入ればいいだろ」 「いや俺はいいけどお前こそ嫌だろ?無理して入らなくていいんじゃないか?」 「俺は嫌だと言っていないが?」 「……ぐ」 ああ言えばこういう。 だから嫌なんだ、この男は。 大浴場脱衣室。 ここで俺が帰ったらどうせ『逃げた』だとか『自意識過剰か?』とかボロクソ言われるのだろう。こいつなら絶対に言う。100%言う。間違いない。 だからこそ余計後に引けなくなった。 もういい、こうなったら無視だ無視。こいつの煽りに一々反応するほど俺も馬鹿じゃない。ここは常日頃岩片に鍛えられたスルースキルを駆使するしかないようだ。 俺は五十嵐から一番離れたロッカーの前でジャージを脱ぐ。こいつの前で脱ぐこと自体屈辱だが、我慢しろ。汗流したらさっと上がるぞ。 そう必死に堪えつつ着ていたシャツを脱ぐ。下も脱いで、下着に手を掛けたときだった。 不意に昨夜の岩片のゲスな発言が過ったのだ。 いや、デカくない。デカくないからな。そう言い聞かせながらもちらりと五十嵐の方を見たときだった。 着替えすらせず、ロッカーに凭れて人のストリップショーを観劇してやがった五十嵐と思いっきり目が合う。 「……おい、それ以上見るなら金取るぞ」 「金が貰えると思ってんのか?その体で」 おめでたいことだな、と鼻で笑われ流石の俺の堪忍袋の緒が切れそうになった。 しかし落ち着け、相手は五十嵐だ。一々腹立たせてくるようなやつなのだ。 「そりゃ悪かったな」と吐き捨て、俺はさっさと下着を脱ごうとして、先に腰にタオルを巻いた。別にケツ云々を気にしてるわけではないがこいつに見られるのだけは癪だったのだ。 そして俺はそのまま下着を脱ぎ、五十嵐の顔を見ずにさっさと浴場へ移動する。 シャワーを頭から被って汗を流す。 心頭滅却すれば火もまた涼しと言ったものだ。 さっぱりした気持ちで無人の大浴槽へとざぶんと飛び込み、肩まで浸かった。ふう、と一息をついたときだ。 ガラッ!!と煩い音を立て扉が開いた。 ……ようやく来やがったな、と顔を上げ、そのまま俺は停止する。 あろうことかこの男、人がゆっくりしてるところをタオルもガードもなしで入ってきやがった。見たくもないものを目に入れてしまった俺は精神的ショックを受ける。いやかなり萎えた。咄嗟に顔を手で抑えたが遅かった。 「……っ、お前さあ……」 「なんだよ」 「…………っ、別に……」 なんで俺が気を遣わなきゃいけないんだ。 どこまで繊細から程遠いんだこいつは。……くそ、朝から嫌なもん見た。平常時ででかいのも腹立つし……。 「って、隣に入ってくるのかよ……!」 「俺がどこに入ろうが勝手だろ。嫌なら移動しろ」 この野郎、と喉まで出かかって堪えた。 意地でも絶対に先に出てやるかという気持ちすら芽生える。 「いいよ、別に。どうやらあんたは俺のことが好きらしいからな」 ぴくり、と五十嵐の肩が反応する。ぜってーこいつ睨んでるなというほどの視線を感じたが無視だ、無視。 「…………」 「…………」 ……いや、否定くらいしろよ。とちらりと五十嵐の方へと目を向けたときだった。 お湯の中、見えてしまった。嫌なブツが。 しかもなんでこいつ。 「……っな、なんで勃起してんだよ……っ!!」 「お前が物欲しそうにちらちら見るからだろ」 「み、見てねえけど……?!つか、隠せよ、こっち向くな……っ!」 「うるせえな、お前で抜くぞ」 変態みたいな脅しやめろ。俺に効く。 苛ついたように舌打ちをする五十嵐。なんでだよ、なんでお前がキレる側なのだ。あまりにも理不尽な仕打ちにこんなところにいられるかとさっさと風呂から上がろうとしたときだ。 伸びてきた手に腕を掴まれる。そのまま体を抱き寄せられそうになりぎょっとした。 「……お、おい……五十嵐……っ!」 「……クソ、萎えねえ……おい、お前そこに手を着いてあっち向いてろ」 「はあ?ま、待て……なんで俺が……ッ」 「元はといえばお前が勃たせたんだろうが。……協力くらいしたらどうだ?」 お前が勝手に興奮して勝手に勃起したんだろうが。背後に立つ五十嵐の野郎をやめろと押し退けたいのに腰の位置に嫌な感触が触れ堪らず「ひっ」と声が漏れてしまう。タオル越しでも分かる、ケツの谷間に擦り付けられるそれがなんなのか確かめることすらしたくない。 「お、まえ……ッ」 「……その場で犯されるのと言うとおりにすんの、どっちがいいか選べ」 こいつ、俺が力比べでは五十嵐に敵わないとわかってて言ってるのか。 どこでスイッチが入ったのか、そんなこと知ったこっちゃない。それでも脇腹から胸元を濡れた指で撫でられれば背筋が震えた。 「おい……っ、正気かよ」 五十嵐は何も言わない。その代わりに胸へ伸ばされる指に膨らんだ胸筋を揉まれ、ひくりと喉が鳴る。そのまま指先で胸の突起を引っ掻かれれば、堪らずその手を掴んだ。 「五十嵐……っ、ん、ぅ……ッ!」 両方断る、と言うよりも先に顎を掴まれる。そして目を覗き込まれ、まさかと咄嗟に後退ろうとするがお湯が足元に絡み上手く動けない。 やめろ、とか、待て、とか言うよりも先に唇を舐められ、吸われる。ぎょっとして五十嵐の胸を押し返すが、濡れた素肌は指先を滑り、上手く力が入らない。唇を割り開かれ、舌を絡め取られる。荒い口付けに更に酸素を奪われ意識が遠退きそうだった。 「っ、い、がらし……お前……っ、ん、……ッ!」 「……背中を向けろ」 「……っ」 「それとも、無理矢理される方が好きなのか?」 こいつ、こいつ。人の乳首をコリコリしながら耳元で喋るのをやめろ。 そんな気なんてまるでないが俺だって自分が可愛い。けど俺は知っている、この男はまじでやりやがると。俺が嫌だと暴れれば無理矢理ケツ掘るつもりだと。 「……お前、相当俺のこと好きな」 「……」 「……っ、それ、抜くならさっさと終わらせろ」 その代わり、触るだけだからな。それ以上はやめろよ。そう続ければ、五十嵐は相変わらず怒ったようなむっつり顔で「ああ」とだけ口にした。 本当かよ、と思ったが貞操のためだ。骨を守るために肉を断つのだ。そう自分に言い聞かせながらも五十嵐に向かって背中を向ける。瞬間、 腹部に回された掌にびくりと全身の筋肉が硬直した。 「……っ、ん、ぅ……」 五十嵐の硬い指先にまるで遠慮はない。腹筋を撫でるように徐に下がってくる指は柔らかく窪んだ臍の周辺を撫でられる。 なんでそんなところ、と言い掛けてずぷりと指先が入ってくる感触に驚いて五十嵐の腕を掴んだ。 「……っ、ま、待て……ッ!そんなとこ、触る必要……ッ、な、……ッ」 ないだろ、という先の言葉は声にならなかった。柔らかく内側を穿られれば感じたことのない感覚に耐えられず思わず五十嵐の腕を掴む指先に力が籠もる。 「弱いのか、臍」 「普通……強いやつなんていねえよそんなとこ……ッ」 へえ、と五十嵐が耳元で笑ったような気がした。 恨めしい気分になったとき、背後、タオル越しにケツの谷間に何かが押し付けられる。 布越しでも分かる質量のあるそれに俺は「触るだけだからな」ともう一度念を押せば、「しつこいぞ」と五十嵐に口の中に指を捩じ込まれた。 「ん、ぅ、あ……ぬへ、ゆひ……ッ」 「……ッ」 「っ、ん、ぅ……ッ!」 臍から指が離れたと思えば片胸を掴まれる。 無理やり抉じ開けられたままの口からは情けない声が漏れた。やめろ、と身を攀じるが効力すらない。そもそもこれは一応合意なのだと分かっててもどうしても触れられるだけで堪らなくなる。逃げようと体を動かす度にちゃぷりと足元で波立つ。 「……っ、ん、ぅ……あ……ッ、ゆ、ひ……やめ、ほ……ッ」 「……」 「むひ、すんな……っ、ん、う……ッ!」 指先で柔らかく押し潰すように胸の凝りを揉まれる度に微弱な電流が流れるような感覚が芽生え、呼吸が乱れる。 何がいいんだ、こんなの。お前は気持ちよくないだろ。そう言いたいのに、舌を捕らえられ、口外まで引き摺り出されれば最早人語を発することも難しい。 「っ、あ……ッ、ぅ、……ふ……ッ」 「…………」 何か喋れよ。会話したいわけじゃないが、自分の声だけが響く浴室に耐えられそうにない。そして無言で勃起したのを押し付けるのだ。ぐりぐりと押し付けられるモノを感じながらも五十嵐の腕の中で身を攀じれば、更に執拗に胸を弄り倒されるのだ。 「……っ、ひ、ぅ……く……ッ」 「……お前はここも弱いのか?」 「うる、ひゃ……ッ、ぅ、ん、……ッ!」 突起の周囲、乳輪を円を描くようになぞられれば先程までの感覚とは違うものに思わず反応してしまう。そのまま側面を人差し指で優しく撫でらられば、伸びた背筋、閉じることのできない口の端から唾液が溢れる。恥ずかしくなって咄嗟に口元を抑えようとすれば、それを手首ごと掴まれ静止させられた。 「……っ、は……ぁ……ッ」 「……どこもかしこも弱いくせに、よくもこんな体でうろ付けるな」 「……ぅ、く……っ、んんぅ……ッ!」 言いたい放題言いやがって。ふざけるな、という怒りすらも掻き消される。気持ちいい、わけがない。こんな。風呂のせいだ、頭がぼやけ足元が覚束ない。必死に体勢を保とうとすれば自然と五十嵐の腕に縋り付くような形になってしまい、そのまま胸元を晒されるように体を抱き起こされるのだ。 腫れたそこを見て笑う五十嵐に怒りと恥ずかしさでどうにかなりそうだった。全体を押し潰すように乳輪へと指を埋め込まれ、そのままぐりぐりと押し潰されればそれだけで腰が震えてしまう。落ち着けず、動くせいでずり落ちそうになるタオルを必死に掴んで下腹部を隠そうとすればするほど五十嵐の行動は大胆になっていく。 「……逃げるな」 そう掌全体で両胸を覆うように揉まれ、思わず仰け反ってしまう。指の間で挟むように乳首を刺激され、胸を揉まれる。何も感じない、そう言い聞かせるようにさっさと不毛な行為が終えるのを堪えようとしたときだ。 「っ、ふ……ぁ……待て、もっと離れ……ッ」 距離が近付けば近付くほど腰に当たる嫌な感触がより鮮明になる。お湯があるからまだましなものの、それでも耐えられずに五十嵐を離そうとしたときだった。 離れるどころか、人のタオルを思いっきり捲り上げてくる五十嵐。慌ててタオルを巻き直そうとするも、文字通り無防備になったケツに押し当てられるより生々しいブツの感触にぎょっとした。 「い、五十嵐……っ」 「んだよ、うるせえな」 「だ、駄目だって言ってんだろ……ッ!話が違……っ、ん、ぅ……ッ」 尻の割れ目に添えるように乗せられたそれに血の気が引いた。そのまま尻の肉に挟むようにケツで擦り始める五十嵐に戦慄する。 「……っ、い、がらし……ッ」 「お前って、本当馬鹿だよな」 「挿入しなくてもセックスはできんだよ」クズのようなことを言ってみせる五十嵐に俺はもう絶句した。いや、分かっていたはずだこの男がどんなやつだって。それでもだ。 「っ、ぅ、そ……ッおい、馬鹿、やめ……ッ」 咄嗟に浴槽から上がろうとするが、遅かった。お湯から出かけたままの腰をがっちりと掴まれ、持ち上げられる。そのまままるでバックの体勢で挿入でもするかのように動き出す五十嵐。これならいっそお湯の中に逃げたい。そう思えるほど生々しい感触が蘇り、濡れた肌がぶつかる感触や閉じたケツの穴にわざと擦り付けるように扱かれればどうにかなりそうだった。 「この、やろ……ッ!」 「……は、お前だって勃たせてんだろうが」 「っ、触るな、これは……ちが……っん、ぅ……!」 タオルもなくなり、情けなく頭を擡げていたそこを指先でつうっとなぞられればそれだけで下腹部に電気が走ったように震えた。 「期待してたんだろ、こうやって犯してもらえんの」 「っ、ふ、ざ……け……ッん、ぁ……ッ!くそ、動かすな、動くな……ッ!」 「……面倒臭えな」 「っ、は、んぅ……ッ!」 尻の谷間に挟まった恐ろしいほど熱い性器からはどくどくと鼓動が伝わってくる。摩擦されればされるほど、バキバキに浮かんだ裏スジがケツの穴に擦れて気持ちいい……わけない。何言ってんだしっかりしろ俺。 「っ、い、がらし……っやめろ、も……ッ」 「……っじゃあ、黙って奉仕しろ……このまま挿入されたくないならな」 「っ、ん、ぅ……ッ!」 くに、と片指でケツの穴を広げられ、わざと擦り付けるときカリでケツの穴を引っかく五十嵐に激怒する。けど、このままうっかりなんてことはしたくない。 「ぉ、まえさ……まじで……ッ!」 「なんだよ」 「……っ、女に嫌われるだろ」 「よく知ってるな」 そう、ゆるゆるとピストンをしていた五十嵐が笑った気配がした――その次の瞬間だった。 ずぶり、なんて可愛らしいものではない。閉じた口を無理やり抉じ開け、一気に奥深くまで貫かれる。 「っ、ひ、ぅく……ッぅ……!」 「……ッ、は……狭……」 「い、れないって……ッ」 「手が滑った」 嘘吐き、嘘吐きだこの男。滑ったのは手ではなくチンポだろうが。言い返してやりたかったが、腹の中、熱した鉄棒みたいな凶悪なブツで内壁をごりごり擦り付けられれば声にすらならない。 やめろ、馬鹿、そう暴れようとするが波立つだけでこの馬鹿力ゴリラ男からは逃れられない。それどころかわざと奥まで一気に腰を打ち付けられればそれだけで情けない声が漏れてしまいそうになるのだ。 「っ、い、がら……ッ、ぬ、ぃ……ッ!っ、ぅ、く……んん……ッ!」 ピストンされ、抉じ開けられたケツの穴の隙間から僅かにお湯が入ってくる感触が余計耐えられなかった。逃げようと浴槽の縁にしがみつけば、自然と持ち上がった腰にこれ幸いと五十嵐は覆い被さるように更に激しくピストンを繰り返す。閉じようとする内壁を肉厚な嵩で押し広げられ、内側から粘膜を執拗に刺激されれば腰の奥がずぐんと重くなり、内腿が震える。 「っ、あっ、ぁ……ッい、がらし……っ!動くな……っ!」 「……ッお前の声、一々響くんだよ」 「っ、な、に言っ……ん、ぅあッ!」 ざぷ、と足元で波が立つ。ここがどこかなんて気にしてる余裕もなかった。軽く腹部を触れられれば、それだけで感じてしまいそうになる。 そんな俺を見て五十嵐は笑うのだ。 そして先程までとは打って変わって、激しい抽挿で敏感になったそこを緩急付けて挿入されれば背筋がびりびりと痺れるようなそんな甘い感覚に侵される。 「っ、ぁ、や……ッ、ん、ぅ……ッ!」 「腰、動いてるぞ」 「っ、ちが、これは……ぁ、くぅ……んん……っ!」 「違わねえだろ」 ごりゅ、と浅い位置をカリで引っ掛けるように抽挿されればそれだけで自分のものとは思えない高い声が出てしまい恥ずかしさのあまり全身が更に熱くなった。 違う、これは違うのだ。そう言いたいのに、執拗に弱いところ張った性器で舐られる。戯れに項を舐められ、胸を揉まれればより一層快感の波に飲まれてしまいそうになるのだ。やめろ、と言いたいが口を開けば出したくもない恥ずかしい声をこの男に聞かれてしまう。それが耐えられず、なけなしの抵抗として唇を硬く結べば五十嵐は背後で笑うのだ。 「――ッ、ひ、ぐ」 「……そのまま気張ってろ」 濡れた項に吹き掛かる吐息の熱に意識を奪われるのも束の間。 片腿を掴まれ、崩れ落ちそうになる体を背後から抱き上げられる。そのまま下から性器で突き上げられる度に思考は熱で溶ける。 そして、五十嵐が満足するまで浴室内に自分の声と生々しい音だけがやけに大きく響くのだった。 ……。 …………。 ………………。 気付けば俺は自室へと帰ってきていた。 どうやって帰ってきたのかすら覚えていない。いや、嘘だ。あるにはあるが、断片的な上に現実か夢かもわからない。けどケツの痛みと異様に火照った体からして五十嵐とのあれこれは紛うことなき現実だとわかってしまうのだ。 案の定逆上せてしまい、途中からわけがわからないまま遅漏絶倫野郎五十嵐に付き合う羽目になったあと、どうやら満足したらしい五十嵐は動けない俺を引っ張って自室まで送り届けてくれたようだ。あいつの背中に乗せられていたのを朧気に覚えている。 そして、丁度起きがけだった岩片が俺を受け取ってくれたらしい。目を覚ませばベッドの側、人の寝顔を見下ろしていた岩片にぎょっとしそうになるが今は顔を合わせたくない。俺は咄嗟に寝たふりをしてシーツを被りやり過ごそうとするが、駄目だった。被ったシーツを剥がされる。 どうしよう、何を言われるかわかったものではない。 「い、岩片……その……」 悪かった?いやいや俺は悪くないだろ、悪いのはあのレイプ魔だ。俺は被害者である……いやでもこいつならお前の貞操観念のゆるさと雑魚さのせいだと言われるかもしれない。 嫌な緊張感が走る部屋の中、岩片は普段と変わらないニヤケ面を浮かべた。 「おはよう、ハジメ。具合はどうだ?」 それは珍しくまともに人を体調を気遣った言葉だった。予想してなかった岩片の第一声に思わず「へ」と間抜けな声が漏れてしまうが、落ち着け。もしかしたら次まだ来るかもしれない。 「ああ……お陰様でな」 「お前風呂場で倒れてたんだってな、彩乃が連れてきてくれたんだぞ」 「……ッ!」 きた。五十嵐の名前を出され、ぎくりとすればこちらをじっと見ていた岩片はそのまま俺の額に触れるのだ。冷たい指先にびくりと全身が強張った。 「うわあっつ、まだ熱はあるみたいだな。……いくらハジメでも長風呂したら逆上せるに決まってんだろ?俺みたいに十秒で上がるのがやっぱ正しいんだわ」 「いや、それは短すぎ……」 ……って、長風呂って言ったか?こいつ。 隠喩とか……でもないのか?まさか本当に何も知らないのか。そうまじまじと岩片を見てると「どした?キスしてほしいのか?」なんてそのまま頬をするりと撫でられ「なんでそうなるんだよ」と慌てて身を引いた。 「いや、別に何も……」 「そうか?……いやーでも彩乃がお前を背負ってきたときは目が覚めたけどな。いや仲良くなりすぎだろって」 「はは、そんなわけないだろ」 「そうか?」 「そうだよ」 はは、と自分でも悲しくなるほどの乾いた笑いが出た。まだ頭がぼんやりするようだ。岩片に怪しまられていないか、ちゃんと演じられているかどうかまで気がいかなかったが、岩片はそれ以上言及することなかった。 「ま、いーや。もうちょい眠っとけよ。そんで、今度風呂に入るときは俺に言え。いいな?」 なんでお前に言う必要があるんだ、と思ったが、冷やしたタオルをぺたんと額に載せられたらつい絆されてしまうのだ。わかったよ、と小さく答えれば岩片はよしよしと俺の頭を撫でた。 なんだか優しくされた方が怖いな、なんて思いながら俺は岩片に撫でられながら再び眠るのであった。おしまい。


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